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30 温泉のお湯全部抜く




「呼び捨てよりも愛称の方が親しくなった感じがするから……、なぁ、一回ガルダって呼んでみてくれないか? 地元じゃそうやって呼ばれてたんだよね」


「あ、愛称……」


 愛称、ニックネーム。

 親しい間柄なら呼ぶこともあるだろう。

 でも、ここで私が気軽にガルダなんて呼んじゃったら、私の平穏が崩れるのでは?


「愛称は……、ちょっと……」


「そ、そっか……。あはは、なんかいきなりごめん……」


 申し訳なさそうに、少しさみしそうに笑うガルデラさん。

 胸が痛むけど、これも私の平穏のため……。


「……っ!?」


 とか思ってたら、サクヤからドス黒い殺気が放たれる。


「お姉さまの誘いを断ってお姉さまを悲しませた許せない許せない許せない許せない許せない許せない」


 私にしか聞き取れないレベルの小声でブツブツブツブツつぶやくサクヤ。

 これ裏目った。

 断ったらダメなヤツだった。


「あ、やっぱりこれからはガルダって呼ぼうかな。あだ名、友達って感じでいいよね!」


「お、本当か!?」


「うん、改めてよろしくね、ガルダ!」


 ガルデラさん、改めガルダが笑ったところで、サクヤの真顔も笑顔に変わる。

 普通に仲良くしてるだけなら危害は加えてこないタイプなのか。

 二人の間を応援するって言ったのも効いてるだろうし。

 うん、これからは普通にしていよう。


「お姉さま、お姉さま。せっかくですし私のこと、愛称で呼んでくれませんか?」


「お、サクヤもかい?」


「あ、でも呼び捨ても捨てがたい……」


 サクヤとの会話が始まったところで、ガルダからスーッと離れてアイナのそばへ。

 よだれを垂らしてみんなの裸を見てるのが面白くなくて、腕を取って胸を押しつけてみる。


「ぴゃっ! やわらかっ!」


「アイナの体、あったかいよね。ちょっとくっつかせて」


「温泉よりはあったかくないよぉ!? でもありがとうございます!!」


 はぁ、やっぱこの子の側だと落ち着く……。

 ガルダにくっつくサクヤ、アイナにくっつく私。

 これで丸くおさまって、全部平和だ。


「……ミア、ひとりなのだ?」


 ……ポツンとさみしそうなネコをのぞいて。


「ひとりじゃないよぉ。ミアもこっちにおいで~」


「アイナ……! よし、ミアもネリィとおんなじことするのだっ!」


 え、そういうことしちゃうの……?

 アイナがミアを呼んで、ミアが私と同じようにアイナの腕を取って、体をぎゅーっと押しつける。


「ふへへへへっ、両手に花だよぉ……!」


 もしかして私、このネコと同列の扱いか?

 サクヤじゃなくてこのネコこそが、真に恐れるべき敵だったのか……?



 〇〇〇



 早朝、忙しくなる前の時間帯。

 朝一番の露天風呂を楽しんでいると、ぺたぺたと誰かの足音が。


(アイナ、来たのかな……)


 あの子とふたりで過ごす時間、いつも楽しみだったけど、最近はもっと楽しみだ。

 足音が近づいて、ものかげから姿を見せたアイナは……残念ながら服を着ていた。

 つまり、温泉に入りにきたわけじゃない、と。


「ネリィ、やっぱり入ってた。おはよぉ」


「おはよ。今日はアイナ、入んないんだ」


「うん、二か月に一回のメンテナンスしなきゃ。というわけで、ネリィ。出て?」


「へ?」


「お湯から。温泉のお湯抜くから。出て」


「ど、どうしてそんなひどい命令……」


「出て。ね?」


「はい……」


 しぶしぶお湯から出て、脱衣所で体をふいて服を着る。

 まだ体があったまりきってないのに……。

 こんなんじゃ半日も持たないって。


 厚着になって露天風呂に戻ると、すっかりお湯が抜けていた。

 源泉のそそぎ口がフタされてて、普段はしまってる別の出口からどこかへ垂れ流しに。

 あぁ、もったいない……。


「……あの、コレはなにしてるの?」


「湯の花を取るの」


「湯の花……?」


「温泉に溶け込んでる成分が固まったものだよぉ。浴槽にこびりついてどんどん増えちゃうから、掃除しないと最後には埋まっちゃう」


「なるほど……」


 それで両手にノミとかカナヅチ持ってるのか。


「お客さんには申し訳ないけど、今日一日、温泉封鎖する覚悟です……!」


 ……どんくさい上に体力なさそうなこの子じゃ、たしかに丸一日かかるかも。

 お客にも迷惑かかるし、なにより私が困る。

 よし、ここは一肌脱ぐか。


「私にまかせて。湯船にこびりついてるヤツ、取ればいいんだよね」


「え、うん」


「わかった。時の凍結(クロノ・フリーズ)


 ピキィィィィ……ッ!


 まずは時間を止めて……。


凍氷千刃フロストナイフ・サウザンド


 氷でできた薄刃のナイフを大量に生成。

 その一つ一つを魔力で飛ばしてあやつって、岩にこびりついた湯の花をこそぎ落としていく。

 だいたい三十秒――時間が止まってるのに三十秒はおかしいけど、とにかく三十秒ほどで、


「こんなもんかな」


 湯船にこびりついてたヤツ、全部落とせたはず。

 氷のナイフを消して、時間を解凍してみると、


 パラパラパラっ。


 時が動き出した瞬間、くだけた湯の花の白みがかった破片が湯船の底に落下した。

 よし、大成功。

 湯船を構成してる岩にはキズ一つつけてない。


「ふぇ……? わ、わぁ、終わってるっ! ネリィ、もしかして時間止めたのぉ!?」


「そういうこと」


「ありがとぉ、とっても助かったよぉ!!」


 アイナがぴょんぴょん飛び跳ねながら、ほんわか笑顔で喜んでくれてる。

 あの子の笑顔を見られるだけで、手伝ってよかったって思えてくるよ。

 あと危ないからあんまり跳ねないで。


「あとは男湯もやらなきゃなんだけど、そっちも手伝ってくれる?」


「もちろん、よろこんで」


「えへへ、ホントにありがとぉ。じゃあ湯の花拾い集めて、浴槽を掃除したら次行こうねぇ」


 空の温泉に入ってきたアイナといっしょに、カケラをのんびり拾い集めはじめる。

 また時間を止めてもいいんだけど、こういう時間も共有したいから。


 それにしても、温泉の成分が固まったもの、か。

 これを普通のお湯に溶かしたら、もしかして……。



――――――――――――――――――――



 グラスポートの村



 人口

 41人→63人 +22



 施設


 宿屋 鍛冶屋 食料品店 家畜小屋

 雑貨屋 武具屋 アイテム屋 魔石店

 冒険者ギルド出張所



 観光・産業


 ミスティックダンジョン

 コショウの栽培(小規模)



 宿屋『森のみなと亭』


 平均宿泊客

 1日に80組



 平均食堂利用者

 日に200人



 ――――――――――――――――――――




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