X.アリスの世界
空気が重く感じられる。不思議の国ではまるで感じなかった重力が、ずんと両肩にのしかかっていた。帰ってきたんだ――そう、実感する。
アリス――!! アリス――ッ!!
さっきから聞こえていた懐かしい声が、今度は目の前から響く。
ゆっくりと目を開くと、私――有栖圭子は忘れていた全てを思い出した。今まで忘れていたのが不思議なくらい、あっさりと。
目の前には夕日を背に、大好きなおかあさんが立っている。お外で居眠りしちゃった私を起こしに、ここまで来てくれたんだ。
おかあさんは無言で私の手を引いて、家まで連れていってくれた。玄関をくぐると、大好きなおとうさんとおねえちゃんがそこにいた。私はそのまま階段を上がって、上がって、屋根裏の小さな部屋にまで連れていかれる。クローゼットもベッドもカーペットもないけれど、お気に入りの私の部屋だ。
「門限を破った罰だ。今日、明日はご飯抜きだよ」
おかあさんが扉を閉めると、部屋は真っ暗になった。私は膝を抱えて座り込む。一階のリビングからは、絶えず大好きな家族の談笑が聞こえてきていた。
静かに目を閉じ、眠りにつく。再び夢の世界へと、帰るために……。