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魔王が求める平穏生活?  作者: アバン
第三章 火の精霊王編
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第24話 つくってたたかお


 おぉ、懐かしきコートフォルムよ。って、前回も数日しか居なかったから、実際はあんまり覚えてないんだけどな。


 リズから直接依頼を打診されて、俺は結局受けた。

 特にやる事も無いし、報酬も破格だったからだ。

 何と月に金貨3枚の月給制。

 依頼を受けて同行中はこの報酬が支払われ、働きに応じて別途報酬も出すとか。


 一般的なシャザラーンの市民の月収が銀貨15枚程度だと思うから・・・その20倍だ。

 しかも月給制の為、特に何も起こらなくてもこの報酬は発生する。Eランク冒険者には破格の報酬だ。

 DのシャルとCのゲインはもっともらってるらしいが・・・それにしても常軌を逸している。

 まぁ四元素の精霊王なんぞに全部会うという、これまた常軌を逸した目的や危険度に対する報酬も入ってるんだろうが。

 それに、リズのあのペンダントを見ると俺もリズを守る義務・・・というか約束(・・)があるしな。


 ちなみに、貨幣は下から順に銭貨、銅貨、銀貨、大銀貨、金貨、白貨があり、それぞれ10枚で上の貨幣1枚と同等だ。

 金貨なんて庶民は見たことすら無いだろう。


 リズから誘いを受けた後、俺達は数日間シャザラーンで骨を休め―俺は方々への挨拶や身辺整理で全く休めなかった―約1ヶ月かけてここ、コートフォルムに到着した。

 シャザラーンに行く時は馬車でそれなりにゆっくり行ったせいか結構かかったが・・・今回は特別依頼した馬車で夜通し進んだからな。

 一体いくら持って出て来たんだ、リズ・・・


 「・・・やっとベッドで寝れる」

 「あぁ、自分で馬を走らせちゃぁいないが夜通し移動ってのはキツかったな・・・おかげでケツが4つに割れるかと思ったぜ」

 「・・・下品」

 「冒険者なんてみんなこんなもんだろうよ」

 「今日は久しぶりにゆっくりできそうですね」

 「・・・俺も流石に夜通し移動するとは思っていなかった」

 「何たって魔物が引く馬車だもんな。普通の馬じゃすぐ潰れるからだろうが・・・よく調教できたよな」

 「何でも小さい頃から一緒に育ったんだとよ。奴はこの業界(冒険者)の中じゃ有名だ。この速度で移動なんてまずできねぇからな・・・乗り心地は最悪だが」

 「確かにあんな物他の人じゃ真似できそうにないわね」

 「それにしても、良く依頼できたな?予約が何年も先まで詰まってると思ったが」

 「報酬を話して()でお願いしたら快く引き受けてくれたわよ」

 「お嬢・・・」

 「今のは聞かなかった事にしておく・・・宿に行く前にミスリルが加工できるかどうかだけ聞いて行こう。確か・・・あぁ、ここだ」


 本当にリズがあいつの縁者なのか不安になってきた・・・行動が一般的な令嬢とかけ離れすぎている。こんな令嬢・・・あぁ、まぁ縦ロール(ダイアナ)とかいるけどさ。


 「いらっしゃいませー」

 「武器の制作を頼みたいんだが・・・えーと、ドワーフの親方はいるか?」

 「注文ならこちらで承りますがー」

 「いや、ちょっと素材が特殊というか・・・親方と相談したいんだ」

 「そうですかー・・・ちょっと待って下さいねー」

 「あぁ」

 「親方ぁー」


 なんか間延びした喋り方をする受付嬢だな・・・いや着ている服は鍛冶師の作業着の様だったから弟子のひとりかな。


 「なんでぇ・・・こんなぞろぞろと。うちは一見お断りだ。ドワーフが見てぇなら他の所行きな」

 「相変わらず接客向いてないな、えーと、コラッド、だったっけ?」

 「あん?どこかで会ったか?・・・ん?その髪・・・おいお前ちょっとフード取れ」

 「前に一度、渓谷の鷹のマイムとな」


 俺は被っていたローブのフードを取り、頭を出す。

 町中だと目立ってしょうがないし、前回は宿屋追い出されかけたからな。とりあえず隠しておいた方が面倒が無い。


 「お前ぇ・・・イースか!イースじゃねぇか!でかくなりやがって!人族は成長が早ぇな!」

 「おぉ、覚えてるのか」

 「そりゃお前ぇ、坊主の外見とあんなことされたんじゃ忘れられるかよ」


 コラッドはがははと笑いながら俺の肩を叩く。

 地味に痛い!この馬鹿力め!


