第22話 土の精霊王
「さて、鬼が出るか、蛇が出るか・・・」
「出るのは土の精霊王よ」
「しっかし、本当にこんな所に土の精霊王とやらがいるのかね?迷宮だぜ?」
「さぁ?他に手がかりも無いんだし、しょうがないじゃない。最悪、精霊王が居なくても、何かお宝があるわよ」
「そうだな。あんな守護者までいたんだ、何も無いとは考えづらいな」
「迷宮の宝具か・・・一体いくらになるのやら。ふひひ」
「ゲインは、お金のことばかり」
「金が無きゃ何もできないんだぜ?」
「一理ある。が、ゲイン。宝具があると決まった訳ではないし、あったとしてもハズレの場合もあるんだぞ」
「わぁってるよ。夢見る位はいいじゃねぇか」
「おい、そろそろ気を引き締めろ。着くぞ」
俺達は守護者の間の扉をくぐり、最奥の間に来ていた。
最奥の間は守護者の間より広く、天井が見渡せないほど高い。
守護者の間と違って岩肌は発光していないが、光を発する苔が至る所に生えており、少し暗いが松明無しでも十分に見渡せる。
まるで迷宮の中に広がる星空の様だ。
「それにしても綺麗ね・・・」
「えぇ、この光景を見ただけでも、ここに来た甲斐がありましたね」
「へっ、綺麗だとは思うが、こんなもん一銭にもなりゃぁしない。いや、この苔売れるかな?」
「・・・ゲイン、下品」
「おい、気を引き締めろって」
「わぁってるよ」
俺達は最奥の間の一番奥に到着する。本来、宝具があるであろう台座の前には、何も置かれていなかった。
「宝具は無し、か」
「ちぇっ、何もなしかよ」
「逆に言えば、宝具が無い分、土の精霊王がいる可能性が高まるんじゃないですか?」
「そうね。それらしき姿は見当たらないけど・・・土の精霊王!精霊王!いらっしゃいますか!?」
「エルフでもいりゃぁ早いんだがな」
「人里にそんなエルフなんて・・・あぁ、学園長がいたわ」
「とはいえ、引き返してもう一度あのゴーレムと戦うのは勘弁してもらいたいね」
「そんな短時間じゃ復活しないと思うが・・・まぁ戦いたくはないな」
「精霊王!いらっしゃいますか!土の精霊王!!」
徒労に終わったかと面々が思う中、リズの呼びかけに何者かが応える。
『誰ぞ・・・騒がしい。我が眠りを妨げるな』
「土の精霊王!?私の声が届きますか!?」
『わめくでない、人の子よ・・・その土の精霊王とやらが我の事かはわからんが、疾く去ね。ここは、人の子が立ち入る場所ではない』
本当に居たのか、こんな所に・・・いや、周り中岩だし、おかしくはないか。魔素も濃いしな。
「お願いします!土の精霊王!どうか、私の話を聞いてください!!」
『・・・我の言葉が理解できぬか?人の子よ。疾く去ね。さもなくば、我が力を持って静寂を取り戻すのみ』
「土の精霊王!話を!」
まずいな。このままじゃまた戦いになりかねない。
リズはなんか必至だし、他の奴らはこの強大な波動に飲まれてるし。
仕方ないなぁ。
「おい、話くらい聞いてくれてもいいんじゃないか?土の精霊王とやら。少し喋るくらい、お前にとっては飛沫のような時間だろう。応じてくれた方が俺達は早く居なくなるぞ」
「なっ、おっ、おい、イース!」
『ほう・・・』
「俺達はわざわざミスリルでできたゴーレムを倒してここまで来てるんだ。話くらいいいだろう?」
『我が子を退けた、と申すか・・・ふむ。確かにここに居るという事は、そうなのだろう』
「我が子、ね・・・とりあえず話だけ聞いてみないか?」
やはりあのゴーレムを置いたのはこいつか。
精霊使いの素養が無くても会話ができる程の高位精霊・・・精霊王と思っても差し支えないかな。
あのゴーレムも過去の守護者とは毛色が違うし、ミスリルゴーレムなんてとんでもないもんが自然発生するなんておかしいと思ったんだよ。
「おい、我が子、ってあのゴーレムだよな・・・まずいんじゃないか?」
「親、怒る?」
「いや、高位精霊の精神構造は人間と違うからな。それに、あのゴーレムだって何年かすれば復活するんじゃないか?」
「いや、しかしな・・・」
「おい、どうなんだ?土の精霊王。呼びづらいな。名前とかないのか?」
「ちょっ、イースタルさん!!」
『・・・我に名は無い。気づけば我は世界に在ったのだ』
「そうか。不便だな・・・じゃあ、グノーム何てどうだ?」」
『グノーム・・・』
「そう、グノーム」
『グノーム・・・・・・』
何かを考えて?いるのか、土の精霊王は静かになる。
「ちょっとイース、何言い出してるのよ!」
「何って、ただお願いしてるだけじゃ埒があかなそうだあったからさ」
「だからってそんなぞんざいな対応を!」
リズが小声で叫んでくる。器用な奴だな。
『ありがとう、人の子よ。我が名はグノーム。大地の守護者であり、命あるものと共に在るもの』
土の精霊王の声がしたかと思うと、台座の後ろの壁が盛り上がり、土でできた人間の様な形を取った。
腰から下と腕が土に埋まっている状態というか・・・人の形がリアルなだけに、結構ホラーだ。
「何か口調がはっきりしたな。今まで気だるげだったのに」
『うむ。名を得る事により我が意志が我として―グノームとして顕在した。我はここに在るのだと認識できたのだ』
「そうか、それは良かった・・・のかな?ところで、話は聞いてくれるのか?」
『うむ。名をくれた礼だ。我にできることであれば力になろう』
おぉ、やたら協力的になったぞ。いい仕事したな、俺。
「ほら、リズ」
「えっ、あっ、あぁ・・・土の精霊王・・・いえ、グノーム様。今日はお願いがあって参りました」
『願いとな』
「はい・・・そこにいるリッツ・・・リッツガルドの病気を治せないでしょうか。できれば、同じ症状の人や、動物も」
リズ達の目的は、リッツの病気を治す事だったのか。でもそれなら、秘密にするのが不自然だ。
リッツ本人もそんなに乗り気って訳じゃなさそうだし。
本人はもう受け入れてて、リズが言うから仕方なく・・・ってところかな?
