第21話 資源は大事に
「ヒュ~、これ、全部ミスリルかよ。一体いくらになんだ?」
「ゲイン、ほさっとしてないで詰められるだけ背負い袋に詰めろ。消えるぞ」
「わかってるって。しかし、一番でかい胴体を持ち帰れないのが悔しいな」
「さすがにこの大きさは持てないしな」
俺達は最奥の間・・・には向かわず、倒したミスリルゴーレムの欠片を回収していた。
だって放っておくと消えるから勿体ないし。
五体満足な俺とゲインが皆の背負い袋に持てるだけミスリルを回収し、残りの皆は治療や休憩をしている。
最奥の間に土の精霊王とやらが本当に居るのかはしらないが、戦闘にならないとも限らない。
準備はしておいた方がいいってわけだ。
「しっかし最後のあれ、何だ?腕が消えたかと思ったらヘンテコな杭になってよ。カイは何かブツブツ言ってたが」
「あれは・・・俺の奥の手さ。あいつの腕の形をちょっと変えたのさ」
「まぁ確かにあいつを貫くにはミスリルじゃなきゃ無理だとは思ったが・・・よくそんな事できたな。どうやるんだ?」
「それは秘密だ」
「しかしお前も人が悪いな、イースさんよ。今まで猫被ってたのか」
「そんな事は無い。現にオドは空っぽだ」
「ま、こんな臨時報酬が出たんだ。俺は細かい事気にしないぜ。ふひひ」
ミスリル塊を持ってニヤニヤと笑うゲイン。本当にただの野盗にしか見えない。
「イース、手伝う」
「あ、シャル。いいよ、もう終わりだから」
「そう・・・」
「もう身体はいいのか?」
「ちょっとオドが無くなっただけ。瞑想して少し戻った」
「まぁ寝なきゃオドは戻らないだろうからな・・・あの2人は?」
「リズはもう終わった。リズよりも酷いのはリッツ」
「リッツが?」
「リズは何故か最後にゴーレムに受けた打ち身くらい。リッツは、全身に打ち身と骨のヒビ、らしい」
リズはリザレクションしたからな・・・それまで受けた傷はほぼ全快だろう。
リッツは凌いでいたとはいえ、ミスリルゴーレムの攻撃を一身に受けていた。
俺とゲインがミスリルを回収して戻ると、休憩していたリズ達が喋りかけてくる。
「あ・・・イース、えっと」
「あぁ、いい、起き上がるな。取りあえず横になっておけって」
「あ、そう?じゃあ・・・えっと、イース、最後のアレは・・・?」
「またそれか・・・あれはな、俺の秘術でちょっとあいつの手の形を変えたんだよ」
「形を変えた?」
「あぁ、詳しい事は言えないが、まぁ奇跡みたいなもんだ。またやろうとしてやれるもんでもない」
「いえ、あれは、形を変えたなんてそんなもんじゃありません・・・」
「カイ」
リズと俺は話していると、カイが深刻な顔をして会話に入って来た。
「あれは・・・そう、あれは完全に一度形を失っていました。形を変えたなんてものじゃない。再構成。物質創造です。正に、神の御業ですよ」
「物質、創造・・・」
「そんな事できる訳ないだろう。実際、俺も無我夢中でどうやったかはわからないんだ」
少々苦しいが、ここで認める訳にはいかない。
もう一度やれと言われてできる自信が無いのは確かだが、ミスリルを作り出せる魔法使いなんて知れたらどんな目に合うかわかったもんじゃない。
「貴方は・・・貴方は、何者なんです!高位の神官ですらままならないリザレクションを使いこなし、物質創造まで・・・ナハト神の御使いですか!?」
おい、神官がそんな事言っていいのか・・・ちなみにナハト神とは、この世界を作ったとされる神の一柱、主神だ。
確か神官によって奉ずる神は違うはずだが、主神は大体の神官に敬われている。
まぁ、自分の奉じていない神でも、蔑ろにする様な神官は滅多にいないが。
「リザレクション?」
「えぇ、えりちゃんの傷・・・重症を癒したのは僕では無くイースさんです。僕には手の施しようがありませんでした・・・彼が口移しで血を吸って気道を確保し、リザレクションで癒したんです」
「そう・・・って、口移し!?そんな、でも・・・えぇーっ!?」
