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13/93

13 知名度大幅アップ




 会場のざわめきが収まらない。

 このチャンプさん、かなりの人気者みたいだね。


「あの女何者だ……?」


「無敵のチャンプをあんな簡単に……」


 観客たちのざわめきからも、それがうかがえる。

 そして、そんなチャンプを倒した私は今、会場中の視線を独占状態だ。


『ま、まずはお名前と出身地からおうかがいしましょう! 先ほど名乗っておられましたが、改めてどうぞ!』


「ネリィ・ブランケット。グラスポートの村に住んでます」


『グラスポートといいますと、かつて旧街道の宿場町として栄えていたところですね』


「はい、そこの宿屋にお世話になってるんですよ。あそこにいる――若女将のアイナが経営する宿屋に住み込みで働いていて」


 客席にいるアイナを指さすと、闘技場にいる全員の視線がアイナに注がれる。

 いきなりのことにアイナはオロオロ。

 となりにいる野良猫がなんかわめいてるけど、ミアにも注目するのだ、とか言ってんだろうな、どうせ。


『なんと、常識外れの強さを持ちながら冒険者でも、どこぞのお抱え魔導師でもいらっしゃらないとは! これはおどろきです! どうでしょうか、正式に大会に出てチャンピオンになるというのは!』


「いえ、宿の仕事で忙しいので辞退させていただきます」


『それは残念。ではひとつだけお聞かせください! ずばり、人間離れした強さの秘密とは!?』


「温泉です」


『お、温泉……?』


 思わぬ回答だっただろうね。

 実況さんがとまどって、会場からもさらなるざわめきが。


 じっさいに私の強さの秘密は温泉なんだけど、さらに元をたどると不思議な氷の魔石のおかげ。

 さて、ウソにならないように宣伝するには……。


「あの宿の温泉には魔力が溶け込んでまして、魔力の制御を助けてくれるんです。それ以外にも冷え性、肩こりなどなど効能はたくさんありまして、景色も最高なんですよ」


『おぉ、なるほど! 素晴らしい温泉の存在が、心身ともにネリィさんを支えてくださると。つまりそういうことですね!』


「そうそう、そういうことを言いたかったんですよ」


 うまくまとめてくれてありがとう、司会者さん。


「もちろん魅力は温泉だけじゃありません! かわいい若女将に――」


「ふぇっ、か、かわいい……っ!?」


 私の宣伝に耳をかたむけるため、静まり返った会場に、アイナの声がちょっと聞こえた。

 顔を赤くして両手をほっぺに当てて、やっぱりあの子かわいい。


「おいしい料理も皆様を待っています!」


「そうなのだ! ミアの料理は天下一品!!」


 野良猫、声でかい。


「私と手合わせをしたいという挑戦者も、もちろんお待ちしています! グラスポートの『森のみなと亭』、ぜひともよろしくお願いします!!」


『最後は宣伝、そして大胆不敵なチャレンジャー求む宣言! チャンピオンが『竜の牙』ならば、さしずめ彼女は『氷結の舞姫』とでも呼びましょうか! ネリィ・ブランケットに盛大な拍手を!!』


 オオオオオオオォォォォォォッ!!


 よし、うまくいった。

 なんか大層な二つ名までもらっちゃったけど、これで宿屋の知名度は大幅アップ。

 ただ、ついでに私の知名度までアップしちゃった気も。

 ……ま、いっか。



 〇〇〇



 闘技場をあとにしてから、予定通りに人の多いところで呼びかけをしてみたり、掲示板に広告を張り出してみたり。

 終わってみれば、とっくに日が暮れていた。

 急いで村にもどったものの……、


「さむ、さむぃ、さむいぃぃぃ……」


 ガチガチガチガチ……。


 なぜか冷え性が襲来。

 ガチガチと歯を鳴らしながら震える私です。


「あ、あわわ、治ったわけじゃなかったんだね……」


「いったいどうしたのだ、コイツ。夏の夜が寒いはずなかろう」


「ネ、ネリィは重度の冷え性で、温泉に入らないと大変でぇ……。と、とにかく早く入ろうねっ!」


「うぅぅぅぅぅ……」


 一日近く温泉に入らずに魔力をたくさん使ったら、どうやらこうなるみたいだ。

 震えながらアイナに脱衣所へ連れていかれた私。

 厚着の服を脱がす手伝いもしてくれたんだけど……。


「あ……、すごい……。こもってた匂いが……。あ、わわっ、外れて、ぷるんて……」


「あ、あの……、アイナさん……?」


 その鼻息の荒さと食い入るような視線、不安になる言葉の数々は、いったいなんなんでしょうかね。




 翌日、宿屋は朝から通常営業。

 王都からそれなりに距離があるせいか、お昼まではいつも通りにすぎていった。


 状況が変わったのは夕方。

 とあるお客がおとずれた時だ。


 カランカラン。


 入り口のドアについたベルが鳴って来客を知らせる。


「あ、お客さんだぁ!」


 ほうきをカベに立てかけて掃除を中断したアイナが、すぐに玄関ホールへと走っていった。

 私もいっしょについていくことにする。

 接客のコツとかつかみたいし。


「はぁい、ようこそおいでくださいましたぁ」


 玄関前につくなり、ペコリとおじぎするアイナ。

 さて、お客の方は……。


「……あれ? あなたってもしかして」


 来客の顔を見て、アイナがおどろきの声をあげる。

 私もおなじくびっくり。

 この人が来るとは思わなかった。


「やぁ、昨日ぶりだね。『氷結の舞姫』」


「『竜の牙』――ガルデラさん」


 街の武闘大会でチャンピオンだったガルデラさんが、まさかの宣伝一番乗り。

 たしかにこの人の足なら、ここまで簡単に来れるだろうな。


「え、えっとぉ、ご宿泊ですか? それともお食事――」


「もう一度戦わせてほしくってね。そこにいる彼女と、もう一度だけ」


「え、えっ? ネリィと戦いに?」


「……ガルデラさん、言っちゃ悪いけど、何度やっても同じだと思うよ」


「納得いってないのさ。キミ、本気を出していなかっただろ? 手加減されたまま負けても納得できない」


 ……まぁ、たしかに見栄えの問題で時の凍結(クロノ・フリーズ)使わなかったよ。

 けど、それを見抜くとは。


「……それに、じつは本気を出せなかったのはアタシも同じなんだ。アンタほどの相手に、アタシの本気がどこまで通じるか試したいのさ。いいだろ?」




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