黒ずきんさん
「あの人が来ましたよ」
その女は、真夏で暑いのに黒のフリースのパーカーに黒のズボンをはき、さらにフードを目深くかぶった出で立ちでいつも現れる。
今日も暗い面持ちで無表情でこちらに向かってくる。
私たちは、ごくんと唾を飲み込んだ。
彼女は『黒ずきん』と呼ばれていたー。
彼女が私の働いているコンビニに来るのは、大体いつも午後1時~3時位の時間帯だ。いつも、何か昼御飯系統のものと、お菓子を買っているようだが…。
今日は何だか買うものがなかなか定まらないようで、お店の中を行ったり来たりしている。
お菓子のコーナー、お弁当のコーナー、パンのコーナーを行ったり来たり。
そうこうするうちに、レジにやってきた。
おっ、やっと買うものが決まったのか。
「いらっしゃいませー」
ピッピッピッ…
「1200円になります」
黒ずきんさんは千円札を2枚差し出す。
「800円のお返しになります。くじが一回引けますのでどうぞ」
無表情で黒ずきんさんはくじを引き、私に自らが引いたくじを一枚差し出した。
「あっ、無糖の紅茶当たりました」
私はレジ後ろのストックにある飲み物たちから無糖紅茶を探すが、いくら探しても見当たらない。彼女の後ろにもお客さんが並んでいるし、段々と焦ってきた。
「す、すみません。無糖紅茶、バックヤードで探してきます」
そして、苦労して探しだした無糖の紅茶をやっとの思いで彼女に差し出した。
「ありがとうございます」
すると、彼女はとても爽やかな、人好きのする笑顔で微笑んだ。
その瞬間、彼女の周りに、赤ずきんちゃんが暮らしているような世界観のリスさんやウサギさんが一瞬見えた気がした。
(幻想か…)
私は目をこすった。
(いい人なんだな…)




