2 凍死寸前です
私は孤児だ、みなしごだ。
つまりは行くアテがなく、追放された今となっては帰るところはどこにもない。
明日の食事の保証もないが、何よりも問題なのが寒さをしのぐ方法がないということ。
コンドンブル領を追放された私は、とりあえずノルザミア王国の南に隣接するサウザント王国へむかうことにした。
南の方があったかそうだからね。
とにかく何日も南へ歩いて歩いて、国境をこえたあたりで、左右に分岐した分かれ道にさしかかった。
どっちも王都に続いてるみたいだけど、どっちが近いんだ?
「ちょ、ちょっといいですか……?」
「うわっ、キミなんて格好してんだ!?」
道行く人に聞こうとしたらビックリされた。
初夏の陽気の中、毛皮のコートに手袋とマフラー、もふもふの耳当てにもこもこレギンスの女はさぞ異様に映ることでしょうね。
私もそう思う。
おまけにソイツは全身ガタガタ震わせて奥歯ガチガチ鳴らしているというのだから、異様さもマシマシだ。
おじさんから右の方が王都への距離は近いと聞いて、迷わずそっちへ。
少しでも早く王都についてあったまりたい。
早くあったかいところへ……、あったかいところへ……、と思っていたのに。
「こ、ここどこだよ……? なんでこんなとこに……」
いつの間にか私は深い山の中。
木々のしげる山道を、寒さに震えながら進んでいた。
「日が当たらない……。寒いぃ……」
たくさんの木で日の光がさえぎられたこの場所は、私にとってかなりキツい。
こんな状況でモンスターと出くわして、氷の魔力を使うハメになったりしたら……。
ガサガサ……。
「っ!」
「グルルルルル……」
とか思ってたら出てきましたよ、茂みの中から。
フォレストヴォルフ、森林地帯にすむオオカミ型のモンスター。
一体ずつなら大したことないヤツら、ただし群れで行動するので……。
「ガルル……」
「フー、フー……!」
はい、見事に囲まれた。
「うわぁ……」
勘弁しろよ、今魔力を使ったら凍死しかねないのに。
まぁ使わなかったら使わなかったで、私はオオカミたちの腹の中。
残念ながら迷う余地ナシ、か。
「グルァッ!」
群れのリーダーの合図で、いっせいに飛びかかってくる魔物の群れ。
その牙がとどく寸前。
「時の凍結」
私の氷の魔力が、時間の流れを凍らせる。
大きく口を開いたまま空中で停止するヴォルフたちの間をすり抜けながら、そいつらの目の前に、
「アイシクル。はい、これで死んどけ」
それぞれ氷柱を一つずつ置いといてやった。
十分に距離を取ったところで、時間の流れを解凍。
ドスドスドスっ!!
「グギャンッ!」
「ヒギャッ!」
「ギャンッ!!」
とがった氷に勝手に突っ込んで死んでいくフォレストヴォルフの断末魔を背にして歩きだす。
「うー、さむ……」
魔法を使ったせいで、ますます下がった体温に体を震わせながら。
「早くあったまらないと……。王都はまだ……?」
両手で体をさすりつつ、思い出すのはさっき道を教えてくれたおじさん。
こっちの道が王都に近いって、ウソだったら恨むかんな……。
「あったかいとこ……。早く着かないと凍死するぅぅ……」
いや、凍死は過言かもしれないけど。
「でももう一度モンスターと出くわしたら、ホントに凍死するかもね。なーんて、ははは」
ガサガサっ!
「グルァゥッ!!」
「言ったそばから!?」
〇〇〇
初夏の日差しがあたたかいこの頃。
山の中腹、街道沿いにあるグラスポートの村も、ポカポカ陽気が続いてる。
あたしはアイナ。
この村で宿を営む15歳。
あたたかな日差しの中、宿で使う食材の買い出しをしているところです。
「今日もなーんにもない日だねぇ」
この村は大事件とは縁のない村。
たまーに起きる事件といえば、近所に弱いモンスターが出てきたり……、
「にゃっ!」
「あ、こらっ!!」
買い物かごから食べ物をくすねる泥棒ネコに、あたしが被害にあうくらい。
「ま、待ちなさいっ!!」
必死に追いかけるけど、いっつも茂みの奥に逃げられて……、
「はぁ、今日も追いつけなかったぁ……」
がっかり肩を落とすけど、事件なんてこのくらい。
とっても平和で、人もあんまり来ないこの村に、そんなおかしなことなんて――。
「……ん?」
村の入り口に、誰かが倒れてる?
い、行き倒れ……?
「あ、あのー、大丈夫ですかぁ……?」
青くて長めの髪の毛の、季節外れな厚着をした女の子におそるおそる話しかけてみます。
小さく震えてるから、死んではいないみたい。
怖い目にでもあったのかな……?
「さ、さむ……」
「え……?」
「寒い、たすけて、凍死する……」
「と、とうし……? とうしって、凍死ですか!? こんなにあったかいのに!!?」