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14  竜の牙




 村から少し離れた草原で、ガルデラさんとむかい合う。

 宿がいそがしい時間帯なので、アイナとミアの立ち合いはなし。

 心配しないようにだけ言っておいた。


「ありがとね、アタシのワガママ聞いてくれて」


「挑戦者大歓迎って言っちゃったし」


 ガルデラさんが背中の『竜の牙』を抜き、両手でにぎってかまえる。


「……さっき、アタシも本気を出さなかったって言ったろ? どういうことかというとだな……」


 その刀身が、ゆらめく赤い魔力のオーラにつつまれた。

 あの魔力、ガルデラさんからじゃなくて、剣そのものから出ているように見える。

 そういや、昨日戦った時も剣を抜いたとたんに強くなってたな……。


「コイツがドラゴンの牙から切り出した剣だ、ってことは話したよな?」


「話したね。そのドラゴンの魔力が宿ってるとか?」


「宿ってるのはそれだけじゃない。コイツは殺したドラゴンの力、怨念、その他もろもろを吸い尽くすのさ。この中にはこれまで仕留めた、死にきれないドラゴンたちが山といる」


 赤い魔力は剣だけじゃなく、ガルデラさんの全身をも包んでいく。


「その力を引き出し、この身を荒れ狂う巨竜へと変える。それがアタシのホントの本気だ」


 両手で持った剣を天にかかげて、彼女は叫んだ。


巨竜転身(ドラゴライズ)!!」


 カッ!!


 一瞬、あたりが光につつまれる。

 次の瞬間、目の前に現れたのは魔獣ベヒモスよりもおっきな、見上げるほどの巨大なドラゴン。

 白い体に二本のツノ、大きな翼を背中から生やした二足歩行の巨竜だった。


「なーるほど。この本気はあそこじゃ出せないね」


 宿よりでかいベヒモスよりもさらに大きいんじゃ、あの闘技場には収まりきらない。

 こんな姿を見られたら、大騒ぎにもなりかねないし。


『アタシの本気は見せてやったよ。さぁ、アンタの本気も見せてみな、氷結の舞姫!』


「二つ名、定着しちゃってるのか。……ま、いいや。お望みどおり見せてあげるよ」


『嬉しいね……、いくよ!』


 翼を大きく広げ、ガルデラさんが戦闘態勢に入る。

 本気の攻撃、見てみたくはあったけど、本気出すって言っちゃったからな。


「……時の氷結(クロノ・フリーズ)


 ピキィィィィィィ……ン!!


 時間が凍って、私以外の全てが止まる。

 ピクリとも動かないガルデラさんにむけて右手をかざし、


「ヘイルショット・サウザンド」


 氷の弾丸を大量に放つ。

 この程度で死にはしないと信じてるからね。


「……時は動き出す」


 ズドドドドドドドドドっ!!



 〇〇〇



「あっはっはっ、いやー、完敗完敗! いっそ気持ちいいくらいだね!」


 湯けむりの中、肩までお湯につかったガルデラさんが豪快に笑う。


 あのあと、ガルデラさんは全身に氷の弾丸を浴びて、元の姿にもどりながら気絶。

 意識がもどったのがついさっき、すっかり日も暮れて宿の仕事が終わった頃。


 今は宿屋の業務が終わった二人といっしょに、みんなで温泉に入ってるところだ。


「当たり前なのだ。このミアすら手も足も出なかったネリィが、おぬしなんぞに敗れるわけがなかろう」


「ネコちゃん、手厳しいねぇ」


「誰がネコちゃんなのだ! ミアの怒りに触れたぞ、今すぐ勝負するのだ!!」


 ぷんすか怒りながらガルデラさんに突っかかっていくけどさ、ミア。

 その人の本気、絶対あんたより強いから。


「しかしおどろいたよ、まさか時間を止めることができるなんてね。使わなかった理由にも納得いった。なるほど、あれじゃあギャラリーは納得しない」


「宿屋の宣伝が目的だったからね。察してくれて助かるよ」


「どっちもケガしなくって、ホントによかったよぉ……」


 アイナにも心配かけちゃったみたいだな。

 ホント、ケガがなくて何よりだ。

 回復魔法使える人、いないからね。


「あっさり戦い受けちゃうんだもん。おどろいちゃったぁ」


「チャンピオン直々のおでましとあっちゃ、断るわけにはいかないでしょ」


「あ、もうチャンピオンじゃないんだ。ここに来る前、その座は降りてきた」


 え……?

 あまりにもあっさりした衝撃の告白にその場が静まり返る。


「ど、どうして?」


「あれだけ大勢のギャラリーの前でやられといて、最強面しちゃいられないさ。アンタを恨んだりって話じゃない。自分自身の、けじめの問題だ」


「……そっか」


 ホントに恨んでない、のかな。

 いや、負い目を感じちゃかえって失礼か。


「それに、チャンピオンは腕っぷしを活かして生計立てるための手段でしかなかった。アタシのターゲットの情報を集めるのにも、王都は都合よかったしな。だけど、長いコトチャンピオンやってても情報は得られなかった。そろそろ潮時だと思ってたところさ」


「ターゲットって?」


「一国を滅ぼすほどの力を持った、とあるドラゴンさね」


「ぴゃっ!?」


 ばしゃんっ!


 な、なんだ?

 アイナがいきなり奇声を上げてビクンとはねたぞ。


「どうかした? 虫でもいたとか」


「な、なんでもないよぉ。ガルデラさん、続けて続けて」


「そうか。まぁ、ともかく。昔大暴れしてどっかに消えちまったっていうソイツを、最強のドラゴンと言われるソイツを力に変えるため、アタシは世界を旅しているのさ」


「ふむむ……、して、次に行くアテはあるんですかぁ?」


「はっきり言って、アテのない旅だね。ひとまず北のノルザミア王国にでも行ってみようかと考えてんだけど……」


「あのっ!」


 ばしゃんっ!


 アイナが水しぶきをあげながら立ち上がった。

 そして、前のめりになってガルデラさんの両手をにぎる。


「だったらっ、うちで働いてみませんかっ!? 宿屋なら色んな人がやって来ますから、そのドラゴンのこともわかるかもですしっ!!」




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