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36 あったか温室畑




 宿屋の裏手の土地を少し開拓して、建設を依頼してから約一週間。

 私の考えていた施設が、今日ついに完成した。


 アウロラドレイクの骨をつかって作った骨組みに、同じくアウロラドレイクの翼膜をそのまま張って作った透明な小屋……というか家というか。

 それを二匹の両翼の翼膜分、あわせて四棟作ってもらったんだ。


「どうよ、これ」


「どうよ、と言われても……」


「な、なんなのだこの家は! 中はスケスケ、そもそも床が無く地べたむき出しではないか! こんなところ住めたもんじゃないのだ!」


「住むとこじゃないから。まぁとにかく入って入って」


 みんな見たことないだろうし、考えついた私もあんまり自信ないけどさ。

 とりあえずみんなを中へと招き入れる。

 さて、入ってきたみんなの反応は……、と。


「うわぁ……、蒸してるねぇ……」


「な、なんだかミアの故郷に似ているのだ。まさか、ミアのために……」


「なんだいこりゃ、ネリィのためのサウナか何かかい?」


「きっと修行の場ですよ、お姉さま!」


「はい、どれもハズレ。と、言いたいとこだけど、ミア正解」


 まさかの結果に私びっくり。

 ミア含むみんなもびっくり。


「なぬ、本当にミアのためにこの施設を!?」


「……訂正、前半だけ正解。ここはミアの故郷の環境を再現した――まぁ言うなれば、ガラス付き植木鉢の巨大版だよ」


「あ、コショウのための畑だ!」


「アイナ大正解」


 答えにたどり着くまでかなりかかったね。

 まぁ、勿体ぶらずにさっさと教えればよかっただけか。


「四つの小屋の地面に、ベヒモスが落としていった上質な炎の魔石を砕いた粉が少し散りばめてあるんだ」


 売ろうと思って売り損ねてたアレ、思わぬところで役にたってくれたよ。


「それから水の魔石もばらまいてあって、ちょうどいい温度と湿度が保たれるようになってる」


「ちゃんとお日様当たるし、ポカポカだねぇ」


「アウロラドレイクの翼膜がうまい具合に光をカットしてくれて、日光当たり過ぎってカンジにもならないな。なかなかいいんじゃないか?」


 よかった、説明したらおおむね好感触。

 これでコショウの大規模栽培が成功したら、盛大に売り出すのもいいかもしんない。



 〇〇〇



 さて、今日も宿屋は大忙し。

 期間限定の珍味、幻のアウロラドレイクのステーキを求めて、なんと食堂が満席だ。


「サクヤ、増員なのだ! もう三人ほど配膳係の増員を求む!」


「了解です! お部屋の清掃から何人か回しますね!」


「助かるのだ! ……ところで十人からもっと増えないのか?」


「もっと修行すればできるかもですけどねー、今はこれが精いっぱいです。っと、三番テーブルと十五番テーブル、それから二十一番テーブルから注文取ってきますねー」


「ミアも料理の手を加速させるッ! ぬおおぉぉぉぉっ!!」


 宿も宿で変わらずいそがしいけど、あっちはもうなんというか、地獄だな……。

 サクヤが全十人フル稼働で働いていて、ヒマしてる分身なんて一人も――。


(……あれ?)


 今、何かがものすごいスピードで、音もなく通り過ぎたような。


時の凍結(クロノ・フリーズ)


 ピキィィィィ……ッ!


 ためしに時間を止めてみると、いた。

 見間違いじゃなかった。

 数十歩先のところに、走ったままの姿勢で固まってるサクヤの姿。

 その手には丸めた……手紙?


 それと、もう片方の手にはハトの入ったカゴ。

 きっといそがしさのどさくさにまぎれて、雇い先に伝書鳩を飛ばすつもりなんだろう。


「……そういえば、この子結局どこに雇われたスパイなんだろう」


 私たちのジャマをするでもなく、むしろ積極的に手助けしてくれるサクヤ。

 妨害が目的じゃないことだけは確かだけど……。


「こっそり見ちゃうか、手紙」


 カンのいいこの子なら、手から引っぺがして読んでからまたにぎらせて、ってやると違和感を抱かれる可能性がある。

 だから中身は読めないけど。

 手にした手紙を外からまじまじとながめて、どこかに宛名が書いてないか確認。


 ……そりゃそうか、さすがに書いてない。

 だって密書だし、ハトに運ばせるんだもん。


(……でも、この刻印)


 手紙に印されたバラのエムブレム。

 前に王宮に行ったとき、見たことがあるような。


(あれはたしか……、お姫様とのお茶会?)


 あの時、たしかティーカップに同じ刻印が刻まれていた気がする。

 関係あるかどうかはわからないけど、まさかこの子の雇い主って……。


「……ま、詮索せんさくはここまでにしようかな。さて、お仕事お仕事っと」


 バレないように元の位置に戻ってから、時の流れを解凍する。

 その瞬間、サクヤは風のようにどこかへ走っていってしまった。


 ……ガルダが聞いたら話さないかな、あの子。

 いやダメだ、私がバラしたってバレる。


「ネリィ、受け付けに入ってぇ! あたし、お客さんをお部屋に案内するから!」


「うん、わかった」


 ま、私たちの害にならない限りは、思う存分スパイ活動続けててよ。

 害にならないうちは、私も黙っててあげるからさ。




 ――――――――――――――――――――



 グラスポートの村



 人口

 63人→79人 +16



 施設


 宿屋 鍛冶屋 食料品店 家畜小屋

 雑貨屋 武具屋 アイテム屋 魔石店

 冒険者ギルド出張所



 観光・産業


 ミスティックダンジョン

 コショウの栽培(大規模)

 アウロラドレイクの竜肉(期間限定)



 宿屋『森のみなと亭』


 平均宿泊客

 1日に95組


 平均食堂利用者

 日に400人



 ――――――――――――――――――――




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