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スマホ × 電車=デス・ゲーム  作者: ネームレス・サマー
悪夢の中で、彼は適応する
8/27

 歌はいつの間にか消えて、着信音も鳴り終わったみたいだ。

 その代わりにまた新たな悲鳴が聞こえてきた。

 うんざりだな。たった1日で一生分の悲鳴を聞いた気がする。

 

「いやぁぁああもう嫌っ」「部長……私はあなたの分まで生きます」

「おかあさん、泣かないで?」「ふへへ、こうじゃなきゃ面白くねえよ」


 ……半分ぐらいはこんな未来を想像していたんだろう。

 ざっと見回した限りだが、さっきに比べて間違いなく冷静な人が多い。

 一部ヤバイ奴もいるみたいだが。


「ん?」 


 スマホを見る。背景や文字の色は最初のと変わらないままだ。死をイメージさせる作りになっている。

 だが、内容はいくつか違うみたいだ。


  『ツギノゲームヲハジメマスカ?』    50


  『ハイ』          『イイエ』

 

         247


 まずは『イイエ』という部分。

 前回は『ハイ』という選択肢しかなかったのに、今回はどうも違うらしい。

 素直に考えれば、次のゲームを始めずに済むということか? 

 ……そもそも前回はゲームというゲームはしていないが。

 

 けど、どうしてだ。なぜ拒否権を与えた。理由があるはずだ。

 このままゲームを進めると賞金が貰えたりするのか。


「…………」


 スマホの画面をもう一度見てみるが、そういった記述はない。

 生き残った人には1億円、みたいな感じで書かれていると思ったんだが。

 賞金っていう説は違うか、ないとは言い切れないが。

 とりあえず保留にしておこう。


「減っているな」


 下に新しく表示されている数字。

 ついさっき見た時は300と書かれていたはずだ。

 それが今はもう減っている。無難に考えるなら制限時間か。

 俺の考えが正しいならもう残り4分弱しかない。急いで決断をする必要がある。

 『ハイ』か『イイエ』、どちらを押すべきだ。

 

 俺は自由な状態の右手を画面へと近づけ、

 

「いや」


 『イイエ』に触れかけた指を離す。

 安易に選択するべきではないだろう。何が起こるかわからない。

 幸いもう少しだけ時間はある。冷静に事を進めるべきだ。


「変わらずか」


 周囲を伺いつつ、ロングシートに2つのスマホを置いた。

 1つは光宙(そら)のスマホ、もう1つは先程拾ったスマホだ。

 2つの画面には大きな変化はなく、


 『   死亡   』    50


 と書かれていた。

 数字だけは生存者のスマホと同じように変化するらしい。

 ……何となくだが、この数字の意味がわかってきたぞ。

 推測が当たっているのなら、あまり価値のない情報だな。

 辺りを見回す。変わらず騒がしいが、スマホを触っている人はいない。

 この分だと選択を行った人はまだいないのだろう。皆意外と慎重かつ冷静だな。


 嫌な展開だ。

 もっと動いてくれないと判断できる材料が足りない。

 『ハイ』か『イイエ』どちらが俺にとっていい選択なんだ。




「ふう」

 

 収穫という収穫はなしか。

 少しの間周囲を観察していたが、大きな変化は見られない。

 スマホの方も同様だ。特に変化はなく、数字だけがただ減っていくのみだ。

 

 2つのスマホを仕舞おうとしたところで、強い光を発する青白い球体が目の前に突如現れた。

 これは……さっきアイツの首の前で見た光と似ている。あの光よりも色は濃くなっているが。


「なんだ、なんなんだ」


 俺は驚きのあまり、つい立ち上がってしまった。

 どう考えてもこれは普通の光じゃない。スマホの上に出現しているが、関係はないだろう。

 クソッ、あの声にしろ、この光の球体にしろ、俺だけが感じている幻覚や幻聴じゃないよな。

 ……そうだ。


「すまない、そこの人」

「なんすか?」


 俺は近くのチャラそうな男の肩を叩いたあとに、声を掛けた。

 

「見えるよな、あそこに浮かんでいる青白い光の球体。なんだと思う?」


 球体がある部分へ、指を差しながら問いかけた。

 俺の声はいつもと変わらない。冷静なはずだ。

 

 男は首を傾げながら困惑の表情を浮かべたあと、確かにこう言った。


「はぁ? いや、見えねえけど……」


 そんなわけがない!


