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44 手がかりを求めて




「となり、いい?」


「もちろん」


 普段は聞いてこないのに、一言断りを入れてからアイナはそっと私のとなりへ。


「アイナ、ごめんね。一人でここに残すことになっちゃって」


「そんなの気にしないで。あたしが行ったって足手まといにしかなんないもん。……ここで待ってるから、絶対にみんな無事で帰ってきて。サクヤちゃんもいっしょに、みんなで」


「任せてよ。安心して待ってて」


「うんっ。……ネリィだって、無事に帰ってきてくれなきゃ嫌だよぉ?」


 えっ……?

 私まで心配されるとは思わなくって、少しビックリ。

 だって私の強さを知ってるアイナが、本気で、心の底から心配した表情で言うんだもん。


「私の心配なんていらないよ。だって知ってるでしょ? ネリィさんがどれだけ強いのか、さ」


「知ってるよぉ! でもでも、万一のことがあるでしょっ!? ……心配なんだよぉ、こ、恋人として」


 アイナが顔を真っ赤にしながら口にした、恋人って単語。

 そりゃそうなんだけど、改めて考えると恥ずかしいな……。


「……えへへ、ネリィってば顔赤いよぉ?」


「アイナも赤いから。……でもありがと、ちょっと元気になれた」


「よかった、ずっと暗い顔してたもん」


 アイナのおかげで、肩の力が抜けた気がする。

 そうだ、今私がやるべきはゆっくり温泉に入ってあったまること。

 力を抜いてお湯に浮かんで、なんにも考えずに力を蓄える。

 ただそれだけなんだから。


「肩だけじゃなく、全身の力を抜いて……」


 浮遊感にまかせてあおむけにプカプカと体を浮かべると、体の芯からポカポカとあったまっていく。

 さっきまでのちぢこまっていた時と比べると全然違うな……。


「お、おぉ……! ぷかぷか、ふるふる……、ごくり……」


 そして、アイナの目線は私の胸へ。

 この子もいつもの調子出てきたな……。


「……さわってみる?」


「……遠慮しておきます」


 残念。



 〇〇〇



 私は厚着、ミアは背中に『鬼斬り包丁』。

 そしてガルダは鎧姿と、背中に背負った『竜の牙』、おまけで背負ったダンジョン用の荷物袋。


「みんな、準備万端みたいだねっ。かっこいいよぉ!」


 宿の玄関に集合した私たち三人。

 見送るアイナは不安げな色を見せずに、気丈にふるまってる。


「ミアはいつでもいけるのだ! ガルデラもそうであろう?」


「……あぁ。絶対にあの子を助け出す」


 ガルダってば、気合い入りすぎてちょっと怖い。

 あとお姫様も忘れないでね。


「それじゃあ――」


「あ、待って、ネリィ! ……これ、持ってって」


 アイナが渡してきたのは小さな袋。

 中には白っぽい粉が入ってる。


「これって、湯の花?」


「うん。もしもの時のためのお守り」


「ありがと。使わないことを祈ってて」


 お礼を言いつつポケットにしまう。

 コレを使う状況となると、かなりの大ピンチ。

 そんな事態になることだけはゴメンこうむりたいな。


「じゃあ改めて、行ってきます!」



 宿屋を離れて、村の道を山の方へ。

 散々に踏み固められた森の中の道をしばらく進むと、見えた。

 ミスティックダンジョンの入り口だ。


 近くには冒険者たちの姿がちらほらと見える。

 その中から一組のパーティーが、私たちの姿を見つけて近寄ってきた。


「『氷結の舞姫』、それに『竜の牙』。姫様の捜索に来たのかい?」


「ミアにもなんか二つ名ほしいのだ……」


 小さくグチるネコは置いといて。


「やっぱりまだ見つかんない?」


「あぁ、他のパーティーも探してくれてるんだが、ダンジョンの中はもちろん、周りにも痕跡すらさっぱり残ってないんだ」


 ミスティックダンジョンは、その日の午前0時になると形を変える。

 そしてその時、中にいた人間はいったん外に放り出されるんだ。


 だから中にいる可能性は低いけど、周辺にも痕跡なし。

 出てきたんなら帰ってくるはずだし、そもそも消えたのは夕方だから関係ないか。


「昨日でさえ見たヤツはほとんどいねぇ。昼頃にダンジョンへ入っていく姿を最後に、それっきりだ」


 なるほど、ね。

 文字通りこつ然と消えてしまったとしか考えられないな、これは。

 強力なモンスターに襲われて、とか、そんな次元の問題じゃなさそうだ。


 夕方に消えたことを考えると、最下層で姿を消した可能性が一番高いな……。

 エグジストーンっていうミスティックダンジョン限定で使用可能なアイテムを使えば、一瞬で入り口まで戻ってこられる。

 ソレを計算に入れて、夕方ごろに最下層につく予定だったから。


「クソ……っ、サクヤ、無事でいてくれ……」


「焦りは禁物だよ、ガルダ」


「わかってる、わかってるさ……」


「……ならいいけどね。ひとまず、最下層目指してもぐってみよう」



 今日のダンジョン模様は、黒い岩壁と発光するクリスタル。

 ちなみに昨日は茶色い土カベに砂の地面だったらしい。


 落ちているアイテムをネコが拾い集めつつ、私とガルダで襲い来るモンスターたちをなぎ倒しながら進むこと二時間。

 異例の早さで本日の最下層、地下二十階までたどり着いた。

 ダンジョンの深さまで日替わりだなんて、ホントどうなってるんだか。


「最下層、ついたね……」


「ついたのだ。そして大きな宝箱があるのだ」


 ミスティックダンジョンの最下層は、超レアアイテムが入った宝箱が置かれている小部屋と決まってる。

 俗に踏破ボーナスと呼ばれてるこの宝箱。

 一日に一度、ダンジョンの入れ替わりとともに中身が補充されるんだとか。


「当然、開けるッ!」


 強欲にも飛びつくネコ。

 フタを開けて中から取り出したのは……。


「なんなのだ、コレは!!」


 魔力を帯びた剣、だね。

 どんな力を秘めてるのかは謎だけど、とりあえず高く売れそう。

 この手の魔導武器なら3000万ゴルドぐらい軽くつきそう。


「まいったな、手がかりゼロか」


「ここまでの道のりにも、情報通りサクヤたちの姿も痕跡もどこにもなかった。日替わりダンジョンなら当然かもしれないが、それにしても何かないのかよ……!」


 中にも外にも痕跡なし。

 いったいどこに消えちゃったんだ……。


『――よいぞ。またも強者つわものの到来か』


「……む? ネリィ、いま変な声を出したのはお主か?」


「違うし。……この声、なんだ?」


 どこからともなく聞こえる、頭の中に直接ひびくような声。

 ミアにも聞こえてるってことは、空耳なんかじゃない。


『しかも一人は「純魔」の力をその身に宿す特上物ではないか』


「誰だ……! 出てこい、どこにいる!! まさかお前がサクヤを――」


 ガルダが背中の『竜の牙』に手をかけた瞬間。


『資格は十分じゃ! 招待しよう、我が世界へ!!』


 ぶん……っ。


 地面に、穴があいた。


「えっ?」


「は?」


「にゃっ!?」


 そして始まる自由落下。

 ぐねぐねうねる変な空間の中へ、私たち三人は落ちていった。

 行く先もわからないまま、真っ逆さまに。




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