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M・O・D~ある冒険者の災難~

作者: 猫流師範

これは別サイトにて以前に掲載された作品を直した物です。

ズッドォーン!


爆発に舞い散る土煙の中、オレと彼女は出会った。


・・・と言うか、

「こんなトコロで、ザコ相手に高位ランクの攻撃魔法なんてブチかますな!」

オレは、爆炎の熱に焼ける肺の痛みに不快を隠せず、その原因である女魔導師へとそう言い放った。

「おっほっほーっ!《魔司ルーン・マスター》たる者、何時如何なるときにも敵に対しては全力を尽くして臨むものよ」

「はいはい、そうですか…。(全くもって不可解な…。無駄な魔力の消費を美徳とするとは、魔法使い、恐るべし)」

 オレは、相手の返答に呆れる事すら疲れるような気がして、適当な返事で答える。

 理解できないモノに対しては、無理して理解しようとしない事、これがオレのこの世界に於ける処世術の要である。

「余り派手な魔法を使われると周囲にも迷惑なので、以後は気をつけてください。では、そういう事でさようなら」

 オレは、無駄なトラブルを起こさぬ最低限の気遣いを発揮して、大人しくその場を去る事にした。



『世界の混迷に惑わされる事無く、自分自身を生き抜け』


世界を創りし者は、その『託宣』の言葉を以って、世界に在る全ての存在に、『絶対の自由』を許した。

それは《秩序の光》と《力威の闇》と呼ばれた二つの相反する意志が争い、そして、《光と闇を征する英皇》と呼ばれる『達成者』によって、世界が統べられてより十数年の歳月が経ったある日の出来事であった。

 与えられた『絶対の自由』を受け入れ、この新たなる『世界』に生きる事を選んだ人々は、自らの抱いた想いや意志を叶えることを絶対の宿命として背負った。

 故に、人々は自らと自らの生きる世界をこう呼ぶ。

夢喰マスター・オブ・ドリームズい』と。


『他者の抱く夢を喰い潰してでも、自らの夢を貫き叶えよ』


 その許された『絶対なる自由』は、『夢』という名の『欲望』を人々に求めた。

 それは、平穏な日々に退屈していた人々にとって、歓喜の福音であり、世界に多くの冒険者と呼ばれる存在を生み出した。

 『冒険者』、その言葉の通り、力を求めて自らに危険を冒す者。

 そして、この世界には、彼等を相手にして、自らの『欲望』である『夢』の実現を求め生きる人々もまた存在していた。



 その昔に起きた《光》と《闇》の争乱は、冒険者同士の些細な諍いが始まりの原因だったらしい。

 オレは、自分がそんな馬鹿げた事の発端になるのも嫌なので、他者と揉めそうな時には、常に自分が退く事を選んできた。

 そして、それは今回もまた同じだ。

 そう何時もならそれで終わるはずだった。

 しかし、今回ばかりは相手が少し悪かったみたいだった。

「ちょっと、貴方、待ちなさいよ!」

「(ちっ、呼び止められた)」

 オレは、心の中で軽く舌打ちをする。

 ここで聞こえない振りをして、そのまま去ったとしても、略確実に着いて来られて、『無視した』だの言われ、何かしらの攻撃をされる可能性が高い。

 オレは、仕方が無いので立ち止まり、相手の方へと振り返った。

「えーと、何でしょうか?」

・・・まさか自分の方が加害者なのに、難癖を付けて慰謝料とかふんだくる気じゃないよな。

「『何でしょうか?』じゃないわよ」

「(ほーら、来た。一体、どんな言い掛かりを吐けるつもりだ)」

 予想通りの展開に、オレは、内心うんざりな気分になる。

「私がわざわざ振ったナイスなボケに、あんな気の抜けたツッコミを返すなんて如何いった了見よ!」

「(そう来ましたか。イヤハヤ、春も近いし変な人間が出始めたか…)」

 オレの脳ミソは、最早、返す言葉の糸口も見つける気になれないでいた。

「ちょっと、ちょっとぉ! 黙りこくっちゃって、何、私を放置しているのよ!」

・・・うーん、どうやら余りの出来事に、オレの脳ミソは、数秒間フリーズしていたみたいである。

「スミマセン、そんなダメダメな自分を改めるべく修行の旅に出ます。どうか探さないでください。では、そういう事でさらば!」 

 『三十六計逃げるにしかず』、オレは、古の先人が残した名言に従い、その場から逃げ出した。

「ちょっと! 待ちなさいよ!」

・・・ちっ!

敵も然る者で、簡単には見逃してくれないようだった。

 しかし、何処の世の中に待てと言われて素直に待つ人間が居るモノか、否、居ない(反語)。

 という訳で、オレは、逃げるウサギも真っ青の瞬発力を以って敵を振り切るべく走り出す。

 目指すは、眼前に広がるあの雑木林だ!

 「ふっふっふっ、勝った・・・!」

 オレが背後へと消えた敵の気配に、自らの勝利を確信した時、『それ』は起こった。


ずっどぉーん!!


