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15 フリフリの新人メイド




 当のガルデラさんはもちろん、私やあのミアすらあっけにとられる猛プッシュだったな、昨日のアイナ。

 あの人の胸が私より大きいこととは特に関係なさそうだけど、あの子の様子、なんか変だった。


 それはともかくとして、ガルデラさんはアイナの誘いにうなずいてくれた。

 『森のみなと亭』に新たな従業員が加わったわけだ。

 ただ、あの人にとって重大な問題が発生してしまったようで。


「こ、こんな服着て働くのか? 本気か……?」


「いいっ、すっごくいいよぉ、ガルデラさん!!」


 白と黒の、フリッフリのメイド服。

 やたらと短いスカートのすそを気にするガルデラさんに、アイナが鼻息を荒くしながら親指をグッと立てている。


 あの人に与えられた役目は、客室の掃除やベッドメイキング。

 貴族屋敷のメイド業務と似たようなものだ。

 つまりメイド服を着るべし、というのがアイナの主張らしい。


「も、もっと動きやすい服あるだろ……。それに、アタシなんかがこんな服似合わない……」


「似合ってるっ!! 似合わないのが似合ってるの!! わからないかなぁ!?」


「わからない! ネリィからもなんとか言ってやってくれ!!」


 あ、私にふるんだ。

 関わり合いたくなかったのに。


「えーっと、アイナ――」


「ネリィも着る?」


「……ガルデラさん、似合ってるよ」


「お、おい、裏切り者ぉ!」



 〇〇〇



 さて、王都での宣伝の効果がさっそく出てきたみたいだ。

 本日、宿泊するお客さまは8組14名。

 お食事に来たお客なんて、お昼だけで60人近い数。


 食材のストックが足りなくなるという嬉しいアクシデントまで発生する始末で、今は手が放せないみんなの代わりに食品店で買い出しをしてきたところだ。

 ……そういや私の役職ってなんなんだろ、雑用?

 まあいいや、次は家畜小屋だな。


「ルミさんいるー?」


 ニワトリとウシの鳴き声がもれてくる家畜小屋の前まで来て、中に呼びかける。


「はぁい、今行くけんねー」


 なまりの混じったおっとりした声が、奥から返ってきた。

 よかった、いるみたい。

 動物臭い独特のニオイに耐えながら待つと、クリーム色の髪をしたお姉さんが登場。


「ネリィちゃんお待たせー。とつぜんどーしたん?」


「お客が多くて急に食材が切れちゃって。ミルクを特大のビンに五本分と、タマゴ30個ちょうだい」


「景気いいねぇー。今取ってくるからちっと待っとってー」


 注文を受け取ったルミさんは、ほんわか笑顔を浮かべながら小屋の中へと入っていった。


(たしかに景気はいい、順調そのもの。だけど……)


 これ以上食堂の客が増えたら、この村にある食糧だけで回せるのかな。

 出せる食べ物がなくなって廃業とか、笑うに笑えないぞ。


「はぁい、今朝の産みたてしぼりたて、持ってきたったよー」


「ありがと、ルミさん」


 大きなビンいっぱいに入ったミルクと、タマゴ30個の入った木箱を確認。

 カバンから1300ゴルドを取り出して手渡した。


「まいどー、またよろしゅうねー」


「うん。……あのさ、食品店やってるのってルミさんのおじいさんだったよね」


「そうなんよー、よう知っとるねー。あん人気難しいのに」


「アイナに教えてもらった」


 じっさい、あのおじいさん業務的なやりとり以外ロクに口きいてくれない。

 嫌われてはいない、みたいだけどね。


「食材の入荷、王都の商人さんに定期的におろしてもらってるんだっけ」


「おじいちゃんの知り合いさんやけんね、格安で提供してくれとるんよ」


「今度来るときにさ、宿屋にも顔出してくれるように言ってくれない?」


「あぁ、商人さんから直接入荷するってこと?」


「そうそう。フレッシュさが大事なミルクやタマゴは、変わらずルミさんとこから買い付けるからさ。お願い!」


「あははっ、お上手っちゃねー。いいよー、口きいといたるから」


「ありがと、恩に着る!」


 よし、これで食料問題はどうにかなりそう。

 さて、ここから次のステップに進むためには……。



「ただいまー、戻ったよー」


「おぉ、よく戻ったのだ! さぁ、ミアにさっさと食材を渡せ!」


「うん、置いとくから」


 玄関にごっそり食材を置く。

 大喜びで持ってくネコをよそに、私の視線は客室がならぶ廊下の方へ。


「なにあれ……」


 廊下の一角に、お客さんたちの人だかりが出来ている。

 あそこ、なんかあるのかな。

 近づいていってみると……。


「チャンプ、ここで働いてたんですねっ!」


「とつぜんの引退宣言、さみしかったんです!」


「っていうかなんですかその服! けしからん、素晴らしい!」


「ま、待って……! あ、ネリィ、助――」


時の凍結(クロノ・フリーズ)


 ピキィィィィィン!


 ……なるほどね。

 メインのお客はあのとき闘技場にいた人たちだ。

 つまりファンに囲まれていた、と。


 顔の割れてる私まで囲まれる前に、時間を凍らせて距離をとる。

 アイナに食材の仕入れの件と、次のプランを話さなきゃいけないし。

 じゅうぶんに距離をとったところで、


「……解凍」


「けて……って消えた! アイツ時間止めやがった!!」


 知ーらないっ、と。



「あ、おかえりぃ。食材調達ごくろうさまぁ」


 お客さんの名簿と売り上げをチェックしてたアイナが、顔をあげて出迎えてくれた。

 あまったお金を返して、行商人に食材を直接(おろ)してもらうように手配したことを報告。


「え、そんなことまでしてくれたのぉ? ありがとねっ!」


 そしたらギュッと両手をにぎって、顔を近づけてほほ笑んでくれた。


「……や、どうってことないよ。アイナのため――あ、いや、この宿のためなら」


「うんっ!」


「……で、さ。またちがう相談なんだけども」


「はい、なんでもどうぞっ!」


「今来てるお客さんは、闘技場にいた人たちがメインでしょ? あの場所の宣伝を聞いて来てくれてる」


「チャンピオンがフリフリ着て働いてるって広まれば、もっと来てくれるはずだよぉ」


 なんと、アイナはそこまで考えてフリフリを着せたのか。

 自分の欲望のためだけじゃなかったんだ。


「そうだね。……でも、それだけじゃ限界がある。この村そのものに魅力がないといけないんだ」


「あはは、なんにもないもんねぇ」


「ってなわけで、次は村の周辺調査を行おうと思う。観光名所になりそうな場所を探すんだ」


――――――――――――――――――――


 グラスポートの村


 人口

 40人→41人 +1


 施設

 宿屋 鍛冶屋 食料品店 家畜小屋


 観光・産業

 コショウの栽培(小規模)



 宿屋『森のみなと亭』


 平均宿泊客

 1日に6組


 平均食堂利用者

 日に40人


 ――――――――――――――――――――




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