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魔王が求める平穏生活?  作者: アバン
第三章 火の精霊王編
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第29話 火竜

 「グガァァアアアァァア!!」

 「成体火竜!火水氷風無効!雷有効!ミスリルたぶん有効!ブレスに注意!」

 「カイは私とリッツに補助魔法!シャルはブレスを魔法でカウンターして!余裕があれば行動阻害!」


 俺が火竜の要点を叫ぶと、リズが指示を飛ばす。

 火竜には水や氷が効くと思われがちだが、硬い皮膚と生物としては異常に高い体温から水や氷、風は効かない。

 溶岩の中を泳ぐ位だから火も効かない。

 地竜と違って雷は効くが、この中で雷属性を使いこなせるのは全属性の俺だけだ。


 ヴルカン(火の精霊王)は俺なら倒せるとか言ってたけど・・・シュティール(前世)とは身体の性能が違ぇんだよ!!


 「『主よ、世に満ちる聖霊達よ。彼の者に困難に耐えうる鋼の肉体を与えたまえ―セイント・プロテクション』」

 「イース、雷―」

 「無理だ!あの火竜は古竜―まではいかなそうだが、相当に歳経た竜でそこらの火竜と比べ物にならない!俺の全マナ費やして雷魔法を使った所で倒しきれない!その上で使いどころを指示してくれ!」

 「じゃあやっぱりコレで斬るしかなさそうね!私とリッツで攻撃、イースは火竜の注意を逸らして!ゲインはシャルとカイの護衛!」

 「「「「「了解!」」」」」」


 ヴルカンのせいでなし崩し的に戦闘に入るしかなかったが、リズの指示は的確だと思う。

 ヴルカンは火竜が理性を失ったと言っていたが・・・竜はその強さも厄介だが、一番厄介なのはその知能の高さだ。

 古竜になると下手すりゃ人間より頭いいからな。その知能が無いというのが唯一の活路かもしれない。


 「ギャガァ!」

 「『主よ、世に満ちる聖霊達よ。彼の者に障害を打ち破る力を授けたまえ―マイト・インプローブ』」

 「岩斬―どうだぁっ!」

 「ギャグゥ!」


 おいリズ、技名は最後までちゃんと言え。


 リズは火竜の噛みつきや前足での薙ぎ払いを器用に避けながら、すれ違いざまに火竜の前足を切り付ける。

 その斬撃は火竜の皮膚を破り、紫色の血をまき散らした。


 「いけるぞ!尻尾に注意しろ!」

 「こちらも忘れてもらっては困る!」

 「ギャァァアア!!」


 火竜にとっては小さい俺達に痛手を喰らうとは思っていなかったのか、火竜は首や前足を振り回し、リズを追いかける。

 そこへ背後からリッツの突きが連続して火竜に傷を与える。


 こりゃいけるかもな・・・まぁ一撃でも喰らったらひき肉になるってのは変わらないんだが。

 火竜は図体がでかいせいでちょっとやそっとの傷では倒せない。

 それこそ、首でも斬り落とさないと駄目だろう。


 「ガァァアアウ!!」


 理性が無いとはいえ、知能が全く無くなった訳ではないのか、火竜はリズとリッツの攻撃から逃げる様に羽ばたき、空中へ身を躍らせる。

 そんなに高度を取っている訳ではないが―あれは!