カイは深刻な顔のまま、リズは顔を真っ赤にして顔を手で覆ったり、腕を振り回したりして暴れている。
なんだこの状況。どうすんだ。
「カイ、お前がリズの事をそう呼ぶのは久しぶりだな」
「りっちゃん」
「そんなに取り乱したお前を見るのは久しぶりだ・・・ふっ」
のっぽが紫煙をくゆらせながらこちらに歩いてくる。全身包帯だらけだ。
「もう動けるのか、のっぽ」
「ふん、そんなにヤワには出来ていない・・・カイ、事情はともかく、本人もこう言ってるんだ。まずは助かったという事で納得しておけ。詮索屋は嫌われるぞ」
「ん・・・うん」
「リズも。そろそろ戻って来い。治療の一環だ。お前は助けられたんだろう」
「う~、う~、はじめて、だったのに・・・」
「あん?」
「初めて、だったの!」
「あ、あぁ、そうか、そりゃ何というか、すまないな・・・」
仕方ないだろ。あのままリザレクションしたら血が喉につまって死んでんぞ。
「うぅ~」
「落ち着けと言ってるだろう、まったく・・・なら、こいつに責任でも取ってもらえ。別に嫌いな訳じゃないんだろう?」
「はぁっ!?何言ってやがる!?」
「せき、にん・・・」
「イース、私も。責任、とってね?」
「お前には何もしてないだろ!シャル!!」
「リズにはキスして、私には何もしてないのが問題」
「き、キス・・・」
「なんだそりゃ!?第一キスじゃねぇ!治療だ!ノーカウントだ!」
「い、イースも、初めて、だったの?」
「えっ?俺?俺はそう・・・」
初めて、だよな?
あぁ、まて、そういやシュトロック出発前日、お嬢様と一緒に寝てる時にされたような・・・まぁ、子供の頃だからそれもノーカウントだな。
「初めて、じゃ、ないのね・・・?」
「おっ、おい、俺も初めてだよ、多分・・・むしろ治療の一環だからキスじゃないってば」
「キッ、キス・・・」
「おい、いい加減に落ち着いてくれ・・・」
リズは怒気を発したり、赤くなったりと忙しい。
お転婆でも、根っこの部分はお嬢様か。まぁ、正体が俺の察した通りなら、うぶなのも頷けるが・・・まて、そうなると責任取るって、やばくないか?
俺達がギャァギャァ言っている間に準備を終えたのか、ゲインが声を掛けてくる。
「おーい、そろそろいいか?いい加減進まねぇと、終わんねぇぞ?」
「・・・はっ、そ、そうね」
「あぁ、そうだな・・・じゃれ合いはその位にして、行くぞ、お前達。イースも早くしろ」
「えっ」
「リッツ、今、イースタルさんの名前を・・・」
「・・・ふん、最初に思っていた程のクズでは無かったからな。いいから行くぞ」
リッツはぷいっと顔を背け、ゲインの方へ歩き出す。
「あれは、照れてるんですよ。イースタルさんを認めたんでしょうね」
「そうなのか・・・」
「えぇ。先程はすみませんでした。貴方が居なければ、我々は全滅していたでしょう。助かったのは貴方のおかげです」
「やめろよ、もういいよ。それに、この先の部屋で無事とも限らないんだしさ」
「ふふっ、そうですね」
カイは笑いながら踵を返し、扉の方へ歩いていく。シャルもそれに続いたようだ。
残ったリズを見ると、リズは静かに俺の方を向いて佇んでいた。流石にもう落ち着いた様だ。
「イース・・・いえ、イースタル・レグス殿。この度は命を救って頂き、ありがとうございました・・・ふふっ、本当はこれを最初に言わなければなりませんでしたね」
「気にするな。一時とはいえ仲間の命を救うのは当然のことだ。あと、その口調やめろ。何かいごごちが悪い」
「そう?まぁ、貴方がそう言うなら・・・仲間、ね・・・」
「あぁ。もうほとんど終わりとはいえ、この先の最奥の間や帰りに俺が命を救ってもらう事もあるかもしれない。お互い様さ」
「そうね、確かにお互い様よね・・・ふふっ。でもね?イース」
「うん?」
「責任は、取ってね?」
「えっ?は、ははは・・・」
妙に迫力のある笑顔を湛えたリズをどうしようかと思案しながら、俺達は最奥の間の扉をくぐる。
ハーレムは無い、予定です。うん、予定。