49 お疲れさまでした
「ほい、転送完了じゃ」
プロムが開いたゲートを通って、私たちは無事にもとの世界へと戻ってきた。
来た時とちがって、縦穴落下じゃなく横穴を歩いて。
「横穴出せるなら、あんな風に落とさないでほしかったのだ……」
それには同意だけどさ、たぶんそうしたら……。
「怪しんで入ってこぬ可能性があるだろう。考えなしにモノを言うでない、たわけ」
うん、実際ためらったと思う。
サクヤたち探してる状況だから多分行くだろうけど、むこうはそんなこと知らないし。
「ミアはたわけじゃないのだ! このお子様め!」
「そちより軽く数万倍は年を食ってると言うておろうが、たわけ」
「たわけじゃないのだ!!」
まぁこの二人は置いとくとして、私たちが出てきたのはどうやらミスティックダンジョンの入り口近くみたい。
寒いしみんな心配してるだろうし、早く帰って温泉に入ろう。
「姫様が見つかった! 『氷結の舞姫』と『竜の牙』が、姫様を無事にお連れしたぞ!!」
「さすがは英雄たちだ!」
「姫様、よくぞご無事で!」
お姫様が無事に発見されたこと、私たちの帰還はあっという間に村に広まった。
必死に探し回ってた騎士団の人たちも一安心の様子。
事情の説明とかは、副団長のリューシュさんがしてくれることになった。
「姫様と皆様方は宿にお戻りを。存分に疲れを取ってくださいませ」
との申し出に甘えさせてもらって、とりあえず宿へ帰ることに。
宿の前まで行くと、玄関先に立っているアイナの姿が見えた。
「あ、みんなぁっ!」
私たちを見つけると、アイナは腕をふりながら走ってくる。
そして、まず私の手をぎゅっとにぎった。
「よかったぁ、ネリィも、みんなも無事だよぉ……。よかったよぉ……」
「アイナ、まさかずっと外で……?」
「そうだ、って言いたいとこだけど、実は冒険者さんがね、みんながダンジョンから出てきたって教えてくれたんだぁ。だから外で待ってたの」
ダンジョンの入り口あたりで捜索してた人たちか。
私たちの姿を見るなり、大慌てで村まで走ってったからなぁ……。
「サクヤちゃんも姫様も、だいじょうぶ? ケガしてない? お腹すいてないかなぁ」
「ご心配おかけしました、アイナさん! 私は大丈夫――と言いたいところですが、少しペコってます」
「恥ずかしながらわたくしも、ですわ。……しかし恩人を不安にさせるとは、巻き込まれたとはいえ不覚ですわね」
「あ、そんな、姫様が気に病まれることではありませんよぉ」
あわあわしながら両手をぱたぱたするアイナ。
その視線が、ふいに金髪幼女の方へ。
「……この子、誰ぇ?」
「今回の事件の黒幕なのだ」
「えっ、えぇっ!?」
「人聞き悪いのじゃ、このたわけネコ!」
「間違ってないであろう!」
「そうではあるが、そもそもの原因は――」
「……あの、私、先にお風呂入ってくるね……?」
会話が終らない気がして申し出てみた。
なにせ今にも凍え死にそうなもので。
「あ、ごめんねぇ! ネリィ、ゆっくりあったまってきて!」
「その間にミアは、ペコってる皆のために料理を作るのだ!」
「じゃ、お先に……」
あったかい温泉にのんびり入ってあったまって完全復活した私。
ポカポカ状態で出てくると、食堂からいい匂いが。
顔を出してみれば、ミアの料理が大量にテーブルに並んでいた。
ピザとかスープパスタとか、あとはアウロラドレイクの肉料理から、宮廷で出るようなお上品な料理まで。
ちなみに私がお風呂に入ってる間に、アイナへの事情説明は終わってたみたい。
そして始まる祝勝会。
「皆のモノ、ミアの料理でペコっ腹を存分に満たすがよい!」
「んー、コレおいしいですよお姉さま! 食べてみます? あーん♪」
「んむっ、ホントにおいしいな! サクヤ、もっと食べさせてくれるか?」
「きゃー、喜んでっ!」
ミアの開始の音頭とともに、ノータイムでイチャつきだすガルダとサクヤ。
あの二人、もしかしてもう秒読みか?
「ネ、ネリィ。は、はい、あーん」
「……あーん、あむ」
アイナ、それは対抗意識なのかな……?
それともただやりたくなっただけ?
どっちにしろ私は恥ずかしいよ。
「あぁ……。飢えた胃袋に、アウロラドレイクのフィレステーキが染みますわ……。こんなにおいしい食事、生まれてはじめてですわぁ……」
「空腹は最大のスパイスなのだ!」
「実感しておりますわ、えぇ……」
涙を流しながらお肉食べてるお姫様なんて、ここでしか見れないだろうな、うん。
ものすごく貴重な光景だと思う。
「……お主は食わぬのか?」
料理に手を出さないプロムに、ミアが不思議そうに問いかける。
「ワシは術式の受肉体。食事なぞ不要じゃ」
「むむむ……、お前の言うことはよくわからぬのだ。食わぬのではなく食えぬ、ということなのか?」
「食えはする。ただ不要なだけじゃ。食事による栄養補給がなくとも存在し続けられる故、意味がないと言っておる」
「なんだ、食えるのか。ならば四の五の言わず、コイツを食らうがいいのだぁぁぁ!!」
「むぐっ!!」
ミアがハンバーグを一切れ、プロムの口に無理やり突っ込む。
その瞬間、プロムは大きく目を見開いた。
「う……ッ!!! なんじゃこれは……ッ!!」
「どうだ、ミア様の料理は。美味いのだ?」
「美味い……、これが美味いという感覚……! データで知ってはいたが、初めて味わうのじゃ……! も、もっとよこせ!!」
「ふっふっふ。たくさんあるのだ、たらふく食うがよい!」
味に目覚めてバクバク食い始めるプロム。
自分の料理をおいしく食べてくれる金髪幼女に、ミアは今までにないくらいうれしそうな顔をしていた。