 「リッツ!リズ!戻れ!ブレスだ!!」

 「えぇ!」

 「・・・」


 飛び上がった火竜の口から真っ青な炎がチロチロと漏れ出ている。


 「『主よ、世に満ちる聖霊達よ。自らを我らが荒波から守る防壁と成せ―セイント・ドーム!』」


 カイが神聖魔法の防壁を張った直後、火竜から目の覚めるような青い焔が降りかかる。

 竜の炎は魔法じゃないからマナ・レストレイションもできず、防ぐしかない。

 今の俺にとっては正に天敵だ。


 炎が絶え間なく降り注ぐ中、周りの地面が赤熱しドロドロと溶けだす。

 防壁を張っていてもすさまじい熱が伝わってくる。


 「ぐっ・・・だ、だめです、保ちません・・・っ!」

 「シャル!」

 「『魔素よ。汝は凍てつく冬の怒りなり―フリージング・ブリザード』」


 シャルがゴーレムも凍らせた氷の上級魔法で炎を相殺・・・はできず、和らげる。

 何とか凌ぐ事はできそうだ。


 カイも見習いの割にセイント・ドームも使えて優秀なんだが・・・そこは見習いといった所か、少し構成が甘く、脆い。

 ハルート(教皇)なら氷でカウンターマジックしなくても防ぎきってたぞ。熱も伝えずにな。


 「くっ・・・なんとか・・・えっ?」

 「みんな避けろ!」


 終わりが無いと思えた火竜のブレスが終わって視界が晴れると、そこには前足を振り上げる火竜の姿があった。

 俺は棒立ちになっているカイを引き倒し―シャルはゲインが引き倒し、リズとリッツは動き始めている―伏せさせる。


 「がっ!」

 「うあぁ!!」

 「キャァァァ!」

 「うっ!」

 「どわぁぁぁああ!!」

 「あぁぁああっ!」


 身体に衝撃を感じたかと思うと視界が激しくかき回され、全身に痛みを感じる。

 霞む視界で辺りを確認すると、俺も含めて仲間たちが扇状に散らばり、地面に倒れていた。

 どうやら直撃避けられたようだが、火竜の前足はカイのセイント・ドームを割砕き、俺達を吹き飛ばしたらしい。


 全身が痛ぇ・・・こりゃどこかに打ち付けられたかな・・・

 赤く滲む視界で辺りを見回すと、リズとリッツは武器を手に何とか起き上がろうとしている所だった。

 一撃掠っただけで壊滅状態か・・・まずは体勢を整え―マジかよ!!


 起き上がろうとするリズ達の先には、口元に青い焔を灯す火竜が咢を開く所だった。


 「『セイント・・・ドーム!!』」


 俺はなけなしの魔力を使い、仲間を守るべくセイント・ドームを張る。

 詠唱する余裕もなく、魔力も心もとなく、防壁の範囲も―仲間が散らばっている為―広いが、ひよっ子の神官よりは丈夫に組んでみせる!


 「グバァァッ!」

 「シャ・・・る・・・」


 防壁で火竜のブレスを防いでいる間にシャルに呼びかけるが、意識を失っているのか呼びかけには応えない。

 火竜のブレスが途切れると思われた刹那、視界の端に何かを捕えた俺は、咄嗟に土魔法で地面を少し陥没させ、アース・グレイブで土槍・・・とも言えない様な塊を作り出し、壁にする。

 次の瞬間、ブレスで脆くなったセイント・ドームと土槍を壊してまき散らしながら、何か―おそらく火竜の尻尾―が俺達の頭上を掠めた。


 「ぐっ・・・」


 土が降りかかる中目にした火竜は、笑うかの如く前足を振り上げ、こちらに振り落とす所だった。


 あー、こりゃ今回ばかりは死んだかな・・・封印解除する時間も体力も無いし。

 すまない、皆・・・すまない、ジュリア・・・お前の子孫、守れなかったよ・・・


 朦朧とする意識の中、火竜の腕がスローモーションで迫り・・・ガキン!という音と共に巻き起こった風が俺の髪を揺らす。


 「・・・何諦めてるんだ、イース。お前らしくない・・・憎まれ口でも、叩いて、みせろっ!!」


 はっと覚醒し場を把握すると、リッツが俺の前に立ちはだかり、火竜の前足を―なんと手にした槍で受け止めていた。

 リッツは火竜の一撃を受け止めた後、押し戻して槍を振るい、火竜の左前足を切断する。


 「んんんんがぁぁああああああああああ!!!」

 「ギャァァアアアアアア!!!」


 何てバカ力だ・・・ミスリルの槍はともかく、人間が耐えられる力じゃ・・・なんだ?あれは

 現実離れした光景に目を凝らすと、リッツの全身が斑に青黒く染まり、額の脇から2本の・・・角が飛び出ていた。


 「おぉおおぉおお!!槍風、閃!!」

 「ギャグゥウウ!!」


 また空に飛び上がろうとした火竜を止めんとし、リッツは火竜の翼―皮膜を槍で切り裂く。


 「まだ寝ぼけているのかイース!剣を使え!!」


 リッツの言葉に正気を取り戻した俺は、痛む身体にむち打ち火竜の―またブレス吐くるもりだな―下顎にクアエシトール()を投げつける。


 「ギャボォウ!?」


 剣は火竜の下顎を突き破ったのか、火竜は口や剣の刺さったままの傷口から炎をまき散らし、悶える。


 俺が諦めてどうする。今生は平穏に生きて天寿を全うすると決めてたじゃないか。

 そもそも、リッツがここまでの姿を見せて俺がやられっぱなしってのは、まずいよな!


