11 宣伝に行こう
王都ボクスルートはグラスポートの山をこえた先にある。
普通の人の速さなら、朝一番に出発してもつく頃には夕方だ。
まぁ、今の私が安定した魔力で体を強化すれば……。
「い、一時間でついちゃったぁ!」
「み、みゃぁ……」
ざっとこんなもんよ。
今日の朝、7時に起きてたっぷり二時間温泉であったまってきた私。
体はぬくぬく、魔力のコントロールもバッチリだ。
「さ、降りて降りて」
「みゃ」
アイナはおんぶ、ミアはネコ形態になってもらって肩の上。
王都の門をくぐる前に、二人には降りてもらった。
「すごいんだねぇ、ネリィ。王都に用事がある時は決まって泊りがけなのに、これなら日帰りだよぉ」
両手をギュッとにぎって、顔を近づけてくるアイナ。
この子、やっぱ距離感が近い……。
「このくらい軽いって。それに、アイナのお宿が繁盛するためだし」
「にゃーっ!」
カッ!
その時、空気を読まず叫びとともにいきなり発光する野良猫。
光につつまれてみるみる人間の姿に。
「ぷはーっ、やっぱ人間体の方が楽なのだー」
両手を上げて伸びするミアの胸元には二本の包丁。
背中には巨大な鬼斬り包丁と、食材の入った大きなリュック。
どっちもネコ形態の時には消えてたのに。
そういや、初めて会った時もそうだったな……。
「アンタの荷物さ、ネコになってる間どこ行ってるの?」
「消えてるのだ」
「は?」
「だから消えてるのだ。原理は不明だが、ネコになると消え人になると現れる。服とともにな。便利であろう!」
「……そうなんだ」
原理不明、か。
魔法の一種でそういうモノなんだろうけどさ。
原理、不明か……。
正門をくぐって私たちは街の中へ。
王都というだけあって、グラスポートとは比べものにならないにぎわいだ。
それに広さも。
これ、端から端までどんだけあるんだ。
「でっか、さすが一国の首都」
「ね、めまいがしちゃうぐらい広いんだよぉ」
「いいにおいがするのだ……。食事処がたくさんあるのだ……。お金さえあれば……っ!」
「街の中心には王城。入り口入ってすぐなのに、屋根がチラッと見えるくらいおっきいんだぁ」
通りを歩きながら、アイナが指さす。
たしかにチラッと、とんがった屋根が見えてるな。
「郊外にはおっきな川もあってね、そこから船で港町までいけるの」
「水運網もしっかりしてる、と。なるほど、王都を置くにはうってつけの土地だね」
「でしょ。でもじつはね、五十年くらい前に遷都してできた、わりと新しめの街なんだぁ。もともとの王都は、もっとずーっと遠いところにあったんだよぉ」
「そうなの? どおりで古びた建物が見当たらないわけだ」
一国の首都なら歴史的な建造物も多いだろうに。
言われてみれば、並んだ民家や商店はそれほど年月が経っていない。
でも、王都を動かすだなんて一大事業、そう簡単にはしないし、できないよね。
「遷都した理由、わかる?」
「えぁっ!? う、うーん……。ちょっとわかんないなぁ」
「そっか、そうだよね」
もしかしたら理由が大変すぎて、一般市民には伏せられているのかもしれないな。
ごく普通の村娘なアイナなら、なおさら知らないか。
「うん、ということで、この話はここまで! ほら、あたしたち宣伝に来たんだよねっ! 具体的にはどんなことするのかなぁ」
「まずは掲示板に広告を出すとかかな。それから、人の多いところで宣伝もしたいよね。インパクトのあることすれば、たくさんの人の印象に残るだろうけど――ん?」
アイナと相談しながら歩いてたら、ミアがいなくなってた。
あの野良猫、まさか食べ物につられていなくなったんじゃ……。
「……よかった、いた」
見回すとすぐに見つかった。
話に出した掲示板の前でじっと立ち止まってる。
「なにしてんのさ、アンタ。はぐれるぞ」
「む、ネリィか。これを見るのだ」
おいしそうな食い物屋のチラシでも出てたか?
そう思いながら、ミアが指さした広告を見てみると。
「……第66回武闘大会、大陸中から強者が集う? 日付は……今日が本戦か」
「出たいのだ! この大地にミアをうならせる猛者がいるのか気になるのだ!」
「いや、とっくにエントリー締め切られてるって、これ。……まぁ、人は集まってるだろうし。宣伝に使えなくもないか」
と、いうわけで。
町の南側、円形闘技場へとやってきた。
見事に満席なため、私たち三人は残念ながら立ち見だ。
「すさまじい熱気なのだ。ミアの獣の血がたぎる……」
「わ、わぁ……。なんだか圧倒されちゃうねぇ」
「私的にはこの熱気、心地いいかな。寒さをふっ飛ばしてくれそう。さて、試合の方は……?」
どうやらとっくに決勝戦みたいだな。
実況の人がそう言ってるし。
『さぁ、不動のチャンピオン『竜の牙』! 挑むはトーナメントを勝ち上がったチャレンジャー、ケンドロング! 今回もチャンピオンの連勝記録が伸びるのか、それとも新たなる王者が誕生するのでしょうか!』
闘技場の真ん中にある舞台の上で、大剣を背負った鎧の女がスマートな男剣士とにらみ合う。
……なるほどね、アレがチャンピオンか。
「ど、どっちがチャンピオンなのかなぁ」
「女の方なのだ」
「だね。明らかに格がちがう。瞬殺だろうな」
「えっ? わかるの? えっ? えっ?」
困惑するアイナをよそに、試合開始の合図が告げられ、次の瞬間。
ドサっ。
一歩も動くことなく、ケンドロングとか言ったっけ、あの男剣士がうつぶせに倒れた。
あの人、剣すら抜かずに拳だけ。
一瞬で五連打、腹に叩き込んでた。
『……け、けっ、決着ゥゥゥゥ!! 恥ずかしながらなにが起きたか全く見えませんでしたが、やはり瞬殺、戦いにすらならず! 今回もチャンピオンの圧勝でした!』
「……退屈だねッ!!!」
おっと。
拡声魔法を使ってる実況さんに匹敵する大声で、チャンピオンが口を開く。
「毎度毎度、この程度かい? どこかにアタシを楽しませるヤツはいないのか! いるんだったらかかってきなっ!!」
……へぇ、面白いじゃん。
この状況、うまくやれば宣伝に利用できそうだな。