第一章 始まりの始まり
イラク戦争開戦した3月下旬。
主力部隊の後方。砂漠の中の米軍キャンプがあり、数日の待機命令で暇を持て余す兵が居た。
様々が車両やテントが並ぶ中、M9ACEだけが並んでいる列がある。アメリカ陸軍の工兵部隊が使用している装甲ブルドーザーであり、車体前面にドーザーを持ちその後ろには六・七立方メートルの容積を持ち9トンの土砂を積載可能なスクラッパー・ボウルがある。
そのボウルの中にガメた寝袋を敷き1人の女性が寝ていた。
ボウルの刃の部分には、小型のMDプレイヤーが下がっており、ビートルズのアルバムが流れていた。
ボウルの角度を良いように調整し、日陰を作り出して寝ているのだ。
「…あっちぃ」
そう言いながら、イコ・マクダネルは水筒の中身を飲む。
支給されたシャツ、裾を捲くったデザート迷彩のズボン、ブーツは脱いで、サングラスを胸元の襟首に下げている。
暇な他の兵士は、ポルノ雑誌を見たり、フットボールをして汗を流していた。
「することがないのはいいけど、暇なのもなちょっと…」
米英軍による空襲「イラクの自由作戦」を開始後に、クウェート領内から、地上部隊がイラク領内へ侵攻を開始。地上戦が始まり、その地上軍として国境を超えてきたのはいいが、未だに仕事がない。
橋も壊れてなければ、建物を破壊する任務もない。
建設任務もなければ、破壊工作任務もない。
すること、やることとがない。
あるとすれば、戦闘から逃げてきた住民に人道的な対応として、二人に対し一日一人分の食料と水を分け与える位の事しかないのだ。
抜き足差し足忍び足で、イコに近づく人間が現れた。その人間は、人の寝顔を見るように覗き込む。
日差しを遮り、見慣れた顔がイコに影を落とす。
「暇してるねぇ、前日の戦闘は後を引いてない?」
「引いてはないよ。けどさ、血ってのはいつ触っても良いものじゃないね」
「そりゃあ皆そうだよ、バートリ・エルジェーベト夫人じゃあないからね」
「ヘッセ、誰ソレ?」
イコがヘッセと呼んだ女性。
ちょっと長い金髪を後ろに束ねてバンダナを巻き、肩から光学照準器等を付けてないキャリングハンドルを付けたM4A1を下げていた。他にはインターセプターボディーアーマーに、アーマーにマグポーチやスプレー缶の様な発煙筒や無線機等が付いている。
ヘッセは、イコに冷たい青いコーラの缶を渡してやった。
「バートリ・エルジェーベト夫人、変態性欲夫人。ブラム・ストーカーの小説のドラキュラもそのイメージを多く採り入れているよ」
「ふーん、血よりコーラだよやっぱり」
起き上がって缶を受取り、喉を潤す。ヘッセもそれを見てから缶を開けて飲む。
「あっあ~。やっぱりコレだよね、SEXより気持ちいいかも」
「ヘッセ、アンタの膜はまだ突き破られてはないよね?」
「知ってた?」
イコは処女に向かって、お見通しと言わんばかりに指を上げて答えた。
「で、処女二等軍曹殿、次なるお話はなんでしょうか?」
「非処女特技兵。お散歩行くよ、バクダットの宮殿へ」
「……宮殿」
イコは、難しそうな顔をして、ヘッセを見た。
ヘッセは諦めるような素振りを見せつつ、缶の中身を飲んだ。
「ウダイ・サッダーム・フセイン。フセイン大統領の長男が居るであろう宮殿へ見学だ」
「ワァオ、クソみたいなフセイン家の神聖な場所だから見学料金が高そうだな畜生」
「何、簡単よ。アメリカンチックに豚を食べる素晴らしさを教えてくれえばいいらしいよ」
「宗教的には神聖なる生き物なんだっけ?豚は」
「確かね、私の記憶と脳細胞が正常であり、間違ってなければ」
イコは、遠い目をしながらコーラを飲む。
「神聖な豚の黄金水で浣腸する素晴らしさを説いて、このストレスマッハな社会が起因からなる便秘を解消教を打ち立てようかヘッセさんや」
「次いでに獣姦も追加しておけば?ソッチのAVマニアには売れるかもよ?」
「豚に掘られて、豚に孕まさせられ、豚のションベンで浣腸とか、相当マニアックで人間選ぶわソレは」
「で、相手はアラブ系の野郎とくるんでしょ?」
