第4話 収穫、襲撃。そして
「開墾地の作物を収穫したい?」
「ああ、この季節はカブの最盛期だ。いくら襲撃の危機でも収穫しなければ今後の生活に支障が出る」
「だからって…この状況下で山間の新しい開墾地まで行くのは危ないんじゃ…」
「人数は15人程。お前達3人を含ませればそれなりの戦力になる」
「わかりました。すぐに準備します」
「タロー。いいのか?」
「ええ、カジミールさん達も行くのなら俺も行きます」
カジミール宅で一夜を過ごした太郎達は朝食後、警備隊長のドミニクの訪問を受けていた。
内容は山間の開墾地の作物の収穫。この状況下なので危険は多いが、それでも集団で昼間早い段階で行けば魔物たちも手出しはできないとドミニクは話す。
確かに魔物達、主にゴブリンは集団相手にはあまり手を出さない習性はある。
本来ならばドミニクも、戦力の分散と収穫部隊の襲撃など危険が多いこの作戦には難色を示すが、開墾地の所有者達の熱い要望により地元出身者としての立場もあるドミニクは無下にできずについに許可してしまうのであった。
この背景には魔物達の状態がそう切羽詰まったものではないという希望的観測と、未知とはいえ友好的な戦力になり得る太郎の存在も少なからずあったともいえる。
それに他12人もそれなりに戦える人間というのもあり、ドミニクはカジミール、コレット、太郎の三人に話を持ち掛けたともいえる。またコレットにはドルイドの能力がある為、犬のガッソも戦力として使えると踏んだのであった。
なお、ドルイドとは回復魔法と動物使いの能力を持った総称である。学術的には僧侶と動物使いの能力があるだけなのだが、便宜上そう呼ばれている。
だがこの日、彼ら三人は最大の危機に遭遇するとはこのとき知る由もなかったのであった。
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「人の通り道にはなってはいるけど山道みたいな道を馬車で3キロ弱……歩きで片道1時間ってトコロかな……。うーん……ふう。チートで反動には耐えられる体にはなってるけど舗装されてないから揺れた……」
「?何言ってるんだ?タロー。キロってなんだ?というか最後あたり聞き取れなかったんだが」
馬車で開墾地へ向かうが、道半ばからタローが何故か疲れだし、到着時にはこのように聞きなれない単語を口走るまでに疲れていた。最初は上機嫌だったのだが。
「いや、大丈夫です。それよりここが開墾地ですか?」
タローはそう一息ついて辺りを見回すと眼前に一面……とは言い難いがそれでもそれなりの面積の畑を目にして感嘆の声を上げる。
「はぁへえ……ここかあ……」
「畑が珍しいか?」
畑事態だったら村の周りにもあるから妙な話ではあるが、ちょうど現在地は開墾地全体を見通せる景色がいい場所なのでサマにはなってるともいえる。
「ええ、まぁ……」
そう照れてるように言うタロー。妙な奴である。
「ああくそ。うちの畑が荒らされてやがる」
「みろ、柵が壊されてる」
「くそ、こりゃ直すのに大分かかりそうだな」
そんな会話の横で畑の小作人達がぼやいている。確かにところどころ被害は出ている。
「日が暮れないうちに早く収穫するぞ、いくぞ!」
畑の管理人でかつ今回の隊長でもあるブロワさんが全員に声をかけて馬車を動かす。
馬車はそのまま開墾地の真ん中にある道具小屋や倉庫がある無人集落へと向かう。その建築物の通り、そこは農業道具を保管したり収穫したものを馬車に積む場所である。
着くが否や、即座に収穫作業を開始する。
「お前何やってんの?」
俺はタローがなにやら見晴らしの良い場所に小型の三脚の脚立のようなものを設置しているのに気付いて声をかける。
「魔物が来そうなところにこれを設置しようと思って…」
そういってタローは傍にある長細い鉄の筒を見せる。
それは銃というにはあまりにも大きすぎた、大きくゴテゴテしており、重そうで、そして複雑過ぎた それは正に大砲だった。と形容するしかない何かがあった。
「それは……銃……なのか?」
「はい、機関銃です。MG42です」
タローは事もなげに答える。
「え、えむじい?よんじゅうに?」
「マシーネンゲヴェーア42ともいいますが……まぁエムジー42の方向でお願いします。これは昨日使用した銃よりもかなり強力なモノですが砲ではないですね」
ちょっと待て。何言ってるかマジでよくわからない。
「相変わらず変な事言うな……」
「この能力の代償みたいな物なんです。初めて出す武器は名前や説明を口に出さなきゃいけなくて……」