「もう一度! もう一度しっかりと見てくれ。あるはずなんだ!」

「ちょっ、おい!」


 彼の手を引っ張り、球体に手が届く距離まで連れてきた。

 ここなら間違いなく見えるはずだ。


「ほらっ、目を大きく開けてしっかりと見ろ!」


 俺はまともだって言ってくれ!


「だから見えねえっつてんだろ!! いい加減にしろ、頭おかしいんじゃねえの」


 血の海へと唾を吐き捨てながら、彼は俺の手を離れていった。

 暗い車内でひたすらに存在感を放つ光の球体。まるで救世主が現れたかのような輝き。

 だが、それは俺にしか、

 

「ッハ、ハハ」


 見えないのか。

 俺以外にこの光は。声も!

 

「…………」

 

 祈るような気持ちで辺りを見回す。

 球体が視界に入っている人間は何人かいるが、誰も気に留めてはいない。

 ああ、そう。


「…………」


 視界を下に落としながら、眉間に右手を添える。

 俺の頭もいつの間にか逝かれていたらしい。あの女のように。


「これで真の厨二病患者か」


 昔のようなお遊びじゃなく、本物の。

 それこそ檻のある病院に入らなきゃいけないような存在になってしまったらしい。


「ハッ」


 天井を見上げながら、思い出す。そりゃおかしくもなるよな。

 目の前で親友が首をはねられて、誰とも知らない血を全身に浴びせられて。

 その上狂ったキチガイ女に殺されかけたんだ、おかしくもなるさ。


「クソッが!」


 目の前の球体を右手で殴り払う。

 当たらない。

 当然だ、自分が見ている幻覚なのだから。


「なんなんだよ! おまえっ!」


 俺が散々悩んで望んだ時(中学時代)は見えなかったくせに。

 どうして望んでもいない時に出てくるんだよ。消えてしまえ!

 もう一度殴りつける。そうすると、


「消えた?」


 青白い光の球体は消滅した。

 はっ、ははそうだよな。俺が生み出したものなら、俺が望めば消えるはずだ。

 

「あっ」


 球体が消えおかげで、頭が急速的に冷えてきた。

 だが、そのせいで気づいてしまった。周囲の目に。


「ち、違う」


 やめろ! 心の中で声が叫ぶ。現実(くち)ではとてもじゃないが言えなかった。


 あの目を見てみろ。

 人を人だと思っていない目がいくつも俺に向けられている。

 あれは獣を見る目だ。


 違う。


 そんなに優しいものじゃない。

 あれは無機物を見る目だ。生き物であることさえ認めていない。


「怖いわね、あっちに行きましょう」「うわっキモ、写真で撮れればな~」

「こういう時は無視に限るな」「ああ、あんなものに構ってる時間はないよ」

 

 皆がどんどんと俺から遠ざかっていく。

 どうにかしないと、どうにかしないとまた。


「俺はまともだ、おかしくなんてない! 話せばわかるんだ!」


 ボディーランゲージ――――全身を使って訴えかける。


 だが、逆効果だった。

 一部の留まっていた人すら足早に消え、周囲には誰もいなくなった。

 汗がこぼれ落ちてくる。頭から顔から、(地獄)へと向かって。


「…………」

 

 暗闇の中、ロングシートに置かれた2台のスマホの光だけが辺りを照らしていた。

 それが無性に気に食わない。むかつく、壊したい。


「フンッ!」


 床に1台思いっきり投げ付ける。

 鈍い音と液晶が割れる音が混じり合い綺麗だった。

 芸術とはこういうものなのかもしれない。


「……」


 もう1台を投げつけようとして、出来なかった。

 

「はは」


 シールが貼られているせいで安っぽく感じられる外観と手触り。

 それに反して、スペックは良いらしい。

 使いこなせていたとは思えないが。


「光宙」


 今日何度目だろう、アイツの名前を呼ぶのは。

 もう10回は超えていそうだ。


「なんで死んじゃったんだ」 


 普段は殆ど呼ぶことはないアイツの名前。

 呼ぶ必要なんてなかった。互いに相手の事がわかりあえていたから。

 やることなすこと、何となく予測することができた。

 だから、必要なんてなかったんだ。


「あーあ」


 自分のスマホを取り出し、残り時間を見る。

 3分弱か……このまま死ぬのもありかもしれない。

 光宙が死に、周囲には無機物として見られて……先の人生に幸せがあるようには思えない。


 人の多く集まっている方へ視線を向ける。

 向けて、


「ザマーねえぜ! あいつが死にやがった。

 散々人をコケにした罰だ!」




 

 

 

 


 

 

驚異のぞろ目率

これが私の力…!

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