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42 困ったときは




 アイナの顔からようやく緊張が抜けていく。

 あと、私も。


「なんか、安心したら力が抜けちゃいましたぁ……」


「やはり残念な気持ちは変わらないのですけれどもね。アイナさんがうなずいていただければ、後はゆっくりネリィさんを手篭てごめにできましたのに」


「て、てごっ……!?」


 あぁ、ゆるんできてたアイナの顔がまたこわばって……。


「そ、そ、それはっ、いったいどういった意味でっ!?」


「あら、言葉通りですのよ?」


「ダメ、ダメですっ! ネリィはあたしの……っ」


「あらあら、もうそこまで行ってらしたの。どこまで致しましたのかしら。キス? それとももっと先の――」


「まっ、まだ何もいたしてませんっ!!」


「あらあらあら、そうですの。だったらネリィさん」


 え、私にふるの……?

 せっかく目立たないように、黙って背景と一体化してたのに。


「どうです? この子をリードできるように、わたくしが手取り足取り実戦形式で教えてさしあげるというのは……」


「じ、実戦って……」


「ダメぇぇぇっ! 絶対にダメですぅぅぅぅ!!」


「あぁ、失礼。アイナさんをのけ者にするのは違いますわよね。でしたら三人でいたしましょう」


「さ、三人っ!? さんにん……、さんにんで……、ネリィと姫様のおっぱいが……」


「アイナ、悩まないで。悩む時点でアウトだから」



 〇〇〇



 あれこれの騒動が終わっての、一人での朝風呂の最中。

 露天風呂につかってると、ぺたぺたと足音が聞こえた。


「……サクヤ、珍しいね。足音立てて歩くなんて」


「私だと見抜くとはさすがです! わざと足音立ててみれば、アイナさんと勘違いされるかと思いましたのですが!」


「足取りが玄人くろうとのそれ。あの子もっとどんくさいし。まぁ、とにかく入りなよ」


「はい、お隣失礼します!」


 すっ、と音もなくお湯に入って、私のとなりに腰を下ろすサクヤ。

 このタイミングで来たってことは、例のあの件だよね。


「……ありがとね」


「およ? なんですやぶから棒に」


「あらかじめ、私とアイナのこと取りなしてくれてたんだよね。ちゃんとお礼、言っとかなきゃなって」


「ネリィさん、お姉さまと私の仲を応援してくれるって約束守ってくれてますからね。命も助けてもらいましたし。小さな恩返しってヤツです」


「恩返し、か……」


「それに、クライアントの要望は宿の経営状況、およびネリィさんの宿での行動や人間関係をつぶさに報告すること、ですから。任務に忠実に動いたまでなので、お礼は必要ありません!」


「それでもさ、私の気がおさまらないから」


「うーん……、困りましたねぇ……。……そうです! だったらもし私が、おもにお姉さまのこととかお姉さまのこととかお姉さまのこととかで困ったときは助けてください! それでチャラです!」


「ガルダのことでしか困んないんだ……」


「お姉さま以外のことで、私がなにを困るというんですか!」


 ……それは確かに。

 一にお姉さま二にお姉さま、ってカンジだもんな。

 この子のガルダ以外での悩み、想像できないや。


「悩みじゃなくてもピンチとか……。まぁ、恋路を応援するって約束だもんね。これからも変わらず応援していくよ」


「はいっ!」



 〇〇〇



 お昼を過ぎたころ、宿の中と外がやけに騒がしくなった。

 薔薇騎士団ローゼンシュバリエの皆さま方が宿の前に次々と整列していって、なにごとかと村の人や宿泊客、冒険者たちまで野次馬に集まってくる。


「ガルダ、なにこれ。お姫様もう帰るの?」


「まだ帰るとは聞いてないが……」


 帰るんじゃないんだ。

 だったらなんなんだろ。


「これはわたくしの出陣の見送り、その準備ですわっ!」


「あ、お姫様。……出陣って?」


 腕を組んで威風堂々な登場をするお姫様。

 出陣ってどこに?

 誰と戦いにいくおつもりであらせられるのか。


「せっかくこの村に立ち寄ったのですわよ。グラスポートが世界に誇る名物に、挑まない手はないでしょう?」


「……あ、ミスティックダンジョン」


 なるほど、このお姫様は騎士団長でもある。

 武術や魔術に興味津々なだけじゃなくて、ちゃんと本人も強いんだ。

 そりゃミスティックダンジョンにもぐりたくもなるか。


「しかし姫、あのダンジョンはベヒモスが出現する可能性すらある危険な場所。お一人でおもむくにはいささか危険が過ぎますが?」


「ご安心なさい。優秀な護衛を連れていきますから」


 ガルダの質問に、姫様は余裕たっぷりに答える。


「姫様、出立の準備がととのいました」


「ご苦労。と、紹介しますわ。こちらは薔薇騎士団ローゼンシュバリエの副団長。今回の探索に連れていくうちの一人ですの」


「ネリィ殿、ガルデラ殿、リューシュと申します。以後、お見知りおきを」


 ウェーブがかったピンクの髪をした女騎士が、礼儀正しく一礼した。


「彼女の実力は、このわたくしに迫るほど。背中をあずけるには十分ですわ」


 わたくしの実力のほどがわからないけど、きっとかなりのモノなんだろうね。

 ベヒモスを相手にとっても安心と言えるのならば。


「そして、もう一人の護衛はとびっきりの強者つわもの。あなたたちもおどろくことでしょう」


「私たちが驚くほどの……?」


「ほう、ソイツは楽しみですね」


 私たちが驚くってことは、その人のこと知ってるって意味だよね。

 冒険者や闘士の猛者たちにあんまり詳しくない私でも知ってる名前って、かなり限られてくるんだけど――。


「はい、お待たせしました! 護衛その2のサクヤちゃん、ただいま見参ですよ!」


 いや、アンタかい。




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