第32話 豪斧のザクルゼン
今回はちょっと長め?です
「おい、何だ?これ」
「あん?あぁ、なんでも英雄様達とあの豪斧が戦うんだってよ」
「えっ、あの豪斧と?そりゃぁ、ちょっと無茶じゃねぇか?」
「でもよ、あの竜に勝ったんだろ?いくら豪斧が強いって言っても竜よりは弱いだろ」
「いやぁ~、わからんぜ。なんでも豪斧は町長が出した火竜討伐の依頼でもともと来たって話だからな。竜より強いんじゃないか?」
「竜より強い人間なんているのかね・・・」
「英雄様達は竜に勝ってんだから、強いんだろうよ」
「そりゃおめぇ、全員で命からがらだったって話だぜ?見たろ、あの全身血だらけの男」
「あぁ、まぁなぁ・・・」
「よぉ!お前たちはどっちに掛ける?」
「ん?何だお前。賭けしてんのか!」
「おうよ、こんなイベント滅多に無ぇだろ?こんな田舎に竜殺しとA級冒険者が来て戦うなんてよ」
「不謹慎じゃないか!俺は英雄様に銅貨50!」
「まいど!」
「おい!お前口と言動が・・・あ、俺は・・・うーん、豪斧に銅貨20」
「20!少ねぇよ!っていうか英雄様じゃねぇのかよ!」
「うるせぇな。今月は母ちゃんに小遣い減らされてんだよ!」
「あぁ、お前んとこの・・・若い頃はおしとやかだったのにな」
「おいやめろ、それ聞かれたら豪斧より怖い母ちゃんに出迎えられちまう」
「はっはっは!ちげぇねぇ!」
「麦酒~!麦酒はいらんかね~!氷で冷えてるよ~~!」
◇◇◇◇◇◇◇
「・・・おい、何だこのお祭り騒ぎは」
「いやぁ~、どこから漏れたんだろうねぇ。流石に町中で戦う訳にもいかないでしょ?ヘファイトスに演習場なんて無いから、近くの牧場を借り切ったんだけど・・・その時かなぁ?」
「ずさんな・・・」
「まぁいいじゃない。隠すようなものでもないでしょ?」
「確かに隠すほどじゃないが、手の内を伏せるのは基本だ。それに、何と言うかやりづらい」
俺達は今、火山都市ヘファイトス近くの牧場に来ていた。
昨日約束した、豪斧との立ち合いをする為だ。
遠くに見える柵の脇には、報酬の魔狼車が置いてある。
こんな観衆の中で・・・まぁ、シャントは食わせ者な感じがするから、火竜討伐という功績(名誉?)を図らずも横から俺達にかっさらわれた評判回復も視野に入れての事だろう。
好き好んでで火竜を倒した訳じゃないし、名誉なんて別にいらないんだが・・・まぁ、こうなってしまったものは仕方ないよな。
「まぁいい。観客も含めて人死にだけは出ないようにしてくれよ」
「それはどちらかと言うと君たちにお願いしたいね。言ったろ?ザックは手加減が得意だって」
「こっちが?」
「うん。君たち、こんな環境で戦った事ないでしょ?それに、山の形を変えるほどの使い手だと、なおさらね」
「あれは厳密に言えば俺達がやったんじゃない・・・が、善処する」
確かにリズ達はこんな状況無かっただろうな。観客も結構離れていて、ギルド職員もお守でついている様だから大事にはならないと思うが・・・対人戦で広域魔法ぶっぱなしてもしょうがないしな。
「では、また」
「あぁ」
俺とシャントは会話を終えて、それぞれの位置に戻る。
俺は仲間の元へ、シャントは場外に。
最初から取り決めていた事だが、ザクルゼン一人で俺達の相手をするらしい。
いくら何でも1対6は・・・とリズは渋っていたが、本人の希望でそうなった。
竜を倒したのは俺達の力を合わせてだから、それと戦いたいと。
まぁ、A級冒険者ってのは化け物ばかりだから、俺はそんなに心配していない。
多分、負けるだろうしな・・・
「いいよ、ザック」
「うむ!いつもながらに感謝するのである!」
「できれば今後こういった事は控えてもらいたいね・・・今回も完全に赤字だ」
「強さを求めるのは我が性ゆえに!だからこそ貴様の所に参加しているのであろう!」
「まぁ、ね・・・まぁ、これで評判も随分戻るだろうし、いいとするさ。殺さないでよ?」
「奴らはそんなタマには見えぬがな!」
「そうかい、まぁ、程々にね・・・」