 「あんな事?」

 「あぁ、こいつは精霊石の・・・あぁ、いや俺が言える事じゃねぇ。本人に直接聞きな。で?今日は何だ。ファイアナイフをシェリーに見せにでも来てくれたのか?」

 「シェリー?あぁ、前言ってたナイフを作ったっていう弟子か・・・いや、あのナイフは、何というかその・・・粉々になっちゃってさ」

 「粉々ぁ?」

 「強敵でね・・・ファイアナイフの精霊を解放するしかなかった」

 「あぁ、そりゃぁ粉々にもなるわな・・・まぁ、それのおかげでお前らは助かったんだろ?」

 「あぁ。あれが無かったら正直どうなっていたかわからないな」

 「ならいい。使い手の命を守れて本望だろうよ。無為に武具を駄目にする奴ぁ武具の気持ちになってもらうまで金槌でぶんなぐるがな」


 何ておそろしい事言いだすんだこいつ。


 「イース、それで、コラッドさん?なら何とかできそう?」

 「そういや今回は随分と大所帯で来たな坊主。特殊な素材とか何とか言ってたらしいが」

 「あぁ・・・こちらはリズ・・・エリザベート。俺の今の雇主で仲間だ」

 「初めまして、エリザベートと申します。コラッド殿のご高名はかねがね」

 「殿ぉ?イースの坊主よ、まさかこの華奢な嬢ちゃんの為に剣を打てってか?道楽や儀礼用の装飾剣なら別を当たりな」

 「いやいや、こう見えてリズはそこそこ(・・・・)の使い手だ。リズの剣と、そこのリッツの槍、俺の武器・・・剣でいいかな。それを打ってもらいたい。あと、リズの胸当ての修理」

 「はぁん。まぁお前ぇがそういうんならそうなんだろうがよ・・・とりあえずそんなぞろぞろカウンターの前に居られちゃ邪魔だ。こっち来な」


 俺達はコラッドに案内され、奥にある部屋に通される。

 そこそこの使い手、と言った時にリズから殺気が飛んできたが・・・実際一流には至っていないし、コラッドに嘘をついたところですぐに見破られるだろう。嘘をつく必要も無いしな。


 「適当に座りな。で、素材ってのは?」

 「あぁ、これだ」


 俺はコラッドに促され、背嚢にしまっていたミスリルゴーレムの破片を取り出す。


 「ほぅ、これは・・・うん?これは・・・ミスリルじゃねぇか!」

 「おぉ、流石。すぐ分かるとは」

 「当たり前ぇだ!ミスリルといやぁ俺達ドワーフでも滅多にお目にかかれねぇ。こいつを武具として仕上げるのは職人の目標みてぇなもんだ」

 「そ、そうなのか」

 「ひょっとして、これで武器を作れってか?」

 「あぁ。他の街の鍛冶屋に行ったんだが、加工できないと言われてな・・・コラッドにもできなければ全部売り払うしかないが」

 「ふっ・・・ふふっ・・・」

 「おっ、おい、どうした?」

 「ふはーっはっはっは!どんでもねぇ奴だと思っちゃぁいたが、まさかこんなもの(ミスリル)を持ってくるたぁな!やっぱりお前ぇは面白いぜ!」

 「あの、盛り上がっている所申し訳ありませんが・・・結局、ミスリルは加工できるのですか?」

 「あぁん?嬢ちゃん、俺を誰だと思ってやがる!アイアンキング(鉄の王)、コラッド様よ!俺に加工できねぇ金属は無い!!」

 「そうか、じゃあこれも直せるな」


 ギロリとリズをにらむコラッドの目の前に、俺は壊れたリズの胸当てを取り出して置く。

 それにしても鉄の王とか自分で言うとは・・・あぁ、店名か。


 「当たり前・・・ちょっとまて、こりゃぁミスリルと・・・アダマンタイトか!?」

 「あぁ、複合板だな。この素材と戦った時にやられてな。流石アダマンタイトといった所か割れはしなかったが・・・表面のミスリルがどうもな」

 「壊れちゃいるが、見事な意匠だ。アダマンタイトと合わせる事で高い防御力を備え、魔法的な効果も・・・これは火と風と雷の軽減だな。銘は無ぇが、これを作った奴は相当の職人だな。しかしこれをここまでできる相手・・・素材って言ったな?まさか、ミスリルゴーレムか?」

