第33話 強敵と書いて友と読む
「我が思うに、お主らは自分が死ぬという危機感が足りないのである!筋が良い故に!」
「知らねぇよ。誰が好き好んでそんな危機に首突っ込むか」
「冒険と死の危険は紙一重である!」
「もぐもぐ・・・俺達ぁ冒険者だが、雇われなのさ・・・むぐむぐ」
「ほう、火竜討伐を成しえる腕を持ちながら!勿体ない!」
「あぐっ・・・まぁ、旅の目的があるからな。立ち会いの時にギルド長が言ってたろ?みなしEランクパーティって」
「ふむ・・・グビッ。その目的とは?グビッグビッ」
「・・・秘密だ」
「グビッ・・・ぶはー!連れないのである!」
「・・・貴方たち、なんで仲良くなってるの?」
「そう言うなって、お嬢。腹割って話してみると、意外といい奴だぜ?」
「昨日の敵は今日の友!強敵と書いて<とも>と読むのである!!」
「そうそう、こうしてお詫びにヘファイトス一の高級店で奢ってくれてるしさ・・・あ、おねーさん、水竜のステーキもう1枚」
「もう5枚である!」
「じゃあ6枚」
「・・・エリザベートさん達はいいとして、ザックはもう少し考えて頼んでね・・・」
「無理である!」
「だろうね・・・はぁ」
またすぐ治療院のベッドに舞い戻った俺は、数日かけて容体を安定させた後、カイの回復魔法によって快癒した。
そのお祝いとお詫びを兼ねて『紅の剣』の2人がここ「火竜の胃袋亭」で奢ってくれるというのでご馳走になっている。
火竜の胃袋亭って、少し前の状況考えると笑えなくないか・・・?
ヘファイトス一の料理店だけあって、豪奢な内装の個室だ。ホールの音が全く聞こえない事から、防音性も高いらしい。
貴族とかが密談したりする部屋なんだろうなぁ。
それにしても、もうヘファイトスの治療院には入りたくない・・・何だ、あの鬼の様な看護婦は。
よほどここがお好きなんですねぇ。二度とベッドから起き上がれない様に癒着して治しましょうか?とか。
マギサといい、あの看護婦といい・・・治療院は魔窟だと思うんだ、うん。
「牧場の保証といい、魔狼車といい、これといい・・・最近金の無心ばかりしている気がするよ」
「シャントは心配性なのである!またガツンと稼げばよかろう!」
「・・・そんな仕事が来るかねぇ・・・今回の事で、うちの評判は・・・はぁ」
「あの、何かすいません・・・」
「あぁ、いえ。つっかかったのはうちの馬鹿ですしね。いいんですよ・・・ふぅ」
「やはりぶつかってみなければわからないものである!まさかこんな小僧にいいようにやられる日が来ようとは!」
「いいようにっていうか、僕たちが止めなきゃ君死んでたからね・・・これに懲りたら今後は」
「無理である!」
「だろうね・・・はぁ」
このザック・・・ザクルゼンは、あの次の日にはベッドから起き上がり、鍛錬してたそうな。
死なない程度に回復魔法を掛けたとはいえ・・・生命力あり過ぎだろ。
同じ治療院で寝ている間はおとなしくしていたらしいが・・・案外、あの鬼看護婦が怖くて早く出たかっただけなのかもしれない。
「ガブッガブッ・・・それにしても、この身で魔闘術を受けるとは、貴重な体験だったのである!」
「魔闘術?」
「うん、。イースタル君が終盤で使っていたあの技は、恐らく魔闘術・・・魔王が編み出したとされる技だよね?」
「あの魔王が・・・」
「ヘェー、ソウナンダァー。シラナカッタナァー」
あの時はリッツが殺されたと思ってちょっと本気出しちゃったからな・・・
「うちの魔法使いに魔闘術を使えるか聞いてみたことがあるんだけど・・・身に纏うだけなら何とかなるかもしれないけど、戦うのは無理だそうだよ」
「どういうことですか?」