「承知!」
「はぁ。予定通りだ。リーダーなんだからリズが行く所なんじゃないの?」
「うん、でも・・・なんかあの紅剣って苦手なのよね」
「そうなのか?中々の美男子だぜ」
「見た目の話じゃないのよ、ゲイン。なんかこう・・・蛇のような視線というか」
「・・・わかる。あいつは女の敵」
「シャルお嬢まで・・・そんな変な噂は聞かねぇけどなぁ」
「まぁ、本人が嫌と言っているならしょうがないじゃないか。で、肝心のあいつ対策だが・・・どの程度本気でやるんだ?」
「もちろん、やるからには全力よ」
「全力か」
「そう・・・あ、リッツのアレや、イースのアレまでは使わなくていいからね」
「勿論だ。出せる範囲の全力ね・・・たぶん、勝てないぞ?」
「彼の言葉じゃないけど、A級冒険者と・・・人類最高峰の戦力と戦うなんて滅多にないわ。魔物とはまた違うだろうし、癪だけどいい経験になると思うの」
「確かに、殺さないと公言してるからな。思い切りやれるという意味では確かに勉強になりそうだ」
「そうか。じゃ、やれるところまでやりますか。ちなみに、あいつを人間だと思わない方がいい。A級は本当に化け物ばかりだ・・・あのシャントって奴も含めてな」
「えぇ、竜を殺す気でいくわ」
「見るからに完全な近接タイプだが・・・それだけ身体能力の強化は人外といった所だろう。あの斧も、多分魔導具だ・・・ミスリルのじゃないと打ち合えないぞ。というか、打ち合ったらすぐ負けるからな」
「えぇ。戦術はいつも通り、私とリッツが前衛でイースとゲインは遊撃しつつ、シャルとカイの援護を。あとは全力で叩くだけよ」
「「「「「了解」」」」」
俺達が打ち合わせを終えて振り向くと、ギルド職員が俺達とザクルゼンの間に立って宣誓を行う。
「では、これよりA級パーティ『紅の剣』のザクルゼンと、みなしE級パーティ『エリザベートパーティ』6名、計7名による模擬戦を開始する。立会人は冒険者ギルドヘファイトス支部長カンクルが務める。双方とも、遺恨を残さず誠意をもって訓練にあたること。なお、故意、事故に限らず相手を殺害した場合には、殺人罪が適応される。では・・・互いに礼!」
俺達は互いに礼をして、武器を構えて向き合う。人間相手にミスリル製の武器は普通抜かないが・・・今回はこれじゃないと太刀打ちできないだろう。
「それでは・・・模擬戦開始!」
開始の合図と共に、ギルド職員が柵の外に全力で走っていく。凄い逃げっぷりだ。まぁ、相手を考えると気持ちはわからなくもないが・・・
合図と同時にザクルゼンがこちらに目がけて・・・と思いきや、堂々と歩いて近づいてくる。
「先手はお主らに譲ろう!我はお主らの力を見定めたいのでな!!」
「へっ、余裕だねぇ」
「それじゃぁ、遠慮なく・・・行くわよっ!リッツ!」
「応」
斧を手に構えもしないザクルゼンに向かってリズとリッツが、遅れて俺とゲインが駆け出す。
シャルとカイは既に詠唱に入っているようだ。
『主よ、世に満ちる聖霊達よ。彼の者に困難に耐えうる鋼の肉体を与えたまえ―セイント・プロテクション』
『魔素よ。汝が身を氷杭に変え、敵を穿て―アイシクル・ネイル』
『主よ、世に満ちる聖霊達よ。彼の者に障害を打ち破る力を授けたまえ―マイト・インプローブ』
カイが神聖魔法で皆を強化し、シャルの詠唱によって作り出された氷杭がザクルゼンに向けて一斉に放たれる。
「ふんっ!ぬるいわ!」
ザクルゼンが虫でも払う様に斧を一振りすると、斧が直接当たっていないものも含めて氷杭が砕け散る。どうやってんだよ。
斧を振り終わった隙を狙い、リズとリッツが攻撃を仕掛ける。
「はぁっ!」
「ぬぅっ!」
開始早々に決まるか・・・と思いきや、ザクルゼンは巨大な斧を小枝の様に振り回すと、リズとリッツを相手取って剣戟を重ねる。
明らかに誘いだが、隙をついてリッツが切り付けるも・・・その身体に傷を付ける事は敵わなかった。
おいおい、嘘だろ?竜の表皮も切り裂くミスリルの槍だぜ?
