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魔王が求める平穏生活?  作者: アバン
第三章 火の精霊王編
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第27話 火山都市ヘファイトス

 「ほら、もうヘファイトスに着くぞ。いい加減機嫌直せって」

 「だって、あんな絵が・・・あぁ・・・」

 「なんでぇ、お嬢まだ気にしてんのか?」

 「・・・その内忘れる。放っておけ」

 「ちょっと!みんな扱いがひどくない!?」

 「たかが絵だろう。リズだと書かれてる訳でもない」


 リズがこんなになっているには理由がある。

 コートフォルムでの夜会で寝てしまったリズを俺が抱きかかえて宿屋に取った部屋に連れて行ったんだが・・・どうやらその様子が会場の画家―パーティには出席者の肖像画等を描く為に大体居る―に見られており、彼の創作意欲を刺激してしまったらしく、次の日には絵になっていたのだ。

 題名は「狼と貴婦人」。誰が狼だ。

 もちろん人名は無いのだが、赤いドレスの女性を白髪の若い男がいわゆるお姫様だっこで抱えて歩く様の絵だ。


 それを面白がってケシュマーが購入し、町長に寄贈され、シュトロックの町役場に飾られ、今のリズに至るという訳だ。

 ちなみに、あの夜俺はリズを運んだだけで、決して何もしていない。

 リズはともかく、俺はこの頭のせいで一発でばれるぞ。


 街を歩いてたら子供に「狼だ!」と言われて最初は本当に意味不明だった。

 主婦たちの視線が痛かったので、カイを騙―説得して身代わりになってもらったがな。

 ご婦人たちよ、あえて言おう。誤解であると!


 「ほれ、お前ぇらついたぞ。ここが火山都市ヘファイトスだ」

 「本当に火山の麓に街があるのね」

 「石造りの家が多いですね」

 「あぁ、ヘファイトスは火山の影響か火の精霊が活発な地域だから燃えない素材で家建ててるんだ」

 「イース来た事あるの?」

 「大分前に一度な」

 「大分前って、お前ぇ何歳だよ・・・」


 それにしちゃぁあちこち焦げてるし、何だか街の雰囲気がおかしい気がする。


 「まぁ、いいじゃないか。ヴル―火の精霊王がいるのは火口だから登山用に耐熱マントを買わないとな」

 「え、イース精霊王がどこに居るかわかるの!?」

 「あぁいや、火山に精霊王がいるとしたら火口じゃないかなーって・・・ははは」

 「確かに言われてみるとその可能性が高いかもしれませんね」

 「あぁ。火山で火の気がある所と言ったら火口だろうな」

 「確かにそうね・・・でもマントくらいで火口の熱気を防げるの?」

 「防ぐのは熱気じゃないんだ。火山の道中は高熱の蒸気が急に噴き出してくる事があってな。それを防ぐ為のマントさ」


 耐熱マントは火山に住む魔物、火ねずみの皮でつくられたマントで、火や熱に強い性質がある。

 すれ違う奴らがみんな着けてるやつだな・・・って、なんでこんなに大勢、しかも町中で着けてんだ?こいつら。


 「蒸気って湯気よね?鎧で防げるんじゃない?」

 「いいや、吹き出てくる蒸気は湯気なんてレベルじゃない。下手すりゃ炎よりも高温で、当たった所が焼けただれる。まぁ、規模を考えると当たった所というか、全身が焼けただれちまうな」

