表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/93

12 目立ってなんぼ




『おーっと、チャンピオンのマイクパフォーマンスだ! まだまだ戦い足りないということでしょう! 誰かこの挑戦を受けて立つ無謀なるチャレンジャーはいないのか!』


「面白いのだ、ミアが――」


「ちょい待ち。アンタじゃたぶん勝てないよ」


「にゃっ!? そんなことないのだ、失礼な!」


 そんなことあるし。

 私の見立てじゃ、よくて引き分け。


 それに、コイツは絶好のチャンスだ。

 大勢の前で目立って、宿の宣伝ができる大チャンス。

 見逃す手はないよね。


「私が行く。アイナはここで野良猫と見てて」


「え、わ、わかったっ」


「ま、待つのだ! ミアがやるのだぁ!」


 ネコがわめいてるのをスルーしてジャンプ、一気に舞台へと飛び降りる。

 その瞬間、闘技場がざわめいた。

 うん、悪い気分じゃないね。


『おーっとぉ! チャンピオンの挑戦を受けて立ったのは、蒼白の髪の可憐な少女だ! 厚着ではあるが、その身のこなしはすでにただ者ではない!』


「……へぇ」


 値踏みするみたいに私のことを見回し、チャンピオンは嬉しそうに笑みを浮かべた。

 あちこち跳ねた白銀色のショートヘアを揺らし、黄色い瞳をギラつかせて。


「いいね、なかなか楽しめそうだ。久々に背中の相棒を抜くことになるかもな」


「心配しなくても嫌でも抜くことになるよ、チャンプさん」


「チャンプさん、じゃなくて名前で呼んでくれよ。ガルデラ・ドルファングだ」


「ネリィ・ブランケット。ガルデラさん、退屈はさせないって約束するよ」


 たがいにむかい合う中で、お互いに隙を探り合う。

 ちなみに今回、時間停止は使わないつもり。


 使ったら何が起きたかもわからず終わっちゃって、私の強さを印象づけられない。

 あくまで目的は宿の宣伝、目立ってなんぼ。


『たがいに闘志十分! コロシアムのボルテージも最高潮に高まってきたぁ!』


「「「ウオオオォォォォォォォッ!!」」」


 まさしく割れんばかりの大歓声。

 アイナとか、ホントに耳が割れてないか心配になるくらい。


「チャンピオン、魅せてくれー!」


「挑戦者ー! せめて戦いを成立させてくれよ! 俺たちはチャンピオンの『戦い』が見たいんだー!!」


 そりゃ、あんな瞬殺劇じゃギャラリーもご不満でしょうよ。

 お望み通り、素晴らしい戦いを見せてやる。

 もっとも、勝つのは私だけど。


『では参りましょう! 思わぬサプライズとなったエキシビジョンマッチ! レディー……ゴーッ!!』


 開戦の合図と同時、拳をにぎって突進してくるチャンプ。

 さっき挑戦者をのしたのと同じ戦法で、私の力量をはかるつもりか。


 腹部を狙ったパンチをてのひらで受け止めて、もう片方の手で手首を絡め取る。

 そのまま勢いを利用して後方にぶん投げると、ガルデラさんは空中で回転して体勢を立て直し、軽やかに着地した。


「へぇ、戦闘スタイルは徒手空拳としゅくうけんか」


「残念、ハズレ」


 肉弾戦なんて、できればやりたくないんだよね。

 私の戦法はコレ、魔法だ。


 着地されると同時、手のひらをかざす。

 周囲にほとばしった氷の魔力で、無数の小さな氷のつぶてを作り出し、


「ヘイルショット」


 猛スピードで撃ち出した。


「魔導師だったか……っ! それであのレベルの体術を……!」


 ガガガガガガガガッ!!


 氷の弾丸が、チャンピオンのいる辺りに降りそそぐ。

 砕けた舞台が砂煙を起こしてよく見えないけど、たぶん命中したはず。


「いや、おどろいた。予想以上だね」


 砂煙が晴れて姿を見せたガルデラさん、なんと無傷。

 死なない程度に手加減したとはいえ、これで終わりだと思ったのに。


「……私もおどろいた。だてにチャンピオン名乗ってないってか」


「本当にコイツを抜かせてくれるとは思わなかったよ」


 その手ににぎられているのは、これまで背負っていた大剣。

 巨大な何かの骨かキバから直接切り出したみたいな、白くて武骨なシロモノだ。

 剣を抜いたチャンピオンの姿に、会場はひときわ大歓声。


「コイツは『竜の牙』。その名のとおりドラゴンの牙を削って作られた愛剣さ。アタシの異名の由来でもある」


 なるほどね、本気モード突入ってわけだ。

 あの剣でヘイルショットを全部弾いたのか。


「ちなみに抜いたの、いつぶりだったり?」


「……さぁね、忘れちまった――よッ!」


 またもや突進、さっきと同じく一瞬で間合いをつめてくる。

 いや、さっきより素早いかも。

 もしかしてあの剣から力をもらってる……?


「いくよ、竜の舞!」


 ブオン、ブオン、ブオンッ!


 空気を斬り裂くような、流れるような三連撃。

 しっかり見切ってかわして、後ろに飛んで距離をとる。


「逃がしはしない!」


「……ま、ここまでかな」


「なに……?」


 これ以上長引かせても舐めプみたいで嫌だし、真剣に戦ってくれてるガルデラさんに失礼か。

 本気の本気は見せてあげられないけど、せめてハデなヤツで終わらせる。


「……ブリザード・テンペスト」


 闘技場のど真ん中に着地し、小さくつぶやいて氷の魔力を放出する。

 その瞬間、大きな丸い舞台の全体に冷気の嵐が吹き荒れた。


「こ、この冷気は……!」


「ガルデラさん、ありがとう。今まで出会った中で一番強かったよ」


 剣と腕で体をかばい、吹きすさぶブリザードにさらされるガルデラさん。

 その姿も、すぐに氷雪と暴風でよく見えなくなる。

 観客席からも、舞台の上だけに吹き荒れる猛吹雪しか見えてないだろうな。


 十秒ほどたってから、魔力を解除して吹雪を収めさせる。

 晴れた視界に見えたのは、剣をにぎったままあちこち凍り付いてあおむけに倒れたチャンピオンの姿。

 息は……あるよね、よかった。


「「「…………」」」


 静まり返る闘技場。

 すみっこに避難していた実況の人も、その光景をぼうぜんと見つめていた。


「……終わったけど」


 私の声にハッと正気を取り戻し、実況さんは高らかに宣言した。


『な、なんたる波乱! 乱入した少女、ネリィ・ブランケットの大魔法によって、無敗のチャンピオンがノックアウト!』


「「……ウワアアアアアァァァァァァ!!」」


 同時に、悲鳴まじりの歓声が会場をつつむ。


『エキシビジョン、あくまで公式戦ではなくエキシビジョンであり、チャンプの座は不動ではありますが! しかし、しかしこれはっ!! ひ、ひとまずインタビューと参りましょう!』


 よしよし、ここからが本番だ。

 アイナ、私宣伝がんばるからね!




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