「獣姦を制作するメーカーに起案書送って小遣い稼ぎする?」
「そんなクソみたいな想像する余裕がまだないよイコ」
何で?と顔に書いて、イコはヘッセの顔を見た。
その分かり易い顔を見た彼女は、鼻で笑いながら呟く。
「私達は、右翼側より壁を爆破、破壊して突入っていう役目があるんだよね」
「はぁ?マジで言ってるのソレ」
疑問符を浮かべる人間に、諦めたような表情を見せて空を仰ぐ。
「左翼と中央が主力群で、宮殿占領部隊なのさ。その方が、色々と面倒でなくていいし、私達は先方の囮って訳。壁を破壊、突入の時間差で中央と左翼展開の部隊が突入。一気に制圧する」
「それで上手くいけば文句ないけどさ、怪我人無しでいける作戦になるのソレ」
「上がそんなに兵士数のどんぶり勘定気にする?愛国者な志願兵は腐る程いるんだからさ。イコ、アンタもその口だろ?」
ヘッセの問いに、さぁ?と言わんばかりの素振りを見せてからボウルから這い出た。ガメた寝袋についた砂を叩いて落としてから丸める。
「ヘッセ。少なくともアタシは、マリナーズの旗を振る位の愛国心はあるかな」
「愛国心なの?ソレ」
イコは笑いながら、空き缶を手の上で遊びながら宿泊テントの方向へ向かう。
「確か、まだシャワーは使えたよね?」
「残念、今は点検中」
「ファック。冷えたタオルで身体でも拭いてくるわ。コーラありがと」
翌日、イコの所属する部隊は早朝から出撃準備をしていた。
M16A2の分解点検をして、動作確認。弾薬箱から5・56mmNATO弾を30発入るマガジンに25発程度入れて、マガジンにポーチへと差し込む。
ミニミ射手は、弾帯を分隊隊員に分担して持って貰う為に分配している。
イコもマガジンに弾を入れ、弾帯も貰っては爆薬と一緒にバックパックへと詰め込む。バックパックの側面には、敵防衛拠点攻撃用としてM72 LAW(対戦車ロケット弾)を括り付ける。
「畜生、乙女にこんな背負わせるなよな」
「諦めなイコ、軍人に乙女はいない。いるのは脳筋かビッチ。或いはキチガイくらいさ」
「じゃあ、キチガイか?アタシは」
ヘッセは笑って、手榴弾の専用ケースから中身出してはポーチへと入れる。
「そんなモンじゃないの?じゃなきゃ普通はヘルメットにキルカウントなんか書き込まないじでしょ?」
「まだ3人じゃなくて、3本線だけだよ」
「もう3人も屠ったの?」
「多分、前の時に殺ったらしいよ。自覚はないけどね!」
イコも笑いながら、支給された銃剣を腰に吊る。M16A2に着剣することはあんまり無いが、近接攻撃に於いて拳銃をまだ支給されていない彼女には大切なものである。
「さて、今日も弾丸が当たりませんように神に祈っておかなきゃだな」
「どっちの神に祈る?断食禁食ダイエットなターバン神にワイン飲みの信者暴走させた無能神」
「ファックな方かな」
「どっちだよソレ」
笑いながらウッドランド迷彩のボディアーマーを着込んだ二人。そして、イコはバックパックを担ぎ、ヘッセは折りたたみ式の担架を担いだ。ヘルメットをしっかり被り、顎紐を締める。
「第2小隊!あと10分で出発するぞ!」
小隊長の声が響き、準備が終わっていない兵士達は慌てだす。彼女達も準備が出来ていない連中の手伝いを始め、部隊は難なく輸送車両やジープにて作戦該当地域へと出発。
作戦該当地域には、先行隊として少数の特殊部隊が潜伏している。その結果、宮殿の周辺状況や現地の状態が逐一司令部へ連絡されていた。
「司令部へ、こちらHUNTMAN1。定時報告。OBJ(攻撃目標)に変化無し」
『了解、もうすぐで木偶連中が来る。火器による支援用意準備、待機せよ』
「了解、待機する」
そのような通信が交わされ、宮殿近辺に潜伏する部隊は準備待機を命令された。
作戦目標の宮殿は、イラク元大統領サッダーム・フセインとその最初の妻サージダ・ハイラッラーの長男のウダイ・サッダーム・フセインの宮殿である。その宮殿の急襲作戦から、ウダイを拘束するという。
その先方の囮となる第2小隊。
