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魔王が求める平穏生活?  作者: アバン
第一章 シュトロック編
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第07話 学迷都市シャザラーン

 「はい、これで手続き完了です。ようこそ、学園迷宮都市シャザラーンへ」

 「ふう、分かっちゃいるが、入街手続きは面倒だな」

 「ははは・・・街民の安全と、入街者の身分証明の為なので・・・」

 「分かってるって。ボヤくぐらいはいいだろ?あ、そうだ、この街の治療院の場所を教えてくれないか?」

 「治療院?あぁ・・・この街の中に治療院は無いんです。併設されている学園の保健部が街の治療院として解放されていますよ。何があったかはわかりませんが、早く連れて行ってあげて下さい」

 「わかった。ありがとな」


 門番はチラリと俺を見ると、治療院―というか学園だそうだが―の位置を教えてくれる。

 そう、俺達はついに学迷都市シャザラーンに到着した・・・のだが、道中に俺の封印解除の反動で全身血だらけで、自立歩行すら難しく、馬車に揺られるがまま目的の都市に入る事となった。


 「聞いてたな?イース。とりあえず学園に向かおう」

 「モゴグ、モガモガ(悪いな、本来なら街についた時点で依頼完了だってのに)」

 「いいんだよ。このまま別れたんじゃ寝覚めも悪いってもんさ」

 「お前、よくイースが何言ってるかわかるな・・・まぁ、マイムの言う通りだ。それに、こんな包帯だらけの奴を放置して行ったら事件にならぁな」

 「違いないね」


 2人は笑いながら学園へ向けて馬車を動かす。

 イースは心の中で感謝しながら、封印解放について考えていた。


 「(外殻封印解放の時の感触からすると・・・魔力の4割を身体強化に回して、高位魔法使い並の魔力を維持できるのが3分、それ以降は段々身体が崩壊していって、満足に動けるのがトータル5分ってところか・・・そして封印時の魔力は一般人並、と。うーん、もう少しバランス良くできれば日頃の生活でも魔法使えて便利なんだけど・・・とりあえず、迷宮に潜るのはやめた方が良さそうだなぁ)」


 生前?の知識から迷宮が変わっていなければ、迷宮とは迷宮が内包する魔力が魔物や罠、宝具として具現化する一種の大型魔導装置である。誰かが作ったのか、自然に発生したのかはわからないが原理は解明されていないのでそういうものだと思うしかない。

 野にいる魔物や魔物病で魔物になった魔物とは違うのか、基本的に迷宮の魔物が迷宮外に出てくる事は無く、迷宮内にはある一定の法則がある。例えば、違う種族の魔物同士でも滅多に争う事はなく共存していたり、獲物らしき獲物を食べていなくても生きていたり、魔物を倒しても一定期間でまた生まれていたり・・・

 魔物を倒したり、法具を持ち帰ったりしても一定期間で復活する事から、魔力、つまり魔素を何かしらの形にして吐き出す装置であり、人間達は魔物の素材や法具といった恩恵にあずかれる素晴らしいものだという見解になったのだが・・・何故そんなものがあるのかは不明だ。

 一説では、人の手が入らずひたすら魔力が溜まっていくと、最奥の魔物がどんどん強化され魔神になる、一種の魔神製造器であり、魔神が自身を降臨させるために作ったなんて話もあるが・・・真相は闇の中だ。

 まぁ、定期的に人が入り、魔物を倒したり宝具を持っていくことで迷宮の魔素を減らして魔物の魔神化を防ぐなんて大義名分もあるが、実際は便利で儲かるから人間が潜っているというのが真実だ。