 先刻経験した爆発をはるかに凌ぐ威力の爆炎がオレの目の前に在った林を焦土に変えた。

 雑木林だったその焼け野原から燻る噴煙を吸って、オレは、咳き込む。

・・・マジ、死にますって、それ(恐涙)。

 その洒落にならない人災をもたらしたのは、言うまでも無くあの女魔導師である。

 恐怖に慄くオレの脳裏に、ある事柄が思い出される。

 それは、《光》と《闇》の争乱の時代に活躍し、今尚、多くの人間から最強と讃えられる存在である伝説の冒険者が、それまでに倒して来た何百何千の魔物達より、自分のパートナーである一人の魔導師を恐れていたという噂だ。

オレは、それを聞いて不思議に思っていた。

 しかし、今なら痛いほどに分かります。

 心の中でちょっぴり笑った事も猛省します。

『アレ』は確かに危険です。

 否、危険過ぎます。

 今直ぐ、災害認定して、何処か安全な場所に隔離してください。


「捕まえた!」

「(げっ!)」

 恐怖に逃避していたオレの意識は、一瞬にして現実に引き戻される。

 背後へと振り返ったオレの視線の先には、快心の笑みを浮かべる彼女の姿が在った。

「貴方がいきなり走り出すから、思わず攻撃魔法を使っちゃったけれど、少しやり過ぎちゃったかな(てへっ)」

「(…『これ』が貴女にとっては、『少し』のレベルなんですか!?)」

 オレは、恐ろしくて到底、口には出せないツッコミを心の中で入れる。

「それにしても、キミ、凄く足が速いね。もう少しで、本当に当たっちゃうトコロだったわ」

・・・否、そんな軽いノリで言い表せる出来事ではないんですけど(冷汗)

「大丈夫?怪我とか無かった…?」

 それは恐らく本当にオレの事を気に掛けての言葉だったのだろう。

 しかし、恐怖に捉われていたオレは、情け無い事にその言葉と共に差し出された彼女の手の動きに思わず身を引いてしまった。

 そして、更についてない事にオレの足元には、つまずくのに最適な大きさの石が転がっていた。

「えっ!?」

 踵に感じた固い感触に驚きの声を洩らして、オレの身体が後ろへと倒れる。

「危ない!」

 彼女は、そう叫ぶと伸ばした手で、空を泳ぐオレの腕を掴んだ。

 両者の体格と体勢の結果、オレと彼女はもつれる様にして、そのまま地面へと倒れ込んだ。


ブチューっ!


