ゆきやまのクマさん
「おじいちゃん!今日は どんな おはなし、きかせて くれるの?」
「そうじゃな、むかし、わしの おじいさんから きいた おはなしに しようかのう?」
「おじいちゃんの おじいちゃん?」
「そうじゃよ、わしも お前みたいに、むかしは よく はなしを きいていた もんじゃ」
「そうなんだ~、ねえ どんな はなし?」
「そうじゃな、ちょうど こんなふうに、ゆきの ふる日 じゃったそうじゃ。
小さな 女の子と 白い くまさんの はなしじゃ。
むかし むかし―――――」
むかし むかし、山の ふもとに とても のどかな 小さな村が ありました。
その村に すむ 人たちは みんな なかよしです。
その村には おばあちゃんと ふたりで すんでいる、女の子が いました。
女の子の おばあちゃんは、とっても おもい びょうきを もっていました。
「あら、たいへん!おばあちゃんの おくすりが、なくなって しまったわ!」
女の子は びょうきの おばあちゃんの ため、やくそうを とりに 山に のぼりました。
おばあちゃんの びょうきに きく やくそうは、ふゆにしか 咲いて いない めずらしい お花 なのです。
「おばあちゃん、今から 山に やくそうを とりに 行って くるわね!」
「きをつけて 行って くるんだよ?
オオカミさんや クマさんに あわない ように、きを つけるんだよ?
オオカミさんは、するどい キバや ツメで ひっかかれて しまうよ。
クマさんは、大きな からだと 大きな 口で まるのみだ。
ちゃんと ぶじに、かえって 来るんだよ?」
「わかってるわ、おばあちゃん! いってきまーす!」
「いってらっしゃい」
女の子は おばあちゃんの 手づくりの マフラーと てぶくろを みにつけて、かわいい リボンの ついた バスケットを もって、さっそく 山に のぼりました。
山は とっても 大きくて のぼるのは たいへんです。
でも、びょうきの おばあちゃんの ため、女の子は がんばって のぼります。
女の子が 山を のぼって いると 木の ねもとに 小さな お花を みつけました。
女の子が さがして いた やくそう です。
女の子は よろこんで 木の ねもとまで 行って お花を つみとり ました。
バスケット いっぱいに お花を つみおわると、女の子は ニコニコと 山を おり はじめました。
女の子は やくそうを さがす うちに 山の おくの 方へ 来て しまって いたようです。
まいごに なって しまいました。
どちらから 来たのか わかりません。
女の子は ひっしに おもい出そうと します。
「どうしましょう?」
女の子は こまり はてて しまいました。
「う~ん、こっちから 来た かしら?
それとも こっち?」
女の子は、少しだけ あるいて みることに しました。
なんじかん たったでしょう?
女の子は あれから あるいても あるいても、山を おりる ことが できません でした。
だんだん さむく なっていって います。
このまま かえられなければ、女の子は こごえじんで しまいます。
そこに、オオカミさんが やって きました。
女の子は おばあちゃんの ことばを おもい出しました。
『オオカミさんは、するどい キバや ツメで ひっかかれて しまうよ』
女の子は ブルブルと ふるえ、そのばから うごけなく なって しまいました。
女の子は もっていた バスケットを かかえこみ、すわり こんで しまいました。
おばあちゃんの いって いた するどい キバや ツメで ひっかかれないか、こわくて こわくて たまりません。
「ぐるるる」
オオカミさんは 女の子を にらんで います。
今にも おそい かかって きそうです。
「はっはっは、うまそうな おんなのこが いるじゃねぇか」
「オオカミさん、オオカミさん。
わたしを たべるの ですか?」
女の子は オオカミさんに ききました。
「ああ、お前を くってやるー!」
「きゃぁぁぁぁあああ!!」
たいへん!女の子の 大ピンチ です!
でも、おそい かかって こようとした オオカミさんは、おそい かかる とちゅうで、ピタリと 足を 止めて しまいました。
ドシン、ドシン!
女の子の うしろから 何か おとが きこえて きます。
何か 大きな ものが 女の子の 方へ 向かって いるのです!
ドシン、ドシン!
大きな おとは 女の子の すぐ うしろで きこえて います。
オオカミさんは、あわてて にげ出しました。
女の子が うしろを ふりかえって みて みると・・・
そこには 大きな 大きな クマさんが いました!!
女の子は、おばあちゃんの ことばを おもい出しました。
『クマさんは 大きな からだと 大きな 口で まるのみだ。』
今 目の前に いる クマさんの 口は とても 大きくて ほんとうに、まるのみ されて しまいそうです。
こんどこそ 大ピンチ です!
女の子の 足は ふるえて、うごかす ことが できません。
これでは、クマさんから にげることが できません。
クマさんは 女の子を ジッと みつめて います。
だけど、クマさんは おそい かかって くる ようすは ありません。
どうしたのでしょうか?
クマさんは 女の子を ジッと みつめた あと、大きな からだを うごかして 来た みちへ かえって 行きました。
クマさんは、女の子を まるのみに しなかったのです!
