第6話 コルマ村での戦い
その光景に誰もが目を疑った。
そこには魔物達の襲撃を受けて周辺や門や壁から火の手が上がるコレル村の姿があったからだ。
今も村の周りの畑には数人の武装した村人と警備隊の人間が数多くの魔物達と戦っているが、どうみても劣勢だ。
「嘘だろ……」
誰かが力なく言う。
「これじゃあ、もう……」
それに続く言葉も力がない。
文字通り、絶望に飲み込まれている気がした。
そんな時、タローのエムジイかエムピイだったかの40が火を吹く。
見ると近い所にいるゴブリンを倒したらしい。
「まだ落ちた訳ではありません」
タローが振り向きながら言う。いつの間にか前に出ていた。早い。
「だが勝てるのか?」
誰かが悲しそうな声で言う。
「俺が居ます。ここで俺が頑張れば、まだ大丈夫です。でも俺の周辺を守ってくれる人がいないと厳しいですね」
つまり誰か着いて来てほしいという訳か。
「やれやれ。それじゃ行くか」
俺はそう言って前に進む。
コレットとガッソも前に出てきてくれた。覚悟を決めた目をしている。
「ありがとうございます!じゃあちょっと行ってきます」
タローはいつもの口ぶりで、しかしどこか高揚した様子で、小走りで村方面へ向かう。
それからはそこそこ順調だった。
タローがいつものように撃ち掛けて、コレットがガッソにゴブリンを襲わせて俺がたたっきる。
時折背後に居るゴブリンからタローが守ってくれたりと良い支援をしてくれたりする。
そんな中、タローは小型のピストル……先ほど渡されて砂にしたピストルと同じように、銃の中に回転する何かがあるが、それが何かはわからない。とりあえずズガーンズガーンと音を立ててゴブリンの体や頭に穴を開けていく。
「これはSandWM10。1899年の発売当初はミリタリー&ポリスと呼ばれてた通り、軍隊や警察でも広く使われており、日本においても他拳銃に押されてますがまだ現役な所もあるそうです」
「相変わらず意味不明な……で、なんで俺の傍にいるんだ?」
「弾を籠めているんです。これ、結構便利なんですけど弾を籠めるのが中々時間かかって……」
そういって回転する金属を少し外して、どこから取り出したのか、弾が6個入った塊のようなものを取り出して、その回転する金属にはめている。
「よし、装填完了。カジミールさんありがとうございました」
そう言ってそのピストルを腰にある専用の革袋にしまって再びえむぴい40で攻撃を開始する。
弾を籠めるのに時間がかかるとか言って俺の傍にいた訳だが、尋常じゃない程早いような気がする。えむぴい40程ではないにせよ。
そんな訳である程度敵は倒せたが、それでもまだまだ敵が多く残っていた。
「カジミールか!」
そんな中、門の手前まで行くと、ヤニックが手傷を負いながらもそう言って近寄る。
ヤニックはガキの頃からの友達でよく遊んでいた仲だ。今は警備隊に入っている。
ヤニックの後ろには数人の警備兵がいるが、大小なりの傷を負っている事から、相当な苦戦をしているのがわかる。
というか門自体が破壊されているのでその凄惨さが嫌というほど理解できてしまった。
「ヤニック!無事だったのか!状況はどうなってる!?」
「どうもこうもない!二回襲われたが、一回目から火矢を使われて壁は燃やされるわ、二回目からはかなり強いオーガが攻めてきたんだ!」
ヤニックは興奮ぎみに訴えている。
「どうにか軍勢はここで抑えられてるが、村内部にオーガと数匹入られた。何人か追ったがまだ戻ってこない……。中がどうなってるかわからん」
話をまとめると、第一陣を凌いだが、第二陣からは恐ろしく強い黒茶色のオーガが突っ込んできて防衛線に穴が開いて、そこから軍勢がなだれ込んできてご覧のように劣勢になってしまったとの事だ。
ドミニクのおやっさんは外で指揮を取っていたが、そのオーガが一直線に村へ殴り込んで行ってしまったので数人の警備隊を連れてその撃破へ向かってしまったのも仇になってしまったようだ。
しかしながら幸いに俺達が戻ってきて攻勢に歯止めがかかる形となり、どうにかなりそうとの事だ。
それでタロー、頼むから人が話してる傍でゴブリンを射殺してないでくれ。話聞けよ。というかなんだその銃、えむぴい40やスミスなんとか10よりわかりやすい形してるな。相変わらず弾を籠めなくてもいい奴だが。
「すみません。とにかく敵の数を減らした方がいいかと思って……。あ、ちなみにこれはM1ガーランドと言って小銃弾を使用した連射できるタイプの銃で……」
「いや、聞いてねぇよ」
丁度タローは門方面もといヤニックを背にして未だ乱戦が続く畑方面を向いており、ドンドンと俺達の知ってるような形の銃を連射している。
「カジミール。こいつは誰だ?」
「こいつはタロー。昨日聞かなかったのか?旅人で俺が助けられたっていう」
「ああ、例のなんだかよく分からない構造の銃のアーティファクトを使う旅人か」
「あ、すみません。構造的にはあなた方が使う鉛玉をどんぐり状にしてかつ金属で覆い弾丸化し、弾丸の底の部分に火薬と起爆剤を入れて銃の器具で起爆剤と火薬を燃焼させて発射してるだけです。原理的には同じです」
タローは言うが、相変わらず意味不明である。
「……学者か?」
「らしい」
「いえ、俺は学者ではなく……ただの旅人です。あんまり詳しくないので説明が違うかもしれません」
ヤニックの言葉に異様に反応するタロー。
いや、普通そこまで意味不明でかつ学術的な事言える奴は学者だろう。というか学者以外に何があるというのだタローよ。
「よし、とりあえず今銃内にある弾を撃ち尽くしました。強そうだったり鎧を着てるゴブリンを優先的に狙いました。これで敵は統率を失いこちらが有利になる筈です」
ズガピーンと発射と同時に何度か目の飛び出る金属の何かに少し驚くも、タローの言葉に安心する。
「あ、ああ……これでどうにかなりそうだ……だが、中にはまだあのオーガ連中がいる。追ったおやっさん達もまだ戻ってきてねぇし……」
ヤニックはタローの作業じみた支援攻撃に驚くも礼を言う。
「わかりました、では中のオーガを倒しに行けばいいんですね?」
「お、おう。そうなるな……」
ヤニックは状況を飲み込めないでいるが、とりあえずタローが強力な助っ人だと認識できたようだった。
「じゃあカジミールさん、コレットさん。案内お願いしてもいいでしょうか」
「任せろ。 御前の分まで働いてやる」
「それじゃあ、ヤニックさん行ってきます。気を付けてください」
「お、おう。頼んだ」
俺達3人とガッソは破壊された門をくぐり、激しい戦闘があったであろう村内部へと入って行った。
中では想像を絶する戦いが待っているとも知らずに…。