 俺はふと視界に入ったリッツの煙草―おそらく火竜に吹き飛ばされた時に散乱したうちの一本―を咥え、ブレスの残り火で火を付ける。


 煙草なんて生まれ変わってから初めてだな・・・っていうか何だこの味。まぁいい・・・よくもやってくれたな、クソトカゲ!!


 俺は煙を胸いっぱいに吸い込みながら悶える火竜に近づき、数年ぶりにあの言葉を口にする。


 「ふぅー・・・『第三外殻封印限定解除―リベレイション!』」


 呪文を唱えると同時に、抑圧されていた魔力―魔素が俺の全身を駆け巡る。

 傷口からドクドクと血が流れ出て行くのが分かるが知ったこっちゃない。一瞬でケリをつけてやる!


 「ギィィィアア!!」

 「フンッ!」


 傷つけられて怒ったのか、火竜が俺に向けて残った前足を振り下ろすが・・・俺は無詠唱で張ったセイント・ドームで攻撃を受け止め、同時に回復魔法で仲間の傷を癒す。


 「オラァッ!!」

 「ギャァァア・・・」


 俺はなおも追い縋ろうとする火竜に向けてアース・グレイブを放つ。

 硬い外皮のせいか生み出された無数の土槍は火竜を貫く事は無かったが、その衝撃で火竜の巨体が空中に飛び上がる。


 「悪いがこれでお別れだ・・・『グラビティ・スフィア!』」


 俺が魔法を発動すると、火竜は見えない球体の檻に囚われた様に空中に留まる。

 しばらくすると火竜の全身が丸く小さくなっていき・・・中心の一点に圧縮されている様だ。

 火竜が打ち上げられた衝撃で抜けたのか、俺の剣が足元に降ってきて突き刺さる。


 「ギャ、ガ、グ・・・」

 「そのでかい図体を見ているとイラついてくる。小さくまとめてやるよ」

 「ガァ・・・グ・・・ガァァアアアア!!」


 火竜は球体に圧縮されながらも、最後の力で魔法―竜術を放つ。

 魔素が衝撃となって辺りに伝播し、大地を破壊する。

 しかし俺のセイント・ドームを破るには至らず、火口付近を破壊しただけに終わった。


 「ガァア・・・」

 「さらばだ、理性を失った悲しき竜よ。願わくば、来世で健やかに」


 バキバキと火竜の全身が砕ける音が聞こえ、紫色の血を大地に振り撒きながら火竜は直径30cm程の玉になって落ちた。


 「ふぅー・・・『第三外殻封印再匣―リシール』・・・体中が痛ぇ・・・」


 身体が成長したからか、学園での生活のおかげか前よりは耐えられるみたいだな・・・ってやべぇ!


 火竜の最後のあがきで放った竜術―竜の魔法―で破壊された痕を伝って、火口の溶岩が山の外に溢れ出していた。

 山火事になるのももちろんだが、あの方角には火山都市ヘファイトスがある!


 出血と封印解除の反動で意識を失いかける中、周りの惨状を見て俺は決断する。


 「グノーム!俺との盟約に従い、その力を示せ!溶岩をせき止め、辺りをあるべき姿に戻してくれ!!」


 俺はグノーム(土の精霊王)からもらった指輪をかかげ、グノームに助力を要請する。

 いまから封印を再解除して土魔法を使う余裕はないし、何より倒れそうだ。


 ―承知した。彼の地をあるべき姿に戻そう―


 俺は背中に土の感触を感じる傍ら、意識を手放す間際にグノームの声を聴いた気がした。


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