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魔王が求める平穏生活?  作者: アバン
第二章 学迷都市編
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第08話 新しいお友達を紹介します

 「やれやれ、ひどい目にあった・・・」


 学迷都市シャザラーンに着いてから2週間。イースは初めて学園の校舎内を歩いていた。ここ2週間はあの変態女医・・・マギサの監視下におかれ、保健室から一歩も出れなかったのだ。


 「あの女医も変な薬ばっかり試しやがって・・・何が医学への貢献だ。人体実験じゃないか」


 その人体実験のおかげか予想よりも早く治ったようで、そこだけは良かったかもしれない。もっとも、夜中中笑が止まらなくなったり、全身がしびれて動けなくなったりもしたのだが・・・もうあの女医(マギサ)の世話にならないように、封印の解除はしないと心に決めた。


 「で、俺の教室はどこだ・・・無駄に広いんだよなぁ、ここ」


 寝たきりの入学を果たした俺は、今初めて自分の教室に向けて歩いていた。

 学校というのは前世を含めても初めてだが・・・どうやら核となって自分が所属する教室があり、そこから自分の希望に合わせて希望の授業を取っていくスタイルらしい。選んだ科により教室や授業内容は異なるらしいが・・・まぁ、商人科なら座学が中心だろう。


 「自慢じゃないが計算もできるし、卒業はできるだろう・・・っと、ここか?」


 目の前には「キーリス教室」と書かれたプレートが掲げられた部屋があった。入学案内を見るに、ここが俺の所属する教室らしい。


 「2週間遅れだが・・・まぁ何とかなるだろう」


 授業内容についてはさほど心配していない。2週間程度で前世の知識量を上回る授業があるとは思えないからだ。むしろ、こういった閉鎖的な空間での人間関係は面倒そうである。

 絡まれたりすると面倒だしなぁ。この髪色もあるし。まぁ、突っかかって来たなら突っかかって来たで、身体に教えるだけだが。

 案ずるより産むが易しとイースは俺は教室のドアを開ける。こんな事で気後れしていたら前世で冒険などしていない。


 「それで、ガインの奴がさ・・・お?」

 「ちょっと、やめなさいよ、人の失敗を・・・ん?」

 「今日のお昼は何かにゃ~・・・うにゃ?」


 イースが教室のドアを開けると、中に居た生徒の目が一斉に集まり、若干の喧噪に包まれていた教室が静かになる。

 どうやら見慣れない闖入者を図りかねているようだ。


 「ふわぁ・・・綺麗・・・」

 「銀髪・・・?珍しいな」

 「うにゃぁ、忌み子ってやつだにゃぁ」

 「忌み子?あぁ、あの迷信だろ?」

 「いやぁ、うちの村では・・・」

 「っていうか、誰だ?あれ」

 「新しい先生・・・な訳ないよな、どうみても子供だし」

 「あー、俺は・・・」

 「はい、皆さん静かに。この子は新しいお友達ですよ」


 後ろから声がかかりイースが振り向くと、そこには背は高いがどこかヒョロリとした印象を受ける男が立っていた。


 「はい、君も取りあえず教室に入って。君がマギサ先生の言っていた子だね?」


 どうやらこの頼りなさげな男が教師のようだ。教室の名前からすると、こいつがキーリスだろうか。


 「私はこの教室を導くキーリスです。もう皆さん揃っていますから、君はとりあえずそこに立って自己紹介を」


 そういうとキーリス教師は檀上をさして指示する。


 「えー、彼は怪我が原因でここに来るのが少し遅れてしまいました。皆さんも新しい仲間を快く迎えるように。さぁ、自己紹介を」

 「あ、あぁ・・・いや、はい。イースタル・レグスです。シュトロックから来ました。この髪の事で色々言われますが、まぁ、よろしく」

 「性がある・・・貴族か?」

 「うん?レグスって何か聞いたことあるな・・・」

 「けっ、貴族かよ。気にくわねぇな」

 「貴族で忌み子か・・・よく生きてこれたな」

 「いや待てよ。シュトロックにレグスなんて貴族いたか?」

 「あー、性はあるけど、俺は別に貴族じゃない。なんでもご先祖様が褒美でもらったとか。まぁ、平民だから気楽に接してくれ」


 俺の自己紹介を聞いた生徒たちがひそひそとざわめく。


 「レグス・・・そうか、鮮血のレグス家か!」

 「鮮血?」

 「あぁ、なんでもその昔、戦争で数多の敵を屠り、敵の血で汚れなかった日は無いという・・・」

 「そ、そんな家があるのか・・・じゃああいつも剣の達人とか?」

 「鮮血のレグス家は知ってるけど、確か執事だかなんかの家系だったような」

 「鮮血・・・かっこいい・・・」

 「ちょっとあんた、そのあほ面やめなさい」

 「はいはーい、静かに。皆さん新しいお友達に興味があるのはわかりますが、そろそろ授業の時間です。気になる事はイースタル君と仲良くなって聞いて下さいね。じゃあイースタル君は適当に空いている席に座って」

