親友は言った、お前のせいだと
今日中にもう一話更新します。
「ありえないだろ……こんなの」
まるで地獄だ。
「おえっ」 「吐くんじゃねえよ、このクズ!」
「いやあああああああああああああああ」「ケンタ……ケンタはどこ?」
「ぶ、部長! 早く警察に連絡しないと!」「ひゃはあアハハハハヒイィイィ」
「おかあさん、おとうさん、こんなところにボーリングのたまがあるよ?」「触っちゃダメよ!!」
車内には血の匂いと悲鳴が溢れかえっていた。
何か言っているがちゃんと聞き取れない。まるで豚の鳴き声のようだ。
屠殺場にいる豚が必死に命乞いをしてるようにしか聞こえない。
悲鳴のする方へ視線を向ける。
ぼんやりとしているが姿形は確かに人だ。耳がおかしくなったんだろうか。
頭を左右に振る。
現実的じゃない。まるで映画の中だ。
もしくは中学生の頃にした妄想の中だ。無意味に血が出てくる馬鹿な世界。
ありえない。
寝不足のせいでこんな馬鹿な妄想を。
瞳を閉じようとすると左肩に重く生暖かい感触がのしかかる。
何だろうか、視線を向けるとそこには首なしの死体があった。
「所詮妄想だな、こんな綺麗に首だけ切れるはずがない」
俺の隣にある首なしの死体は何も言わず俺を見ている。
全身から血飛沫をあげながら、俺を見ている。
いや、錯覚だ。目がないのだから見ることなんてできない。
ぴちゃ。
水が滴り落ちるような音がした。
俺はその音につられて床を見る。暗くてよく分からないが何か液体が落ちている。
……水ではないだろう。
時間が経つごとに血の匂いが強くなっていく。
「……っ」
吐き気を抑えるため口を左手で塞ぐ。
そして気づいた。
俺の左手は血で真っ赤になっていることに。
「う、ぺっ」
口の中の血を吐き出す。
真っ赤になっているのは左手だけじゃなかった。
俺の左半身は液体で濡れきっていた。なぜ気づかなかったのだろう。
体だけじゃない。今座っている緑色のロングシートも恐らく血で……
「妄想ならもう充分だ! 早く覚めてくれ」
……何も変わらない。
叫びは悲鳴にかき消されてしまった。
ああ、こんなリアルな妄想ありえないよな。これは現実か。
「じゃあっ……」
これが現実で今までのことが全て事実だとしたら……!
俺は反射的に左肩によりかかった首なしの死体を払いのけてしまった。
汚らわしいものを振り払うかのように。
「光宙……?」
体を大きく動かしたためか、急速な速さで脳が動き出しこれを現実だと捉え始めた。
そのせいで、知ってしまった。
俺が振り払った醜く汚い死体は光宙のモノだったということに。
「光宙!」
立ち上がり、床に落としてしまったた親友を見る。
血溜りの中で首のない死体は佇んでいた。
これが光宙だってのか……顔がないせいで信じきれない。
吐き気を抑えながら親友であろうものに近寄る。
目が暗闇に慣れてきたせいか、服装がぼんやりと見えた。
あぁ……。
こんな小学生が着てるようなシャツ、お前ぐらいしか着ないよな。
「クソッ!」
俺がもっと早く止められてれば!
わかっていたはずだ、アイツには警戒心がないってことは!
迂闊すぎた……クソ。
「すまない」
手で顔を隠し、頭を振りながら、唯一無二の友達に謝った。
意味のない謝罪だ。自己満足以外のなんでもない。
お前の親になんて言えばいいんだ……。
「お前以外に誰に下ネタを言えばいいんだよ」
知ってるだろ? 俺は女子だけじゃなく男子にだって格好付けて生きてるんだぜ。
お前が死んじゃったら、心を許せるやつがいないじゃないか。
なあ、お前本当に死んだのかよ。
約束しただろ。一緒に海行ってナンパして、あとは大学に一緒に行く。
それなのに、わけわかんねえ。さっきまでくだらない話をしてたってのに。
「…………」
いや、死んだんだ。
それを受け入れるしかない。
この世は理不尽だらけだって、誰かが言ってたな。
「ふっ……」
熱くなった頭はどんどんと冷えていった。
我ながら酷い人間だな。もう自分が生き残るための方法を考えている。
親友だったとはいえ、死んだ奴のことを考る必要はないと脳が訴えてくる。
「その通りだな」
自分が生きることがまず第一だ。
光宙のことについて考えるのはその後だ。
俺は顔を上げ立ち上がろうとした時――――
床に転がっている生首がこちらを見つめていた。
錯覚なはずだ。
「あっ、あっ、」
そう頭では判断しても足が自然と後ろへ動いてしまった。
そして光宙はがらんどうな目をしたままこう言ってきた。
“蒼汰が俺を殺したんだ”と
「あっッあああああぁああああ」
叫び声だ。誰のだろう。
頭が割れるように痛い。目の前が夜をも飲み込むような暗さで支配されていく。
もういいしのう。
光宙が死んで、俺が死なないなんて理不尽は許されない。
すまない、すまない、すまなかった。許してくれ……