 原理や理由はともあれ、あれば使う・・・実に人間らしい。


 「(魔物といえば、魔神を倒したのに魔物病は無くなってないんだよなぁ・・・偉いエルフの予言が間違っていたのか、それとも・・・)」

 「イース、難しい顔してる所悪いんだが・・・着いたぜ、保健部だ」


 イースが取り留めも無く考えている間にどうやら学園の保健部に着いたらしい。

 保健部は街の治療院としても使われているせいか、学園と街の接点にあった。


 「邪魔するぜ・・・ここで怪我人見てくれんのか?」

 「ん・・・いらっしゃい。怪我かい?見た目は元気そうに見えるけど」

 「あぁ、怪我人は俺じゃねぇ。ほら、こっちだ」


 フリッツが保健部のドアを開けると、そこには白衣を着た無表情の女医が座っていた。

 その無表情も医者としては取り乱さないということで、優秀なのかもしれない。


 「おぉ、これは大層な包帯だ・・・まずは回復魔法で傷を塞がないと。こんな傷の怪我人を放っておいちゃダメだぞ」

 「あぁいや、途中の村の診療所で回復魔法も試してもらったんだが、全然効かなくてな・・・学園都市(ここ)なら何とかなるんじゃないかと思ってな」

 「ほぅ、回復魔法が・・・とりあえずやってみよう」


 そう言うと無表情な女医は呪文を唱え始める。


 「『魔素よ、彼の者を癒せ―トリート』」

 「う・・・ぐっ!」

 「むぅ・・・これは・・・」


 魔法が発動し、傷を治そうと一瞬肌が動くも、結局治らずに元に戻り、逆に傷口が開いて血が出てしまう。

 イースが痛みに呻くが、女医は動じる事無く観察を進める。


 「ちょっとアンタ!何するんだい!子供に下手な事するんじゃないよ!」

 「まぁまぁ、落ち着きたまえ。死にはしないよ。これは・・・どうやら魔法が身体に浸透していないようだね。非常に興味深い・・・」

 「おい、ちゃんと治療する気あるのか?」

 「もちろんだとも。むしろ適切な治療の為に必要な段階だと言える。さて、どうしてこうなったのか教えてくれないか」

 「アンタ・・・!」

 「落ち着け、マイム。どちらにせよ俺達には手だてが無いんだ・・・俺達にもそうしてこうなったかはわからない。馬車で移動中に気づいたら全身から血を吹いて倒れたんだ」

 「ふむ、それだと外的要因なのか、病気や体質の内的要因かはわからないな」

 「なんだい、結局治せるのかい、治せないのかい!」

 「落ち着けって」

 「ふむ、ここに来た時に出血が治まっていたということは、自然治癒はしている訳だ」

 「何とかなるのか?」

 「恐らく、魔力・・・つまり魔素が身体に働きかけができない状態になっていると思う。つまり、魔力の関係が無い通常の薬草であれば効き目がある筈だ。もっとも、自然治癒を促す程度の効き目なので、しばらく養生が必要だがね・・・っと、これだ」


 そういうと女医は棚の奥から軟膏を取り出し、イースの身体に塗っていく。イースの肌に軟膏を薄く塗った後、ガーゼと包帯を巻いて固定してゆく。


 「養生か・・・どの位で治るんだ?」

 「さて、こればかりは経過を見ないとね」

 「そうか・・・長期間となると、治療費もばかにならないんじゃないか?」

 「そうだね、流石に無料でとはいかないな・・・こちらも慈善活動では無いのでね。学園の生徒であれば多少の割引があるが・・・この子は生徒じゃないね?」

 「あぁ、イースは・・・この子はイースタルというんだが。イースは学園に入学する為に俺達が親御さんから護衛の依頼を受けて護送してきたんだ。厳密にいうとまぁ、まだ生徒じゃねぇな」

