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27 深刻な人手不足




 王都からの調査団がやってきて、ミスティックダンジョンの存在はめでたく公式に認められた。

 すぐに王都ボクスルートで、史上五番目のダンジョンの発見を大陸中にむけて盛大に発表。

 グラスポートの村の名前は世界にとどろくこととなり、そして半月後……。


「若女将、団体様十名ご案内!」


「は、はいぃぃぃ!」


「ネリィ、もう食堂が回らないのだ! 配膳を手伝えぇ!」


「ちょっと温泉であったまってから……」


「あったまってる場合じゃないのだぁ!!」


 村には毎日冒険者たちが押し寄せて、宿は連日大忙し。

 百部屋もあるのに、それがほとんど埋まりかけってどういうことよ。

 あまりのいそがしさに、アイナ以外の全員が身体能力をフルに発揮してる状態だった。


 そして、一日が終わってのミーティング時。


「人手が……、人手が足りないよぉ……っ!!」


 死にそうになりながら、半泣きのアイナがつぶやいた。

 お客さんの前では笑顔を絶やさないこの子も、私たちの前では本音をもらすようで。


「たしかにな。ここまでいそがしくなると、アタシらがいくら頑張っても、四人だけじゃムリがある。新しく人を入れないと」


「食堂にも増員を求むのだ……。どれだけ忙しかろうが料理は全部ミアが作る。だが、配膳までしているヒマが……」


「そうだね、新しく働く人を募集するべきだと思う。……とは言っても、村にいるのはおじいさんおばあさんばっかりだからなぁ。王都に行って、移り住んでまで働いてくれる人を探すってなると、すぐには増やせなさそうで……」


 明日にでも人手がほしいこの状況。

 私だってのんびり温泉に入ってるヒマもない。

 あまり時間をかけたくないのが本音だけれど、急いだ結果おかしな人を雇っても困っちゃうし……。


「「「「う~ん……」」」」


 みんなでいっせいに首をひねったその時。


「みなさん、お困りのようですね!」


 天井から声がした。


「えっ?」


 みんなして上を見ると、そこには重力に反して逆さまに立つ女の子の姿が。


「その悩み、私がいればまるっと解決です!」


「ふへっ!? ひ、人が天井に立ってるぅ!?」


「なんなのだ、なんかの魔法なのか!?」


 天井に立ってることよりも、私やガルデラさんに気配を悟られなかったことの方がずっと問題だから。


 ……いや、よーく集中してみるとほんの小さな気配が感じられる。

 たぶん、私以外には誰も気づけないほどの小さな気配が。


「魔法じゃないですよ……っと」


 天井からジャンプした女の子は、くるんと体を反転させて床に着地。

 人懐っこい笑顔を、あっけにとられるガルデラさんにむけた。


「お久しぶりです、お姉さま!」


「お前……、もしかしてサクヤか?」


「きゃっ! 覚えていてくださったんですね!」


 両手を頬に当ててくねくねする、サクヤと呼ばれた女の子。

 薄紫の髪を結んだ短いポニーテールがゆらゆら揺れている。


 しかしこの子、変わった格好してるな。

 肩まで丸出しの袖なし服、ものすごく短い上にスリットの入ったスカートっぽいもの。

 上着は真ん中で交差したローブみたいな感じで、その下にあみあみ……。

 うぅ、見てるだけで寒くなってきた。


「あのぉ、サクヤさん……? ガルデラさんとはお知り合い……なのかなぁ?」


 あ、それ私も気になってた。

 アイナの質問に、サクヤって子はにっこりしながら返事をかえす。


「お姉さまとは……運命の相手です! きゃっ♪」


「違うから。サクヤとは二年くらい前の闘技大会で出会ったんだ。アタシに『竜の牙』を抜かせた数少ない相手さ」


「へぇ……」


 この人にあの剣を、ね。

 やっぱりただ者じゃなかったか。


「あの運命の出会いから二年、修行の旅から戻った私は再びお姉さまに会うために王都を訪れました。しかし、お姉さまはもうチャンピオンをやめていた……。愛し合う二人を引き裂く悲しい運命……」


「愛し合ってないから」


「ところがです、私の諜報能力――じゃなかった、愛の力ですぐさまお姉さまの居場所を突き止め、今ここにはせ参じた次第です!」


「……えっと、つまりアンタは修行を終えて、アタシと戦いに来たのかい?」


「とんでもない!」


 ずいっ!


 ガルデラさんに思いっきり顔を近づけるサクヤ。

 この子、ぐいぐい行くな……。


「私が修行をし直したのは、ひとえに力不足を実感したため! お姉さまのお力になるためには、今のままでは足りないと……。お姉さまに刃をむけるだなんて、二度とありえません!」


「そ、そうかいそうかい、わかったから顔近い……」


「……あの、ちょっといい?」


 このままじゃ二人が話してるだけでミーティング終わっちゃいそうなので口をはさんでみる。


「サクヤ……でいいよね。キミとガルデラさんの関係だけはわかった。で、どうしてキミ一人がいるだけで人手不足が解決するのさ」


 そう、本題はコレ。

 『森のみなと亭』が直面している大問題を、この子一人だけで解決できるとは思えない。

 この子がどれだけ素早くても強くても、私以上じゃないはずだから。


「ふっふーん。コレを見れば一目瞭然です!」


 サクヤが胸元で、人差し指と中指を立てた手を重ねる。

 すると、


 シュンシュンシュン……!


 まるで高速移動したみたいに体が何重にもブレて、


「はい、できました! 分身の術!」


 なんと、五人に増えた。

 残像とか超スピードとかそんなチャチなもんじゃ断じてない。

 増えた。


「ふえぇぇっ!? ど、どうなってるのぉ!?」


「面妖な! どんな魔法なのだ!」


「さっきも言いましたが魔法じゃありません。これは忍術、精神エネルギーを使った技術です!」


「忍術……?」


 なにそれ、そんなん今まで聞いたことない。

 私たちがあっけに取られていると、ガルデラさんが補足説明を入れてくれた。


「サクヤはな、シノビっていう特殊な集団の生まれなのさ。山奥の秘境に暮らしてる少数民族って話さね」


「へぇ……」


「「「「「とにもかくにも、これでおわかりいただけたでしょう!」」」」」


「ちょ、うるさい……。五人同時にしゃべるのうるさい」


「「「「「あっ、ごめんなさい!」」」」」


 ボボボボボンっ!


 分身が煙みたいに消えて、サクヤは元通りの一人だけに。


「つい意識をリンクさせちゃいました。修行がたりませんねっ、えへへ」


「す……っ、すっごいよぉぉぉぉぉぉっ!!」


「うひゃっ!?」


 ものすごい勢いでアイナが突進して、サクヤの両手をギュッとつかむ。

 そう、距離が近いんだ、この子。


「今の、何人まで増えられるのっ!?」


「十人までなら軽くいけますよ」


「採用! 採用だよぉ! ムチムチのいい太ももしてるし、即採用だよぉ!!」


「やったっ! これでお姉さまといっしょに働けますっ!」


 うん、即戦力だろうけど、採用理由に不純なものが混じってないか?

 ともかく、こうして『森のみなと亭』人手不足問題は割とあっさり解決した。


 ……解決した、のかなぁ。

 タイミングといい能力といい、ちょっと都合がよすぎるような気も。

 なにか裏がなければいいんだけど……。




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[一言] アイナ…お前…男子中学生の欲望漏れてるよ…
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