女の子は ホッと、ひといき つきました。
女の子の うしろの くさむらから 2ひきの コグマさんが 出て きました。
2ひきの コグマさんは、クマさんの うしろを ついて 行きました。
何とか 山を ぶじに おりることが できました。
女の子は、いそいで おばあちゃんの いる 家に かえりました。
「ただいま~おばあちゃん!」
「おかえりなさい。どうだった?
きけんな 目には 合わなかった かい?」
「あのね、おばあちゃん。実はね・・・」
女の子は おばあちゃんに 山で あったことを はなしました。
やくそうは とれたけど、みちに まよって しまった こと。
オオカミさんに 会って しまったこと。
クマさんに たすけて もらった こと。
「あのね、おばあちゃん。
わたし、クマさんに お礼が したいわ!」
「そうかい、お礼をしたいと おもうことは いいことだけど。
止めて おきなさい。
クマさんは じぶんの 子どもを 守るために オオカミさんを おっぱらったんだよ。
もし、子どもが いる前に お前が あらわれたら、こんどこそ お前は まるのみに されてしまう だろうから。
わかったね?」
女の子は おばあちゃんの いうことに、すなおに うなづき ました。
「わかったわ。おばあちゃんが そういうなら・・・」
「さあ、こちらへ いらっしゃい。
かえって きた ばかりで、ひえて いるだろう?」
つぎの日、女の子は また 山に 来ていました。
「やっぱり わたし、クマさんに お礼が したいわ。
クマさんは どこに いるのかしら?」
女の子は きのうのように、おばあちゃんの 手づくりマフラーと てぶくろを みにつけて、かわいい リボンのついた バスケットを もって 来ていました。
その バスケットの 中には、おばあちゃんに おしえて もらった、手づくりの やきたて パイが 入っていました。
クマさんに わたすのです!
女の子は はりきって クマさんを さがします。
「どこかしら?
もう少し おくの方 かしら?
行きすぎて また まいごに なったら どうしましょう?
オオカミさんに 会うかも しれないわ。
こわい……。
いいえ!ふあんに なっていては ダメよ!わたしは クマさんに お礼を するんだから!」
女の子は 手を にぎりしめて きあいを 入れました。
女の子は 山の おくの 方へ あるいて 行きます。
少し あるいた ころ、女の子は とおくの 方で 白い 大きな ものが うごくのが みえました。
「もしかしたら、クマさんかも しれないわ!
ええ、きっとそうよ!」
女の子は はしって そこへ 行きました。
くさを かき分け ひたすら 白い 大きな ものに 向かって はしりました。
サササッ
白い 大きな ものに ちかづくと 白い 大きな ものは のそりと うごきました。
まちがいなく、あのクマさんです。
でも クマさんは 女の子に きづくと はしり出しました。
「あっ、まって。クマさん!」
女の子は ひっしに クマさんを おいかけます。
でも、クマさんの 足は とても はやくて おい付けません。
「まって、ま、って・・・」
とうとう、クマさんの すがたが みえなく なるぐらいに 引き はなされて しまいました。
女の子は くるしく なって 足を 止めました。
「はあ・・・。はあ・・・。
クマさんって なんて はやいのかしら・・・。
でも、ここに 来れば 会えるのね」
女の子は あきらめませんでした。
つぎの日も、その つぎの日も、女の子は 山を のぼり、クマさんに 会うために さがして いました。
その おかげか、クマさんの すんでいる 家を みつけました。
その日から 女の子は、クマさんが 家から 出た あと、こっそり 家の ドアの前に お礼の しなを、おくように なりました。
まいにち、まいにち、女の子は 山に のぼり、お礼の しなを おいて 山を おりることを つづけました。
そんな ある日。
「やあやあ、おじょうちゃん」
「あら、あなたは だあれ?」
「ボクかい?ボクは ユキウサギさ!」
ユキウサギさんは クマさんの 家に 向かおうと していた 女の子の 前に あらわれました。
まっ白な からだに ながい お耳の ユキウサギさんです。
「ユキウサギさん、どうしたの?」
「ボクは おじょうちゃんと おともだちに なりたいんだ!
だから、おじょうちゃんに とっても いいばしょを おしえて あげるよ!」
「とっても いいばしょ?」
とっても いいばしょとは どんな ところ なのでしょう?
女の子は とても きれいな ところを おもい うかべました。
きれいな うみが みえる ところ でしょうか?
それとも きれいな お花ばたけ でしょうか?
「行って みたいわ!
でも、わたしは クマさんの お家まで 行かなきゃ いけないの・・・。
だから、おわってからで いいかしら?」
「いやだ!今から 行こうよ!
とっても いいところ なんだよ?
きっと おじょうちゃんも きに入るよ?」
女の子は とっても まよいました。
クマさんに パイを とどけたい。
でも、ユキウサギさんの おさそいが あります。
「でも・・・」
「おじょうちゃんは ボクと おともだち、いや?」
「いいえ、そんなことは ないわ!
わかった。行きましょう!」
「やったー!こっちだよ!!」
女の子は ユキウサギさんに ついて 行きました。
ユキウサギさんは ぴょんぴょんと はねながら 女の子に あんない しました。
そこは 少し ひらけた ばしょ でした。
そして 女の子が 一ばん はじめに クマさんと 出会った ばしょ です。
「ユキウサギさん、ここが とっても いいばしょ?」
「そうだよ!ここで 少し まっていて ほしんだ!