「うひゃっ…?」

 オレは、顔面に受けた衝撃と、その奇妙な感触を伴う痛みに、やや情けのない声を洩らしながら、反射的に閉じていた瞼を開く。

 遮られていた視界が開かれた時、そこには、上天に広がる澄んだ青空とドアップになった彼女の顔があった。

「(…このヒト、良く観るとかなりの美人なんだな)」

 我ながら、何とも呑気な事を考えているオレ。

そのオレの顔を無言で見詰めていた彼女の表情が、みるみるうちに朱へと染まっていく。

「…よくも、乙女の唇を奪ってくれたわね! このケダモノ!!」

 オレの本能は、彼女が口にしたその言葉の意味を理解するより先に、危険を感じ取る。

 そして、それから逃れる為に、圧し掛かるように自分の上に乗っかっていた彼女の身体を押し退けた。

「きゃっ!」

 短い悲鳴を上げて尻餅をつく彼女の姿を目の当たりにして、オレは、乱暴にし過ぎたかと焦る。

 しかし、その情けが仇となった。

 魔導発動呪文である《力導く言葉》の詠唱を終えた彼女の意思に従い、その手に握られた杖へと宿った魔力の輝きに、オレは驚愕する。

「(このオンナ、本気で、オレをるつもりだ!)」

・・・マズイ、冗談抜きでマジにヤバイ。

 オレは、逃れる事の叶わない死を予感する。

 そして、彼女は、非情にもその予感を実現させようと力を解放した。

「(嗚呼、短く儚き我が人生よ…)うぬぅ?」

 迫り来る魔力の奔流を前に、最早これまでと覚悟するオレの視界を、突然現れた何かが遮る。

『《軍神烈波斬・改》っ!!』

 その男は、気合いを込めて振り放つ刃で、魔力の波を斬り裂いた。

 否、正確に言うならば、それは、剣に宿した氣をぶつける事で、相手の魔力を相殺する技であった。

「大丈夫か?」

 救いの主である男は、油断無い眼差しで彼の女魔導師を見詰めながら、オレへと、その無事を尋ねる。

「ええ、生命だけは何とか在るみたいです。でも、ちょっぴし漏らしちゃったかも…」

「そんな冗談が言えるくらいなら、平気だな」

・・・否、冗談ではないのですが。

 とは、余りにも情けなくて口に出せないので、取り敢えず苦笑だけ返しておく。

「助かりました…」

「…否、それを言うのは、まだ少し早いみたいだ」

 気を取り直してお礼の一つでも言わなくてとするオレの言葉を遮り、男は苦笑混じりに呟く。

 事の中心である彼女へと視線を向けたオレは、嫌でもその言葉の意味を理解する。

「うわぁ、凄く怒っている!」

「みたいだな」

 思わず洩らしたオレの言葉に応える男の眼差しが、戦いの意志に引き締められ鋭く冴えた。

 だが、男の瞳には、まるでこの状況を楽しむような色が存在していた。

「ここは、俺に任せて逃げろ」

・・・何ともありがたい言葉。

 しかし、それに甘える訳には行かなかった。

「不本意ですが、オレにも原因の一端は在ります。だから、簡単に逃げる訳には行きません。(本当は、直ぐにでも逃げたいけれど…)」

・・・嗚呼、マジに葛藤。

「ちょっと、貴方! 何者かは知らないけれど、私の邪魔をするのなら、只では置かないわよ」

 息巻く女魔導師の恫喝を受けて、男の眼差しに狂暴な色が宿る。

「『只では置かない』とは、随分と言ってくれるじゃないか。面白い、こっちも本気で相手をしてやる。御託は無用だ。さっさと掛かって来い!」

 男は、相手の言葉尻を反芻して、好戦的な挑発をぶつけた。

「本当に、煩いハエね。いいわ、お望み通りに追い払ってあげるわ。覚悟しなさい!」

 挑発に応えていきり立つ女魔導師。

 彼女の手に握られた杖に、魔力の輝きが満ちる。

「少年、俺が動くと同時に、全速力で左右のどちらかに走れ。分かったな?」

 男が口にしたその言葉に、オレは、無言で頷いた。

「行くぞ!」

 それは、オレと女魔導師の両方に対し向けられた言葉であった。

 それと同時にオレは左に、そして、男は前へと動く。

「自分から突っ込んで来るとは、大莫迦ね!」

 女魔導師は、言い放ち、自分の勝利を確信した笑みを浮かべる。

 剣士が魔導師と戦う際のセオリーは、相手の魔導が発動する前に攻撃を加える事。

 それに従うのならば、男の行為は自殺行為に近かった。

 先刻の相殺技で防ごうにも、余りに間合いを詰めすぎていた。

 しかし、男は、不敵に笑って言い放つ。

「莫迦は、相手の力量も分からずに、喧嘩を売ったお前の方だ!」

 完成され、その魔力の波で全てを飲み込む彼女の攻撃魔法を前に、男は、微塵の恐れも無く突進する。

 そして、正に神速と呼ぶに相応しき動きで、戦いの場を支配していた魔力フィールドを突き抜けた。

・・・発動した魔導よりも早く、動いた!?

 それを一言でいうならば、『奇跡』という言葉以外、見付からなかった。

「…嘘、在り得ない!」

 彼女の表情に怯えの感情が浮かぶ。

「フッ、現実だ!」

 それに対し男は、傲慢に過ぎる勝利の笑みを浮かべて宣言する。

『《インテグラル・フレア》っ!』

 その《力持つ真名》に違わぬ峻烈な閃光を放ち、男の刃が彼女へと振り下ろされる。

オレは、眩しさに耐え切れず、瞳を閉じた。



オレが奪われた視界を取り戻した時、そこに映ったのは、悠然と立つ男と、その足元に倒れ伏す女魔導師の姿であった。

「幾ら、猪みたいに襲い掛かって来たとはいえ、本気でやり過ぎたな」

 口にしたその言葉とは裏腹に、男の表情に反省の色は無かった。

「まあ、自業自得だし、仕方が無いか」

 男は、付け加えるように言って、快心の笑みを浮かべた。

・・・うわぁ、鬼畜。

「あっ、今、ヒトの事を『外道!』って、思っただろう?」

「(いえ、正確には『鬼畜』です)」

・・・なんて事は、口に出して言えないけれど。

 ってな感じで無言の視線を返すオレに、男は、満面の笑みを浮かべ返した。

「言っておくが、彼女が俺に対してやった事に較べれば、俺が彼女に仕返しした事なんて、『優しい』を通り越して『甘い』くらいだぞ」

・・・ああ、それなりに、自分のした事の自覚はあるのですね。

「あの助けて貰っておいて何ですが、流石に戦闘不能状態の失神はやり過ぎなのでは…?」

 オレが思わず吐露してしまった言葉に、男の表情が一瞬にして和む。

 内心で、『しまった』と後悔していたオレは、男の反応に正直面食らう。

「少年、君は、莫迦に近いお人好しだな」

尋ね返すまでも無く、オレには、それが褒め言葉である事が分かっていた。

「まあ、モノのついでという事で言っておこう。若しもオレが彼女の魔法から君を庇ってなければ、到底失神では済まない大惨事の犠牲者になっていたのは、君の方だぞ」

 男は、そう語って愉快そうに笑った。

・・・否、そこ笑うトコじゃないんですが(苦笑)。

「ええ、それは良く分かっているのですが…」

「否、君は良く分かっていない。俺たちの使う戦技なら、時に手加減の入れようもあるが、魔導に情けや容赦は存在しないからな。多分」

・・・って、『多分』ですか。

「アレは、感情で動く生き物に与えるには、危険すぎる力だ。なのに、この『世界』を統べる《神》ってヤツはそれを理解していないみたいだな。全く、面倒な事だ」

・・・このヒト、《神》に対し、面と向かって文句を言ってるよ。

「それに、魔導師の中には、自分の操る力を誇る余り、傲慢に近い勘違いをしている人間も結構居るからな。戦士の端くれとして、『魔導、最強! 戦技? 何それ、脳ミソ筋肉のオマケ攻撃ですか?』とか思われるのも詰まらないから、究極の戦技による魔導回避ってモノを示してみたりしている訳だ」

「魔導師が嫌いなんですか?」

 オレがそんな事を尋ねると、男は、考え込むように一瞬沈黙する。

「うーん、正確に言えば、嫌いなのは、魔導師ではなく、魔導の力の方かな。だって、『アレ』、反則に近いだろう?」

 オレは、屈託の無い笑みで語られたその言葉の奥に、深い意味が存在している事を何となく感じる。

「まあ、俺は、『《神》の悪戯』ってヤツで、魔導耐性を持たない体質をしている分、人一倍魔導に対する反発心が強いだけだけど」

・・・あれ、今、このヒト、何か引っかかる事を言わなかったか?

