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魔王が求める平穏生活?  作者: アバン
第四章 風の精霊王編
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第37話 森の王―フォレストキング―

 「どわっ!」

 「きゃっ!」

 「いたっ!」

 「ここは・・・どこだ?」

 「いたた・・・森、ね?王都の近く、って訳じゃなさそうだけど・・・」

 「あぁ、ティターニアの奴、最後にあ・・・とか言ってやがったしな。失敗したんだろう」

 「妖精らしいといえば、らしいけど・・・」

 「帰りはあの道通らなくてほっとしたぜ」

 「ティターニアが直接門を開いてくれたからな・・・それより、人里に行って時間を確かめないと」

 「そう、時間よ!」


 俺達はティターニアの開いた門から飛び出し―はじき出され―鬱蒼と茂る森の中に居た。

 ミッドガッズの王都周辺にはこんなに深い森は無かったはずだから・・・やっぱりあのティターニア(年増)、失敗しやがったな。


 「何はともあれ、ここがどこか―」

 「しっ!待て、何か来る・・・」


 リッツが何かを感じたのか、俺の言葉を制して注意を呼びかける。

 俺が腰のクアエシトールに手を伸ばした瞬間、無数の矢が俺達の周りに突き立ち、どこからともなく声が聞こえた。


 「矢!?」

 『貴様ら!ここが我らの森と知っての狼藉か!』

 「誰っ!?」

 『人間か・・・こんな所にまで入り込むとは、浅ましい奴らだ!!』

 「待って下さい!私達は―」

 『黙れ!人間!よくもここまで隠れて入り(おお)せたものだな!!』


 この矢の精度と、森の感じ・・・ひょとして?


 「なぁ、ひょっとしてお前ら・・・エルフか?」

 「エルフ!?」

 「だったら何だというのだ、人間!」

 「え、エルフ・・・」

 「本物は初めて見たぜ・・・」

 「何言ってんだ、学園長見たろ」

 「あぁ、そういやあの爺さんもエルフか・・・エルフっぽくないんでうっかりしてたぜ」


 顔を布で隠したエルフが一人、俺達の前に姿を現す。

 矢の数からして何人もに取り囲まれている様だが、とりあえず目の前のこいつが窓口という事でいいんだろう。

 ここがどこのエルフの里の領域だか知らないが、とりあえず知っている名前を出して何とかならないか試してみる。


 「なぁ、ひょっとして柊に寄り添うゲシュペリスか、セコイアの守護者イーリアス、柏と共に生きるシュザードって名前に聞き覚えは無いか?」

 「なっ!なぜ人間如きがシュザード様の葉名を・・・!」

 「あぁ、そっちが当たったか・・・まぁいい。シュザードにこう伝えてくれないか?ケビンホルンの酒場での約束を果たしに来たぞ、と」




 ◇◇◇◇◇◇◇




 「で、もう2日目か」

 「そうだな」

 「誰だったかなぁ~、自信満々で「約束を果たしに来たぞ!」とか言ってた奴は」

 「うるせぇ」

 「せめて今が何日なのかが知りたいわね」


 俺達がエルフの村に近いと思われる牢屋に入ってからはや2日。

 現れたエルフは俺達の言葉に耳を貸さず、やれ罪人だ何だと言って囚われてしまった。

 エルフと戦って抵抗もできたし、この木でできた牢を壊して逃げる事は可能だと思うが、俺の思った手段で王都に行くのであれば事を荒立てるのは得策ではないので、意図せずに迷い込んだという態度を貫いた結果がこれだ。


 「何日か何か月かは知らないけど、妖精界にいた分の時間は過ぎているのよね?」

 「あぁ。流石に妖精界でも時間の不可逆性はある・・・はずだ。長い短いはあっても、時間は確実に経過している」

 「・・・ぶち破りましょ?」

 「まて、落ち着け、リズ」

 「だって、こうしている間にも・・・っ!」

 「ここがどこのエルフの里だか知らないが、出た場所から数十分で牢に着いたという事は、里が近いということだ。王都から一番近い里でも、歩けば1週間以上かかるだろう・・・何より、これだけの森でエルフの集団に追われたら逃げきれない」

