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磨き屋  作者: 菊池
日常
4/5

新しい仕事

僕は彼女の店で働くようになってから、僕も人の大切なものを磨くことになった。

基本は指輪、ネックレス、ピアスといった装飾具や宝石といったものだ。

さすがに素人の僕にお客さんのものを磨かせるわけにはいかないらしく、彼女に

「とりあえず練習。これを磨いて」

そういわれ様々なものを渡されている。今磨いているものはルビーだ。これなら初心者でも

磨きやすい、とのことらしい。僕は彼女から教わった磨き方でそのルビーを磨いていく。

このルビーはもちろん客のものではない。彼女のものだ。彼女はたくさんの宝石や装飾具を持っている。なんでこんなに持っているのかはよく分からない。

今度、暇な時にでも聞いてみるとしよう。


そんな彼女も今、宝石を磨いている。しかし僕とは違い、ちゃんとしたお客さんから頼まれたものだ。僕は少し手を止め、彼女が磨くのを見る。

準備してあるブラシ、布、洗剤で慣れた手つきで磨き上げていく。上にかかげ、あらゆる角度から宝石を見る。満足いく出来ではなかったのか少し眉をしかめ、もう一度作業台に向かい磨き始めた。途中、僕の視線に気づいたのかふと手を止める。


「なに手を止めているんですか。自分のを磨いてください」

そう、彼女に怒られる。

「いや、磨き終わったからさ。見てもらおうと思って」

「そうですか、では見せてください」

磨き終えたルビーを見せにいく。彼女はそれを受け取り、あらゆる方向から眺める。

あからさまに不機嫌な顔になる。


「まだまだですね。こことここがいまいちです」

僕にとっては満足いく出来だったのだが彼女にとっては全然だめだったようだ。

どうやら磨き直しのようだ。彼女はだめな所を僕に説明し、そのルビーをつけ返してくる。

僕も再び作業台に戻り、彼女に指摘された所を磨きなおす。



しばらく沈黙が続く。この静かな店で僕と彼女の宝石を磨く音だけが聞こえている。

さっき気になったことでも彼女に聞いてみるとしよう。黙って磨きなさい、とか言われそうな気もするけど。

「そういえば、たくさんの宝石や装飾具とか持っているけど、どうして?」

「喋っている余裕があるのならもっとしっかり磨いてください」


想像していた言葉が返ってきてしまった。再び沈黙……

しかししばらくすると彼女の方から口を開いた。

「私が持っている宝石や装飾具の大抵はお礼として貰ったものです。後は私が貯めたお金で買ったものです」

なるほど、お礼として貰ったものなのか。しかし貯めたお金で買ったものとはどういうことだろう? まあ、彼女も女の子だ。宝石やそういったアクセサリーが好きでも何もおかしくない。

「やっぱり宝石とか好きなの?」

そう聞いてみる。だけれど僕の考えた答えとは違う答えが返ってきた。

「いえ、別に」

「あれ? じゃあ何で買っているの?」

「磨くために決まっているじゃないですか」

彼女は何当たり前のことを聞いているのだ、そんな顔を僕の方に向ける。

ということはひょっとして倉庫にあるよくわからない石は彼女が買ってきたものなのだろうか。

「ひょっとして買っているのって倉庫にある石?」

「はい、それです。それを磨いて綺麗にしたり加工して色々作るのが楽しいじゃないですか」

倉庫にあったあの石は宝石の原石で彼女が磨くために買ってきたものだったのか。

謎が一つ解けた。

「また手が止まっていますよ」

そう言われ再び磨き始める。彼女も手が止まっていた気がするのだが。

彼女は何知らぬ顔で次の宝石を磨いていた。こ、この野郎……


「すいません、仕事を頼みたいのですが……」

おっと、どうやら次の客が来たようだ。


さて、この客はどんな大切なものを頼むのだろうか。


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