 しかし、それが『何』なのか分からないので、取り敢えず俺は、もう一つの疑問を口にした。

「だから、あんな『奇跡』みたいな事が出来るようになったのですか?」

「起こり得る『可能性』の中で最良の結果に至るから、それは『奇跡』なんだ。俺が使っているのは、唯単に自分の技を極限まで究めただけのモノ。その気になれば、あれぐらい誰でも出来るようになる『必然』だよ」

「…マジですか?」

 事無げに言ってのける男の言葉に、オレは、半信半疑で尋ね返した。

「ああ、必要なのは、その気になる気合いと根性だけだよ。まあ、格好の良い一言で言うならば、『真に抱いた想いは意志となり、その強き意志は全てを凌駕する』という事だな。この世界は、本気で強くなりたいと望めば、それが叶う場所だからな」

「正に『夢喰い』ですね」

 それが持つ意味を体現した存在を前にして、オレの口から自然とそんな言葉が零れ出た。

「俺の場合、他者の『夢』を喰ったというより、自分の弱さに涙を呑んだという方が正しいけれどな」

 そう語る男の顔には、先刻の戦いに示した表情とは真逆の真摯に過ぎる笑みが浮かんでいた。

「オレでも、貴方のように強くなれますか?」

 それは、それこそ本の少し前に邂逅しただけの相手に尋ねる事ではないことは分かっていた。

 それでも、オレは、それを尋ねずにはいられなかった。

「ああ、君ならそれも叶うと思う。強くなければ優しくなれないし、優しくなければ強くなる意味は無い。強さの意味や求め得た力の使い方も人間それぞれだろうけど、本当に強くなる人間には、それだけの理由が在るモノだ」

「貴方にも、強くなる『理由』が在ったのですか?」

 オレは、男が語る言葉に込められたモノに、純粋な興味を抱いて尋ねる。

「ああ、勿論。だが、少年、それを訊くのは野暮ってモノだ」

 男は、少し照れたように笑い、そして、それを隠すように更なる言葉を続けた。

「それに、俺にとっての理由が、君にとっての理由になるモノでは無いだろう」

「確かに、そうですね」

 指摘された事実にオレは、それを踏み込むべき事ではなかったと自覚する。

「助言、という訳ではないが、一つ良い事を教えてあげよう。この世界に於いて、多くの人間が知る所の所謂『達成者』についてだが、彼等とてそれ程に崇高と言える理由を以って、強くなった訳では無い。《マスター・オブ・マスター(至高の英明皇)》の英称を関する者ですら、最初は唯のお気楽冒険者に過ぎなかったし、他の面々にしてもそれとそう大差があった訳でも無いな」

「でも、それなら何故、彼等は今に至る偉業を達成できたのですか?」

 そこに結果へと及ぶ理由が無ければ、それが果たされる事は在り得ない。

 だから、オレは、その『答え』の一端を問う。

「それは多分、純粋な莫迦に優るモノは無いという事だろう。俺が知る限り、彼等以上の純粋に莫迦な目的を求める変り種は、この世界には未だ現れていないからな。何よりも、この世界を統べる《神》こそが、そんな伊達や酔狂を一番に好む存在だから、それもまた必然なんだろうさ」

 男は、そう言ってのけると愉快そうに笑った。

「貴方もその純粋なる愚者に連なる一人なのですか?」

「俺は、そんな格好の良いモノではなく、暇と退屈を何よりも厭う唯の物好きな人間というだけさ」

 そんな『大嘘』をついて、男は、再び愉快そうに笑う。

 『貴方は一体何者なのですか?』とは、何故か尋ねられなかった。

 代わりにオレは、こう尋ねた。

「貴方は、何故、オレを『助けた』のですか?」

 その問い掛けを聴いた男の表情が一瞬だけ真顔になる。

「言っただろう。俺は、唯の物好きだとな。気紛れだよ」

 直ぐに軽い調子に戻って応える男の言葉には、微塵の嘘も存在していなかった。

「敢えて理由が要るならば、それは、この世界で強い相手と戦いたいと望んでいるからだ」

 オレは、その大胆不敵な言葉を聴いても、不思議と不快には感じなかった。

 それは多分、目の前に居るこの男が本気でそれを渇望しているからだろう。

 その愛すべき愚望に対し、憧れにも似た想いを抱くオレの目の前で、すっかりその存在を忘れていた『ソレ』が目を覚ました。

「ちょっと! ちょっとぉ! 貴方達、他者ヒトの頭上で何を男同士で良い雰囲気を醸し出してくれちゃっているのよぉー!」

 気絶から復活した女魔導師は、開口一番で微妙な発言をかます。

「おお、お目覚めですか、眠り姫!」

・・・ああ、貴方は、そんな火に油を注ぐような事を。

「…殺す!」

「おー怖い。助けて、剣士様!」

・・・否、無理です。実際。

「と、まあ、冗談はさて置き。先刻の一戦でまだ目が醒めないというのならば、今度こそ真面目に相手をする事になりますよ、お嬢さん」

・・・あのぉー、それって先刻のはまだ遊びアリのレベルだったという事ですか?

