第28話 火の精霊王
「この辺りで休憩にしましょ」
「ふぃ~、疲れたぁ~」
「ゲイン、情けない」
「と、登山が、こんなに、厳しいものだ、とは、お、思いもしません、でした・・・」
「カイも情けない」
「ほらカイ、呼吸を整えて。シャル、お水をお願い」
「『・・・魔素よ。汝が身は流るる清流なり―ウォーター』じょばー」
「シャル、何だその効果音は・・・気が抜ける」
「じょばばー・・・イースもへとへと?」
「あぁ・・・」
身体強化がある前衛と違って、俺達は体力的にキツい。
それを見越してリズもこまめに休憩は取ってくれているが・・・キツいものはキツい。
ゲインは身体強化できる筈なんだが・・・なんであんなに疲れてるんだろうか。歳か?
「リズやリッツはわかるんだが・・・なんでシャルまでそんなに元気なんだ」
「私は山育ち」
「そういう問題か・・・?」
「情けないわねぇ、みんな」
「リズはいいよ・・・身体強化に加えてその胸当ての効果もあるしな」
「そうね、それはあると思うわ。身体が軽いもの」
脳筋お嬢様め。
「ゲインさん、大丈夫ですか?」
「あぁ、大丈夫だ・・・登山用に荷物を増やしたせいか重くてな」
「あぁ、それでそんなに疲れてたのか」
「幸い、お嬢の剣のおかげで俺が早期警戒しなくても良くなったし、かわりに荷物をな。剣を過信はしてねぇが」
「そうね、でもモンスターがこっちに気づく前に大体発見できてるわね」
「こりゃ俺いらねぇんじゃねぇか?」
「何を言っている。スカウトの仕事は警戒だけじゃないだろう。それに経験も重要だ」
「はいはい、嬉しいこって・・・はぁ」
確かに荷物は困るよな。結局ケシュマーにもらった服も持ちきれないからって返したし。
生前みたいにディメンショナル・スペースを常時発動できれば荷物も保管できるんだが・・・今の俺の魔力じゃ保持どころか展開すら危ういな。
待てよ?ディメンショナル・スペースまでいかなくても魔導具を作るのはアリじゃないか?少なくとも少しは軽くなるだろう。
それとも、前世の保管庫みたいにどこか倉庫を作ってディメンション・スルーで取り出すのもアリか?
いやそれでも魔力が・・・まてよ?ってことは生前の倉庫ってまだ荷物残ってるんじゃないか?
「なにブツブツ言ってやがるイース。ほれ、水」
「あぁ、ありがとう」
「イースは顔がいい割に根暗なんだよなぁ」
「ね、根暗!?」
「・・・大丈夫、みんな最初は顔」
「シャル!?フォローになってないぞ!」
「まぁ、顔はいいって褒めてるわけですし・・・」
「カイまで!?」
「ほーら。火口まであと少し。じゃれてないで休憩したら行くわよ?」
俺はどこか釈然としない気持ちを抱きながら休憩を終え、登山を再開する。
「とっと・・・ここが火口、みてぇだな」
「えぇ、さすがにここまで来ると熱いわね・・・」
「精霊王は・・・やはり火口の中でしょうか」
「この熱だ。どう火口付近まで近づけばいいのか」
俺達は火口の外延部に到着した。
眼下に見える窪地には溶岩がうごめき、物凄い熱量を発している。
「シャルの魔法でなんとかならない?」
「熱気を遮断?」
「そう」
「うーん・・・フリージング・ブリザードを纏えばいけるかもしれないけど、魔力が保たない」
「どの位保ちそう?」
「たぶん、保って20秒」
「20秒じゃ下までたどり着けそうにないですね」
「仮に下まで行けたとしても、交渉する時間や帰る時間が取れないな」
「むねん」
ここは・・・仕方ない。昔の誼で何とかするか。
「おーい!ヴルカーン!居たらこっちまで出てこーい!ヴルカーーーン!!」
「おい、イース何を」
「何って、呼んでんだよ」
「呼ぶって・・・まさか?」
「そう、火の精霊王。おーい!ヴルカン!出て来い!ヴルカン!!」
俺がしつこく叫んでいると、火口の溶岩が一筋流れ出てこちらに登ってくる。
他の面子が固唾を飲んで見守る中、登って来た溶岩は人の形を作り、声を発する。
『騒がしい。我が名を識る者が誰と思えば・・・貴様か、古き友よ』
「よぉ。元気そうだな」
『貴様は入れ物が変わったようだな・・・人間とはそんな事もできるのか』
「気付いたらこうなってたんだよ。今はイースタル・レグスだ」
「な、なぁ、イース?ひょっとしてコレ・・・」
「ん?あぁ、火の精霊王、ヴルカンだ」
前世で火山に火竜狩りに来た時、まぁ色々あって・・・ヴルカンとモメた末、一時期使い魔にしたんだよな。
厳密に言うと使い魔というより、期間限定の召喚精霊って感じだったけどさ。
それにしても姿がかわってもわかるのか。やっぱり魂で盟約を結ぶからかな?