ああなるほど、そういう代償か。意味わからん。
「意味わかんねぇけど、とりあえずこいつは昨日使った奴より強いって事でいいのか?」
「そうですね。ただ今はこれ一丁しか出せないので気休め程度にしかなりませんが……」
残念そうに言う、どうやら大砲に見えるがそれほどの威力は本当にないらしい。
「ないよりマシ。か」
「そもそも使う場面があればいいんですけどね、いや、ない事に越したことはないんですが」
「違いない」
俺はそう言って笑うとタローも同じく笑う、乾いてる気がするが気にしない。そうこうしているうちにタローはエムジイと言われる大砲もどきを三脚に固定してしまった。三脚は台のようだ。
「おーいカジミール。タローさん。そこに居ないで手伝って……って大砲!?」
ブロワさんが声をかけるが、やはりこの異様なデカさに驚く。
それから再びタローが説明を始める。その姿に俺は面白い奴だなあと再び思うのであった。
ブロワさんには悪いがもうしばらくだけタローと話がしたいのでここに居る。
「そういえばタロー。昨日から気になってたんだが、これらを俺らが扱うことはできないのか?」
その言葉にタローは苦い顔をする。
「あー……ちょっと試しにやってみます? はい、これ小さいですけど」
そう言って出してくれたのは小型の銃、つまりピストルであった。知ってる形ではないが、それでもなんとなくだがわかる。
「え、いいのか。ありがと……」
そう言って俺はそれを受け取った瞬間、その銃は砂になって崩れた。
「は!?」
「自分以外の人間が装備を使おうとするとこのように砂になっちゃうんです……すみません」
タローは申し訳なさそうな顔をする。
「い、いや、いいんだ……それより、このエムジイってのも俺が使おうとすると……?」
「はい、もちろん砂になるのでやめてください。そもそも一度出した装備はしばらく時間が立たないと出せないのでやめてもらえると助かります」
「お、おう。大変なんだな……」
そういいつつもタローは大量の弾のベルトが入った箱を用意してふうと一息つく。
「準備完了か?」
「はい。これで弾をセットすればOKですが、危ないのでこのままで。セット事態は2・3秒でどうにかなりますし」
そこまで言うとタローは何かを考える仕草をする。
「どうしたタロー?」
「……カジミールさん。この状態で触ってみます?」
なんだその言い方。言葉だけ聞かされると危ない感じしかしないぞ。
「え、触ると砂になるんじゃないのか?」
「そうかもしれませんが、一応実験です」
相変わらずよくわからないが、とりあえずタローの許可を得たので持てる部分を持ってみる。
持っても砂にならない。試しにそれっぽい引き金を引いてみる。何も起こらない。
「やっぱり」
タローはふむ。とばかりに言う。
「何がどうなってるんだ?というか何も起こらないんだが」
「ええ、弾を抜いてるので何も起きません……。つまりこれは弾が装填されて殺傷可能状態だと砂になる……という事です」
「つまり、この状態なら砂にならない。と?」
「ええ、まぁ今のところはどうでもいいので、収穫の手伝いをしましょう」
そう言ってタローは笑顔を見せて手伝いに向かう。
俺も後を追うように手伝う。タローの腰には昨日使用したエムピイヨンジュウなる銃が首から下がっている。
それからしばらく、俺たちはカブの収穫に精を出した。
この状況下なのでいつ収穫できるか不明なので多少小さくても収穫するので大変であった。
開墾地は中々広く、カブや野菜なども多いが、残念ながら馬車3台分しか積載できないので積めるだけ積んで後はあきらめるしかなかった。
収穫は進み、昼にはかなりの量を詰め込むことができた。
昼は固めたチーズと焼きの強い硬パンと朝に飲んだ野菜スープの残りを食べた。スープはこんなこともあろうかと塩を多めに入れといてよかった(タローと話しをしていて多めに入れてしまったのは内緒だ)
「柵、壊れてますね」
昼飯後、再び作業を開始したタローがそういう。程よい距離の壊れた柵が目に入ったようだ。
「ああ、やっぱそこから侵入したんだろうな」
俺は作業しながら答える。
「直すの大変そうですね……。鉄条網なら簡単にできるんですけど」
「てつじょうもう?なんだそりゃ」
「有刺鉄線……いえ、要は長い針金で柵の代わりにするんです」
「針金……なんか弱そうだな」
「いえ、丸めると案外やっかいなんですよ、とげとげしてますし」
「丸める……。針金を?」
いまいちイメージできない。針金を丸める……それもう針金でやる必要性なくないか?