「…分かったわ」

・・・おー、退いた。

「でも、それとは別に、彼には責任と言うか,ケジメと言うかは、ちゃんと取って貰います。男としてね!」

・・・あのぉー、如何してそこで妙に紅くなるんですか?

「だそうだ、少年」

・・・そして、貴方は何故、そんなに楽しそうなんですか?

「そもそも、君らの痴話喧嘩の原因は何なんだ?」

「「痴話喧嘩なんかじゃないです!」」

・・・うわぁっ、ハモった!

「ああ、そう。それは妙な誤解をして済まない」

・・・全然、済まないなんて思っていませんね?

「いや、男と女が命懸けで剣と魔法の攻防を繰り広げる理由と言ったら、それぐらいしか思い至らなくてね」

・・・如何いう思考ですか、それ。というか、オレが一方的に攻撃されていただけなんですが(悲哀)。

「それで、何が如何して、彼に男の責任とかケジメが必要なのかな?」

・・・うぬぅ、その満面の笑顔が怖いんですけれど。

「それは、このケダモノがドサクサに紛れて私を押し倒した上に、私の・・・、私の・・・、唇を奪ったのよぉー!」

・・・そう参りましたか。というか、押し倒されて唇を奪われたのはオレの方です。

「ほうほう、それは災難だったねぇー」

・・・スミマセン。何故、今一瞬やり遂げた者の笑みを浮かべたのですか?

「でしょ! でしょ! その上、このケダモノは、責任も取らずに逃げ出そうとしたのよ!」

・・・それは誤解です。正しくは、身の危険を感じて思わず逃げただけです。ハイ!

「成る程、成る程。それは酷いねぇー」

・・・否、そんな風に納得されても困るのですが(涙)。

「で、少年、実際の所は如何なんだ?」

・・・おおー、その言葉を待っていました!

「確かに、事実も含まれていますが、全部誤解です。彼女から逃げようとした拍子につまずいてバランスを崩し、その結果、彼女を巻き込んでもつれる様な形で倒れて、それでその…、そんな状況に…」

「ああ、そうか、そうか。所謂、『事故チュー』ってヤツだな」

・・・そうです! その通りです! 全ては運命の悪戯、事故だったのです!

「二人共、ごめんねぇ」

『???』

・・・うぬぅ?何故、何を、貴方が謝る?

「君たちのそれ、不純行為として《天罰》の対象なんだ」

・・・えーと、《天罰》ですか?

「…」

 耳にしたその言葉の意味を理解できずに困惑するオレ。

それに対し、俺と同罪(?)となる彼女は、それまでの不遜な態度に反して、信じられない程に青ざめていた。

「少年はともかくとして、お嬢さん、君は流石に立場上、マズイでしょう、実際」

・・・スミマセン。全然、話に付いていけないんですけれど。

「…はい。その通りです」

「正直言って気の毒だとは思うけれど、こればっかりは仕方がないんだよな」

・・・あのぉー、《天罰》って何ですかぁー?

「少年、意味が分かってないな?」

・・・はい。

「そうか、ならば説明しよう! この世界には、その絶対的意志の存在である《神》によって定められた《真諦》と呼ばれる戒めがあってね。その中の一つに、『人の心を乱す不純なる器の接触を戒むべし』と定められている訳だ」

「…?」

・・・それは如何いう意味でしょうか?

「簡単に言えば、『他者の前でベタベタするな!』ということだな」

・・・うわぁ、スゴく分かりやすいです。って、あれ!?

「それって、まさか…?」

「ああ、今回の君たちも引っかかります」

・・・マジですか!

「だって、アレは明らかに事故じゃないですか!」

「ああ、そうだな」

・・・じゃ、セーフ?

「否、アウト!」

・・・お願いします。心を読まないで下さい。

「無理、君は思っている事が顔に出過ぎ」

・・・そうですか。

「まあ、それだけならば、唯の事故で片付くのだけれど、今回に至っては、それでは済まないんだよねぇ」

・・・そんな楽しそうにいわないで下さい。

「ごめん」

「?」

・・・今度は、貴女が何故、何を、謝るんですか?

「そうだね。君が悪い」

「はい。分かっています」

・・・オレには、さっぱり分からないのですが。

「了解、了解。少年、この世界の《神》はね、自分が《真諦》に定めた戒めを人々に護らせる存在として、《使徒》と呼ばれる代行者を選んだ。正確に言うとそれとは少し違うのだけれど、俺もその《使徒》と呼ばれる存在と同じ様な役目を与えられている訳だ。実際は不本意なんだけどな。それはさて置き、そこにいる彼女こそ、正真正銘の《使徒》だよ」

「えっ!?」

・・・マジ、ですか?

