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磨き屋  作者: 菊池
日常
3/5

少女の話

私は自分の大切なものを探していた。それが私と彼女との約束だからだ。

しかしその為にはどうすればいいのだろう、そう悩んでいた時ある人からこう言われた。

「それなら他の人の大切なものを学んでみたらどうだい?」


それから私は彼女の家で『磨き屋』を始めた。人の大切なものを磨く店。これなら人の大切なものを知ることができる、私はそう思った。それをその人に言うと

「そうかい、面白いじゃないか。応援しているよ」

そういって必要なものをそろえてくれた。それから私は店を始めるために必要なことを学び始めた。初めは客も少なかったが少しずつ増えていった。


私はいつしか磨く事に夢中になっていた。

今日も私は磨き続ける。それらは私が磨くともっと綺麗になる。私はそれがとても嬉しい。

だから更に新しいものを磨き続ける。その内、私は不思議な力が身についた。

人の大切なものからその人の思い、記憶を読み取れるようになった。


私はその力が身についたことが少し嬉しかった。その力のお陰で私はそのものが大切な理由も感じられるようになったから。そしてそれは自分の大切なものを見つけることにつながりそうだったから。



それからも私は磨き続けた。もちろん大切なものを見つける、という目的もあるがそれよりも磨く事が楽しかったから。そうしている内に、私の店は有名になっていたようだ。

次第に客も増え、たくさんのものを磨く依頼が来るようになった。嬉しかった。更にたくさんのものを磨く事ができるから。

変な客も来るようになった。何か大切なものを持ってくるがそれを磨いて欲しいのではない。それを持っていた人との思い、記憶、そのようなものを磨いて欲しいと言ってくる。形として存在しないものをどうやって磨けというのだろうか。

仕方なく大切な人から貰った、その人が持っていたというもの、の思い、記憶とかをその客に見せた。そうするだけで大抵の客は満足して帰って行った。


その客の中に私の所で手伝いたい、という客がいた。もちろん私は断った。この店に二人もいらない。私だけで十分な。だけれどその客はなんども私の所に頼みにくるのだ。私はその客に聞いた、どうしてそんなに手伝いたいのかと、その客は

「僕の大切なものはもういない。帰ってくることもない。せめて彼女の願いを叶えたい」

彼女の願い、たしか彼が持っている青い宝石の着いたネックレスの持ち主だっただろうか。


「彼女の願い……?」

「ああ、それを叶えるためにもさ。それに僕と同じような人を助けてあげたい」


結局、私は彼がここで働くことを許した。なぜ許したかは分からない。ただ、彼の大切なものは今、存在しない。けれど彼はそれをまだ大切なものとして持っている。

それが気になったのかもしれない。

彼はここで働く事になったが彼は基本的な磨き方さえ知らなかった。仕方がないので

私が一から教えることにした。彼に私が持っているものを渡し、磨き上げたものを私が確認する。


「これでじゃあ、だめなのか?」

「全然だめです。磨きなおしてください」

彼は不服そうに自分の作業台に戻る。けれど、彼は再び懸命に磨き始める。いつも私一人の磨く音しか聞こえなかったこの店に二人分の磨く音が聞こえる。

私は一人で寂しいと感じたことはなかったがこんな風に二人ですごす日々も悪くない、そう思った。


私はまた磨き続ける。

がちゃり、と扉の開く音がする。


「こんにちは~」

新しい客だ。さて大切なものは何だろうか。


「貴方の大切なものはなんですか?」

いつも通り私は客にそう問いかける。


いつか私は見つけられるのだろうか。私自身の大切なものを。

私はいつか彼女との約束を果たせるのだろうか。


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