 「あぁ。おかげでファイアナイフが粉々だ」

 「よくそんなもんに勝てた・・・いやそもそもそんな奴とよく出合ったな。ファイアナイフ程度でどうこうできるとは思えんが」

 「そこは仲間と力をあわせて、さ。で、どうだ?できるか?ミスリル用の設備が無いと無理だと聞いたんだが」

 「俺を誰だと思ってやがる。人間の鍛冶師にゃぁ道楽だ何だと言われるが、ミスリル用の炉なんざあるに決まってんだろ!」


 さすが偏く・・・いや、誇りある職人。


 「ただ、アダマンタイトとなると、ミスリル以上にお目にかからない素材だ。直すにしても・・・ちぃとばかし時間がかかる」

 「どの位だ?」

 「そうだなぁ・・・ミスリルの剣と槍、そしてこの胸当て・・・ざっと3ヶ月半ってとこだな」

 「結構かかるな」

 「さすがにミスリルやアダマンタイトとなるとうちの工房じゃ俺しか扱えねぇしな。アダマンタイトの加工には特殊な素材が必要だから取り寄せだし、ミスリルは意志持つ金属だ。作り手と、使い手が一緒に作らなきゃならねぇからな。あと、金も相当かかるぞ?」

 「代金はこのミスリルで・・・と思ってるんだが、どうだ?」

 「はっ!願ってもねぇな。よし、いいだろう、やってやる!残った分は売って金にするんだろう?アダマンタイト用の素材取り寄せでまとまった金が必要だ。だから・・・そうだな、前金で金貨100は欲しいな」

 「金貨100ぅ!?」


ゲインが前金の額を聞いて素っ頓狂な声を上げる。


 「これでも原価だぜ?イースの坊主は気に入ってるし、ミスリル製の武具を作るなんて鍛冶師(俺達)にとって名誉な話を持ってきたんだ。格安でやってやるよ」

 「ちなみにミスリルは売ったらいくら位なんだ?」

 「なんでぇ、価値も知らねぇでこんなに持ってきたのか・・・商人によって違うだろうが、まぁ1㎏あたり金貨1,000ってとこじゃねぇか?

 「き、金貨1,000枚・・・」


 ゲインが莫大な金のスケールに言葉を失って・・・いや、あれは恍惚としてるな。

 今俺達が持っているミスリルは1kgどころか、何十kgとあるからな。


 「高いとは思っていたが、そんなにするのか・・・」

 「多分な。滅多に市場に出回らないから、もっと高値が付く可能性もある。何せ伝説の金属だからな」


 こりゃぁ全部売ればマジで働かなくていいな・・・売れればだが。


 「で、坊主の武器は何を作るんだ?ナイフか?」

 「いや、ナイフだと対人はいいんだが、対魔物になるとリーチが不安でね・・・魔法的な効果はいらないから、そこそこ薄くて軽く、ナイフより長くて長剣より短い魔法的属性付与のしやすい壊れない剣が欲しいんだ」

 「注文が多いぞ!」

 「できるだろう?コラッドなら」

 「けっ!いいだろう、やってやる・・・ただし、坊主も手伝え」

 「えっ、俺も!?」

 「ミスリル製の武具を作る時に魔法効果を持たせるには魔法使いの協力が必要だ・・・前回のアレを見るに、お前さん魔法も使えるんだろう?なら坊主が手伝うのが筋ってもんよ」

 「・・・イース、頑張れ」

 「その分更に値引きだな」

 「イース、お願いね?」

 「よし、そうと決まったらさっそくだ・・・ほれ、嬢ちゃんとそこのでかいの。お前らの実力ちょっと見せろ。使い手の程度がわからんといい武器は作れん。ほれ、さっさと来い!坊主もだ!」

 「では、私達は先に宿を取って来ますね」

 「とりあえず酒でも飲みに行こうぜ」

 「・・・お風呂」

 「ミスリルの剣・・・ふふっ、楽しみだわ!」

 「・・・大切なのは使いこなす腕だ」

 「わ、わかってるわよ!リッツも人の事言えないじゃない!」

 「俺はそこそこ(・・・・)以上になる様に努力している」

 「・・・そうだ、イース。精霊石の事とか、そこそことか、後で説明お願いね?」

 「ははは・・・」


 どうして俺の知り合いにはこう面倒な奴らが多いんだろうか。


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