イコ達は、潜伏部隊が歩哨や見張りを音も無く狙撃、無力化している事を知らずに風穴を開ける壁に近づく。
辺りは、米軍車両が来るとなると住民は避難し閑散となった。
「イコ、壁にC4仕掛けてこい」
「はいはい、今から手持ちのC4回収するから全員提出、提出しろ」
分担して持っていたC4爆薬をイコは宿題を回収する様な口調で、ボロい手提げ袋の中へと放り込む。
味方の援護、ヘッセと同僚のリックマンと共に宮殿を囲む壁に近づく。
二人に周囲警戒をしてもいつつ、先程回収した1‐1/4ポンド ブロックのC4爆薬を取り出す。
壁を少し叩いて、材質と厚さを予想する。
「イケそう?」
「多分大丈夫だと思う」
地面から半円を描くように、黒い梱包されたビニールの爆薬をガムテープで貼り付ける。そして、拳で少し叩いては伸ばして、少し空いている爆薬間の隙間を埋めてしまう。
「イコ、早くしろ」
「急かすな急ぐな慌てるな、童貞かよリックマン」
リックマンはイコと同期だ。階級的にはリックマンの方が上だが、そこら辺はお互いに気にしていない。
「子持ちの童貞の方が、逆に希少だろうが」
「アレ?子供いたっけ?」
その問いにヘッセは小さく吹き出して笑う。
「居るんだよソレが」
「嫁さんがよくそんな短小亀頭で孕んだね」
イコも笑い、感心感心と言いながら爆薬に配線が付いた信管をビニールの上から刺し込む。コードリールを引っ張りながら、味方が展開周囲警戒している陣地まで走って向かう。
「小隊長、設置完了!」
その事を、起爆スイッチとコードを接続しながらイコは叫ぶ。長は設置完了を無線で報告しイコに向かって親指を立てる。
「よぉし、ヤッちまえイコ!」
「ファイヤ イン ザ ホール!」
そう叫ぶと、周りの兵士も復唱し叫び耳を塞いだ。
耳栓を填め、遠慮無く起爆スイッチを叩き押して起爆。
轟音と地震、砂埃と爆風が車両を襲い、視界がカーキ色に染まる。
爆破箇所に人が入れそうな穴が開いた事を確認し、イコは耳栓を片方外した。
「イッたイッた!アクメキメた!」
「突入するぞ!」
仲間が穴を潜り抜けて、宮殿敷地内へと侵入する。勿論、イコとヘッセも続いた。白い壁の建造物が並び、所々に誰かの肖像がある。
イコはリックマンに続き、ヘッセはイコに続く。
銃声が響き足元で銃弾が跳ねては、地面を抉る。イコは銃声と撃ってきたであろう方向を確認をする。
「撃ってきた!撃ってきた!」
「イコ、クソ野郎を確認出来ないから、早く隠れようぜ!」
「あの建物の柱まで走って、二人共!」
ヘッセが指差した一番近い円柱型の柱がある黄緑色の宮殿建造物まで3人は走る。時折イコが牽制射撃で弾丸をばら撒く。
滑り込むように隠れると、その柱にまで銃弾が襲っては、柱を削る。小隊と別れてしまった。
「ワァオ!クソ野郎がクソを投げてきやがった!クソみてぇ!クソかよ、クソッタレ!」
「クソしか言ってねぇで、どうにかするよう考えろクソが」
「イエス!ファック ミィ!」
リックマンとヘッセは建造の中へと突入して、中の安全を確保した。
ヘッセは自前の双眼鏡で発砲してきた敵を確認する。
「小隊長、こちらヘッセです。現在、イコとリックマンと一緒ですが、敵の攻撃を受けて身動きとれず、黄緑色の建物にて釘付けにされてます。指示を乞う」
《ヘッセ、此方も場所が分からない狙撃手に攻撃されて身動きとれない!》
「了解、こっちはこっちで何とかしてみます」
ヘッセはイコの背中のM72を見てから、もう一度双眼鏡を覗く。
「イコ、ちょっと背中のお荷物軽くしてあげようか?」
「クソ野郎でも見付けた?」
「ファック ミィと言わんばかりのクソ野郎が居たよ。多分ドラグノフ狙撃銃辺りの銃口が見える」
「SVD?イェア、ご機嫌だね。オリバー・ウィンチェスターの土産にしてやる」
「跡と形があればの話ねそれは。リックマン!」
「んだよ、勘弁してくれよ」
「大丈夫、誰も走って囮になれとは言ってない。イコ、背中のM72展開して射撃用意」
イコは頷いて素早くM72を展開して射撃可能状態へと移行。ヘッセは二人に指示を出す。
