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31 竜が出た




 私が思いついたのは、湯の花を溶かしたお湯が温泉の代わりになるのか、ということ。

 宿の庭に用意した大きな桶いっぱいにお湯を張って、アイナからもらった湯の花の粉を一つまみ入れてみる。

 よーくかき混ぜて溶かしてから、素足を投入。


「……うーん」


 どうだろう、これは。

 体がポカポカしてくるのは確か。

 でも、温泉ほどじゃない。


 保温効果はきっと温泉の半分くらいだと思う。

 携帯して持ち運ぶにしても、最後の手段ってカンジかな。


「……ま、手札が増えたのには変わりない」


 これで村から離れても、ただの役立たずの冷え性にはならないはず。

 もちろん離れるつもりないけどね。

 どうしてもってなった時のための、緊急用だ。


 湯の花の粉が入った袋をポケットにつっこんで、足を拭いてからもこもこレギンスをはく。

 それからザッとお湯を地面に流した。


「そいじゃ、今日も働くとしますか」


 宿のため、アイナのため。

 せいいっぱい体と頭を働かせてがんばろう。


「ここにいた! 大変ですよー!」


「うわっ!?」


 いきなり勝手口のドアが勢いよく開いて、サクヤが飛び出してきた。

 よりにもよってサクヤだし、心臓が口から飛び出しそうになったよ。


「び、びっくりした……。大変って、いったいどうしたのさ」


「私の諜報能力でつかんだのですが、破滅を呼ぶ竜と思われるものが近くの村で目撃されたらしいんです!」


「破滅を呼ぶ竜……?」


 かつて王都のあった地方を焼き尽くした、ガルダが探しててアイナとも因縁のあるドラゴン。

 もしかして、アレが出たの……?


「この村にとっても一大事ですから、とにかく来てください! みんなもう集まってるので、話はそこでです!!」


「わ、わかった……」


 すっごい剣幕だし、ホントに緊急事態っぽいな。

 サクヤに手をひっぱられて、私はアイナの部屋まで連れていかれた。



 部屋のテーブルを囲んで五人で座って、緊急ミーティング開催。

 まず最初にガルダが切り出した。


「サクヤ、前にアタシの標的について話したよな。間違いなくソイツなのかい?」


「ハッキリとはわかりませんが、ここから東に山を五つ越えたところにある小さな村が、ただひとりを残して全滅した。これだけは確定情報です」


「情報はその生き残りから?」


「はい。その人によるとですね、とつぜん夜空にオーロラが輝いて、ドラゴンが舞い降りたかと思うと、魔力の光線が雨のように降りそそいだとのことです」


「オーロラ……か。アタシの見立てなら、ソイツは狙ってるヤツじゃないね」


「……うん、ガルデラさんが探してるドラゴンはそんなものじゃないよ」


 小さく首を左右にふりながら、アイナが静かな声で否定する。

 そうだよね、ホントにあのドラゴンが現れたなら村一つじゃすまない。

 ヤツの猛威を、あの子はおじいさんから伝え聞いて知っているんだもん。


「若女将、詳しいみたいだね。ヤツについて知ってるのかい? もしそうなら、ぜひとも教えてもらいたいものだが……」


「……ごめんなさい。あたしが知ってるのは、五十年前にこの国に現れたこと。かつて王都があったボクスルート地方が、その一匹のドラゴンのせいで、一夜にして人の住めない土地になったこと。ただそれだけなの」


「一夜にして、一地方が……。たしかにボクスルート地方が原因不明の大災害で壊滅したことは知ってるが……。なるほどね、そういうことか。ありがとよ、王都滞在三年分以上の収穫さね」


 王都でずっと情報を集めていても、ガルダは例のドラゴンの情報をつかめなかったんだっけ。


 襲撃を生き残ったのは、王族の中でもごく一部だけ。

 きっと真相を聞かされたのは、一部の貴族と王族だけだったんだろう。

 一般市民の誰も、ドラゴンの襲来すら知らなかったんだ。


「……ま、ターゲットじゃないにしても、野放しにするわけにはいかないね。そうだろ?」


「もちろん。そのドラゴンがグラスポートに来たら、間違いなく大惨事だ」


「討伐するのだ! そしてミアはドラゴンの肉を調理する!」


 いや、誰が食うんだ。

 そもそも食えるのか?


「ドラゴンのお肉……。食べてみたいですね!」


 マジか、サクヤ。

 キミってそういうヤツか。


「決まりだね。で、討伐メンバーだけど、まずアタシは確定だろ? 『竜の牙』にヤツの血を吸わせてやらなきゃな」


「私は……行った方がいいかな?」


「いいや、残ってくれ。かなりの長丁場になるし、ネリィの冷え性が発動したら命の保証はできないだろ?」


「……そっか、そうだね」


「ではミアを連れていくのだ!!」


 わめくネコは置いといて。

 例の湯の花の効果時間がどの程度かは未知数。

 ぶっつけ本番で試すのは危険すぎるし、ここはガルダの強さを信じよう。


「あとは一人だけ、助手を連れていきたいところだね」


「もちろん参加します! お姉さまのお手伝いをさせてください!」


「ミアも行くと言っている! 今度こそ行くのだ!」


「……ガルダ、どうする?」


「ドラゴンの情報を持ってるのはサクヤだからね。この子を連れていくのが道理さ」


「ミ、ミアは留守番なのか……。またのけものなのかぁ……」


 がっくり肩を落としたネコを、アイナがひざまくらでよしよしする。

 やっぱりこのネコ、私の敵か?


「さぁて、まずは情報収集からだね。その生き残りの人にくわしい話を聞いてみるとするか」




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