「これは中々・・・この槍術、ミッドガッズの制式か!良い腕前だ!」
「ほざけ!」
「これ程の腕なら士官も・・・うん?制式ということは・・・そうか、お主」
「こっちもいるのよ!」
「ヌシも女子の割には、なかなか!」
「女だって戦えるんだから!」
善戦している様に見えるが、あれはまだ遊んでるな・・・まぁ、向うがこっちをナメてくれなきゃいい勝負すらできないんだが。
あれだけ切り結んでると、技を使う余裕も無さそうだし、俺が加わっても足手まといだし・・・魔法の援護も近すぎるからなぁ。
「・・・ゲイン!毒!」
「・・・いいのか?相手は人間だぜ?」
「人と思うなって。麻痺性の一番強いのでやってくれ」
「あいよ・・・ふっ!」
『ボゲッド!』
ゲインが毒を塗布した短剣を投擲するのと同時に、俺はザクルゼンの足元に向けてボゲッドで泥沼を作る。
「ぬっ!詠唱破棄だと!やるではないか!!」
「今っ!破岩斬!」
「槍風閃!」
「甘いわぁ!!」
「ぐはっ!」
「きゃぁっ!」
「嘘だろ!?」
俺の狙いを理解したリズ達は、ザクルゼンが泥沼に足を取られた隙に・・・って、あいつ周りの地面ごと大地を踏み砕いて進みやがった!
ザクルゼンは大地を踏み抜いたその踏み込みで斧を振るうとリズとリッツを吹き飛ばし、ゲインの投擲した短剣を指で挟んで受け止めて、投げ返してくる。
「くっ!」
「うぉっ!あ・・・」
俺とゲインは何とか投擲を躱したが、ゲインは掠ってしまったのか全身を痙攣させ、大地に伏せる。
「ゲイン!『デトックス!』」
俺はデトックスでゲインの毒を中和・・・している隙に筋肉ダルマが目の前に!?
「白魔法まで扱うか!大した魔術師だ!だが・・・その剣は飾りか!!」
「かぁっ!」
「んんっ?ぬんっ!」
「ぐぉっ!」
回避が間に合わないと判断した俺は、マジック・シールドを無詠唱で何層にも重ねて豪斧の一撃を緩和する。
魔力の節約のために、斧の軌道上に何枚もだ。
ザクルゼンは斧を振っている間に違和感を感じたのか、途中で強さを変えて障壁を突破してきた。
結果、数十枚に及ぶ障壁は全て砕かれ、斧が俺の身体を抉り、吹き飛ばす。
このローブじゃなかったら・・・マジック・シールドで緩和して、俺も後ろに飛んでいなかったら身体が両断されてんぞ。
「ぐっ・・・こ、殺す気か・・・」
「そんなタマではあるまい!まさか無詠唱までこなすとは!先程の手ごたえ、初めてだぞ!」
「ちょっとは・・・後輩に優しくしろっ!」
「これでも優しく指導しているのである!ふんっ!」
「がっ!」
「ぐっ!」
俺のクアエシトールによる一閃もあえなく防がれ、背後から忍び寄っていたリッツ諸共にまた吹き飛ばされる。
吹き飛ぶ間に見た空に、見慣れたものが複数浮いているのが見えた。
「ぬっ!これは・・・!」
「・・・私も遊んでいた訳じゃない。たくさん溜めた。皆が離れた今が・・・年貢の納め時。ごー」
「ぬっ、う、うぉぉぉおおおお!!!」
いつの間にかザクルゼンの周囲に無数の氷杭が設置されており・・・100はあろうかというその氷杭が全方位からザクルゼンに向けて一斉に放たれる。
確かに殺す気でとは言ったが・・・シャルロット、恐ろしい子。
ザクルゼンもいくつかは斧で砕いた様だが、無数の氷杭を砕くことはできずに次々と奴の身体に氷杭が命中する。
奴に当たった氷杭が砕けて雪煙となり、辺りを覆う。
雪煙・・・?いや、まだだ!