『貴様との盟約は履行した。今更何用だ』
「あぁ、それがな。今回用事があるのは俺じゃないんだ・・・ほら、リズ」
「えっ!?あ・・・ひ、火の精霊王。この度はお願いがあって参りました」
『何だ』
「リッツガルドの・・・彼の病気を治せないでしょうか」
『人の病の事など知らぬ』
「まぁそう言うなよ。グノーム・・・土の精霊王は四元素の精霊王の力をあわせれば何とかなるかもって言ってたぞ」
『なに?ふむ・・・確かに貴様ら土臭いな』
「ちょっと診てパパッと治すくらいいいだろ?」
『貴様は昔からろくな話を持って来ん・・・ほう、これは・・・なるほど』
「治りますか!?」
『土の言う様に我だけでは無理だな。他の者の力もあれば・・・だが水の奴はいけ好かん』
「頼むよ。その時が来れば一瞬力をかしてくれればいいんだからさ」
『・・・よかろう、力を貸してやろう』
「本当ですか!?ありがとうございます!!」
『ただし』
「ただし?」
『我の助力の条件として、我が友を救ってもらおう』
「友?」
その瞬間、火の精霊王から凄まじい魔力の波動が広がる。
皆も何かを感じ取ったのか、身を固くした様だ。
『我が友もその人間と同じでな。奴の欠片が沈殿し、ついには理性を失ってしまった。あの状態に至ってはもはやどうにもならん。我がなんとかしてやりたいが、我は直接何もできんのでな』
「リッツと、同じ・・・?」
『誇り高き我が友が獣になった姿は忍びなくてな。本人からもそうなれば命を奪ってくれと言われている』
「つまり、殺めろと・・・?」
『大地に還り命を巡ると我が友は言っていたがな・・・来たな、あれだ』
ヴルカンの形代が示す方向―空を見上げると、そこには大きな影が。
視界の端に捕えた光を見ると、リズの剣―モルスハインダーが目に痛い程の光を発している。もはや松明の様だ。
―グガァアァァアアア―
「うぇっ!?おい、あれってまさか・・・!?」
影から遠く鳴き声が聞こえ、みるみる内にこちらに近づいてくる。
さっきの波動は魔素を餌に誘い込んだのか・・・なんてことしやがる!
「ヤバイ!こっちに来やがる!」
「我が友って―まさかアレのこと!?」
「もう逃げられん・・・戦闘準備!」
「全力で逃げられない状況でコレかよもぉおぉおおお!!」
『古き友であれば狂化した我が友も大地に還せるだろう。頼むぞ、シュティール』
「今はイースタルだ!!」
近寄ってくるモノを見た仲間たちは動揺し、覚悟を決め―あるいは諦め―迎撃の準備をする。
俺達が武器を構えると同時に、それは目の前に土埃を上げながら着地し、盛大に土埃を上げる。
「ガァァァアアアアァァアアアアア!!!!」
立ち上がった土埃を払うかの様に咆哮を上げるヴルカンの友。
咆哮によって土埃が晴れたそこには、全長15mはあろうかという火竜がこちらに咢を向けていた。
フラグ回収が早いと評判のアバンですこんにちは。
迂遠な伏線張りたいけど、自分で忘れそう・・・