 驚き思わず視線を向けたオレに、彼女は無言で頷いてそれを肯定する。

「で、ここで考え見てくれ、少年。《使徒》という特別な使命を与えられた存在である彼女が、果たすべき使命を負って現れた俺へと、その感情に任せて問答無用の攻撃を仕掛けた。その事実の重さは如何ほどのモノだろうね」

・・・洒落では済みませんね。

「そして、少年。君は、知らなかったとはいえ、《天罰》に値する罪を犯し、その上、それを酌量して見逃そうとした俺の申し出を敢えて拒んだ訳だ」

・・・えっ、そんな(ヒドイ)。

「ああ、そうだ、少年。君には、もう一つ罪が在ったな」

・・・えーと、何ですか?

「君は、彼女の攻撃から身を呈し庇ってまで事態の収拾に努めた俺に対し、礼を言うどころか『外道!』とか思ってくれてたな」

・・・否、正確には『鬼畜』です。

「ああ、そうそう、『鬼畜』だったな」

・・・心で思った分までカウントされても、ねぇ。

「否、俺個人としては、別に君らの事をとがめようなんて思ってはいないんだがなぁ。ここで安易に見逃して、こっちに面倒が転がり込んでも厄介だしなぁ。という事で、俺の幸せの為にも取り敢えず、君たち二人には大人しく消えて貰うとしようかな。本当に、ごめんねぇ」

・・・否、そんな風に、楽しそうに言われても全然、説得力がないのですが。

「じゃ、始めようか」

 事無げに言って、男は、手にした長剣を構える。

「(こうなれば、もう覚悟を決めるしかないのかな)」

 オレは、妙に悟って得物である剣を鞘から抜き放った。

「遣らなきゃ、遣られるだけです。犯した罪が消せないのならば、贖う事を選ぶより生きる事を求めるべきじゃないですか?」

・・・我ながら、何とも大それた事を言っているのだろうね。全く。

 しかし、それでも少しは意味があったみたいで、同じ罪を負った彼女も覚悟を決めて頷いた。

「私の魔法で彼の動きを出来る限り止める。彼を倒す役目は貴方に任せたわよ!」

「了解!」

 そんな遣り取りを交わして、オレと彼女は互いに不敵な笑みを浮かべ合う。

 正直、倒せる可能性は皆無に近い。

 それでも、それが零ではないならば、それに賭けてみるのも良い。

 そんな想いがオレに勇気の決断をさせたのだろう。

「(これで勝てたら、正に『奇跡』だな)」

・・・『可能性』に『奇跡』か、ならばその先に在るのは、『最良』か、或いは『必然』のどちらかなのだろうか?

「(倒すべき相手の言葉にすがるとは、本当、オレも全く以って情けないな)」

「覚悟も決まったみたいだし、そろそろ行くぞ!」

・・・いやはや、何ともニクらしいヒトだよ。貴方は!

「そうはさせないわよ!」

 言い放つと同時に、彼女が発動させた魔導の力が解き放たれる。

 そして、オレは、迷う事無く動いた。

「フッ、甘いな!」

 短く言って横薙ぎに振るわれた長剣によって、彼女が放った攻撃魔法が相殺される。

 これは、オレと彼女にとって予測の範疇にあり、そして、作戦の成功を意味していた。

「貰った!」

 オレは、男が柄を絞って振るう長剣を止めるその隙を狙って、決着となる快心の一撃を振り下ろす。

『《霧氷月華》!』

 オレの攻撃がその身体を捉えた刹那、その《力持つ真名》を示す声と共に、男の身体は剣氣の残滓である燐光のみを残し掻き消える。

 そして、次の瞬間、背後を取った男の長剣によってオレの身体が刺し貫かれる、…筈だった。

・・・えぇっ?


ふぁはっはっはぁー!


 オレが、恐る恐る振り返った時、男がそれまで必死に抑えていたのであろう爆笑をあげる。

 意味が分からず唖然とするオレと彼女を前に、男は、更に笑い続けていた。



「否、済まない。笑い過ぎた。それにしても、君たちは、本当に最高だよ」

 ひとしきり笑い続けて尚、まだ笑い足りないのか必死にそれを抑えながら、彼は言葉を続けた。

「この俺に本気で戦いを挑んだ君達の勇気は、あの《怖れを知らぬ者》の異名を誇るナタルスすら凌ぐ無謀だよ。否、間違いなく、ヤツを超えたな」

・・・それ、全然、褒めていませんよね、ねぇ?

「あのぉ、そろそろ怒っても良いですよね?」

・・・冗談抜きで、否、マジで。

「ああ、好きにすればいい」

・・・そう言われるとこっちも困るのですが。

「しかし、久々に愉快だった」

・・・こりゃ、マジで駄目かもしれません。このヒト。

「少年、そう失敬な事を思わないように。まあ、それは良いとして」

・・・良いんですか?そこを普通に流して。

「本題に戻るとして、今回の問題に於ける君達の処分だが、『不問』という事で良いか?」

「…否、それは私たちに訊かれても困るんですが…って、えぇーっ!!」

・・・貴方というヒトは、全く以って意味不明な事を…って、えぇーっ!