 「天然の罠か」

 「迷宮でないからといって油断はできそうにないですね・・・」

 「幸い詳しいイースがいるんだ。対策はあるに越した事は無い」


 実際前に来た時にはピルグリム(剣王)が蒸気にやられて死にかけたからな。


 「イース、あと対策が必要なものは何かある?」

 「そうだなぁ・・・動物や魔物で危険なのはそんなに・・・あぁ、火竜がいたな」

 「火竜!?」

 「火竜は産卵期になるとここや他の火山に行って巣を作り、卵を産む。個体によって産卵期が違うらしいから今いるかどうかはわからないけどな」

 「出たらどうするんだ?」

 「そりゃもちろん、全力で逃げる」

 「全力でか」

 「あぁ、全力でだ」

 「この装備があるんだし・・・倒せないかな?」

 「無理・・・とは言わないが、何人か死ぬ事になるだろうな。特に産卵で火山に居るんだとしたら狂暴性もひとしおだしな」

 「要は対策のしようが無ぇってことか」

 「そうなる」

 「そっかぁー。ドラゴンスレイヤー、ちょっと憧れてたんだけどな」

 「人間を害するならともかく、何もしてないのに竜を狩るのはな・・・素材としては確かに最上級だが、歳経た竜は知性もあるし無暗に敵対しない方が利口だぞ」


 食料や登山用のロープ、杭など必要な物を打ち合わせしながら街を進むと、雑貨屋にたどり着いた。


 「雑貨屋か・・・マントも売ってるかな?」

 「見てみましょ・・・すいませーん」

 「あぁん、なんだい?みない顔だね」

 「婆さん、火ネズミのマント6人分あるかい?」

 「火ネズミのマントね・・・あんたらも馬鹿の仲間かい」

 「馬鹿の仲間?」

 「あんたらもあの火竜を狩りにきたんだろう?火ネズミのマント程度じゃ竜のブレスなんぞ防げる訳ないだろうに」

 「火竜がいるのか!?」

 「なんだい、別口かい」

 「あぁ、俺達はただ火山を登りに来ただけなんだ」

 「ふん・・・何の用があって火山になんぞ行くのかしらんがね、あそこは今火竜が居座ってるからやめときな」

 「そういう訳にもいかないんだ。巣の場所がわかれば避けて行くんだが・・・産卵期の火竜狙いで冒険者が来てるのか?」


 それで町中に火ネズミのマントを着けている奴らが多かった訳か。


 「どうもいつもの竜とは勝手が違ってね。たまにヘファイトス(ここ)にも降りて来て街を焼いてくよ・・・大方、馬鹿な冒険者どもが半端に追い詰めたんだろうさ」

 「たまに焼きに来るって・・・何故ここに残ってるんですか!早く逃げないと!!」


 老婆から話を聞き、カイが声を荒げる。


 「原因はどうあれ、火竜被害はこの街にとって災害みたいなもんさね。この街の住人の多くは火山の恩恵を受けて暮らしている。火竜もそんな火山の環境の一つさ」

 「でも!!」

 「それに私わたしゃもう歳だ。今更他の所になんざ行けやしないのさ。バカな若者が命を落とすのは忍びないから忠告するがね」

 「そんな・・・」

 「なぁに、町長が王都のお偉方に頼んでA級冒険者の派遣を依頼したって話だし、その内なんとかなるさね・・・あぁ、そうそう、お前さん神官様だね?略式でいいから後で教会に行って葬儀をしてくれないか。この前の火竜襲来でここに居た神官様も死んじまってね・・・そのかわり火ネズミのマントはタダでいいよ」

 「・・・・・・わかりました」

 「そうかい、ありがとうよ・・・あんた達も何しに火山に行くのか知らないが、できるならやめておきな。どっこいしょ」


 雑貨屋の老婆はそう言うと店の奥にマントを取りに腰を上げた。




 ◇◇◇◇◇◇◇




 「『主よ、世に満ちる聖霊達よ。彼の者達に安らかな眠りを与えたまえ。願わくば、その安息の後、新たな門出があらんことを―ブレス・ザ・デッド』」


 カイが魔法を唱えると、埋葬を終えた死者の墓から淡く光る何かが立ち上り、天に還ってゆく。幻想的な風景だ。


 「・・・終わりました」

 「お疲れ様、カイ」

 「いえ・・・・・・」

 「それにしてもこれだけ死人が出てるってのにこの街の連中は逃げもしねぇんだな」

 「このあたりはモフォス教以外にも自然信仰というか、火山信仰が根付いてるからな。あの婆さんもそうだったが、天災として受け入れてるんじゃないかな」

 「俺なら一目散に逃げるね」

 「・・・あの、皆さん」


 カイが決意を秘めた様な顔で皆を見回す。

 何となく察しはつくが・・・リズも考え込む様な顔をしているので先回りして言うか。やれやれ。


 「カイ」

 「火り―はい?」

 「俺達の目的は何だ?」

 「それは・・・火の精霊王です」

 「俺は言ったな?火竜を倒すにはこの中の何人かが死ぬだろうと」

 「でも・・・」

 「リズ」

 「ひゃいっ!?」


 話を振られると思っていなかったのか、リズが素っ頓狂な声を上げる。


 「この先、3体の精霊王の助力を得るのに、この面子の・・・そうだな、半分が欠けてもいけそうか?」

 「それは・・・たぶん、難しいと思うわ。土のせい―いえ、グノーム様の時でさえアレだもの。この先も何が起きるのかわからない」

 「そういう事だ・・・カイ」

 「何ですか」

 「お前の気持ちもわかる・・・思う所は俺も同じだ。だがな、俺達には目的がある」

 「でもっ!僕たちはミスリルの・・・!」

 「そうだ。俺達はミスリルの武具を持ち、火竜を倒せるであろう面子も揃っている。だが、それは犠牲を顧みなかった場合だ」

 「それは・・・」

 「神官の救済の心はわかる。だが、婆さんの話しじゃ王都からAランク冒険者を呼んでるんだろう?仮に俺達が火竜を倒したら王都とAランク冒険者の面目丸つぶれだ。報酬もな」

 「それでも、僕は・・・」

 「イースもういいわ、ありがとう。本当はリーダーの私がしなきゃいけない話だったわね」


 何かを言い募ろうとしたカイを遮り、リズが話し出す。


 「カイ。貴方の気持ちもわかる。けど、私達にはイースの言う通り目的があるわ。火竜を倒せるとも限らない。何人かを犠牲にすれば勝てる・・・っていうのはうまくいった場合よね?」

 「あぁ。竜種は世界最強種の部類だ。普通に考えれば全滅だろうな」

 「そうなると・・・冷静に考えると私達で火竜の討伐はできないわ。カイ、リーダーの裁定として、火竜を避けて火の精霊王の元に向かいます・・・いいわね?」

 「・・・わかったよ」

 「ごめんなさいね」

 「いいんです。僕も目の前に広がる惨状を見て動転していました。つい数か月前の僕ならここの皆さんを救えるなんて思い上がらずに祈っていただけでしょうから」


 妙な空気になったが、落ち着いたところでゲインが手を叩き、皆を誘導する。


 「さて、じゃあ話がまとまった所で、酒にすっか!」

 「・・・それを言うならごはん」

 「俺にとって飯は酒なんだよ・・・イースとリッツの旦那もやるだろ?」

 「あぁ」

 「そうだな・・・たまにはいいか」

 「・・・私も」

 「シャルはだめよ!」

 「・・・?私はもう成人してて飲める」

 「そうなんだけど・・・ほら、シャルが酔っぱらうとその・・・」

 「あぁ、甘え上戸というか、イースに絡み出すな」

 「ずっと俺の頭を抱えて撫で始めた時はどうしたかと思ったよ」

 「・・・記憶にない。残念」

 「よーし!そうと決まれば飯だ!酒だ!ほら行くぞ!」


 この空気を払拭するかの様にゲインが明るく振る舞い、俺達は夕飯にありつくべく墓地を去った。


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