「はぁっ!デイ・ブレイク!」
「はっはっは!今のは流石にひやっとしたぞ!氷だけに、なっ!ぬぅっ!」
「ぬぁっ!畳みかけろ!休む隙を与えるな!!」
俺は雪煙の中目がけて飛び上がり、渾身のデイ・ブレイクを放って剣を振り下ろす。
振り下ろした先に金属質の手ごたえがあり、剣と斧の衝突の余波で雪煙が晴れる。
俺のクアエシトールと斧は一瞬拮抗した後、反動でザクルゼンは少し、俺は大きく弾き飛ばされる。
ミスリルの剣で放った俺の渾身の武技と、本気じゃないただの一閃が拮抗だと?
あれだけのアイシクル・ネイルを喰らって傷一つないし・・・化け物め。
「鎧が無かったら危ない所であったわ!」
「ほとんど意味無ぇだろ!その鎧!」
「我が肉体が一番の鎧である!ぬぅぅん!!」
「出鱈目だよこいつ!!」
俺とリズ、リッツの三人を相手取ってもまだ本気には程遠い様だ。
前世であいつらと旅してた時はそこまで感じなかったが・・・やっぱりA級ともなるともう人間じゃねぇな。
「その武器といい、防具といい、中々の業物を使っておる、な!」
「そりゃ!どうもっ!」
「しかし!まだ武器に使われておる・・・特に小僧!お主の剣術はぎこちない!筋は良いが・・・まるで借り物で戦っているようだ!」
「余計なお世話だ!」
「そのままでは、いつか仲間を殺すぞ!」
「ぐっ!」
ザクルゼンの一閃で、またも俺達は吹き飛ばされる。
近接戦は本職じゃねぇんだよ!
魔力が潤沢に使えればまだ前世でやってた魔闘技で戦えるんだが・・・今の魔力量じゃ無理だな。
「ふむ。そろそろ遊びは終わりにするか。お主らの地力もわかったことだしな」
「ぐっ、そうかい・・・」
「さぁ、ゆくぞ。死ぬなよ」
そういうとザクルゼンは初めて構えらしい構えを取る。
今までとは違い、身体に魔力と殺気が伴っているようだ。
ザクルゼンの姿が欠き消えたかと思うと、立ち上がろうとする俺達の目の前に斧を振りかぶった奴がいた。
「破・岩・斬!!」
「づおぉっ!」
「うわぁぁああ!」
「がっ!」
「うっ!」
「ぐっ!」
「主よ、世に満ちる―うわっ!」
ザクルゼンが斧を地面に振り下ろすと、斧の周りから地面がめくれ上がり、俺達を吹き飛ばす。
ただの破岩斬が何て威力だよ!
技の余波だけで満身創痍の俺達を見下ろす様にザクルゼンが近づいてきて、声を掛ける。
「竜を倒したというからどれ程かと思えば・・・こんなものか。これでは竜を倒したというのも眉唾であるな」
「なん・・・だと・・・」
「もしくは、手負いかよほどか弱き竜だったのだろう。これでは竜が不憫である」
「火竜を・・・あいつを、馬鹿にするな・・・っ!」
「ほう、槍使いの・・・まだ気力はあるか。しかし、身体が付いてこないようだな。この程度の腕ではこの先いつか破滅が訪れよう」
「勝手な・・・ことを・・・」
「ふむ。それを待つのも忍びない・・・気が変わった。どうせならお主らはここで、我が引導を渡してやろう」
「なっ・・・!」
「こ、殺さない、と・・・」
「なに、この先魔物にやられるのも、ここで我にやられるのもかわるまい。我ならば楽に逝かせてやれるのである。まずは、お主か」
「がはっ!」
「り、リッツ!」
ザクルゼンが斧を振るうと、槍を支えに立ち上がりかけていたリッツを一閃し、大量の血と共にリッツが吹き飛び、動かなくなる。
こいつ、本当に殺りやがった・・・!!