『それで良いんですか!?』

・・・又、ハモった。

「駄目なら、ちゃんとペナルティー考えるけれど、正直、そんな事を考えるのも面倒くさいからな。それに他者の痴話喧嘩に首突っ込んで《恋の守護神獣・兎魔うま》に蹴られるのは、俺の趣味じゃない」

・・・だから、痴話喧嘩じゃないと言ってるでしょう。それ、わざと言ってますね。

「あのぉ、面倒ごとは厄介なんじゃ…?」

「ああ、それは安易に見逃せばの話だから、そう問題は無いだろう。忘れたのか、この世界に住む者の宿命は、『絶対なる自由』だ。『汝、望むべきを為せ』というその宿命は、《神》が人々に与えた福音であり、そして、呪いだよ」

 そう語る彼の瞳に皮肉の色が浮かぶ。

「『呪い』ですか?」

「そう『呪い』だ。望むモノの全てを許す代わりに、そこに生じるモノの全てを受け入れさせる宿命。それは『呪い』と呼ぶほうが相応しいだろう。この世界を統べる《神》は、人々に全ての自由を許した。ならば、君たちが如何なる罪を冒そうとも、そこに確かな想いや意志が存在する限り、それは許されるべきモノだという事だ」

「…」

 彼が語る言葉を受けて、彼女の表情が僅かに曇った。

「それでは、この世界に秩序は存在しないという事ですか?」

「《使徒》の一人である君がそれを俺に問うのか?」

 彼は、彼女の問い掛けに問い掛けで答える。

「それは…」

「まあ、良い。それに対する俺の答えは、既に定まっているからな」

 そう口にした彼の瞳に再び皮肉の色が浮かんだ。

「『秩序』なんてモノは、時に身勝手な支配の意志を助長する力しか持たないお為ごかしに過ぎない。『力無き正義が理想に過ぎず、正義無き力は暴力に過ぎない』、ならば、『真の正義』とは一体何処に存在し得るモノか。その答えを示した者こそが《マスター・オブ・ドリームズ》たる存在と呼ばれ、この世界に於ける真の秩序を成すのだろう」

「(彼が求める『秩序』とは、今、この世界には存在せず、これから生み出されるモノであるという事か…)」

 オレは、彼が時折見せる皮肉の正体が、この世界を知る者として抱いた絶望である事に気がつく。

「そして、俺がこの世界に見る『夢』は、その《夢喰い》の皇たる者と刃を交える事だ」

 彼の口から出た『夢』という言葉に、オレは、深い意味がある事を感じる。

 彼が世界に抱いた『絶望』を贖うモノ、それが『夢』の実現なのだと。


「さて、一応は負った務めも果たした事だし、ここら辺で俺は消えるとしよう。少年、お嬢さん、元気でな。では、さらば!」

「ちょっと、待って!」

 立ち去ろうとする彼の背中を、彼女が呼び止める。

「まだ貴方の名前を聞いてないわ」

「おっと、それは失敬! …って、それはお互い様だ」

・・・確かに。

「まあ、良い。名乗るほどの者ではないが…」

・・・それは冗談かイヤミですか?

「オレは、リアト。通りすがりの《秩序オーダー・キーパーを保つ者》だ。で、そちらは?」

「私は、シィア。見た目通りの《魔司》です」

「オレは、エイシン。修行中の冒険者です」

 其々が別れの時になって、初めて名乗り合うその奇縁に、オレ達は苦笑を浮かべた。

「エイシンか、それは良い名前だ。これも何かの縁、一つ面白い冒険者の話をしてやろう」

「ええ、是非」


 そして、彼は、語り出した。


 それは、彼曰く、『この世界で最も愚かなる冒険者の物語』。


 その冒険者は、自らの身に魔導の素質を持たず、それ故に、魔導に対する耐性が皆無である事を他の冒険者より嘲られた。

 しかし、彼には、その非力を補う二つの存在が在った。

 その一つは、何者にも負けぬ強き意志。

 そして、もう一つは、彼を常に支え続けたパートナーたる者。

 彼は、戦士として唯ひたすらに剣の技のみを磨き上げ、終にはそれを極めるに至った。

 その彼の戦い振りは、力への渇望に満ちたモノであった。

 しかし、彼の戦いの意志は、《光と闇の争乱》に於いても、人間に向けられる事は無かった。

 それは、彼が《神の武具を鍛え上げる者》と讃えられた伝説の名工・イルグオードより託された剣《真なる守護ガーディアン・ブレードを司りし者》に、力の意味を教えられたからであった。

 その《ガーディアン・ブレード》を以って、邪神と呼ばれる存在を討ち倒した《神殺し》の偉業者。

 荒ぶれる彼の戦い振りに与えられた異名は、《雷斬り》。

 そして、その真の名は、雷聖。

 後に、前人未到である全大地の踏破を以って、《冒険皇)》の英称を冠する『達成者』の一人である。


「彼のどこが『最も愚かなる冒険者』なんですか?」

 オレは、語り終えた彼へと尋ねる。

「自ら、危険を冒して生きる存在の中で『皇』とまで呼ばれるまでに至った事。そして、未だに、自分をその最高の冒険者へと導いてくれた存在であるパートナーに、素直な感謝の想いすら告げられずに逃げ回っている事がその最たる理由だな」