 「ふむ、入学希望で護送、ね・・・本入学かい?」

 「あぁ、本入学するって聞いてるぜ」

 「なら、急いで手続きした方が良い。何せ春季の入学受付は今日までだからね。入学手続きができた事を確認できれば、学生料金でいいよ」

 「今日までだって!?」

 「あー、期限とかあったのか・・・間に合いそうで良かったな?イース」

 「モガ・・・ムグゥ?」

 「こんな状態でも入学できるのか?って聞いてるよ」

 「マイム、お前よくイースの言ってる事わかるな・・・」

 「あぁ、それは大丈夫だ。本入学は入学金さえ支払えば入学できるし、代理で手続きを行っても問題ない。入学しても成績や素行が悪いと退学にはなるけどね」

 「だそうだ。イース、どうする?」

 「モゴゴム、モガガグゥ」

 「悪いけど手続き頼むってさ」

 「だから何で・・・まぁいいや。じゃあ俺が代わりに行ってきてやるよ・・・これか?」


 イースは視線で入学金の入った袋を示す。入学金は金貨30枚と高額で持ち逃げされる危険性もあったが、イースはこの2人の冒険者を信頼していたので、入学手続きを頼む。


 「モグゥ、モガ」

 「あぁ、任せとけって。お前は才能(・・)もあると思うしな」

 「モガ?」

 「それで、治療費は?」

 「経過を見なければわからんが、なに、掛かったとしても銀貨程度さ。薬を塗って入院させるだけだからね」

 「そうかならイースの手持ちで大丈夫そうだな。じゃあ申し込みに行ってくるわ」


 そう言うとフリッツは入って来た方とは別の出入口から学園に向かって進んでいった。

 しばらくして、フリッツが紙を以って帰って来た。


 「ほら、これが受理証だ」

 「ふむ、確かに・・・だが、いいのかい?これ(・・)で」

 「なに、イースなら大丈夫さ・・・才能もありそうだしな」

 「本人と親御さんの意志がどうなのか・・・まぁ、私が口を出す事じゃないな。治療費は学割にしておくよ」

 「じゃあ、イースを頼む。俺達はしばらくこの街にいる予定だから、何かあれば連絡してくれ。宿はまだ決めてないが・・・俺は<渓谷の鷹>のフリッツ。そしてこいつは」

 「<渓谷の鷹>のマイムさ。イースに何かあったら承知しないからね」

 「ほう、君たちが・・・わかった。肝に銘じよう。安心して任せてくれたまえ。私は学園主任治療医のマギサだ」

 「へぇ、その歳で主任か・・・俺達も迷宮に潜るから、また世話になるかもしれないな」

 「その時はちゃんと診てあげるよ・・・割引は無いがね」

 「ふんっ、治療医の世話になる程耄碌しやしないよ」

 「ははは、まぁ、イース君の経過を見る為にでも来てくれてかまわないとも」

 「あぁ、じゃあまた寄らせてもらう。と、いう訳だ、イース。たまに見に来てやるから、しっかり治せよ?」

 「この女医何か雰囲気が妖しい・・・気を付けるんだよ、イース」

 「モグゥ・・・」


 この状態でどう気を付けろというのか・・・とイースは思いつつも、とりあえずうなずいておく。


 「またな、イース」

 「そんな女に負けるんじゃないよ!イース!」

 「ほら行くぞ」

 「あぁぁ・・・イースゥゥゥゥ!」


 イースから離れたがらないマイムをフリッツが引きずって出ていく。

 イースがふと女医の方を見ると、ニヤニヤと笑いながら乳鉢を擦る女医・・・マギサの姿があった。


 「ふふふ・・・こんな症例は初めてだ。さぁ、どんな薬が効くかな?おっと、これも使ってしまうか?ふふふ・・・」

 「モゴッ!?」

 「なに、心配はいらないよ。ちょっと変わった薬草や、薬草だと思われていても実際に使ったことのない草とか使うだけさ・・・あぁ、だめだよ、そんなに動いちゃ。また傷口が開くよ?もっとも、これを塗れば動くどころじゃないかもしれないが・・・ふふふ」

 「ンーーー!」

 「料金なら心配ない。医学への貢献ということで、この薬代はおまけするよ・・・さぁ、どんな感じか教えてほしいな?ふふふ・・・」


 その後、約2週間程は学院の保健部―保健室から夜な夜な悲鳴にも似た叫び声が聞こえたとか、聞こえないとか・・・


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