「なんでも、高濃度に圧縮した魔力で耐久力や身体能力を高めて闘う技らしいんだけど・・・普通の魔法使いだと、耐久力と身体能力は上げられても、それに能力を割きすぎて動いたら解けるとか。また、動きに合わせて魔法も使うので、基本的に無詠唱ができないと無理みたいですね」
「イースの場合には打撃に合わせて直接魔力も叩き込んできたのである!こちらの身体強化も無効化された上での打撃なので、人間相手ならほぼ無敵なのである!」
「そうなのかい?じゃぁ・・・本当に完成された魔闘術なんだね・・・」
その身で受けたとはいえ、こうも正確に分析されるとは・・・腐ってもA級か
「するってぇと、本気を出したイースは・・・」
「うん、僕らA級でも刃が立たないだろうね」
「これでE級とは、信じられないのである!」
「イースタル君、あれをどこで?」
「・・・我流だ」
「が、我流?誰かに師事した訳でもなく?」
「あぁ。我流だ」
嘘は言ってない。俺が前世で編み出した訳だしな。
「我流なんて・・・いやしかし、年齢から考えて魔王に師事したとは考えられないし・・・まだ学園を卒業したての・・・学園?」
「学園が匿っていると噂の天才はイースの事であったか!」
「いや、その噂はもっと前から・・・」
「そりゃぁイースが前に言ってた先生とやらじゃねぇのか?」
「先生?」
おいゲイン、お前それ喋ったらキーリス先生から命狙われるぞ・・・が、ここはスケープゴートになってもらおう。ごめんなさい、先生。
「あぁ、俺の先生はキーリスって言って・・・」
「キーリス・・・キーリス?賢者の後継か!!まさか王立学園にそんな大物がいたとは・・・」
「賢者の後継?」
「うん、ひと昔前に話題になった冒険者でね・・・何でも、亡くなった西の賢者に師事した、稀代の天才魔術師さ」
「冒険者を続けていればAランクは確実だったのである!」
「A級じゃなかったのか?」
「彼は瞬く間にBランクまで行ったんだけどね・・・確かゼーランディア王国の宮廷魔術師になって、すぐに消息不明になったのさ」
「ゼーランディアの・・・」
「そう、あの魔法大国のね・・・彼は全属性、無詠唱で魔法を使いこなし大魔法を一人で扱える、魔導王と呼ばれた一人だよ」
「魔導王?魔王とは違うのか?」
「魔王は魔法使いで最も優れた者としてみんなが呼ぶ呼称だからね・・・魔王シュティールが別格過ぎて、今その名で呼ばれてる人はいないよ」
俺だって別に魔王と呼んでくれと頼んだ訳じゃない。いつの間にかそうなってたんだ。
「大魔法・・・戦略級の大規模破壊攻撃魔法は魔法使いが何十人も集まって使うのは知ってるよね?魔導王は、それを一人で使える人に贈る称号さ・・・もっとも、称号というか、周りが勝手にそう呼んでるだけだけどね」
「戦争ではいかに相手の大魔法を抑え、こちらが大魔法を打つかが勝負の分かれ目なのである!」
「そう、だから各国が躍起になって囲おうとするんだよ・・・今は確か、3人だったかな?」
「賢者の後継と、ゼーランディアの筆頭宮廷魔術師と、茨の魔女である!」
「さすがA級、よく知ってんなぁ」
「情報は大事だからね・・・まぁ、秘匿された魔導王が他にいないとも限らないけど。さっき言ったように戦争では切り札だからね・・・イースタル君も、使えたり?」
「無理無理。魔力が足りない」
「魔力があればできるのかい・・・」
「無理だって。俺の魔力量、わかるだろ?」
「しかし、ザックの時は・・・あぁ、わかったよ。詮索はもうしないさ」
俺は殺気を込めてシャントを睨む。
もう色々手遅れ感はあるが、俺は有名にはなりたくない。ひっそりと暮らしたいんだよ。
「はぁー、イースがそんな二つ名持ちの連中と張り合えるもんだとは、初めて会った時からは想像できなかったぜ」
「何言ってるんだい?今回ので君たちみんな二つ名ついたよ?」
「はぁっ!?」
「えぇっ!?」
何それ!?聞いてないぞ!?
