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41 ずっといっしょに




 ネリィと二人、ベッドに寝転んでむかい合う。

 いっしょに寝ようだなんて、許可取らなくてもいつでも大歓迎なのに。


「こうやっていっしょに寝るの、あたしの秘密を話したあの夜以来だよねぇ」


「うん。またこうしたかったけど、なかなか言い出せなくって」


「いそがしかったからねぇ。気をつかってくれてありがと」


「……別に、気をつかってたわけじゃないよ」


 少し言いよどんだあと、ネリィはあおむけに寝返りをうって、天井を見上げながら答えた。


「そうなの?」


 いそがしい日が続いて、ゆっくり休ませてあげたいからって言い出さないんだって思ってた。

 だったら、どんな理由なんだろ。


「……ただ、勇気が出なかっただけ。今日来れたのは、最後になるかもしれないから」


「勇気……? どうして勇気がいるの?」


 あたしと寝るのに勇気が必要だなんて、意味がよくわからない。

 だって、ネリィはあたしなんかよりずっと強くて勇気があって、とっても素敵で。

 そんなネリィがどうして、あたしと寝たいっていうただそれだけのことに勇気を出す必要があるの?


「……きっとコレも勇気じゃない。最後だからってだけの、ただのやけっぱち。ま、この際やけっぱちでもなんでもいいや」


 ネリィは寝返りをうって、またあたしとむかい合う格好に。

 その真剣なまなざしに、なぜだか胸が高鳴る。

 そしてネリィはおどろくほどあっさりと、その言葉を言ってのけた。


「私、アイナのことが好き。だから誘うのに勇気が必要だった」


「ふぇっ……?」


 好き。

 あたしのことが好き。

 うまく意味を飲み込めなくって、何度か頭の中でくりかえす。


 そうだ、前にも同じこと言われたっけ。

 その時は友達として好きだって、深く考えずに流しちゃった。

 でもでも、今回のは明らかに違うよね。

 ネリィはそういう意味であたしのこと……。


「離れちゃうとしたら、その前にこれだけは伝えておきたかった。ただそれだけで、困らせたいわけじゃないんだ。ごめんね」


「え、あぅ、えと、あの……」


 どうしよう、どうしよう……。

 心臓がどきどきして顔が熱くなる。

 この気持ちは……、嬉しい……?


「明日、アイナがどんな答えを出しても私は尊重するから。だからアイナが思うまま、答えを出してほしい。言いたいことはそれだけ。おやすみ」


「あ……」


 ネリィが背中をむけてしまった。

 ダメ、このまま何も言わなかったらきっと後悔する。

 そんな衝動が体を動かして、気づけばあたしはネリィに後ろから抱きついていた。


「アイナ……?」


 ど、どうしよう、後先考えずにこんなことしちゃって……。

 そもそもどうしてこんなことを……。


「あの、えっと……?」


 ほら、ネリィも困ってるよぉ!

 どうしてこんなこと、どうして……。


 ……うん、どうしてって、そんなの簡単だった。

 だって、ネリィにはとっても感謝してて。

 ネリィのおかげで宿をここまで大きくできたんだもん。


 それから、ずっと一人だったあたしのそばにいてくれて、ネリィがいたからさみしかった宿も村もこんなににぎやかになって。

 だからとっても感謝してて……。


 ……違う、感謝だけじゃない。

 ネリィにどこにも行ってほしくない。

 ずっといっしょにいたい。


(そっか、そうなんだ。とっても簡単なことだった)


 あたしも、ネリィとおんなじだ。


「ほら、明日も早いしそろそろ寝なきゃ――」


「あたしもっ!」


「え……?」


「あ、あたしも……、ネリィのこと、好き、だよぉ……?」


「……えっと、大事なお友達だから?」


「ちがくてっ! そ、その……っ、ネリィとおんなじ意味で!」


 言っちゃった……。

 でも、伝えずにはいられなかった。


 ネリィの体がぴくりと動いて、私の方にむき直る。

 少しおどろいたような、そんな表情で。


「アイナ……、それって……」


「こ、告白のお返事……です……」


 恥ずかしい……。

 でも、胸があたたかい。

 顔も体も熱いけど、心はあたたかい……。


「……不思議だな。温泉に入ってないのにポカポカする」


「あ、ネリィもおんなじなんだぁ。……えへへ、なんだかうれしいっ」


 気持ちが通じ合ったからかな。

 とってもとってもポカポカしながら、あたしたちは布団の中で指をからめた。


「あのね、明日の答え、決まったよ」


「そっか。……うん、よかった」



 〇〇〇



「ネリィは……、ネリィはあげられません! ごめんなさいっ!」


 深く、ふかーく頭を下げるアイナ。

 王族を深く尊敬してたおじいさんのことを思うと、きっとこの決断はとっても勇気が必要だったよね。

 アイナ自身もこの国が大好きだろうし、それでも私を選んでくれたことがとっても嬉しい。


「…………」


 お姫様は無表情のまま、じっとアイナを見つめる。

 やがて、


「……はぁ。残念ですが、やはりこうなってしまいましたわね」


 ため息まじりに、やれやれと首をすくめた。


「頭をお上げなさい、アイナさん。最初から断られる覚悟はしておりましたわ」


「え……っ? あの、どうして……」


「密偵からの報告にありましたの。あなたたち二人が、とても深く思い合っていると」


「ふへっ!?」


 アイナの顔がボッ、と赤くなる。

 ……たぶん私も。


「サクヤに感謝しておくことですわね。彼女、ここの宿がかなりお気に入りらしいですの」


 そっか、あの子が……。

 初めは苦手だったけど、今はもう感謝しかないな。

 あとでちゃんとお礼しておこう。


「このエルサベーテ=フォン=ボクスルート、ここは潔く身を引かせていただきますわ」


「よ、よかったぁ……」


 うん、ホントよかった。

 これからもずっと、アイナのそばにいることが出来そうだ。




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