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スマホ × 電車=デス・ゲーム  作者: ネームレス・サマー
悪夢の中で、彼は適応する
13/27

悪魔の方へ

「どうしてだ……!」


 勝った、勝ったはずなのに!

 いや、まだ決まったわけじゃない。もう一度確認してみよう。


「…………」


 菊池さんの口元、心臓に耳を当てていく。

 が、さっきと変わらないままだ。呼吸は確認できないし、心臓も動いていない。

 つまり、

 

 “死んでいる”


「わけがわからない」


 フラつく頭を手で抑えながら、ゆっくりと思い出す。

 どうして死んでしまったんだ。俺の気持ちはどうなる……!

 大切にしたいと思ったのに! 


「はっ」 


 狂った世界じゃそんなもの意味がないっていうのか……。




     ◇




「よしっ!」


 勝利だ。

 俺は菊池さんにガッツポーズをする。

 彼もそれに応えて、立ち上がりながらガッツポーズを返してくれた。


 ――――この気持ち、これで良かったんだ。

 俺は瞳を閉じながら、今の気持ちを大切にしたいと思った。

 って今は自分より菊池さんの事だな。ゆっくりと目を開き、彼を見る。


「よかったですね、画面見ますか?」

「ええ……本当に良かった。これで……

 あっ、もしラウンド4もあるようでした、またお願いしていいですか?」


 スマホを渡そうとする左手を一度止め、膝の辺りまで引っ込める。

 そして、空いている右手を胸に置きながらハッキリと言った。


「……勿論です。ここまでやって、投げ出すなんてことはしませんよ」


「ありがとう、君に頼んで良かった」

 

 菊池さんは俺の目を真剣に見つめたながらそう言い、頭を下げてきた。

 この人も狂っているな。色々な意味で。


「……」 


 俺は頬をかきながら、次のラウンド分はタダにしておきますよ、と言った。

 蹴り飛ばした分はこれでチャラにして貰おう。


「じゃあ、スマホを1度渡しますね」

「頼むよ、あっ、あと泣いていたことは忘れてくれると嬉しいんだけど」

「ははっ」


 笑って濁す。忘れるなんてとんでもない。

 弱みとしても使えるし、何よりあの叫びがなければ俺はあなたを助けなかった気がする。

 だから忘れるなんて事はできないだろう。

 

 そう思いながら、俺は引っ込めていた左手を彼に向けて差し出す。

 菊池さんはそれを受け取ろうとして――――苦しみだした。

 スマホは宙を舞い、床へと衝突する。


「…………ッ……ハっ」

「菊池さん? どうしたんですか!」


 傍から見ると、自らの両手で首を絞めているように見えた。


「ッ! ……」

 

 彼はさっきと同じように床へ倒れ伏した。

 明らかにおかしい。 


「菊池さん!」


 俺は急いで彼の元へ近寄る。

 彼は床に倒れてもなお、自らの首元を締めていた。

 ――――いや、違う。近くで見ると彼は決して首を絞めてはいない。

 何かしらの現象で呼吸が出来ないから、つい自然と首元に手を置いているだけだ。


「クソっ、どうすれば」


 考えている内にも、菊池さんの顔は青白くなっているように感じる。

 折角助けた命なのに、死ぬなんてやめてくれ!