「対角にあるあの建物が分かる?あそこの二階左の角部屋に潜んでる。この銃で壁が貫通するかは分からないけど、イコの担いでる巨根砲なら粉砕できる」
「俺の巨根砲も中々だぜ?」
「白濁精液出すのに何分掛かるの?」
「非処女の情報網だと26分掛かるって聞いたよ」
「イコ、今はそんな情報要らないけど、参考に頭に留めておくわね」
ヘッセはM4カービンの刺さっているマガジンを1回抜いて確認した。
「じゃあ、私とリックマンで援護射撃するからイコは巨根砲でお願い」
「イエス ファック イェアー」
「オーケー、カウント3で援護射撃ね」
リックマンも無言で頷き、M4のセフティを解除した。
「1、2、3!」
M4を持った二人は、狙撃手が居るであろう所に向かって発砲する。
イコは一瞬間を置いてから、身体を曝け出してM72を向けた。そのまま照門を覗いて、トリガーを押し込んで発射。
PIBD信管と弾道を安定させる6枚の翼がある固定の成形炸薬弾が発射された。それと同時に後方からは高温のガスを噴射され、様々なものが吹き飛ぶ。主にリックマンであるが。
弾頭はイコが大体狙った場所に飛び、命中し建物の一角を粉微塵に破壊しては穴を開けた。
「イェア!」
「バカ野郎!後方確認してから撃ちやがれキチガイ女!」
「え?」
「俺まで一緒に吹き飛ばすなバカ野郎!うぇぇえ」
発射ガスを浴びたが、奇跡的に殆ど無傷なリックマンがイコに怒鳴る。彼の反応に、イコはM72をその場へ捨てては彼に近付いた。
「おーよちよち、ママが居るから大丈夫でちゅよー」
「テメェ、いつか絶対犯してやる」
「アンタとすると、乗り気にならないから穴がガバガバになるよ」
吹き飛ばされたリックマンを起こし、イコとヘッセはM72を叩き込んだ建物へと向かう。
道中、遠くから銃声は聴こえるが特に攻撃はされなくなった。
ゆっくりとクリアリングして、M72の餌食になった二階部分へとたどり着く。
階段や部屋の中は瓦礫が散乱し、その瓦礫の下にはグロテスク且つ悲惨な死体が転がっている。身体が不規則に分断され、赤々とした肉塊やら煌めく臓器が床に飛び散っていたりする。
上半身の方はまだ息があったので、イコは無言で1発だけ頭に銃弾を叩き込む。
無線で仲間に連絡。
「こちらへッセ!狙撃手を無力化!繰り返す狙撃手無力化!」
《よくやった!此方も攻撃が止んだぞ!》
「そちらに合流します。後ろ側から接近するので、後方に注意してください」
《了解した》
ヘッセは一息ついて、SVDを探して悪態をついてるイコを見た。
お目当てのSVDが有ったのはいいが、銃身が曲がってしまい、真っ直ぐ飛ぶ代物では無くなってしまったのだ。
「What the fuck is this shit」
「そりゃ、そうもなるよイコ」
「AKと同じで頑丈じゃあないのかよ!」
「無茶言わないの」
「ヤッてる最中に中折れされる女側の気持ちを知らねぇんえだな作った輩は」
そんな訳の分からないことを言いながら、イコは死体の革製のホルスターからマカロフ拳銃と予備のマガジンを抜いてしまう。
「ん?マカロフ拳銃なんかどうするの?」
「鹵獲だよ鹵獲。アタシ、拳銃はまだ支給されてないからさ」
「それで自殺するなよ?A2は長くて、自分の頭を吹っ飛ばす時にトリガーが引きにくいのがメリットだったのに、そんなポケットサイズな銃を手に入れたりしたら…」
「してる暇あったら軍の精神病院に行くわ」
そんな事を言いながら、マカロフ拳銃のマガジンを抜く。スライドを少し引いて薬室を確認し残弾も見てから、再度マガジンを叩き入れた。
「いいね、ご機嫌だ」
「ほら、リックマンと合流して小隊長の所に行くよ」
「了解、妹の手土産にするかな」
二人はリックマンの場所へ戻り、そのまま離れた小隊の所へ向かう。
その道中に、自分達より更にゴテゴテした装備を着込み、機敏な動きをする部隊を見かけた。
「おっ?特殊な皆様のお出ましだ。ヘッセ、写真撮っておけ写真」
