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銀河鉄道に夢を見て

作者: りょう
掲載日:2016/04/26

なんとなく死にたかった。

学校に行く途中の電車の中でふと死のうと思った。

おれは自分で言うのもなんだが恵まれている。

優しい両親、楽しい友達、尊敬できる人たち。みんないるけど、多分悲しませるけど。

でも死にたかった。

前々からちょっとずつ溜まっていった「自分が恥ずかしい」って気持ちが溢れて零れて、覆水盆に返らずとはよく言ったものだ。

おれは人生ゲームに失敗してしまった。息をするだけで心がじわじわ壊れていく生きてるだけで迷惑をかけている社会不適合者なのだ。


だから死のうと思った。


この電車の終点まで行って、バスに乗りつけば海へ行ける。

おれは海で死にたい、海の藻屑になってせめて魚の餌にでもなりたい。そうすれば少しでもおれが生きていてよかったという意味になるだろう。


がたんごとんと電車に揺られて、ああでも最後に今読んでいる小説だけは読み終えてしまいたい。

何度も何度も小さなころから繰り返し読んでいてボロボロになった本。

美しい言葉に艶やかな文章褪せた表紙も黄ばんだページも馴染んだ匂いも、全部宝物だ。


数時間揺られ続けて時間はもう昼過ぎ。

終点で降りて、さびれた商店街の喫茶店に入る。

最後の飲み物はアイスコーヒー。甘くないのが好きだ。

注文して席について本を開く。


小説はおれを裏切らなかった。小説だけはどんなおれも受け入れてくれた。小説は平等に人間を愛している。おれも、愛されている。

この小説の一文は死んでも忘れない。


「僕もうあんな大きな暗の中だってこわくない。きっとみんなほんとうのさいわいをさがしに行く。

どこまでもどこまでも一緒に進んで行こう。」


結局カムパネルラはジョバンニを置いて行ってしまったけれど、おれは手放さない。

それがどんなにひどいことでも一緒に行く。この美しい小説と心中するんだ。

そしてほんとうのさいわいをさがしにいく。見つけて、幸せだと笑いたい。


恵まれているのに幸せだと感じられないおれはきっと地獄に落ちるだろうけど、それでもいつか許される時が来るならば。


気づいたら夕方になっていて空は赤と青が混ざり合っていた。

バスの乗り込む。向こうにつく頃にはすでに空も黒になっているだろう。


少しうたたねをして、何か夢を見た気がした。

誰かが泣いている夢だ。可哀想な男の子が惨めったらしく死にたくないと叫んでいて、おれは耳をふさいで聞こえないふりをしていた。


ちょうど降りるバス停で目が覚めて、慌てて飛び降りた。

ああ、空は真っ暗で、でも星が爛々と輝いていた。


そのまままっすぐ海へと歩いていく、じゃりじゃりと砂浜を歩いて、だんだん早足になって、駆け出して、海へ沈んでいく。

走って走って走って、どんどん深く沈んでいく。

ああ、なんて今を生きてるんだろう!

生きていることは素晴らしい。それは死が教えてくれることだ。


ああ、海は真っ黒で深く昏い闇だ。その闇に空の星が写っている。

これじゃあまるで夜空に沈んでいくみたいだ。


ああ、なんて美しい最期。


「どこまでも、さいわいをさがしにいこう。傲慢なのはわかっている。どうしようもないやつだと言われても仕方がない。

ただおれは、これ以上恥をさらして生きていく勇気はないんだ。待っていてカムパネルラ、おれがジョバンニになってあげる。」


もう顎まで沈んでいて体が思うように動かない、服が水を含んで重い。

ドクドクと高鳴る心臓に笑みがこぼれる。

もう息もできないぐらい沈んで、だんだん苦しくなる。ああ、生きてる!おれは生きていたんだ!


波に飲まれて、星空になっていくのを感じる。

ああ、ああ、これがおれの生まれてきた意味だ。


さあ、すべての終わり。


両親へ、産んでくれてありがとう、素晴らしい人生でした。

友人へ、こんなやつと遊んでくれてありがとう、楽しい人生でした。

全人類へ、おれが息をすることを許してくれてありがとう、ゴールまで生きることができました。


もう満足だ。


おれは、幸せなまま星になる。


さよなら世界。

どうか、次に目を開けた場所が銀河鉄道でありますように。


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