17 不思議なダンジョン
「アイシクル」
「ピギャッ……!」
私の放ったつららが脳天を貫通して、赤いトカゲの魔物、リトルサラマンダーが断末魔の叫びをあげる。
むこうではガルデラさんに一刀両断される巨大カマキリ、キラーマンティス。
ガルデラさんの言った通り、洞窟の中は魔物だらけだった。
「このフロアの魔物、だいたい倒したかな」
「もう気配は感じないね。お掃除完了だ」
メイドだけに?
とはもう言わないぞ。
「しっかし、三階層まで来たはいいが、この洞窟どうにも不自然じゃないか?」
たしかに。
岩壁や地面はどう見ても自然にできた洞窟なのにきっちり分けられたフロア。
階層をつなぐ人工的な階段。
他にも山ほど奇妙な点がある。
そもそもここからベヒモスが湧いたはずなのに、洞窟の中がちっとも崩れてないし。
「……調査は切り上げて、いったん村までもどらない? 最深部が何階層だかわからないし、ここまで大して脅威にならないザコしかいない」
そのへんの森にも普通にいるような、一般人でもがんばればどうにかできそうなレベルのやつらばっかり。
これならわざわざ掃除しなくても、村に危険はおよばない。
「アタシも同意見。若女将に報告しないとだしな」
ガルデラさんの言葉で、アイナの笑顔を思い出す。
……うん、そろそろあの子の笑顔が見たいころだ。
あと温泉にも入りたい。
「よし、じゃあ帰ろう――、……ん?」
踵を返したところで、視界のはしにチラリと見えた輝き。
地面からなにか生えてる……?
「これは……」
近寄ってみてみると、金色に光る立派なキノコ。
そういやうちのネコ、未知の食材見つけたら持ってこいとか言ってたな。
「持ってってやるか。こんな金ピカ、食えるかどうかわかんないけど」
どっちかというと食いたくない寄り。
しかし未知には変わりなし。
そっと地面から引き抜いて、カバンの中にしまい込んだ。
〇〇〇
「ピカピカ! ピカピカなのだ!! 未知なのだ!!!」
「わ、わぁっ!? ミアちゃん!?」
ネコの絶叫にアイナが飛び上がる。
じっさい、かなりうるさい。
持ち帰った金ピカキノコを見せたら、予想外のこの反応。
どうやらミアは食材認定したらしい。
「なんなのだ、なんなのだこれはっ!!」
「これはね、オウゴンオニマツタケ。樹齢1111年を数える鬼松樹の根本に、満月の夜にだけ群生するという幻の食材だよぉ」
「ホントに食材だったんだ……」
「なんと、その上超激レアなのだ!! ネリィよ、そのなんとかという木を見つけたのだな! どこにあったのだ、とっとと吐くがいい!!」
「木の根本じゃなくて洞窟の中。地面に生えてた」
「んなわけない! 正直に言うのだ、ミアに黙って独り占めするつもりか!」
「いや、本当だし。ねぇ、ガルデラさん」
「あぁ、ホントなんだよな、コレが」
「う、うぐぅ……。ガルデラまでもが口を合わせるのなら、そうかもしれぬのだ……」
……これって私が信用ない、とかじゃないよね?
強者二人の言うことなら、信じられない内容でも信じるとかかな?
そうであってほしい。
「あと、帰りにコレも拾った」
入り口のあたりに生えてた、よくわからない白くて丸い草。
なんとなくキャベツに似てたから、これも持って帰ってきた。
「白いのだ! 未知なのだ! アイナよ、今度はなんなのだ!?」
「スノーキャベツだねぇ。雪国にしか生えない野菜……、寒いトコではありふれてるらしいけど、あたしは初めて見るなぁ」
……なんかおかしいな。
アイナがホラ吹くはずないし、ただの洞窟に存在するはずのない激レア食材が生えてたってこと?
「その洞窟、もしや宝の山なのか? ……ミアも、ミアも行くのだ! アイナ、明日は食堂を閉めることとする!」
「え、えぇっ? 急に言われても困るよぉ……」
「弱者に拒否権なし! ミアの探求心は誰にも止められないのだ!!」
……こうして、翌日の洞窟調査にミアも同行することとなった。
稼ぎ頭の食堂が休みになって、アイナは泣いてたけども。
そして翌日。
「さぁ、未知なる食材よ! ミアに調理される名誉を与えよう!」
喜び勇んで先陣を切り、洞窟に入っていくネコ娘。
私とガルデラさんも後ろをついて、足を踏み入れると……。
「……え?」
「お、おい、これって……」
「にゃ? どうしたのだ?」
どうしたのだって、そりゃ昨日とぜんぜん違うからだよ。
自然さなんてどこにもない、レンガできっちり作られた古代遺跡みたいなダンジョンになってるんだもん。
「どういうこと? ……待って、これってまさか!」
「ネリィ、お前もピンと来たか。アタシも今、その可能性に思い至ったトコさ」
「な、なんなのだ? さっきから二人して。ミアにもわかるように教えるのだ!」
絶海の孤島からやってきたミアじゃ、そりゃ知らないよね。
ここは面倒くさがらずに、ていねいに教えてやるか。
「この世界には、入るたびに内部の構造や出現するモンスター、落ちてるものが変わる洞窟があるんだ」
奥に行けば行くほどモンスターは強くなる。
落ちてるものはショボいものから、運がよければ激レアなものまで。
「ただ、とっても数が少なくて、確認されているもので4か所だけ」
「あぁ、たった4か所さ。そして、そのダンジョンの最寄りの街は例外なく大都市となっている。その名もミスティックダンジョン。全冒険者のあこがれだ」