 俺は心の中で身勝手なことを叫びながら、呼び掛ける。


「菊池さん、苦しいんですか!?」


 2度、3度と繰り返し声を掛けると、彼は首を僅かに縦に動かした。

 やはり苦しいんだ、俺はそう分かると否や彼の両手を首元から外そうとしたが、力が強い。


「喉に何か異物が詰まってないか確認しますから手をどけて!」


 そう言うと彼は猛烈な勢いで首を振り、何処かを指差す。

 そして、


「その――――! …………」


 何かを言おうとして、動かなくなった。




「きくちさん……?」


 頭の中が白くなっていく。

 体は自然と菊池さんの心臓付近へと近づいていった。

 認めたくない、認めたくない、と心が淡々と言い続ける。

 それでも体は勝手に動く。俺は心臓に耳を置いた。


「動いてない」


 嘘だ。

 自分の頭を床に叩きつける。

 心臓の音が聞こえなかったのは、自分の耳が悪いせいなんだ。

 俺にはわかるぞ。


「…………」


 髪に血がこびりつくのを感じた。

 元々血で汚れていた髪は、更に赤黒く染まっていくのだろう。


「生きてる、生きてる、生きてる」


 呪文を唱えるように、何度も呟く。

 生きてないとおかしい、死んでいるなんて許されない。

 そう信じながら、俺はもう一度彼の心臓に耳を置く。


「…………」


 口元に耳を置く。


「うそだ」


 “死んでいる”


 菊池さんは紛れもなく死んでいる。

 ゲームをクリアしたはずなのに、死んでいる。

 嘘だ、嘘に決まっている。

 俺は床に落ちた彼のスマホを拾い上げ見ると、


「動いてない」


 落とした衝撃で壊れてしまったのだろう。

 画面は黒くなっていて、ウンともスンともいわない。

 持ち主と一緒に逝ってしまったのだろうか。


「は……は」


 フラつきながら立ち上がる。

 そして彼を見た、認めた。


「死んでる」


 顔は青白いを通り越して紫色にすら見える。

 目は瞬きをする事はなく、永遠と開いたままだ。

 腕や足も力を失い、動く気配がない。


 これで生きているのなら化物だ。

 だが、化物でもよかった。生きていてくれるなら。 

 生きてさえいれば、自分のあの時の気持ちを肯定することができるのだから。




     ◇




 俺はいつの間にかロングシートへ腰掛けていた。

 座っているとあらゆる所から音楽が流れている。バラード系の曲みたいだ。

 もしかしたらラウンド4が始まったのかもしれない。


「どうでもいいな」


 そう、俺にとっては関係のないことだ。

 なぜならもう俺はクリアしたから、生きることが確定したから。


「ヒャッはははははァは」


 きくちぃ? そんなのどうでもいいのに俺は何を気にしていたんだか。

 自分さえ生きていればそれでいい! 周りの人間なんて全員死ぬぐらいが丁度いい!

 他人なんてクソくらえ。助け合いの精神なんて滅びてしまえ。


「あーあ」

 

 どうしようもない、今までの迷いはなんだったのだろう。

 一瞬感じたあの気持ちはどこへ行ったのだろう。わからない。

 きっと幻だったのだろう、嫌な幻だった。


「ふっ」


 頭を振る。

 俺を無駄に苦しめて、いたずらに時間を浪費させた幻。

 もうあの気持ちを感じることはない。断言できる。


「まっそんな気持ちを告げる相手すらいないけどな」


 静かな音楽が耳を通り過ぎていくのを感じながら、黒い窓を見つめる。

 最初と変わらないままだ。窓越しの世界を映さない。

 そして俺の姿も映らない。何も見えないのだ。

 どこへ行くのだろうか、この電車は。どこへ行くのだろうか、自分は。

 終点へと到着するのか、はたまた天国や地獄にでも着いてしまうのだろうか。

 わからない。ただ1つだけハッキリしていることがある。

 それは、


 俺の気持ちは決して変化しないということだ。

 ここにある血と数多の死体に誓おう、俺は真の“エゴイスト”になると。




「いい曲だった」


 どうしようもない悲しみと怒りに立ち向かう、少年のお話。

 静かな音の中に力強さを感じる歌だった。

 まぁ、そんなことはどうでもいい。音楽が消えたということは――――

 自分のスマートフォンを取り出し、画面を見る。予想通りだ。



 『ツギノゲームヲハジメマスカ?』  20


  『ハイ』          『イイエ』



 何十人ものうめき声をBGMにしながら、迷わず『ハイ』を押した。

 さぁ、生き残ろう。






 

 

ここまでお読み頂きありがとうございます。

実はタイトルが前の話と繋がっておりました。

書きたいことは後ほど活動報告に書きます。

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