「はぁ?って当然だと思うんだけど・・・火竜を討伐し、A級冒険者のザックをズタボロにしたんだよ?付くに決まってるじゃないか」
「エリザベートさんは『剣姫』、リッツガルドさんは『槍鬼』、シャルロットちゃんは『氷の妖精』、イースタル君に至っては『蒼の魔匠』だよ」
「け、剣姫・・・あうあう」
「氷の妖精・・・わるくない」
「蒼の魔匠・・・?あぁ、ローブが青いからか・・・勘弁してくれ」
「・・・俺に二つ名が付くとは、光栄だ」
魔王の時も思ったけど、二つ名とか恥ずかしいわ!!
「お、俺は?俺には何かないのか!?」
「あー、ゲイン君とカイルーン君には残念ながら・・・でも、君たち全員を指してヘファイトスの勇者って呼び方はあるみたいだよ」
うわー!やーめーろー!
ゲインとカイはがっくりと肩を降ろし、残念そうだ。
リッツとシャルは満更でもなさそうで、喜んでいる。
俺とリズは恥ずかしさに悶えて・・・って、リズはこういうの喜びそうだけどな?
「俺はともかく、リズは喜ぶと思ってたが・・・恥ずかしがるんだな」
「だ、だって、二つ名持ちといえば物語にされる人達よ?もっとこう、色々あるじゃない!」
「・・・一応僕たちも二つ名持ちの冒険者なんだけどね」
「お前らは・・・なぁ?」
「ざんねん二つ名」
「おぉ・・・シャルロッテちゃん、冷たいね・・・流石氷の妖精」
「ふふん」
何か既視感が・・・あぁ、前世もこんな感じで気付けば祭り上げられてたっけ。
「これから君たちの勇名は広がると思うから、今のうちに慣れておいた方がいいよ?」
「勝負を挑まれる機会も増えて万々歳なのである!」
「そりゃお前だけだろ!」
「ひ、広がるって・・・なんで?」
「そりゃぁ、僕らが広めるからさ」
「はぁ!?やめろよ!」
「紅の剣のザック勝ったんだ・・・君たちの株を上げないと、こっちが困っちゃうんだよね。はっはっは」
「てめぇ!」
「遅いか早いかの違いだよ。もう君たち、詩になってるからね。今頃、吟遊詩人が他の街でも唄ってるんじゃないかな」
「詩・・・」
「こりゃぁ、お嬢の言う様な二つ名持ちになっちまったな。俺には無ぇけどよ」
「拗ねないでよ、ヘファイトスの勇者殿」
「・・・へっ!」
まぁ、あの戦いは観客も多かったし、仕方がないとは思うが・・・やれやれ。
「それにしてもイースタル君・・・君、忌み子だったんだね」
「あむあむ・・・それが、何か?」
「いやいや、僕らはそんな迷信気にしないからいいんだけどさ、その、ローブのフードを取った所を初めて見たからね。ザックをボコボコにしてた時はさぞ歴戦の兵だと思っていたんだけど・・・」
「イースはかわいい」
「そう、こんなかわいらしブッ!」
「・・・殺るぞ」
「そ、それはやめて欲しいね・・・」
シャントは俺の投げつけた、料理の肉をくるんでいた葉―ソースでべとべとだ―を顔から剥がしながら、苦笑する。
今のが避けられなきゃA級になんぞなってない・・・ってことは、場を和ませるためにわざと受けたんだろうな。食えない野郎だ。
「ねぇ、イースタル君。良かったら、うちのパーティーに入らないかい?」
「ちょっと!シャントさん!!」
「もちろん、君たちの旅が終わった後で構わないよ。スカウト料も、君が望む額を用意しよう・・・そうだね、金貨5,000なんてどうだい?」
「金貨5,000!?」
「な、い、イース・・・」
そんな顔で見るなよ、リズ。
「んー、断る」
「金貨8,000」
「は、はっせん・・・」
「断る。額の問題じゃない」
「それは残念・・・理由を聞いても?」
「俺は本来冒険者なんてやりたくないんだ。ある程度金が溜まったら店でも開いて命の危険の無い仕事をしたい。というか、できれば働きたくない」
「その強さでかい?」
「あれは気軽に使えるもんじゃないんだ・・・それに何より、お前の所はムサ苦しそうだ」
「ははは、それは確かに。メンバーには女性もいるけど、まぁザック一人で相当暑苦しいのは間違いないね」
