48 トラブルシューティング
制御中枢にたどり着いた私たち。
そこはたくさんのマドみたいな、でもマドとはちょっと違う感じのモノの前にイスが置いてある部屋だった。
そしてマドもどきには、なんと外で戦っているみんなの姿が映し出されてる。
「なにこれ……」
「わからぬのだ、ミアですらさっぱりなのだ」
「でしょうね」
「モニターが起動しておるだけじゃ。さて、ワシは術式を修正する作業に入るぞ」
特に驚いた様子もなく、イスに座ってなにかを操作し始めるプロム。
まぁいいや、わかる人にまかせておこう。
「外の様子は、と……。うん、今のところみんな無事みたいだね」
「うむ、何よりなのだ」
プロムの操作が終わるまで、あたりを警戒してなきゃいけない。
だから助けには行けないけど、せめてみんなの戦いを見守っていようか。
〇〇〇
次から次へと降って湧く最上級モンスターたち。
だが、数々の竜の力を得たアタシの敵じゃない。
巨竜の姿のまま、尻尾のひと薙ぎで、爪の一撃で、湧いたそばから敵を蹴散らしていく。
「さすがです、お姉さま!」
『サクヤもね。アタシの背中を安心して任せられるのはアンタだけさ』
「あぁっ! お姉さまに頼っていただけるだなんてっ」
残像が見えるほどの速度で雷鳥ガルーダを斬り刻みながら、サクヤが答える。
そりゃあ頼るさ、そばにいてほしいさ。
アタシの中で、いつの間にかアンタの存在はかなり大きなものになってたみたいだからね。
あの山頂の時といい今回といい、この子がいないとダメになっちまうみたいだ。
だからもう、離れたくない。
『全部片付くまで、アタシのそばでしっかりサポートしておくれよ!』
「合点です!」
大きく息を吸い込み、火炎のブレスをミノタウルスの群れに吐きかける。
ひと吹きで一気に十匹、牛人間の丸焼きの完成だ。
「さすがは『竜の牙』ですわ! 以前声掛けを断られたのが、今になって惜しくなりますわね」
「えぇ、まったくです」
そんなこと言いながらお姫様、さっきから副団長殿との息の合った連携で次々と敵を斬り伏せてるじゃないか。
ガイコツ剣士の攻撃を軽くいなして、腰骨をなぎ払う剣さばき。
おたがいの死角をカバーし合う立ち回り。
見事なもんだ。
『アタシなんざ、いらないと思うけどね』
「あらあら。ご謙遜を、ですわっ」
ご謙遜じゃないんだけどねぇ。
ま、この調子なら持ちこたえられそうだが、なんせ倒しても倒しても敵が減らない。
ネリィたちの方、そろそろ終わる頃だろうか。
できるだけ早くしてくれよ……。
〇〇〇
「今のトコ、みんな持ちこたえられそうだね」
「なのだ。さすがはガルデラ。そしてあの姫、ミアほどではないが中々やる……」
その自信、いったいどこからくるのやら。
さて、プロムはイスにすわったまま、何やらリズミカルにたくさんあるボタンを叩いてる。
そろそろ終わる頃なのかな……。
「……よし、これで修正は――な、なにっ!?」
「……どうかした?」
トラブル発生っぽい。
力になれないだろうけど、とりあえず聞いてみる。
「グラスポートのダンジョンのデータが書き換わっておる……! バグの主原因はコレか……!」
「直せないの?」
「直せる。直せるが……、ダンジョンを制御する大魔石のデータを入力しなおさなければいけないのじゃ……」
「じゃあさっさとソレを――」
「できぬ。正確なデータの入力なぞ、現物がこの場に無ければ到底不可能じゃ……っ!」
バンっ!
台を手のひらで叩いて、プロムが悔しさをにじませた。
「……すまない。ここまで付き合わせて悪いのじゃが、一時撤退じゃ。お主らは一度現実世界に戻ってくれ。大魔石のデータが入ったものを回収してきてもらいたいのじゃ」
「データの入ったもの……。たとえば?」
「お主の宿から沸いておるという温泉のお湯、などじゃな。大魔石の成分がわかりさえすればよい」
なるほどね。
仕方ない、一度宿にもどって――。
「……ん? 成分がわかれば……」
だったら、わざわざ戻らなくでもいいんじゃないか?
ポケットから小袋を取り出して、見せてみる。
「プロム、もしかしてコレ使えるんじゃ……」
「何じゃこれ。白い粉……、怪しいのう」
「怪しくないから。温泉で取れた湯の花。大魔石の成分入ってるんじゃない?」
「なんと! でかしたぞ、すぐにソイツを渡せ!」
有無を言わさず、バッとひったくられた。
オッケーだったみたいだね、態度があんまりよろしくないですけども。
「よし、あとはコレをスキャンして――」
〇〇〇
プロムの作業が全て終わった瞬間、この城のまわりから魔物がきれいに消え去った。
これにて一件落着だ。
「いやはや、助かった助かった! おぬしらが来てくれて助かったぞ!」
お城の玉座にふんぞり返って、私たちをねぎらってくださる幼女。
態度がデカいですけども。
「ホント、終わってよかった……。早く宿に帰りたい……」
「ネリィ、テンション低いねぇ。一仕事終わったんだ、もっと喜んだらどうだい」
「そうですわ、しゃんと胸をお張りなさいな」
「いや、そろそろ寒くなってきたんだって……。湯の花あげちゃったし……」
宿を出てからどのくらい経つだろう。
寒さを感じるようになってきたなら、かなり経ってんだろうな……。
「むぅ、『純魔』の代償か。よかろう、ただちに現実世界へ転送しようぞ」
「た、助かる……」
いろいろ聞きたいことあるけど、今はともかくお風呂。
でも、帰ったあとってプロムに会えるんだろうか。
「帰ったら救出記念アンド祝勝会なのだ! ミアが腕によりをかけてごちそう振る舞ってやるぞ!」
「まぁ、楽しみですわね。わたくしたち、昨日から非常食とお茶菓子しか食べてませんもの」
「ミアちゃんの料理、とってもおいしいですよね!」
「ふははは、楽しみにしておくがよいのだ! ……そうだプロム、おぬしも来ぬか? ともに宴を楽しもうぞ!」
いやいや、軽ーく聞いちゃったけども。
この幼女、私たちの世界に来られるのか?
「宴の誘いか。いいじゃろう、乗ってやろうぞ。どのみちココは退屈じゃてな」
あ、来られるんだ。