「バカ言わないの、あんなの撮ったら撃たれるわよ」
「心のカメラにパッシャ!と撮るんだよ。ロバート・キャパ見習おうよ」
笑いながら、その特殊部隊に手を振る。何人かは手を振り返してくれた。
そして、3人は小隊と合流。
「小隊長!」
ヘッセが小隊長に手を振ると、初老の男性が口角を上げて親指を上げ見せる。
「これから、先に見える宮殿へ突入する。全員気を引き締めろ」
「了解」
辺りの銃声は少なくなり、投降する兵士が続出してきた。
そんな中での宮殿への突入。既に小隊の中では楽勝ムードであった。
無駄に高そうな扉のドアノブに、爆薬を仕掛けて爆破。扉の鍵を粉砕して小隊は突入していく。イコも前の仲間に続いて突入しようとするも、後ろから銃声が響いたので、ソチラを見てしまう。
防弾車なのだろうか、銃弾が当たろうが穴が開かずお構いなしに走る乗用車が疾走する。
ゴテゴテな特殊部隊な連中はその車を撃っていた。
イコの後ろにいたヘッセは、肩を叩いてイコに射撃を促す。
「イコ、あの車を撃って!」
「あいよ!」
安全装置を解除し、セミオートに切り替えてアイアンサイトを覗いて走る乗用車を狙う。
ダブルタップで撃ち、トランクやサイドミラーを吹き飛ぼすも車体自体は止まらず、遂には宮殿敷地外へと飛び出していってしまった。
後からもう1台飛び出していく。しかし、その後続車は宮殿出入り口を急遽塞ぐ為に現れたジープとぶつかり、強制停車。
「止まった!イコ、リックマン、付いて来て」
「へ、ヘッセ?」
「いいのいいの、どうせアタシらは本来なら前線にいない方がいい人間だし!」
ヘッセは二人を連れて、強制停車した乗用車に近づきM4の銃口を向ける。
乗用車は大破して、ボンネットは曲がり、エンジンからは白い煙が上がっていた。
運転手の人間はエアバッグで死亡はしていないが気絶し、助手席側は苦痛に耐え呻いている。後部座席の人間も同様であった。
「全員降ろして束縛する!イコ、何か有ったら好きに撃っていいよ!」
「ヤーハー!」
その人間の4人は車から引きずり出して、俯せにしては手を腰の位置で手錠を掛ける。
「動くとそのヒゲモジャな顎をふっ飛ばして、一生オートミールすら食えない経管栄養人間にしてやるからな」
「リックマン、そんな口だと、ホモ相手に竿咥えるくらいしか用がなくなるからやめておきな」
「そんな特殊性癖な発想は無かったぞイコ」
「探せば有るんじゃない?」
そう言いながら、イコは手錠を掛けた人間を立たせて、駆けつけてきた特殊部隊連中に渡す。
「そら、スペシャルアメリカンピーポーとご対面だ。アメリカの方でも会えてお目に掛かるのは数%しか居ないからね。一生の思い出になるよ」
笑いながら、ふらつくイラク人を蹴飛ばして歩かせる。
「さぁ、一緒に豚の丸焼きを食べよう。美味しいよ?身体に悪いもの程美味しいものはない」
ケラケラ笑うイコにリックマンは、苦笑いだった。
その後の戦闘に於いて、大した事態は発生せずに作戦は終了した。
主力が宮殿を粗方制圧し、宮殿を占拠。
しかし作戦結果、ウダイ・サッダーム・フセインは捕獲出来ずに失敗。
この作戦に於いて、米兵数名が死亡。イラク軍側の死者は数十名になる。
イコ達には特にお咎めは無かったが、何だか消化不良な感じが否めない。
「モヤモヤするけど、イコ。アンタは顔面がスポンジボブみたいになってるよ」
「アタシからすれば、ウメンティ・フセインだったかウルトラ・フセインだったかなんて至極関係ないからね」
「ウダイねウダイ」
「それより見て見てヘッセ。マカロフ拳銃って地味に可愛いくない?」
「可愛いくはないね、少なくとも」
作戦終了したその日の夜。
イコとヘッセは、二人で星空の下でコーラを飲みながら無駄話をして過ごした。
少しだけモヤモヤはするが、相方と一緒に過ごせる時間を楽しんだ。肩を寄せ、砂漠のすこし冷える空気の中、炭酸がキツイコーラは二人の胃袋を心地よく刺激した。
後に、占拠された宮殿は米軍が活用し荒らして回ったのは言うまでもなく、私的利用もされた。