「うーんなんというか、柵、というか棒二つあるじゃないですか、それでそれをぐるんぐるんと巻いたみたいな針金を張って…」
タローはジェスチャーを交えて説明をしだす。
「あー大体わかった。が、それで本当になんとかなるのか?」
「なんとかなる筈ですよ。針金事態はこの時代でもできる筈ですし、あとはトゲトゲさを出せれば十分いけますよ」
「この時代って……まるで未来から来た口ぶりだ……」
な。と言おうとした時、俺は気配に気づく。
「まぁ似たような所から……ってどうしました?」
タローが呑気に言うが、それを手で静止させて森を見つめる。
「何かがおかしい」
「敵襲ですか?」
タローが銃を構える。
「かもしれん。もう引き上げた方が……」
いいかもしれん、と俺がそう言おうとした瞬間、タローは発砲をする。
「いました」
発砲の最中にそう言っていた気がするが、いかんせん連射しているのでよく聞き取れない。
「敵襲ー!てきしゅー!!」
一通り連射した後、銃の長い板というか取っ手棒のようなものを交換しつつそう叫ぶ。
その叫びと共に山から角笛の低い音が響いている。おそらくゴブリン達の角笛だろう。
「逃げましょう!カジミールさん!」
タローはそう言って俺の肩に手を差し伸べる。
「お、おう……とりあえず、いきなり攻撃するのやめてくれ、びびる」
俺はそれに押される形でその場を離れ、タローと共に物置場所兼馬車待機場所へ急ぐ。
絶えずタローは敵襲敵襲と叫びながら俺と共に移動をしている。
「先ほどはいきなり発砲して、すみませんでした、でも自分もゴブリンを発見したので……」
周辺の人間も敵襲に気付いて避難を開始している為、タローは移動しながら謝る。
「だからって何もいきなり撃つことないだろ」
そう突っ込むも、タローは絶えず後ろを気にしている。つられてみると確かに柵からゴブリンが乗り越えてやってきている。
角笛も絶えず吼えており完璧に攻めてきている。
「そんな!さっきの銃撃で逃げ出したんじゃ…!」
確かに野生の動物だったらあんな音立てられたら逃げ出すのだろうが……。
「完璧に攻めてきてるぞ、これ。 おいおい……数が半端じゃねぇぞおい。もう軍隊か何かかよ!?」
特記すべきはその数だ。昨日とほぼ同じ数のゴブリン・ホブゴブリン達が柵から出てきている。
それだけではない、棒きれに模様の入った布を掲げ、まるで旗のようにして向かってくる奴もいる。完全に軍隊か何かである。
「カジミールさんは逃げ遅れた人を回収してください!俺はここで食い止めます!」
言うが否や、タローはしゃがんで銃を発砲させる。
俺は仕方なく周りを見回して助けがいりそうな奴を探して馬車待機場所へ向かう。
「カジミール。ありゃ一体なんだ?」
「あれは銃らしい」
「いや、そうじゃなくて、あいつ。タローの事だ」
「よく分からないが、チート使いで銃を出せるみたいだ」
「銃?あれが銃なのか?」
等と、足をくじいたお手伝いさん(なんかちぐはぐ)に肩を貸しながら説明をする。
「兄を助けてくれたんですよ」
そう言ってけがをしている部分を魔法で治療するコレット。
「そ、そうなのか。いつっ」
痛がる手伝い人。
タローが食い止めてくれたおかげでけが人はこの人ぐらいだし、さてそろそろタローを呼ぼうと視線をタローがいた方へ向けると、あれから場所を下げたらしく、幾らか馬車待機場所に近い場所に居た。
「おいタロー!こっちこい!お前で最後だ!」
「了解!」
タローはそう言って振り返ってこちらへ向かってくる。魔物達は半壊しているようだが、それでも何やらかなり騒いでいる。
「お前…まさかそれだけで全滅させたのか?」
それとは首から下げている銃…エムピイナントカとかいう代物だ。
「まさか。いくら俺でも拳銃弾でなんとかなるとは思ってません、まだ半壊ですよ。MG42を使います」
どうやらタローは半壊だけでは足りないと思っている。
いや、そもそもそのエムジイなんとかは気休めにしかならないんじゃないのか?
