1.死の領域
この戦場では死に直結することがあまりにも多すぎる。
血が染み込んだ砂漠の砂は互いに絡み付き足場を悪くする。
反り血を浴びれば防護ゴーグルは汚れ、その度拭わなくてはならない。
1つの失態が10の死を招く。なんてことは当たり前だ。
「ピスメレーカ少佐、そいつで最後だ!」
血に濡れた顔を上げてアレスチェット大佐は言う。
「体力も限界に近い、一撃で仕留めろ!」
その声を耳に、カルナ・ピスメレーカは空中から着地すると同時に体勢を獣に向けた。
少女の髪は赤く切り揃えられたショートカットで、見開かれた双貌は青く輝いている。
しかし、左足の裾からはその女体には似つかわしくない重々しい黒色の《鋼鉄式義足》が
軋む音を鳴らしながら覗いていた。
そして、音が鳴り止むと同時にカルナの体は空中に投げ出された様に跳び上がり、
瞬く間に獣に近付いた。
カルナは獣の硬い鱗の間から錆色の皮膚が見える首もとまで接近すると、
《電撃式剣》を突き立て
「憎き祖国の為に……」
慈悲が混じった様な声色で言うと、刃を深くまで刺した
「ン"ブオ"オ"オ"オ"ォォォ……!」
首もとを刺された痛みとそこから伝わる電撃に悶えながら絶叫し、
刺したところからは純紅の血が吹き出した。カルナはそれを浴びつつ後方へ着地する。
「よくやった、ピスメレーカ少佐」
「はい、言われた通りに……」
アレスチェット大佐は着地したカルナに駆け寄り言い、カルナもそれに受け応えした。
しかし、二人は顔を見合わせることはなく、ただ、獣を見るばかりだ。
獣は砂漠の大地に自分の血を浴びながら激しく倒れたると、
数十秒後には動かなくなった。
「死んだか……」
アレスチェット大佐はそう言うと額の汗を拭った。
その場にいた誰もが安堵の色を浮かべたとき、後方から嗚咽が聞こえた。
振り向けば、入隊間もないラノエイク隊員が蒼白の顔に涙を浮かべ嘔吐物を吐いていた。
「ラノエイク兵員には刺激が強かったか……だがこれも仕事だ、
この環境にも早く慣れろ。分かったな?」
「っ……は…………」
力なく返事をしたラノエイク兵員は口もとを袖で拭った。
「ラノエイク兵員以外は多少のケガで済んだか。一応全員処置をし、後に帝国に戻る」
「「はっ」」
それから帝国に戻った頃には日が沈みかけいた。
「よくやってくれた」
アレスチェット大佐とカルナはマスカラート中将の自室にいた。
椅子に座っていた中将は満足気に頷いて見せた。
「しかし、またもやヘイト達の大元はとらえることができませんでした……」
「アレスチェット大佐。確かに奴等の湧きどころは未だ不明だ。
だが、君達、第三討伐大隊は今回、十体ものヘイト討伐に成功した。
これは誇っていいのだぞ」
マスカラート中将は微笑んだ。
「有り難き御言葉です」
アレスチェット大佐は敬礼をし、続けてカルナも同じ様にした。
「だが安堵はできない。ヘイトの習性や実態の輪郭は未だ捉えられていないのも事実。
もっと深部まで行ければ何か分かるかもしれないが……」
椅子に座りながらも何か遠くを見るように中将は呟いた。が、何かを思い出し
視線をカルナび向けた。
「して、ピスメレーカ少佐。君が推薦していた少年はどうなったかね?」
「先程任務から戻った際に『明日、入隊が決まる』との通達が小官の元に来ました」
「そうか。君ほどの者が推薦した人材だ、きっと優秀なのだろうよ」
中将が満足気に頷くのを見て、カルナは少し顔を曇らせた。
「いや、確かに優秀ではあるのでですが……」
「何か問題でもあるのかね?」
「……は、いや、その……なんでもありません……」
カルナは余計な一言だったと思い慌てて撤回した。
「そうか……。まあ、今後も君達には期待している。頑張りたまえ」
「「はっ」」
マスカラート中将が真剣な眼差しで言うのに対し、二人も姿勢を正し敬礼をした。
「では、戻りたまえ」
二人は一礼すると部屋から出ていく。
一人残された中将は二人が出ていった扉をしばらく見つめ、ため息をこぼした。
「先祖の尻拭いは一体、いつまで続くのか……」
窓の外は漆黒の闇が漂っていた。
「少佐。さっきの思い詰めた様子はどうした?」
中将の自室から出ていった二人は廊下を歩いていた
「その、小官が推薦した少年なのですが……」
「少年がどうしたというのだ?」
「身体能力はとても優秀なのですが……その、とても馬鹿……」
そこまで言うと、
「あれ、カルナだろ!?」
声が聞こえた方を振り向くと、そこには少年が立っていた。
今回も読んでいただきありがとうございます。
今回は前回言った通り内容に触れましたね。若干触れすぎた様な気がしますがまあ、いいでしょう。
この話の主人公は女の子です。しかも機械の義足を着けた少女です。
まあ、色々僕の趣味が出てますね。
でも、自分が楽しいんでオッケーです。
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では、また、次回。