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磨き屋  作者: 菊池
日常
1/5

彼女の一日

今日もひたすら磨く。もう、昼食も食べ、日が一番昇っている時間。最近は宝石だけではなく、靴、指輪やネックレスなどの装飾品なども磨くようになった。とはいえまだこの店に来る客のものを磨いているわけではない。

この少女のものだ。この少女は磨くだけでなく色々なものを作っている。いま僕が磨いているものも彼女が作ったものだ。初めに聞いたときは凄く驚いた。普通こんな幼い子が作れるとは思わない。そんな彼女は今、

「んぅ……すぅすぅ」

と、作業台で静かに寝息を立てながら寝ている。手にはいま磨いていたであろう宝石を持ったままだ。最近、ずっと忙しかったし疲れが溜まっていたのだろう。僕は自分の作業台から立ち上がり彼女の所に行き、手から宝石を取りそれを業台の端に置く。毛布を彼女にかける。



ここで彼女と僕の生活について振り返ってみるとしよう。

僕はいつも朝九時ぐらいにここにくる。その頃には

彼女はもう既に作業台で何かを磨いている。

「おはよう」

「おはようございます」

そういってそれからは僕も彼女もずっと作業台で磨き続ける。彼女はたまに磨きあげたものを眺め、満足気な顔で棚に戻し、新しいものを磨き始める。その間、会話はほとんどない。

せいぜい僕が彼女に磨いたものをチェックしてもらうときぐらいだ。

客が訪れたときは彼女が対応する。特別な依頼の時は僕も呼ばれるが、それ以外の時は

自分の磨くものを磨いている。


昼になったら彼女が作業の手を止め、昼食を作り始める。僕も手伝おうとするのだが彼女に、

「貴方は手伝わなくていい。邪魔」

いつもそう言われ追い出されてしまう。そうして僕と彼女二人で昼食を食べる。

それからは再び、朝と同じように二人で様々なものを磨き始める。


それからは朝と同じだ。

彼女はとにかく磨き続ける。客が来たら対応する。僕はひたすら彼女から渡されたものを磨き続ける。そうしている内に夕方となる。

それから彼女は夕飯を作り始める。だいたい僕も夕飯を一緒に頂く。昔は自分の家に帰ろうとしていたのだが彼女に呼び止められる。

「どうせだし食べていって」

帰ろうとする度にそう呼び止められるので食べていくのが普通になってしまった。

彼女も一人で寂しいのだろうか? とはいえ僕も家に帰っても一人なことには変わらない。

それならここで一緒に食べていった方が僕もいい。

それから僕は家に帰るか、そのまま彼女の家で21時ぐらいまで作業を続ける。

彼女もずっと作業を続けている。


それから僕が家に帰ってからは彼女が何をしているかは分からない。

恐らく彼女は作業を続けているのだろう。一体何時ぐらいまで作業を続けているのだろうか?


こうして僕と彼女は一日を終える。未だに彼女には謎が多い。なんでこんな仕事をしているか、親はどうしているのか。知っているのは彼女が自分の大切なものを探している、ということだけだ。


まあ、そんなことは関係ない。僕は彼女のお陰で大切な人を悲しませることがなくなった。

僕は彼女に再び会うことができた。その恩を少しでも返すだけだ。


「ん……? おはようございます」

どうやら目を覚ましたようだ。

「おはよう」

彼女は眼をこすり、眠そうにあくびをする。そうして端に置いていた宝石を手に取り再び磨き始める。

「もうそのまま寝たら?」

「いえ、作業を続けます」

そうして彼女は宝石を磨き続ける。僕も自分の作業に戻る。


こうやって彼女の大切なものを磨く日々は続いていく。

いつか彼女の大切なものは見つかるのだろうか。


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