「り、りっつ・・・?リッツ!リッツガルドぉ!」
「心配するでない。すぐに皆そちらに送ってやるのである。その傷、女子には辛かろう。今楽にしてやるのである」
「いや、私もこんな所で・・・いや!いやぁぁ!リッツ!カイ!お父様!・・・お父様ぁ・・・イース!!」
こいつ、本気で全員殺る気だ・・・リッツ・・・俺達が、何の為に旅をしてきたのか・・・
何の為にミスリルゴーレムや火竜を倒してきたのか、何だと思ってやがる!
しかもこの俺の目の前で・・・あいつの子孫を手に掛ける・・・?
俺達の為だと・・・貴様は、何様だ!!
「・・・『第三外殻封印限定解除―リベレイション!』」
「さらばだ・・・ふっ・・・ぬっ!?」
「てめぇ・・・ナメてんのかっ!」
「ぐおぉっ!!」
「イース・・・」
俺は外殻封印を解除し、ザクルゼンの振り下ろした斧を受け止める。
受け止めた俺の足元の大地がひび割れて陥没し、威力の凄まじさを物語る。
斧を右手で受け止めたまま、俺は前蹴りでザクルゼンを吹き飛ばす。
冥土のみやげに、俺本来の戦い方ってのを見せてやろうじゃねぇか!
「素手で、受け止めた、だと・・・」
「ふぅぅぅ・・・こぉぉぉ・・・貴様は、殺す!」
「その意気や良し!!」
俺は息吹を整え、全身に魔力を巡らせ、学園長にもらった世界樹の杖を構える。
「杖術か・・・それが、お主本来の姿か」
「どうかな・・・リッツの分まで、お前はいたぶって殺す」
「物騒な・・・果たして、できるかなっ!」
俺は全身の魔力を身体に押し固め、魔闘術の準備を終える。
俺の身体から吹き荒れていた魔力がピタっと収まり、あたりは嵐の前の静けさのようだ。
「ふっ!」
「ふんっ!!」
俺とザクルゼンは同時に大地を蹴り、接敵する。
杖と斧を激しく打ち合いながら、互いに蹴りや打撃も交えて激しく交戦する。
「その!技!まさか!伝説の!」
「さぁ!ねっ!自分の!身体で!確かめなっ!」
「ぐぉっ!」
俺の杖が斧を絡め獲り、ザクルゼンの身体を蹴りで吹き飛ばす。
ザクルゼンも流石といった所か、斧は手放さずになんとかこちらの攻撃をしのいだ様だが・・・ここからが本番だ。
「ずぁっ!」
「ぐっ!ぬぅぅぅぅん!!」
「『ジュピター・サンダー!!』」
「ぐっ、ぐががが」
「オラオラオラオラオラオラ!!」
「ぐっ、ぶぅっ!」
俺はザクルゼンが吹き飛んでいる間に追いつき、打撃と共に魔法を叩き込む。
魔力によって身体能力や防御力を高め、打撃と共に攻勢魔力を直接相手の身体に叩き込み、手足の動作と共に魔法を放つ。
これが魔王と呼ばれたシュティールの戦い方だ!
