表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/93

4 生まれて初めて本気出す




 小さな村に始まって以来の大事件です!

 ズンズン近寄ってくるベヒモス、だったっけ。

 このままじゃ、あのモンスターに村が踏みつぶされちゃう!


 大急ぎで宿から飛び出すと、村のみんなの避難はもう始まっていた。

 いつも魔物を退治してくれるグレンダルおじいちゃんが、背中に大きな剣を背負って避難誘導してくれてる。

 おじいちゃんは私に気がついて、最後の一人を誘導したあと、こっちに駆け寄ってきた。


「お嬢、そなたもさっさと避難せんかい!」


「グレンダルさん! あれ、ベヒモスっていって、すっごく強い魔物だって……」


「わかっとる! だからさっさと避難せいと――」


「この村、もうあたしたちしか残ってないでしょ。グレンダルさんこそ早く避難しなきゃ!」


「……ワシは戦う!」


 山を下りてくるベヒモスを、グレンダルさんがにらみつけた。

 しわくちゃの目の奥に光る鋭い眼光で。


「思い出深いこの村を、みすみす踏みつぶさせるわけにいかん!」


「……だったら、あたしも残るよ! おじいちゃんが残してくれた宿、見捨てて逃げたくない!」


「バカ言うなッ!! 命あってこそだろうがッ!」


「それならグレンダルさんだって――」


「老い先短いジジイのことなど気にすっでねぇ!」


「はい、二人ともそこまで」


 その時、あたしとグレンダルさんの間に、とつぜん厚着のお客さんが現れた。

 まるで瞬間移動でもしたみたいに。

 両手をそれぞれに差し出して、言い争いはもう終わりってカンジで。


「おじいさんが戦う必要ないよ。アイナさんも、逃げる必要ないからね」


「お客さん……?」


「嬢ちゃん、なにを……」


「私が軽く、やっつけちゃってくるからさ」


 そして彼女はうっすらと笑みを浮かべて、魔獣の来る方へと歩いていった。



 〇〇〇



 体があたたかい。

 時間を止めたのに、体は芯からポカポカしたまま。

 いつもの厚着が初夏の日差しに暑いくらいだ。


 確信がある。

 今の私なら凍死の心配一切ナシで、生まれて初めての本気が出せるって。

 最強クラスの魔獣すら足元におよばない本気の本気、自分でも知らない全力を。


「さーて、始めるとしますか」


 ベヒモスはもうすぐ村までたどり着きそう。

 これ以上近寄らせないため、まずは魔獣へめがけてまっすぐに駆け出す。


 ギュンッ!


「えっ?」


 まず驚いたのが、自分でも思ってもいなかった急加速。

 軽く走っただけなのに、風を切る速度が馬の数倍だ。


(……魔力が安定したおかげで、身体能力の強化にまで回せるようになったのか)


 強い魔法使いは肉弾戦も強いらしいって聞いたことある。

 その極み……ってとこかな。

 ま、素手で殴り殺す趣味はないんで。

 魔法が私の本領だ。


「ギギャアアァァァッ!!!」


 接近に気づいたベヒモスが、大きく口をあけた。

 直後に吐き出された火炎弾が私の方へとまっすぐに飛んでくる。

 よけたら村に直撃するな……、だったら。


時の凍結(クロノ・フリーズ)


 時間を止めればいいだけだ。

 この世の全てごと、ぴたりと動きを止めた火球にめがけて氷の魔力を放つ。

 このあと時間を動かせば、火の玉は冷気でかき消されるはず。

 今すぐ時の流れを解凍してもいいんだけど……。


「せっかくだから、いろいろ試してみたいよね」


 時を止めたままベヒモスのふところへ。

 近寄ってみてわかったけどデカいなベヒモス。

 アイナさんの宿くらいデカい。

 なにはともあれ、


千本氷柱サウザンドアイシクル


 とがった氷の塊を、魔獣の体のまわりに出せるだけ出してやった。

 たぶん千本、もしかすると万本。

 私のコントロールを離れたものは、凍った時間の中を動かない。

 だから、このタイミングで時の流れを解凍。


 ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドっ!!!


「ギャアアギィィィィィッ!!?」


 全身に氷の針が突き刺さり、絶叫するベヒモス。

 全力の火球があっさりかき消されたと思ったらコレって、少し気の毒になってくるね。


「……ッグルルルルゥゥ!!」


 とか同情してやるには早かった。

 二本のツノの間に魔力が集中して、バチバチとスパークする。


 そうだ、聞いたことがある。

 エクリプスとか呼ばれてる大技だ。

 魔力を極限まで圧縮して超特大の爆発を起こす、ベヒモスの奥の手。

 これだけ離れてても、撃たれれば村が消し飛ぶかも。


「ま、撃たせないけどね」


 この程度、時を凍らせるまでもない。


凍氷刃フロストエッジ


 魔力で生み出した氷の大剣。

 コイツを遠隔操作で操って、


 ズバッ、ズバァ!


 ツノを二本、根元から斬り飛ばしてやった。


「ギュイイイィィ……ッ!!」


 大事なツノを斬り落とされて、大きく怯む魔獣ベヒモス。

 さて、そろそろ仕上げといきますか。

 ただひたすらに全力で、シンプルな氷の魔力をぶつけてやるとどうなるのか。


「試させてもらうからさ。ま、悪く思うな」


 右手をかざし、魔力を魔獣の体のまわりに集中させる。

 渦巻く冷気に空気中の水分が凍って、キラキラと輝きを放った。


終焉の氷獄(コキュートス)


 パキィィィン!


 宿よりもデカい小山のようなベヒモスの全身が、さらに巨大な――グラスポートの山より高い氷山に包まれて一瞬で凍りつく。

 断末魔の叫びすら上げられないほど一瞬で。

 直後、氷山とともにその巨体は崩れ、粉々の氷粒となって宙に舞った。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