「イースはわたしと小さくても幸せな家庭を築くの。旦那さまをそんな危険な仕事に行かせない」
「ちょっとシャル!まだ言ってるの!?」
「その若さで婚約済とは・・・いや、貴族ならおかしくもないが」
「婚約してねぇよ!?」
そんな馬鹿話をしながら夜は更けていき、お開きとなった。
「小僧!いや、イースタルよ!我はまた一から鍛え直すのである!その暁には!再戦してもらうぞ!」
「嫌だよ。もう二度とあんたらには関わりたくないね」
「ははは・・・それに、まだ学園を卒業したてのEランクとはね・・・ギルド証を見た後でも、まだ信じられないよ」
「本当なんだから仕方ないだろ・・・わかってると思うが、俺の事やキーリス先生の事を口外したら・・・」
「わかってるよ。情報の大事さは身に染みてるからね。君に命を狙われたくないし」
「ならいい」
「イースタル君がとんでもない事はバレてるだろうけど、無詠唱や魔闘術の事までは高位の冒険者が見ていない限りわからなかったと思うよ」
「観客は結構遠かったからな」
「まぁ、試合内容を聞く人が聞けばいずれバレるとは思うけどね」
「すぐに広まるよりマシだ・・・で、約束の報酬は?」
「あぁ、そうだね・・・はい、これ。手紙と魔狼車の権利証・・・それと、通行証だよ」
「ありがとうございます」
「なに、こちらも仕事だしね・・・今読むかい?」
「えぇ」
リズはシャントから手紙を受け取ると、おもむろに封を開いて中の手紙を読む。
文字を追うごとにリズの表情が険しくなっていき・・・最後には顔を手で覆ってしまった。
「そんな・・・お父様が危篤・・・それに、月神月の最終日なんて・・・あと1週間しか無いじゃない!」
「リズ、どうした」
「リッツ、カイ・・・これを」
リッツとカイは手紙を受け取ると目を通す。リズと同じように眉間にどんどん皺が寄っていく。
「何だ、どうしたんだ?」
「さぁね。僕も手紙の中身まではわからないさ。ギルドから指名依頼が入るだけでね」
「そりゃそうか」
リズは険しい顔のまま俺達の方に向く。
「ごめんなさい、シャントさん。魔狼車は辞退させて頂きます。今もらっても、あの子達を連れていけないから」
「そうかい、了解した。また声を掛けてくれれば、その時に譲るよ」
「ありがとうございます・・・」
「リズ?どういう事だ?」
「ごめんなさい、イース、みんな・・・私達・・・私とカイとリッツは、一度王都に戻らなければならなくなりました」
「親父が危篤だって?」
「えぇ、それもあるんだけど・・・どうしても出席しなければならない会が、今月末に王都で開かれるの」
「今月末って・・・もう1週間しか無ぇじゃねぇか!」
「えぇ・・・」
「ヘファイトスから1週間で王都に・・・どう考えても無理だろ。例え魔狼車を休みなく走らせたとしても、1ヶ月はかかるぞ」
「飛竜篭があれば・・・」
「こんな田舎に飛竜が来るとは思えないねぇ」
「でも、これは私の責務として、絶対に出席しなければ・・・っ」
責務ねぇ。何の会だか知らないが、物理的に無理だと思うんだよなぁ。
『なれば、隣人を頼れば良い。古き友であれば、誼もあろう』
「なっ!誰だ・・・っ!」
「・・・ヴルカン?」
『然り。我が友を鎮めてくれた礼を言っておらぬと思ってな。あ奴は逝けたようだ。感謝する』
「火が、喋った!?」
室内を照らすランプの炎が口を形取り、声を発している。
精霊ってのはこっちの都合を考えないからな・・・
「あの、火の精霊王様・・・隣人、とは?」
「精霊王!?」
「うるさい赤いの。ちょっと黙れ」
「いやだって・・・精霊王って!?」
『うむ、人の子らの世と時に重なり、時に離れる世界に住む隣人達・・・小癪で悪戯好きな奴らよ』
「あー、それってもしかして・・・」
『妖精共である。古き友よ。主ならば可能であろう』
「よ、妖精!?」
