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52 どうしようか




「食堂の増築を希望する!」


 夜のミーティング開始直後、ミアが高らかにそう叫んだ。

 その件、前に却下されたと思うんだけど……。


「えっとぉ……、別館にも食堂を作るって話かなぁ? それならこの間――」


「その件は却下されたであろう」


 あ、覚えてた。

 私、ちょっと驚き。


「そうではなく、食堂を広くしてほしいのだ。近ごろ行列ができるようになり、客の待ち時間が増えている」


「あ、そういうことかぁ。うーん、でもミアちゃん、大きくしたらもっと忙しくなっちゃうよぉ?」


「問題なし。コレを見るがいい!」


 ミアは自信満々に、人差し指を立てて両手を組んだ。

 アレってサクヤが分身する時にやるやつじゃん。

 まさかこのネコ……。


 ぼんっ。


 煙とともにネコ娘が二人に増えた。

 二人同時にドヤ顔を決め、二人同時にしゃべりだす。


「「どうだ、皆の者! ヒマを見てサクヤと稽古にはげんだ結果、ミアは見事に分身の術をマスターしたのだ!!」」


「わぁ、すごいよミアちゃんっ!」


「へぇ、やるじゃん」


「ホント、大したモンだね。シノビの術を覚えるだなんて」


 ミアがみんなにほめられて照れる中、ムッとしながら立ち上がるサクヤ。

 ムッとした理由は絶対に間違いなくガルダがミアをほめたせいだ。


 ささっとミアの前に出て、同じように手を組むと……、


 ぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼんっ。


 二十人のサクヤが横一列にずらりと並ぶ。


「どうですかっ! ミアさんといっしょに修行して、私の分身の術もパワーアップしたんですよ!」


「わぁ、二倍に増えてるっ! 人手不足がさらに解消されるよぉ」


「ぬぬぬ……、ミアより目立つとは……」


 なるほど、こりゃすごい。

 二十人まで増えられるとなると、宿をもっと大きくできるかも……。


「お姉さまっ、お姉さまはどうですか? ……ほめて、くださいますか?」


「あぁ、もちろんさ」


 サクヤの本体を顎クイして、ニコリと微笑むガルダ。

 その瞬間、ぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼんっと音を立てて分身が全て消滅した。


「はわっ、はわわわぁっ……」


「すごいね、サクヤは。たくさんごほうびをあげようか。なにがいい?」


「えぁっ、あの、今日いっしょにねてくだしゃ……」


「いいよ。寝室に行こうか」


「はひっ、あの、みなしゃま、おやすみなしゃひぃ……」


 ……うん、ありゃわかっててやってるな。

 サクヤがいなくなったあの事件から、なんか分かっちゃったみたいね、あの人。

 二人がそろってミーティングルームから退場したところで、


「……こほん。で、ミアの食堂拡張の件はどうなのだ?」


「あ、もちろんおっけーだよぉ。テラス席でも作っちゃおうかなぁ……。でも寒くなってくるし、うーん……」


「了承もらえたのだ! ではミアは、これより新メニューの開発にうつる!」


「ほう、新メニューとな? 楽しみじゃのう」


 ……ん?

 いやいや、なんで当然のようにいるんだ金髪幼女プロメテウス。


「お? おぉ、プロムではないか!」


「うむ、そなたのメシを喰らいにきてやったぞ」


「ちょうどいい、新メニューの味見役をしてほしいのだ!」


「喜んで買って出よう」


「よーし、こっち来るのだ!」


 露骨に機嫌がよくなったミア。

 プロムの手を引いて、目をキラキラさせながら食堂へ走っていった。

 あの二人はなんというか、仲のいい遊び友達みたいな雰囲気だな……。


「あはは……、静かになっちゃったねぇ」


「まだ話終わってないってのに、どいつもこいつも……」


 こりゃ、続きはまた明日だな。

 さてと……。


「私は寝る前にお風呂入ってくる。アイナは?」


「うーん……。せっかくだし、あたしもいっしょしていい? 嫌じゃなければお仕事の話、お風呂でしようかなって」



 〇〇〇



 いっしょに並んでお風呂に入って、ぼんやりと夜空をながめる。

 何よりも安らぐこの時間。

 頭も体もリラックスできて、できれば仕事の話はしたくない。

 でも、頭がよく回るようになるのもまた事実で。


「コショウを売り出したいって商談、どうしよっか」


 結局、アイナの言ったとおりミーティングの続きをしてる私たちだ。


「そうだねぇ……。ちょっと規模が大きくなっちゃいそうだよねぇ。でもネリィ、こうなるって思ってなかった?」


「思ってたけどさ、思った以上にお金が入りそうだから……」


「うん、一つの宿でどうにかするレベルを越えてるよねぇ……」


 なんかもう、この街のメイン産業になるレベルなんだもん。

 宿で利益を独り占めしていいレベルじゃないんだもん。


「四つある畑のうち、二つを街のものにして、その二つで獲れたコショウを輸出用に回すとかどうだろ」


 宿で使うぶんなら、畑二つで十分なわけだし。

 このお金は街の金庫に入るべきお金だと思うんだよね。


「いいと思うよぉ。じゃあ明日、さっそく村長さん――あ、街長さんに話をしにいってくれる?」


「任せといて。この宿の雑用係だもん、なんでもござれだよ」


「ふふっ。えらいよねぇ、ネリィ。ルミさんとこの牧場作り手伝ってあげたんでしょ?」


 アイナが温泉のふちに腰かけて、ひざをぺちぺち。


「ここにおいで。ひざまくらでよしよしってしてあげるっ」


「ひ、ひざまくら……」


 裸でひざまくら、かなり刺激が強くない?

 で、でもまぁせっかくだし。

 言われるがままお湯から出て、ぬれたアイナの太ももに頭を乗せる。


「よしよし、いい子いい子っ」


「う、うぅ……」


 なんだこれ。

 恥ずかしいけど嬉しいし、あったかいし、とにかく安らぐし。

 どうにも気恥ずかしい思いを抱えたまま、私はそのまましばらくの間アイナによしよしされ続けるのだった。




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