 彼は、そう応えて笑った。

「エイシン、この世界では、誰も自分一人では強くなれない。お前が本気で強くなりたいと望むのならば、時に共に戦う仲間であり、時に自分を磨く好敵手となるそんな特別な存在を見つけることだな」

「如何して、それをオレに教えてくれるのですか?」

 オレは、彼が手向ける餞別たむけの言葉を受けて、それを尋ねずにはいられなかった。

「それは、先刻のお前と彼女の姿が、常に無謀を好んだその冒険者とそれを支えたパートナーの二人にどこか似ていたからだ」

 そう語った一瞬、彼は、何かを懐かしむ様に微笑む。

「そうね、彼の言うとおりだわ、エイシン。皆、誰かと一緒になって強くなるモノよ。という訳で、この私が貴方の先生になって、貴方を最高の冒険者へと導いて上げましょう。光栄に想いなさい!」

「それは良い。男として責任とケジメをつける為にも、黙ってそれを受け入れておけ、エイシン」

 シィアの言葉に賛同して愉快そうに笑うリアト。

 その瞳が意地悪く『ご愁傷様』と語っているのをオレは見逃さなかった。

・・・このヒト、確信犯だ。

 オレは、彼がこの展開になる事が分かっていて、件の話をした事に気がつく。

「そうそう、諦めなさい、エイシン」

「丁度、話しも纏まった事だし、君達の邪魔をするのも野暮なんで、俺は退散するとしよう。では、エイシン、シィア、さらばだ。良い、夢をみろよ!」

・・・否、話しが纏まるも何も、最初からオレに決定権は無かったんですが。

 恨みがましく去り行く彼の背中を見詰めるオレの想いが届いたのか、直ぐにリアトが立ち止まり振り替える。

「そうだ、若し猫っぽい生き物が俺を探しに現れたら、俺は、二人の思い出の場所に居ると伝えてくれ、頼んだぞ。では、さらば!」

 リアトは、無駄に爽やかな笑みを浮かべてそう言い残すと、今度こそ本当に去って行った。


 疾風のように現れたリアトが、疾風のように消えた後、去り際に言い残した言葉の通りにそのヒト(?)は現れた。

 真綿の如き純白の毛に、ケモノの耳を持つ亜人種。

 愛嬌のある顔立ちから成るその容姿は、リアトが語ったそれが最も相応しかった。

・・・確かに、猫っぽい(納得)

「ごめんなさい、ここら辺で妙に剣の腕が立つ割に、どこかしまらない《剣皇マスター・ファイター》を見なかった?」

・・・言われてますよ、リアト(ぷぷっ!)

「リアトなら、先刻、あっちの方へ行きましたよ」

 俺は、彼が去って行った方向を指差し応えた。

 それに対し、一瞬、怪訝そうな表情を浮かべた彼女(?)は、その表情を明らかな疑いの色に染めて俺を見詰める。

「嘘、ついてないわよね」

・・・いきなり、それは厳しいお言葉ですね。

 その俺の想いが伝わったのか、彼女(?)の表情が少し和らいだ。

「彼が言っている事は本当です」

・・・師匠シィアさん、ナイス・フォロー!

「そうよね、エンくん達じゃあるまいし、嘘ついて庇う事なんてしないわよね。でも、若し、嘘だったら、…お仕置きよ」

・・・あの、笑っていない目が、スゴく怖いんですけど(冷汗)

「いや、嘘も何も、彼から貴女(?)への伝言も預かっています」

「彼は何て?」

・・・まだ、何か疑ってますですか?

「えーと、二人の思い出の場所で待っているそうです」

・・・あれ、少し違う?

「確か、そんな感じで間違いなかったわ」

 確認するように向けたオレの視線に気がついて、シィアは、思い出すように応える。

「うーん、『待っている』。これは、何かのワナ? 『思い出の地』、それってどこよ? 私を試す気かしら? うーん」

・・・『ワナ』、ですか、お二人は一体如何いう関係なんですか?

 彼女(?)は、頭を抱えるようにしてうずくまり考え込む。

「あの、考えても分からないのならば、一刻も早く追いかけた方が良いのでは?」

 シィアは彼女(?)の反応を見かねてそう提案する。

 それを聞いた」彼女(?)は、突然、すくっと立ち上がった。

「そうね、貴女の言う通りだわ。ありがと!」

 そう告げると、彼女(?)は猛然とした勢いで走り去って行った。

・・・捕獲が成功する事、陰ながら祈っております(合掌)。


「やっぱり、そうだ…」

 消えた見えなくなった彼女(?)の姿を見詰めるようにしたままで、シィアがふと呟いた。

「?」

「《秩序の管理者・リアト》、彼こそが《雷斬りの雷聖》。そして、今、彼を追いかけて行ったのが、そのパートナーである雪華さんに間違いないわね」

 シィアの言葉を聴いて、オレは、全てを納得する。

 否、若しかしたら、それを聴くまでもなくオレは、その事を分かっていたのかも知れなかった。

 その証拠に、オレの心には、彼の正体を知った事に対する驚きは微塵も存在していなかった。



 これが、後々までオレという存在に、色々な意味で大きな影響をもたらす人間たちとの最初の出逢いであった。


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