第20話 守護者戦 ―Hardモード―
「キィアアアァァアアアア!!」
「烈風牙あぁぁぁあ!!カイ!リズを頼む!!」
リッツがゴーレムに槍技で激しい突進突きを行い、ゴーレムごと晴れかかった土煙の方―部屋の中央に遠ざかる。
今はのっぽの言う通りリズの救護が先決だ。
「り、リズさん」
「呆けるな、カイ!リッツがひきつけている間にまず治療だ。できるな?シャルはリッツの補助、ゲインはシャルの護衛だ。まだカイの神聖魔法の効果が残っているだろうが、リッツ一人じゃキツイはずだ。何とか時間を稼いでくれ」
「お、おう」
「うん」
「さて・・・」
リッツは槍でゴーレムと切り結んでいるが、先程の初撃からわかる様に、あの核ゴーレムの動きは素早い。今までとは段違いだ。
リッツも何とか耐えているが、ほぼ防戦一方で、シャルも何らかの魔法を放っている様だが、効果が見えない。
もしかしてあいつは・・・いや、今はリズだ。
口から血を吐いているが、まだ息はありそうだ。これなら間に合う。
とはいえ、口から血を吐くということは、胃か肺か・・・どこか内臓が傷ついているはずで、危険な状態だ。
俺は横たわり血を吐くリズの首を上向けると、リズの唇に口づける。
「うぇっ、ちょ、イースタルさん、こんな時に何を!」
「・・・ペッ。何って、気道の確保だよ。ある程度俺が血を吸いだしたら治療魔法を」
「あっ、そういう・・・は、はいっ!」
俺はリズの喉を塞いでいる血を吸いだしつつ、攻撃の痕を見る。
どうやらこの胸当てはアダマンタイトの下地にミスリルの層を重ねた2層立てのようだ。
表面のミスリル部分は割れているが、下のアダマンタイトは変形するだけに留まっている。
これも業物だな・・・一体いくらするのか。
|セイント・プロテクション《防護魔法》が掛かっていたにも関わらず、アダマンタイトとミスリル製の防具をここまで破壊し、本人に致死ダメージを与える威力、そしてあの色。
あのゴーレムは・・・
「・・・ペッ。よし、いいぞ、やれ」
「は、はいっ。『主よ、世に満ちる聖霊達よ。彼の者の傷を癒し、活力を与えたまえ―ヒール』」
「・・・うっ・・・・・・ゴフッ」
リズの身体が淡く輝き、ヒールが発動する・・・が、リズは再び血を吐き、回復する様子が無い。
「・・・駄目です、リズさんにヒールを受ける体力が・・・クソッ!」
「うーん、仕方がない、やるか・・・・・・ペッ」
黒魔法のトリートは神聖魔法のヒールよりも効果が低い。
俺がトリートを重ね掛けした所で結果は変わらないだろう。
治癒魔法は一般的に、自己治癒能力を加速させるものなので、魔法を受ける側にも体力が無いと効果を発しない。
リズは恐らく内臓を著しく痛めた重症なので、効果が発揮できないのだろう。
神聖魔法は苦手だから自信は無いが・・・詠唱すれば何とかなる、かな?
