16 観光地を探そう
朝風呂って最高、ましてやそれが温泉だともう最高の中の最高。
起き抜けの体をお湯で温めながら、体をぷかぷかと浮かせる。
「あぁ~、とろけるぅ~」
「だなぁ……。アタシもとろけそう……」
となりには同じくぷかぷかするガルデラさん。
野良猫がバシャバシャ泳ぎ回り、我らが若女将は……。
「島がよっつ……。大きな浮き島……。ぷかぷか、ぷかぷかしゅごい……」
ブツブツ言いながら私とガルデラさんを凝視していた。
「……アイナ?」
「はっ! な、なんでもないよぉ! ところで、今日は周辺調査の日だったよねっ!」
……ごまかしたね。
まぁ、別に私の胸はいくら見てもいいよ。
ただガルデラさんの胸にまで興味津々なのは納得いかない。
大きければだれでもいいみたいじゃん。
「……うん、調査チームは私とガルデラさんの二人」
「ミアも行きたいのだ! 未知の食材の探求を……」
「食堂休むんなら来てもいいよ」
「うぐっ……! み、未知を持ち帰ってくれたまえ、期待しているのだ!」
料理を食べてもらえる楽しさと、見つからないかもしれない食材の探索をてんびんにかけて、料理を選んだようだ。
コイツももう一人二人助手がいれば自由に動けるだろうにね。
「あの日ベヒモスが出た理由だってハッキリしてないし、そのへんも調べるつもり」
「あれ以来ずーっと平和だけど、あの時だけはもうダメかと思ったよぉ……。原因が特定できたら安心できるねっ」
またベヒモスみたいな危険なモンスターが発生しないとも限らないし、ね。
調べておいて損はなし。
「んじゃ、もうちょっとあったまったら出かけるよ」
「気をつけてねっ。二人の帰り、待ってるからっ」
〇〇〇
宿屋は今日も大繁盛。
接客に追われるアイナとキッチンで奮闘するミアを残して、私とガルデラさんはグラスポートの山の中へと入っていった。
ちなみにガルデラさん、メイド服じゃなくってちゃんと鎧をつけてきてる。
モンスター出るような場所じゃ、さすがにね。
「……メイド服も似合ってたけど」
「なんか言ったか?」
「こほん。なんでもない」
聞こえてなかったかな?
聞こえてなかったっぽいね。
よし、セーフ。
「気をつけてね、前にも言ったと思うけどベヒモスが出た場所だ。何が飛び出すかわかったモンじゃない」
「心配ご無用。しっかし、こんな山ん中に観光名所なんざあると思えないが、目星はついてるのかい?」
「目星なんてないよ。だからまずは、ベヒモスが出てきたあたりに行くつもり」
よって、最初の目的地は山の中腹。
ベヒモスが周りの木を根こそぎ吹っ飛ばしたから、村から見ても場所はハッキリわかる。
私たちの足ならすぐにたどり着けるはずだ。
傾斜のキツイ森の中をしばらく歩いて、岩肌がむき出しの開けた場所に出た。
「到着だね。ここがベヒモスの出現地点」
木々が倒され地面がむき出しになった荒れ地の一角に、砕けて山積みになった大量の岩がある。
魔獣が出てきたのはあそこからかな。
「まずはあそこから調べてみよう」
「りょーかい、っと」
積み重なった岩の上に行って、とりあえずスキマをのぞいてみる。
んー、暗くてよくわからない……。
「……ネリィ。奥から魔物のうなり声が聞こえる。それから足音も。なにかありそうだぞ、ここ」
「わかるの?」
すごいなガルデラさん。
岩のスキマに耳をピッタリ当てて、モンスターの出す音を聞き取ったみたい。
私には聞こえなかったのに。
「まぁね。『竜の牙』のおかげで、感覚が鋭くなってるんだ」
あぁ、あの剣のおかげでドラゴンの能力を使えるんだっけ。
背負ってるだけでも効果があるんだ。
「……この下に別のモンスターがいるんだとしたら、また村が襲われるかも。このまま放っておけないな」
「よし、下がってな。魔物退治としゃれ込む前に、ここをキレイに片づけてやる」
「……メイドだけに?」
「……」
あ、にらまれた。
それから深いため息をついて、背中の大剣を両手にかまえる。
「……はぁ、まぁいいや。思いっきりいくから気をつけて――って言わなくてもいいか、お前に限って」
「まぁね」
剣から赤いオーラが走って、ガルデラさんの全身をつつんだ。
そのまま最上段に剣をかかげ、思いっきり振り下ろす。
「降竜!!」
ズガァァァァァァッ!!!
強烈な一撃に、積み重なっていた大量の大岩が跡形もなくまとめて吹き飛んだ。
ま、この人ならこれくらいやれるだろうな。
さて、岩の下から出てきたのは――。
「……洞窟?」
「みたい、だね」
現れたのはぽっかりと口を開けた、とっても大きな地下洞窟の入り口だった。
ベヒモスが作ったのかなんなのか。
とにかく魔物がいることだけは確か。
村のためにも、中をしっかり調べないといけないな。