 「はい」


 そういうとイースは適当に空いている席に腰かける。教室はさほど広くは無く、生徒は10人程。1教室につき10人程度が教育する側として適正に行える範囲なんだろう。

 それにしても鮮血って・・・何したんだよ、ご先祖様。


 「皆さんは入学当日に聞いたと思いますが、イースタル君は今日が初なので、学園の決まりを少し復習しましょう。そうですね・・・ミリーさん、この教室というのはどんな役割がありますか?」

 「あ、はい。この教室は我々の取る授業の核となる部分で、座学や方針等は教室毎によって若干方針が違います。基本的に我々は好きな授業を取りますが・・必修科目や催し物、連絡事項何かはこの教室で行います。朝はとりあえずここに集まってから、それぞれの科目の受講場所に行ったりします」

 「はい、結構。聞いての通り、連絡事項なんかは私が行いますので、朝はとりあえずここに来るように。踏破訓練なんかでは朝から行ったり、数日かかる事もあるので必ずではないですが・・・1年生の間はほぼ私が教える事になると思いますので、ここに来れば大丈夫です」

 「なるほど・・・基礎をここで鍛えて、あとは希望にあわせて枝分かれしていくのか。合理的だな」

 「理解が早くて助かります。イースタル君は優秀みたいですね・・・では、イースタル君の特性を見る為にも、皆さんを知って頂く為にも、1時間目は実習場で自分の得意なものを皆さんに披露してもらいましょうか」


 キーリスがそういうと、生徒達はしぶしぶ、といった雰囲気で腰を上げる。実習場ってどこさ?商人志望なら速算とか帳簿が得意とか、そんなもんじゃないのか?