 「・・・イースタルさんの言う通りです。エルフは子供でも人間の狩人を凌ぐ弓の使い手と言われています。あそこで抵抗して逃げおおせたとしても、里から追手が入って結局は捕まるか・・・」

 「殺されていただろうな」

 「カイ!リッツまで!」

 「ここには見張りが居ない・・・様に見えるが、確実に見張られているぞ」

 「雨風がしのげる寝床は久しぶり。休める時に休んだ方がいい」

 「この状況でそこまで開き直れるシャルお嬢は凄げぇと思うぜ・・・」

 「魔法使いは冷静じゃないといけない」

 「シャルのは冷静っていうかふてぶてしいだけだと思」

 「イースは後でもじゃもじゃの刑」

 「もじゃ・・・いや、うん、シャルは氷の妖精らしい冷静さダトオモウヨ・・・」

 「・・・はぁ。わかったわよ。私一人で焦ってるのが何か馬鹿らしくなってきたわ」

 「そうそう。お嬢はその位能天気な方がいいぜ」

 「・・・ゲイン、ここ出たら覚えてなさいよ?」

 「おっと、こりゃ失礼」

 「まぁ、またエルフが来た時にでも日時は聞いてみよう・・・答えてくれるかどうかはわからないけどな」

 「あいつらホント愛想無ぇからなぁ」


 牢の壁越し―流石に男女は別けられた―に馬鹿話をしていると、リッツが微かに何者かの気配を感じた様だ。


 「・・・誰か来る」

 「飯・・・にしちゃ早いか?」

 「そうですね、昼食からそこまで時間は経っていないと思います」

 「草はもう飽きた。お肉が食べたい」

 「エルフだって狩猟して肉も食う筈だが・・・囚人には出してくれないんじゃないか?」

 「それにしてもリッツの旦那はよく気付けるな」

 「・・・慣れだ」

 「・・・貴様ら、自分が罪人だという事を理解していない様だな?」

 「罪人、ね。俺達は年増妖精の被害者なんだがね。で、そろそろ今が何日か教えてくれないか?」

 「・・・何故この様な人間がミスリルの武具(あんなもの)を・・・」


 俺達が暢気に会話をしていると、声からして俺達を捕える時に出て来た女エルフ―相変わらず顔を隠しているが、エルフにしては胸の自己主張が激しい―が格子の外に立っていた。


 「・・・貴様ら、立て。さるお方が貴様らに興味を持ったとの事でこちらにいらっしゃる。卑しい人間共が拝謁できる方では無いが・・・足を運んで下さるそうだ。立って礼を尽くせ」

 「立って礼を尽くせっても・・・エルフの行儀なんてわかんねぇよ。今は何日か位は教えてくれてもいいんじゃないか?」

 「黙れ罪人が!何なら何人か減らしても・・・」

 「それは困るね、柊の姫。彼らに我々の礼を尽くせというのも酷な話だよ」

 「しゅ、主上!まだおいでになっては・・・!」

 「構わないよ。彼らは抵抗もしていないんだろう?ならば、言葉で意思の疎通ができる相手さ」


 女エルフの後から現れた男は、上質な絹で余れたローブを纏って格子越しに微笑みながら気安く話しかけてくる。


 「やっぱりお前か。元気そうだな、シューザ」

 「ふむ、君の様な人間の子供に知り合いはいなかったと思うが・・・どうやら私を知っているというのは本当の様だね」

 「はい・・・そこの呪い子が主上の葉名はおろか、先主様や叔父の葉名まで出しておりました」


 叔父?エルフの葉名―名前の前に付ける植物にちなんだ呼び名―は人間でいう所の家名みたいなもんだ。

 先主ってのは言葉面からして前のハイエルフ・・・ってことだろうから学園長だろ?