ボクが もどって くるまで ここから うごかないでね」
「わかったわ。すぐ かえって 来てね」
ユキウサギさんは ぴょんぴょんと はねて 森の おくに 行きました。
女の子は しばらく まって いましたが、
ユキウサギさんが かえって きません。
「まだかしら?ユキウサギさん。
どこかで まいごに なっていないと いいのだけど・・・」
キョロキョロと あたりを みて みるけど、ユキウサギさんが 出てくる ようすは ありません。
いったい ユキウサギさんは どこに 行って しまったのでしょうか?
ガサガサ
「はっはっは、おまえは こないだの うまそうな おんなのこ じゃねぇか」
「オオカミさん?」
「へぇ~、まさか くわれる ために、また 来たのか?」
「いいえ、ここで ユキウサギさんを まって いるのよ」
女の子は うしろに さがり ながら オオカミさんに こたえました。
女の子が うしろに さがると、あとを おうように、オオカミさんが 一ぽぜんしん します。
「へへっ、いっただっきまーす!」
「きゃぁぁぁああ!」
オオカミさんが ジャンプして おそい かかって きました。
女の子は 目を つむりました。
ササッ
ドンッ!
何かが ぶつかった ような おとが しました。
女の子は そっと つむっていた まぶたを あけました。
「クマさん!!」
女の子が まぶたを あけて みて みると、クマさんが オオカミさんに おそい かかって いました。
さっきの ぶつかった ような おとの しょうたいは、クマさんが オオカミさんを おそった おと だったのです。
クマさんの くびには お礼に あげた、マフラーが まかれて いました。
クマさんは ちゃんと お礼を うけとって くれたのです。
「はやく にげなさい!」
クマさんが 女の子に 向かって さけびました。
でも、女の子は こわくて 足を うごかすことが できません。
「へっ!女の子を たべるのは オレだ!」
「その子には おんが ある。みすてる わけには いかないんだ」
クマさんと オオカミさんは たたかい ました。
女の子は つもっていた ゆきを 丸めて オオカミさんに なげました。
「きゃん!」
それに ひるんだ オオカミさんに クマさんは たいあたりをして オオカミさんを おいはらいました。
「クマさん!」
バタン
クマさんは そのばに、たおれて しまいました。
女の子は いそいで かけよりました。
「クマさん!クマさん!」
「くぅーん、くぅーん」
しげみの 中から 2ひきの コグマさんが 出て きて、クマさんに よりそいます。
コグマさんの 手には お礼の てぶくろが つけられています。
クマさんは 大けがを しています。
コグマさんは クマさんの けがを ぺろぺろと なめました。
「い、いやよ!クマさん!しんじゃいやだ!」
女の子は クマさんに、ひっしに こえを かけます。
でも、クマさんは 目を とじています。
女の子の 目からは ポロポロと なみだが こぼれ おちました。
「おねがい!クマさんを たすけて!」
女の子は いつも もっていた ビー玉を りょう手に にぎりしめて かみさまに おねがいしました。
その ビー玉は クマさんを さがして いた ときに、ここで みつけて いたものでした。
クマさんの さいかいと お守りの おねがいを こめて、もって いました。
でも、ビー玉は 何も おこりません。
コグマさんが なめるのを やめて うしろを みました。
何かに きづいた ようです。
「コグマさん?」
女の子が なみだを ふきながら、コグマさんが 向いている ほうを みると、そこには てっぽうを もった おとこの人が いました。
女の子は その人を しっていました。
かりゅうど、という人で、どうぶつを こわい ぶきで、こうげき するのです。
「やめて!!」
女の子は クマさんの 目の 前に りょう手を 大きく ひろげて 立ちました。
バンッ!
とっても 大きな おとが しました。
女の子の むねに こうげきを うけて しまいました。
女の子は そのばで たおれて しまいました。
「く、クマ、さん・・・」
女の子は ふるえる手を クマさんに のばしました。
女の子の 前には クマさんが 目を とじたまま たおれて います。
女の子は クマさんの 手を りょう手で にぎりました。
「くぅーん」
コグマさんが 女の子と クマさんの あいだで まるく なりました。
「ごめんなさい・・・。クマさん、コグマさん。
そして―――――」
女の子は ゆっくりと 目を とじました。
――――――ありがとう・・・。
「ねえねえ!おじいちゃん!
その クマさん どうなっちゃったの?」
「コグマは、かりゅうどの 人が、ちゃんと りっぱに、そだてたんじゃ。
クマさんは 女の子と いっしょに、しんで しまったんじゃ」
「えー、何でー?何で クマさん うったのに、コグマさんを そだてたの?」
「その かりゅうどは 女の子を 守ろうと しただけなんじゃ。
こうかいした かりゅうどは、たいせつな いのちを、こんどは 守ろうと したんじゃ。
だから お前も、どんな いのちも、たいせつに しなくては いけないよ?」
「うん!わかったよ、おじいちゃん!」