 取りあえず移動する皆にイースはついていく事にする。どうやら自分の為に時間を割くだろうことは明白なので、少し申し訳ない気持ちになる。

 まぁ、怪我が原因だし、俺が気に病む事でも・・・いや、怪我の原因は俺か。まぁ、仕方ないよな。

 その移動中に様子を伺っていた生徒たちが話しかけてくる。


 「ね、ねぇ、イースタルくん」

 「うん?」

 「その髪って生まれつき・・・?」

 「あぁ、生まれつきだよ」

 「ふーん・・・ねぇ、ちょっと触っていい?」

 「は?あぁ、まぁいいけど・・・えっと?」

 「あ、私キリカ。テルン村から来たんだ・・・うわっ、ふわっふわ」

 「テルン村?あぁ、あの光魔石の産地の・・・」

 「えっ!うちの村知ってるの!?自慢じゃないけど、そうとう僻地にあるのに・・・」

 「そんなこと言ったらうちのシュトロックだって辺境だけど・・・テルン産の光魔石は状態がいいから魔導具作るときに重宝してたんだ」

 「ま、魔導具?そんな凄いもの作れるの・・・?」

 「あっ、い、いや、魔導具を作る素材によく使われるってお館様・・・領主様が言ってたなー・・・って。は、ははは・・・」

 「なるほど、領主様がね・・・さすが性持ち。領主様と気軽に喋れる地位の暮らしなのね・・・かわいいし玉の輿だし、これは優良物件かな?(ボソッ」

 「ん?何か言ったか?」

 「いやいやいや、なんでもないよ。ははは」

 「そうか?でも今・・・」

 「あー、ちょっとキリカちゃんだけずるい!私も触りたかったのに!!」

 「えぇっ!?」

 「こら、ミリー!静かに!」


 俺がスラっとした体形の少女―キリカというらしい―に髪を弄ばれながら歩いていると、先程教師の質問に答えた女生徒が振り返ってこちらに寄って来た。

 こちらはミリーというらしい。髪の毛を両脇で結び、いわいゆるツーテールという髪型にしている元気そうな女の子だ。


 「私もその髪狙ってたのに!」

 「いや、狙ってたとか言われても・・・」

 「イースタル君が入って来た時から、キレーだなーと思って絶対最初に触るんだって思ってたのに!あ、私ミリー。私も触っていいよね?ありがとう!」

 「え、あ、おう・・・ってもう触ってるし。まぁいいけど・・・」

 「わぁ・・・確かにふわっふわ。何か使ってるの?」

 「いや、特に何も・・・」

 「いいなー、うらやましいなー、私もかわった髪色がよかったなー。それにこの髪質。ずっともふもふしてられるよぅ・・・」

 「こらっ、ミリー!髪色で苦労することもあるんだから・・・そういうのやめなさい」

 「えー、なんで?こんなにキレーなのに」

 「だから・・・」


 キリカがミリーを叱りながらもこちらをチラチラ見てくる。別に気にしてないからいいんだけどな。


 「あぁ、髪色がかわってると忌み子っていわれて忌避されたり、殺されたりするらしいんだけど・・・まぁこうして生きてるし、別に気にしてないからいいよ」

 「そうなんだ?私は気にしないけどな」

 「もう、ミリーったら・・・ごめんね?イースタル君。ミリーってば本能で生きてるから・・・」

 「まぁ、ここは忌み子とか気にしない奴が多そうだし。実害が無いなら別にいいさ」

 「そう・・・」


 同じ僻地出身だからか、キリカは忌み子の俺の事を気遣ってくれるらしい。本人に思うところは無い様だが、周りはうちと同じ感じだったのかもしれない。

 しかし、キリカもミリーも喋っている間中、歩きながら俺の髪の毛を触っている。減るもんじゃないからまぁいいんだけど・・・こうしてそれなりに可愛い女の子2人が両脇から触ってくると、こう、何かイケナイ気分になるな。


 「おい、あいつ・・・」

 「くっ、キーリス教室の花、双輪を独り占めだと・・・っ」

 「初日から見せつけてくれるぜ・・・さすが鮮血」

 「やっちゃう?ねぇ、やっちゃう?」

 「落ち着け、いくらでもチャンスはある。あぁ、今日は事故が起こるかもしれないな・・・ふふっ」

 「お前こそ落ち着け・・・」


 何やら野郎共の嫉妬を買っているようだ。知らんがな。

 そうこうしている間に実習場とやらに着いたようだ。直径200メートルほどの空き地の周りを土壁と木柵で囲ってある。傍らには同じく土でできた長椅子のようなものがあり、様々な武器が置いてある。どうやらあそこが待機所のようだ・・・って、武器?


 「あぁ、ここが実習場です。ではまず、誰かに披露してもらいましょう」

 「あ、じゃあ私がやります」

 「おぉ、キリカさんの槍ですか。では、お願いします」

 「はい」


 そう言うとキリカは無造作に篭に入れてあった槍を掴み、脇に並んでいる木でできた人形へと歩み寄っていく。


 「ふぅぅ・・・はぁっ!」


 キリカが呼吸を整え、気合を入れて槍を突き出す。槍が人形の胴体に触れたあたりで槍の周りが削れ始め、槍に沿って人形の胴体を削ってゆく。キリカが槍を振りぬく頃には、人形の胴体が千切れ飛び、宙を舞っているところだった。

 発動速度、威力共に申し分ない槍風牙・・・キリカは中々の使い手のようだ。


 「はい、キリカさん、お見事です。今のは槍風牙(ソウフウガ)ですね?」

 「ふぅぅ・・・はい、私の一番の得意技です」

 「1年生でこれ程の練度の使い手はまずいません・・・見事でした」

 「はい、ありがとうございます」


 たしかにこの歳・・・学園はその性質上年齢はまちまちだが、キリカは俺より少し上・・・10歳程度に見える。確かにこの歳で実用レベルの槍風牙を使える者は少ないだろう。

 しかし、得意技の披露って・・・

 俺は目を背けていた事実を段々と認識し始め、念のために教師―キーリスに訪ねる。


 「はい、では次に―」

 「あの、ちょっといいですか、キーリス教師」

 「はい、そんな堅苦しく呼ばなくても、先生でいいですよ」

 「あぁ、はい、先生・・・あの、確認ですけど、ここは・・・商人科ですよね?何故技なんて・・・あぁ、今時の商人は自衛も必要ってことですか?学園は進んでますね」

 「はぁ、商人にも自衛が必要。それは私も同意する所ですが・・・イースタル君、ここ、何科(・・)だと思ってます?」

 「ですから、商人科でしょう?いきなり技なんてそんな・・・」

 「イースタル君。君がどういう経緯でここに来たかはわかりませんが・・・ここは冒険科です。世界の真理を追究し、素材を探し、名声を求める・・・世界の探究者たる冒険者を育てる冒険科(・・・・・・・・・・)ですよ」

 「ぼ、冒険科・・・は、はは・・・やりやがったな、フリッツぅぅぅぅぅ!!!」


 俺の叫びは広い実習場に空しく響いた。


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