 こいつはどうみてもシュザード・・・元仲間(森の王)だし・・・となると、ゲシュペリスの姪か?柊の姫とか言われてたもんな。


 「呪い子―忌み子か。これ程の銀髪とは珍しい。君が約束とやらを言い出した子かい?一度会ったら忘れないと思うんだがね」

 「まぁ、お前が知ってる俺は今の俺じゃ無いからな。それにしても、本当にハイエルフになったんだな」

 「ほう、人間の君にわかるのかい」

 「そこの柊の姫?とやらが主上って言ってるし、耳にピアスもあるし・・・それに、イーリアス(学園長)からも聞いてるしな」

 「イーリアス殿がそこまで話したのか・・・ふむ、面白い」


 リズ達は話について来れないのか、黙って俺とシュザード(森の王)との会話を見守っている。


 【(Ita)約束(Non)は果たして(promittere)くれる(nobis)(of)(ludo)?】

 「えっ、エルフ語・・・っ!?」

 【ほう、人間で・・・それもその歳でエルフ語を喋れるとは】

 【何言ってんだ。お前が俺に教えたんだろうが】

 【私が?】

 【あぁ。まだ気づかないのか?仲間甲斐の無い奴め。お前、ケビンホルンで人間の船を初めて見た時にこう言ってたろ】

 【船・・・】

 【水の上を走る船があるのか、って。船は風に乗る(・・・・・・)モノだろうと】

 【っ!まさか!】

 【お前はこうも言った。機会があればエルフの船・・・空飛ぶ船(・・・・)に乗せてやるってな】

 【まさか!シュティかっ!?】


 ようやく気付いたか。まぁ、これだけ見た目が変わってりゃぁ仕方ないか。


 「・・・お嬢。何言ってるかわかるか?」

 「エルフ語らしい、としかわからないわ・・・」

 「イースタルさん、本当に何者なんでしょうね」

 「イース、コートフォルムの鍛冶屋でもエルフ語・・・というか神代語知ってた」

 「まぁ、何喋ってるかはわからねぇが、何とかなりそうな雰囲気だし、とりあえずイースに任せようや」

 「そ、そうね・・・まぁ、イースだしね」

 「あぁ、そうだな」

 「うん、イースだから」


 リズ達(今の仲間達)がどこか呆れた表情で俺を見て何やら納得している。

 何?その非常識な奴みたいな感じ。


 【いや、しかしそんな事が・・・】

 【何だよ、まだ疑うのかよ】

 【いや、そうではないが・・・そうだ】

 【あ、その顔、面倒事起こす時の・・・ちょ、マジかよ!?】

 「っ!?イース!」

 「しゅ、主上!?」


 とてつもない―それこそ、黒魔法の上級魔法とすら比べ物にならない位の魔力がシュザードに集まってゆく。

 シャルも気づいた様だ。

 こんな狭い所で何ぶっ放す気だ!このキチ○イエルフ!


 『風よ、精霊よ、我が友達よ。我が魔素を糧として、この辺りを薙いでおくれ―それ』

 『マナ・レストレイション!!』


 シュザード(森の王)が締まらない発動語を唱えると同時に、牢の中に凄まじい力を秘めた竜巻―の雛が生まれる。

 気圧の低下で耳鳴りが止まらない程だ。

 放置する余裕が無いと思った俺は、すかさずマナ・レストレイションでシュザードの精霊魔法を魔素に還元する。


 何考えてんだこいつ!?今の数瞬で牢屋が軋んで分解しかけたぞ!


 エルフの女も凄まじい力に怯えたのか、シュザードの行動に恐怖したのか、腰を抜かして床にへたり込んでいる。

 よく見ると、その座り込んだ足元には小さい水たまりが。

 あ、こいつ漏らし―いや、彼女の名誉の為にこれ以上は言うまい。


 【この業は・・・ふむ、間違いない。まさかまた会えるとは思っていなかったぞ、シュティ】

 【ようやく認めたか、この馬鹿エルフ・・・あぁ、こんな見てくれだが久しぶりの再会だよ、シューザ】


 俺は生まれ変わって初めて、かつての仲間(六王)の一人と邂逅した。


ちなみに、エルフ語はラテン語です。

私は全くラテン語喋れないので、間違っていたらそっと見なかった振りをするか、コッソリと私に教えて下さい・・・

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