「え?でもあれは気休め程度にしかならないって…」
「それは味方を誤って撃つかもしれないって意味だったんですよ」
確かに見た感じ、射線に入れば人間はひと溜まりもないだろう、が、タロー。なぜお前はそう言ってそのエムジイナントカをいじくりまわすのだ。半壊でいいじゃん、たぶんあいつらもう逃げるよ。いやそもそもの話……。
「そもそもここからあそこまで届くのかよ?」
馬車待機場所から、魔物達が逃げ出そうとしている柵あたりまでは大分ある。詳しい距離の数字は俺が無学だから分からないが、とりあえず弓は余裕で届かない距離である。
「安心してください。ぶっちゃけこいつの射程はここから村の門まで届く計算です。あ、今から撃ちますけどすごい音なんで耳ふさいだ方がいいですよ」
「は?ちょっと意味が―」
「撃ちます」
確かに、タローは約束通り、撃つときは撃つと警告をしてくれた。しかも二回程。
確かに、耳を塞げと言ってくれた。幾らか実行に移すのが早いが。
瞬間、空気が震えた。
確かにエムピイナントカの発砲時も空気が震えていたが、これはそれの比較にならない。
一言でいえば「うるさい」。二言以上言えば「この世のものとは思えない程うるさい」である。
爆発したんじゃないか?と思ったが、目の前にはそのうるさい銃の反動に耐えるタローが居るので辛うじて爆発はしていないようだ。しかし絶えず銃口から煙が出ている。よく見なければよくわからない程の薄い煙である。
流石のタローもその轟音と反動に引き金から指を離す。
「流石にすごいな。これ」
だがタローはその威力を褒めたたえる言葉を口にすると再び引き金を引く。そしてまたうるさくなる。台ともいえる三脚の上にある銃を微妙にずらして連射している。中々器用である。
ふと弾が飛んでるであろう方角へ目を向けると、そこには着弾の煙を上げながらズタボロに引き裂かれている柵や葉をまき散らして揺れる木々が目に映る。
よく見ると逃げるゴブリンやホブゴブリン達が血の霧をあげて腕や足、頭などが消滅している。中々良い光景とは言えない。
視線を戻すとやはりその凄まじい破壊力の反動で中々必死げにしているタローの横顔が中々凄まじい事になっているが、それだけ頑張っているようだ。
ただ単に連射しているのではなく、小刻みに撃ったり撃たなかったりを繰り返している。中々思うところに当たらないらしく、舌打ちも時折聞こえるが気にしないでおこう。
数分後、弾が入ったベルトをすべて撃ち尽くすとタローはやっと深くため息をつく。
「やっぱりすごいな…これ…」
やりきった顔をして額の汗をぬぐう。にこやかな笑みともいえるが、俺とコレット以外、腰を抜かしている。
コレットは音にびびるガッソを抑えており、腰をぬかしている暇はなかったのだ。
「あっ……」
こちらを振り返り、まずいといった顔をする。
「す、すみません。柵……もっと壊してしまいました……」
たはは。と言った感じに笑う。確かにゴブリン達の侵入を許した柵が粉みじんとなっていた。いや真面目に粉みじんであった。
それだけではなく後ろの木々もズタボロで細い木はそのまま倒れ、枝もかなり折られている様だった。
そして地面にはゴブリンやホブゴブリン『だった』残骸がムザンに転がっている。
「いや、色々とおかしいだろ!!」
もうかなり突っ込みどころしかなかった。
「すみません……」
「気休め程度って全然嘘じゃねぇかよっ。まさか真面目に全滅させるだなんて気休めじゃねぇだろう!」
とりあえず、このとき俺はそのエムジイなんとかの威力に、びびり半分と驚き半分、ついでに気休めとはなんだったのかという怒り半数であった。
それにただひたすら謝るタローの姿に、腰を抜かしていた連中もすっかり立ち直り、へぇーあの大砲半端ないなぁとか言い出している。どうやら俺のおかげでどうにかタローがドン引きされるようなことはなくなったようだ。
「いや、ですからこれ大砲じゃないんですってば」
そしてタロー、説明するか謝るかどっちかにしろってば。
そんなこんなでとりあえず開墾地での戦闘を終えた俺たちであった。
だが、この戦い(というより虐殺)の裏ではとんでもない事になっていたのは知る由もなかったのであった……。
書きためていたものがなくなったので次回は遅くなります(フラグ