杖による殴打と共に無数のファイアー・ボールを叩き込まれたザクルゼンは、周りの大地を吹き飛ばしながら、どんどん地中へと埋まっていく。
「ぐぅぅっ!!」
ザクルゼンが苦し紛れに斧を振るうが、俺は棒立ちのままその斧を身体に受ける。
「おぉぉ!穿ち、割りっ!」
「・・・満足したか?」
「ぬぅぅぅ!うぉぉぉぉ!」
「ぬるいっ!」
ザクルゼンが起き上がりながら武技や渾身の一撃を繰り出すが、俺の身体には届かず、ローブの僅か手前―魔力を凝縮した表面―で弾かれる。
俺はその一閃を首で受け止め、ザクルゼンを空中へ蹴り上げる。
「ぶはっ!」
「もういいだろう。受けるのも飽きてきた・・・『我が呼び声に応え、ゲヘナより出でよ!地獄の業火!―ヘル・フレイム!!』」
「うっ、がぁぁあああっ!」
「まだまだぁぁああ!!」
召喚魔法で呼び出した消えない業火―ヘル・フレイムに焼かれながらも、まだ息がある様だ。
そうこなくっちゃ。殺り甲斐が無い。
俺は奴の落下に合わせて、空中に巨大な岩塊を作り出す。
そして、業火に焼かれ続けるザクルゼンが地面に落ちると同時に岩塊を勢いよく落とす。
『―フォーリン・ダウン!!』
岩塊が消えたかと思う程の速度で地面に到達し、周囲の地面をめくって大規模な破壊をもたらす。
土煙をストームで晴らすと、巨大なクレーターの底でわずかに身じろぎするザクルゼンが居た。
チロチロと、ヘル・フレイムがまだ奴の身体を炙っている。
このままだと死ぬだろうが・・・
「ほう、まだ息があるか。流石はA級・・・これから回復魔法で治癒して、何度でも同じ思いを味合わせてやろう。ふっふっふ、はっはっは!さぁ!まだ始まったばかりだぞ!立て!まだまだ試していない魔法がごまんとあるぞ!!」
そういってクレーターの奥へ飛翔魔法で飛んで行こうとする俺に、後ろから真っ赤な剣が俺の首元に突きつけられる。
「・・・んん?」
「・・・そこまでにしてもらおう。さすがにザックでも死んでしまう」
「ほう、次はお前か?紅剣の。何なら2人がかりでもいいぞ」
「望む所・・・と言いたい所だけど、敵いそうにない。やめておくよ・・・ここは穏便に、赦してやってくれないかな?」
「ふん、そっちは殺っといて・・・」
「イース!!」
「ん?」
声のした方を見ると、リズが満身創痍のリッツを抱えて立ちながらこちらに向かって声を張り上げている。
なんでそんな遠くから・・・あぁ、そういや被害を抑える為に、あいつを遠くに飛ばしてから殴ってたな。
「イース!リッツは無事よ!!」
「ぐっ、恐らく、奴が俺達に本気を出させる為の、ダシに使われた、な・・・」
「だめよリッツ、喋らないで!酷い傷にはかわりないんだから!」
「・・・そういう訳さ。言ったろ?手加減がうまいってさ。相手の本気を出させるのもうまいんだ・・・その為に、あの小手に血糊なんてものまで仕込んでいるんだから。まさか、ここまでとは思っていなかったけどね」
「・・・ふんっ」
俺は召喚したヘル・フレイムをかき消すと、死なない程度までザクルゼンに回復魔法を掛ける。
「凄いな・・・全部、無詠唱かい?神聖魔法まで使えるとは」
「さぁな。これで死にはしないだろう。約束は守れよ」
「守るさ。ああなりたくは無いしね。情けない話、さっきから切っ先が震えてうまく狙いが定まらないんだ」
「この程度の刃は通らないけどな・・・試してみるか?」
「やめておくよ・・・この程度、ね。これでも、そこそこの使い手だと思ってるんだけどね」
「今まで自分よりも弱い相手としか戦って来なかったんだろう。じゃあな」
俺はテレポーテーションでリズの真横に移動し、リッツに回復魔法を掛ける。
「いっ、イース・・・どうやって?」
「単に空間跳躍しただけだ・・・悪いが、今度は数日起き上がれないと思う。普通の薬草は効くから、後は頼む・・・『第三外殻封印再匣―リシール』」
「えぇ、ありがとう・・・後は、任せて・・・」
「あぁ・・・・・・」
薄れて行く意識の中、やけに青い空と芝生が目に痛かった。
ちなみに、七王の中ではシュテイール・・・主人公の前世が戦闘力的には一番ぶっ飛んでます。本人は気づいてませんが。