言って止まる様なタマにも見えないし、着いて行って守った方がいいってことか。
っていうか動物もかかる病気なのか?それ。
『病気とな、どれ・・・・・・』
グノームが静かになると、周りを取り巻く気配が変わる。なんというか、清浄な魔神殿に居るような・・・静謐ながらも、圧力を感じる様だ。
『ほう、これは・・・』
「何かわかりましたか!?グノーム様!」
『ふむ・・・すまない、人の子よ。これは、我では手の施しようがない』
「そんな・・・ここまで来て・・・」
『人の子よ。お主は何としてここへ来たのか』
「えっ?はい、あるエルフの長老に予言を頂きまして・・・各元素の精霊王に会え。そうすれば、道が開かれると・・・」
あるエルフって、まさかあの学園長か?やっぱり確信犯じゃねぇかあいつ!
まぁ、高名(笑)なエルフらしいし、リズの立場を考えると不思議じゃないな。
『ほう・・・なるほど。確かに、我にはどうしようもない。が、我だけでなく、他のものもこの者に祝福を与えれば、何とかなるやもしれん。どうにもならぬやもしれん』
「本当ですか!?」
「ちっ・・・」
リッツが不服そうな顔で下を向く。
治らなくて残念・・・というよりも、他の精霊王に会いに行く流れになってきたのが不服そうだ。
他の精霊王の所でもあのゴーレムみたいのが居そうだし・・・本当はここでリズを諦めさせたかったんだろうな。
『人の子よ。すまぬが、今、我の力ではどうにもできぬ。しかし、そのエルフとやらが言う様に他のものにも助力を頼むがよかろう』
「はいっ!」
『我は、その時が来れば助力を惜しまぬ・・・我に名をくれた人の子よ。お主の名はあるのか?』
「んっ?あぁ、俺はイース。イースタル・レグスだ」
『よろしい、イースタル・レグス。これを』
精霊王が言うと、地面の一部が盛り上がり、俺の眼前まで棒が伸びる様に皿がせり上がってくる。
その一部が更に盛り上がったかと思うと、輪に形を変え、硬質化する。
そこには、数瞬前には土だったとは思えない程の光沢を放つ、見る角度によって色を変えるような黄金の指輪があった。
『我に名をくれた礼だ。イースタル・レグス。お主が望む時、我が名を呼ぶが良い。数度だけ、お主の力となろう』
「あ、あぁ、ありがとう」
『我が名はグノーム。大地のあるところ、我は在る・・・』
指輪を取ったのを見たグノームはそう言うと、壁の中に戻る。
あたりの神殿の様な雰囲気が薄れ、辺りはただの美しい洞窟に戻ったようだ。
土の精霊王の助力か・・・凄い物をもらったのかもしれないが、数度って何度だよ。それに、何してくれるかも具体的にはわからないし・・・
「・・・はぁ」
「ふぃ~~、俺、生きてる?生きてるよな?」
「・・・物凄い波動、だった」
「あれが、神に最も近い存在、なのですね・・・」
俺とリッツを除く4人が、腰を抜かしたように地面に座り込む。
そんなにか?とも思うが、今になって思えば邪神に比べればマシというレベルだったかもしれない。
途中から危害を加えそうな感じでも無かったし、そんなに緊張しなくてもいいのにな。
「で、どうする?ここでやる事は終わったのか?」
「え、えぇ、終わったわ・・・協力、ありがとう」
「そうか。じゃあ、俺も晴れて卒業だな」
「そういやイースはまだ学生だったんだな・・・」
「これでまだF級・・・うぅん、E級になる前の冒険科学生・・・信じられない」
「まだ成人前だしな。とりあえず、戻るか」
「そうね。これも分けなきゃいけないし。学園長にも報告に行きましょう」
「おっ、そうだそうだ!お楽しみタイムがあったな!」
「ゲインさん、急に元気になりましたね・・・」
「ここに宝具が無かったのは残念だが、実入りが無かった訳じゃないからな・・・イース、その指輪はいくらになりそうなんだ?」
「馬鹿。これ売ったらグノームから天罰でも下りそうでやだよ。それに、他の人が使おうとして、使えるのか?」
「た、確かにそうだな・・・できればああいう存在には二度とお目にかかりたくないぜ」
「ゲイン。まだお目にかかる機会はあるわよ。何たって他の精霊王にも会いに行かなければならないんだもの」
「・・・俺、金返すから抜けていいか?」
「ゲイン!」
「ちっ・・・冗談だよ、冗談。他の仕事でも命がけなのはかわらないし、お嬢は金払いもいいしな・・・またこんなお宝が手に入るかもしれないし。ひひっ」
「・・・最低」
「シャルはああいう大人にならないでね」
「私は大人の女」
緊張が解けたのか、わいわいと喋りながら来た道を戻る最中、長身の青年は一人、黙って紫煙を燻らせていた。
日間PV1000を突破しました(*´ω`*)ありがとうございます
これを励みになるべく更新を途切らせない様に頑張り…たいです(ノ∀`)