「あー、うーん、どうだろうなぁ・・・今こんなだし・・・そもそも話を聞いてくれるかどうか」
「よく話が飲み込めないけど・・・1週間で王都に行ける手段があるの?イース!」
ヴルカンめ、余計な事言いやがって・・・しかも、胡散臭い紅剣の前で。
「君達の旅は、どうやらそこはかとないモノみたいだね・・・」
「うむ!精霊王に妖精とは、伝説の存在ばかりなのである!まさかその精霊王の声を聴くことになろうとは!」
「あー、うん、とりあえず、お前ら帰ってくれ。会計してな」
「ひ、ひどい・・・」
「わかってると思うが、今のも含めて今日の事を口外したら・・・」
「わかってるよ。誰にも言わない。まだ死にたくないしね」
「我はこれでも口は堅い方なのである!!」
「ならいいが・・・本当だな?」
「あぁ、この剣に誓うよ」
「我も、この斧に誓うのである!!」
「そうか、じゃあそういう訳で・・・」
「あぁ、今回はザックの我儘に付き合ってもらって悪かったね。魔狼車の件はいつでも声を掛けてくれ。ギルドに言えば伝わるからさ」
「えぇ、こちらこそ、良くして頂いてありがとうございました」
「なに、これも何かの縁さ・・・依頼を受ける際は割引するよ・・・じゃあね~」
「さらばである!願わくば今一度相まみえんことを!」
こうして、嵐の様に現れた『紅の剣』の2人は去っていった。
◇◇◇◇◇◇◇
「さて・・・イース、さっきのは?」
「あー、何と言うか、手が無い訳じゃないけど、間に合う保証も無い。どちらかといえば歩の悪い掛けだ」
「詳しくお願い」
『話してやれば良いではないか』
「ヴルカン・・・てめぇ・・」
「お願い、イース。もう、手段が無いの。王都に着いたら何でもするから!」
「ちょ、ちょっとリズさん・・・」
「お願い!」
「うーん・・・絶対に口外しないと誓えるか?」
「えぇ!」
俺はリズを始め、面々を見渡す。どうやらリズと一緒に王都に行くという事で決定らしい。
「わかった・・・その手段というのは、フェアリーロード・・・つまり、妖精界を通って王都まで行くんだ」
「フェアリー、ロード・・・?」
「あぁ。妖精界ってのは俺達の世界と時間の流れが違うみたいでな。妖精界で1週間すごして戻ると、こっちでは数時間しか経っていなかったり、逆に何年も経過している事がある」
「そりゃぁとんでもねぇ話だな」
「そもそも、妖精達は悪戯好きだから、こっちが急いでるのを見ると邪魔してくるかもしれないし、そもそも妖精界に入れるかどうかも怪しい。しかも、ドンピシャで王都に出れる訳でもなく、ある程度近くまで行けるかどうか・・・そして、時間だ。妖精界の時間が遅ければ問題ないが、下手すると1週間どころか数年、数十年経ってしまうかもしれない。また、妖精界に囚われて抜け出せなくなるかもしれない・・・それでも、行くか?」
「・・・えぇ、それしか方法が無いのであれば!」
「そうか・・・お前らもか?」
「えぇ。私とリッツさんはリズさんに着いて行くと決めた身ですし・・・」
「ここまできたら、最後まで行かないとすっきりしない」
「へっ、乗りかかった船だしな。王都の間も給金は出るんだろ?」
「えぇ、それは約束するわ」
「なら決まりだ。お嬢やイース達と一緒だと退屈しねぇしな。特に、イースが来てから」
「人聞きの悪い・・・」
「それに、嫁たるもの主人には着いていくべき」
「まだ言ってんの!?」
「ありがとう、みんな・・・」
「それにしたってイースよぅ、妖精界なんて、実際に行ったみてぇな口振りじゃねぇか」
「そうですね、妖精界に足を踏み入れた人間なんて・・・」
「・・・まぁ、その辺はいいだろう。誰にでも話しづらい事はある」
「リッツの旦那・・・まぁ、そうだな。イースが悪い奴じゃないのはわかってるし。ちょっと気難しいが」
「気難しいは余計だ!」
「じゃあ!行きましょう!妖精界へ!」
こうして俺達は、全人未踏の地へと足を踏み入れる事となる。