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38 選べる温泉四種類




 別館の完成を翌日にひかえた夜。

 業務が終わったあとのミーティングにて、アイナが切り出した。


「えー、今日はみなさんに重大発表がありますっ」


「重大発表? なんなのだ、食堂の拡張か?」


「違うって」


 全員から否決されただろ、それは。


「えーっとねぇ、別館の建設と並行して進んでいた温泉の拡張ですが! 本日、あたらしい温泉が完成しましたっ!」


「おぉ、そりゃめでたいね!」


「いっしょに入ってみたいですね、お姉さま! 二人っきりで!」


 二人っきりを強調してるね、サクヤ。

 私も二人っきりで入ってくればいいと思うよ。


「というわけでぇ、今からみんなで温泉行かない? 細かいところ紹介したいしっ!」



 ……というわけで、私たちは本館の露天風呂へとやってきた。

 お昼に入ったのを最後にずーっと温泉につかるヒマなかったから、素肌に秋の夜風がしみる……。


「ネリィ、大丈夫……?」


「ま、まだまだ平気だよ……。この程度でまいってたら冬は越せない……!」


 かなーり気合いが必要だけども。


 ここに新しく作ったのは、露天風呂が三つと小屋が一つ。

 もともとあったヤツと合わせて四つの温泉プラスアルファが楽しめる。

 工事中はカベを作ってあったから、みんなが見るのはこれが初めてだ。


 ちなみに当然ながら、どれもおんなじ源泉を使ったかけ流し。

 私はひとまずいつもの温泉に入って、


「はふぅ~」


 あったかさにつつまれて一息つく。

 これでしばらく寒さは平気だ……。


「お前、ホント難儀な体してるな……」


「軟弱なのだ! 寒さ程度でまいっていては強者とは呼べぬぞ!」


「うっさいな……。さて、新しい温泉について説明するね。まず一番奥の温泉は――」


「ここだな! ミアが一番乗りするのだ!」


「あ、バカ!」


 ざぱーん!


 説明を聞く前に、水しぶきをあげて盛大に飛びこんだミア。

 その直後、


「にゃあああぁぁぁぁぁぁっ!!! 冷たいのだあぁぁぁぁぁぁ!!!」


 絶叫しながら飛び出してきた。


「ちゃんと説明聞いてよ……。そこは氷の魔石を仕込んだ水風呂だから。そこの小屋――サウナで火照ほてった体を冷やすための」


「にゅおおおぉぁぁぁぁぁああぁ……、寒い寒い寒いぃぃぃぃ……!!」


 サウナのためでもあり、暑がりな人のためでもある水風呂。

 なんか健康にいいらしいし採用することにした。

 私は死んでも入りたくないけど。


「寒さ程度でまいってたら軟弱じゃないの?」


「前言撤回なのだぁぁぁ……」


 ミアはガタガタ震えながら、私が入ってるいつもの温泉へ。


「……はふぅ、あったかいのだぁ」


「そうだねぇ、あったかいねぇ」


 いつの間にか私のとなりにいたアイナといっしょに、うっとりとろけ顔だ。


「こっちの温泉はなんだい? 泡が底からブクフクと勢いよく吹き出てるが……」


「そっちは泡風呂。風の魔石を底のところに仕込んだんだ」


「体のいろんなところがマッサージみたいに刺激されて、いい感じに気持ちいいんだよぉ。それと……うへっ、下からの水流でおっぱいが……、うへへっ」


 なんか邪念垂れ流してるよ、アイナ。

 口のはしからよだれも垂れ流してるよ。


「へぇ、ソイツはおもしろそうだ。サクヤ、いっしょに入るかい?」


「はいっ、喜んで! ……泡でお湯の中が見えない、ということは中でいたずらしても……?」


 なんか邪念が漏れてるよ、サクヤ。

 ジャマはしないけども。

 二人が泡風呂に入ると、まずはガルダから感嘆の声がもれた。


「おぉ、コイツはなかなか……。なんだか体が浮き上がる感じがするね」


「お姉さまぁ、私バランス崩しそうで怖いですっ! つかまってもいいですか?」


 ……嘘つけ、とは言わないよ。

 色んな意味でジャマしたくないし。


「かまわないよ。しっかりくっついときな」


「ありがとうございますっ! 色々と思いっきり押しつけちゃいますねっ!」


 ガルダもガルダでわかっててやってない?

 アウロラドレイク討伐以来、サクヤに対して甘くなったのは気のせいじゃないと思う。


「で、最後の一つだけど。雷の魔石を仕込んだ電流風呂」


「なんなのだそれは! 処刑用か!?」


「ちがうって。魔石のカケラ、ほんの数粒を岩の表面に仕込んだの。ものすごく微弱な電流が湯船の中を流れてるんだ」


「こっちもいい感じだよぉ。お医者さんいわく、肩こり血行に効くんだってぇ」


 いつの間にか電流風呂に移ってたアイナが、ほんわかうっとりしながら説明してくれた。


「別館の方にも源泉からパイプを引いて、同じように四種類の温泉を作ってある。別館のお客さんにはそっちの方を使ってもらう」


「なかなかいいんじゃないか? 物珍しいし、お客さんも満足だろ」


「だが水風呂には立て札を立てておくのだ……。さもなくば死人が出るぞ……」


「大丈夫、最初からそのつもりだから」


 このネコ、水風呂トラウマになってるな。

 ネコの犠牲とはまったく関係なく、最初から水風呂に限らず立て札を置くつもりだった。

 今みたいにお客さんひとりひとりに説明なんてできないもんね。


「明日には別館が完成か……。家具とかいろいろ用意して、オープンの準備ができたらもっともっといそがしくなるね」


「サクヤにおまかせ! 二十人分がんばるつもりですよ!」


「あはは、アタシらも負けてらんないね」


「ミアだって、分身をマスターして食堂フル回転させてやるのだ……」


 みんな張り切ってるな、いいことだ。

 最後にビリビリ風呂から上がったアイナが、拳を突き上げてぴょんと跳ねながら。


「よぉし! パワーアップした『森のみなと亭』みんなで盛り上げていこうねっ!!!」


 いただいた締めの言葉に、みんなが大きくうなずいた。


 ……もっといそがしく、か。

 よし、私もこれまで以上に頑張らなくちゃ。

 みんなのためにも、この宿のためにも。

 そしてなにより、アイナのためにも。




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