46 ダンジョンの真実
「こほん、まずは名乗らせていただこう。我が名はプロメテウス。言うまでもなかろうが、そなたらをここに呼んだのはこのワシじゃ」
「アンタ、いったい何が目的だ……!」
「やれやれ、それを今から説明すると言うに……」
敵意むき出しのガルダに、やれやれ、といった感じで肩をすくめる金髪幼女。
気持ちはわかるけど、この子は敵じゃないって私のカンが告げている。
始末したいならいくらでもやりようがあったはずだし、こうして丸一日サクヤやお姫様たちが元気そうにしてるし。
「おぬしらを呼んだのは他でもない、手を借りたいことがあるのじゃ。特にそこの女」
「私?」
おっと、いきなり私に話をふるか。
「そち、その身に『純魔』の力を宿しておるの。これほどの上物がおるのなら話は早い」
「『純魔』……?」
なんだそれ、さっきも言ってた気がするけど聞いたことない単語だぞ。
「なんじゃ、知らんのか。『純魔晶石』、魔石の数万倍の純度を誇る魔力のカタマリじゃ。その内に、世界のバランスを崩しかねない力を秘めておる」
「……あ、もしかしてアレのことか」
私が冷え性になるキッカケを作った、氷のように透き通ったあの魔石。
純魔晶石っていうんだ、アレ。
「で、結局お主の頼みとはなんなのだ。わざわざ食堂を休んで来ているのだぞ、つまらぬ用事だったら承知せぬからな!」
「つまるかつまらぬかはわからぬが、まぁ順を追って話そう。まずはこの空間、ここはお主らがミスティックダンジョンと呼んでおる場所を管理するための空間じゃ」
「ミスティックダンジョンの、管理……? アレって人工的に管理されてるものだったの……?」
予想だにしない内容に、ミアとガルダと思わず顔を見合わせる。
「お主ら、ちっとは疑問に思わんかったのか」
「だって、昔っからそういうモノだと思ってたし」
午前0時にきっかりと入れ替わる中身。
どこからともなく無限に補充されるアイテムとモンスター。
ごほうびみたいに最下層に毎回置かれる、踏破記念の超レアアイテム。
よくよく考えれば不自然のカタマリだけど、そういうものだって疑問に思いもしなかった。
「あれらのダンジョンの地下深くには、魔力を放出し、さらには安定させる力を持つ、山よりも大きな魔石が埋まっておってな。その大魔石がダンジョンの姿を変えておる。この空間は全ての大魔石とつながっておって、全てのダンジョンの操作ができるのじゃ」
魔力を放出して、安定させる……?
まさか宿の温泉って、地底深くを通る源泉がその魔石に触れて魔力を安定させる力を得たモノなのか……?
だったら……!
「ねぇ、その魔石と同じものってここにある?」
「ないぞ? 世界に七つあるミスティックダンジョンの地下深くにある、七つで全部じゃな」
「そ、そっか……」
残念、その魔石さえ手に入れば冷え性と永遠におさらばだって思ったのに。
てか未発見のダンジョン、あと二つもあるんかい。
「しかし、なぜそのようなことを聞く?」
「じつは――」
かくかくしかじか、で私の体質と温泉のことを伝えてみる。
他に冷え性を制御する方法知ってるかもしれないと思って。
ところが……。
「なんと……! 人の身に余る『純魔』の力をその身に宿した代償か。じゃが温泉があればいいのじゃろ? 諦めて付き合っていけぃ」
なんとも残念な答え、いただきました……。
「しかしミスティックダンジョンが、人間の管理していたモノだったとはね……。しかも、アンタみたいな小さな子が……」
「おっと、ワシは人間ではないぞ」
「に、人間じゃないだぁ!?」
「さて、どういえば伝わるものか。先史文明の残した管理用術式の受肉体――いや、理解しにくいか……」
なんかブツブツ言っておられる、自称人外の金髪幼女。
状況が状況じゃなかったら、この子の正気を疑うものだけれど。
「……まぁ、どうでもよかろう。精霊のようなものと思っておくのじゃ」
「投げやりなのだ……」
「やかましいぞ、脇にばかり脱線させおって! そろそろ本題に入らせろ!!」
幼女、キレた。
「この先の管理中枢でバグが発生しての、不具合が魔物の形になって大量に生まれておる。しばらく放置しておったのだが、いよいよ看過出来ぬ事態になってきた。そこでミスティックダンジョンを踏破するだけの強者を集めておったのよ」
「バグ……?」
「私たちも最深部にたどり着けたからって、無理やりここまで連れてこられたんですよ、お姉さま!」
「ゴーレムをけしかけてきたのは?」
「テストじゃ。中途半端な腕前のまぐれ踏破じゃ話にならんからの。実際、二組ほど試験失敗でお帰りいただいたわ」
なるほど、合格したのはサクヤのパーティーだけだった、と。
そのパーティーも気の毒に……。
「もうしばし戦力を集めてから挑む予定であったが、『純魔』の者がおるならばこれ以上は不要じゃろう。さっそく討伐に出るぞ」
〇〇〇
プロメテウスの開いたゲートを通って、私たちは魔物の大量発生地点の目前までワープしてきた。
ゲートで一気に目的地まで行かなかったのは、バグとやらの影響でこれ以上近くに出せないかららしい。
なんでもこのあたりが自分の制御から離れてしまっているせいだとか。
巨大な柱の影からのぞくと、そこにあったのは巨大なお城。
まわりには大魔獣ベヒモスやら火焔魔人ベリアルやら、ごっついモンスターが山ほど見える。
たぶん何万匹単位で。
「そ、壮観ですわね……」
「お姉さま、サクヤちょっと引きました……」
「気が合うね、アタシもさ」
こんな中にお姫様連れてっちゃっていいのかな。
危なくない?
「……ネリィ様、ご安心を。姫様は私が命に代えてもお守りします」
お姫様見てたら、リューシュさんにそう言われてしまった。
顔に出ちゃってたか。
「ここにおる魔物を可能な限り潰してくれ。その間にワシは最深部に行き、術式に修正をかける。それでこの事態は収まるはずじゃ」
「よくわかんない単語が多いけど、わかった。でもさ、私が時間を止めて一気に最深部に連れてけば済む話じゃない?」
「残念じゃが、この空間で時を凍てつかせることは不可能じゃ」
え、マジ?
なんで?
そんなん信じられないし、試してみるか。
「――時の凍結」
…………。
「……マジか」
なんとこの子の言う通り、ピキィィィィ……ン、とならない。
みんな普通に動いてるし、魔物も元気に動いてらっしゃる。
これはいったいどういう仕組みなんだ……?
「そちたちの暮らす現実世界では、時は大河のように流れていくのじゃ。だかここは、術式が数字を重ねて時が進む。大河は凍てつき凍れども、数が重なりゆくものを凍らせられようか?」
「ん、んん……?」
いや、わけわからん。
とりあえず時間を止められないことだけわかった。
「……こほん。じゃあプロメテウスの護衛は私がつくよ」
「ミアも行くのだ! 今回のミアは張り切っているぞ!!」
そうだね、いっつも留守番だったもんね。
話し合った結果、他のメンバーは突入する私たちが後ろから襲われないように、外の魔物を足止めする係に決定。
さぁて、アイナの待つあったかい宿に帰るために、ひと頑張りといきましょうか。