リズが再び吐いた血を吸出しながら、俺は昔を思い出す。
「ふぅー・・・『主よ、世に満ちる聖霊達よ。傷つき倒れた彼の者に一時の安息と立ち上がる力を与えたまえ―リザレクション』」
「うっ・・・ぐっ、うぅ・・・」
「ま、まさかこれはリザレクション・・・神官でも無い貴方が、神聖魔法を・・・それも大司教様でも難しいリザレクションを・・・」
リズの身体が強く輝き、しばらくするとリズの顔色に色が差し、呼吸が安定する。
どうやら効いてくれた様だ。
神聖魔法だろうと何だろうと、魔素を使うものなら構造さえわかれば使えるさ。
神聖魔法といっても、中身は神聖でもなんでもないからな。
まぁ、それでも神聖魔法は苦手な部類だから自信は無かったけど。
リザレクションは重傷者でも治療できる上位神聖魔法だ。流石に死者は蘇らないが。
何とか使えたが、おかげでオドはすっからかんだ。問題はゴーレムをどうするかだな。
「・・・すぅ、すぅ」
「穏やかに寝やがって・・・さて、カイ。リズはもう大丈夫だろう。それよりヤバいのはあっちだ。とにかくリッツを強化しろ。行くぞ!」
「う、は、はいっ!」
カイは腑に落ちない顔をしつつも、そんな場合ではないと分かっているのか俺の指示に従い、リッツの方へ向かう。
「・・・イースか。お嬢は?」
「何とかなったよ。今は落ち着いてるが、すぐには動けないだろう。状況は?」
「そうか・・・非常にまずい。リッツの旦那が頑張っちゃぁいるが、槍で傷一つつかないし、シャル嬢ちゃんの魔法も効いた様には見えねぇ。あんなゴーレム見たことないぜ」
「撤退は?」
「できねぇ。入って来た扉も閉ざされちまってる。奥の扉と同じく、おそらく開かねぇ」
「まぁ、それが守護者の間ってもんだからな・・・どうするかなぁ」
あのゴーレムは素早い。リッツも今は凌いでいる様だが、いずれは疲労がたまり、リズと同じ結果・・・いやもっと悪いだろう。
あのゴーレムは恐らく・・・
「あのゴーレムは恐らく、全身ミスリルだ」
「ミスリル・・・っ!?あれ全部かっ!?」
「あぁ。あの薄く青みがかった光沢。強度、魔法を弾く特性・・・間違い無いな」
「マジかよ、ミスリルなんて滅多にお目にかかれない伝説級の武具の素材じゃねぇか・・・ってことは、あいつは全身がミスリルの武具ってとこか」
「あぁ。人間の作る武具の様に特殊な効果は無いだろうが、厄介この上ない」
俺とゲインが相談している間にも、リッツは必至にゴーレムの攻撃をさばき、カイが補助魔法を重ね掛し、シャルが魔法の雨を降らせる。
が、ゴーレムは何事も無く動き続ける。
「同じミスリルか、それ以上の武器でないとあいつに刃は通らないだろうな。魔法も効いてる様に見えないし」
「じゃあどうしろってんだ!」
「まぁ、落ち着け。ミスリルだろうと、所詮は金属だ・・・シャル!」
俺がシャルに声を掛けると、肩で息をしながらシャルがこちらへ近寄ってくる。
大分オドを消費している様だ。
「はぁはぁ・・・な、に?」
「シャル。あいつはミスリルゴーレムだ。生半可な魔法じゃ通用しない。が、金属である事にはかわりない。シャル、火属性は使えるか?」
「使えなくはない。でも、私の属性は氷と風。威力は期待しないで」
「そうか・・・なら、俺があいつに炎で攻撃する。合図したらシャルは使える最上級の魔法で冷気の攻撃をしてくれ」
「オド、からっぽなのに?」
「わかるのか・・・そこは、何とかするさ」
「・・・わかった。信じる」
「ありがとう・・・そういう訳だ!聞こえてたな、2人とも!冷気攻撃の後、全力で物理攻撃をかませ!リッツ!」
「・・・ふんっ!何をするつもりかは知らんが、失敗したらただじゃおかんぞ」
「わかりました!」
リッツが息も絶え絶えに悪態をつく。ほんとある意味ブレないな、あいつ。
「行く・・・ぜっ!」
「キィィッ、キィィァアアィァァゥ!」
俺はもう愛用となったファイアナイフを抜き、ゴーレムに駆け寄る。身体強化するオドは無いので純粋に身体頼みだ。
ゴーレムは何かを感じ取ったのか、それまで相手にしていたリッツを無視し、こちらに向き直る。
リッツやリズの業物でも刃が通らなかったゴーレムだ。このファイアナイフで傷が付くとは思えない。が、精霊石のついた武具には、こんな使い方もあるんだ!
ゴーレムがこちらに向き直った瞬間にリッツが槍を突き出し、ゴーレムの動きを牽制する。わかってんじゃねぇか。
どちらを相手にすれば良いかゴーレムが迷った隙に、俺はナイフを投げつけ、リッツはその場を離れる。
ファイアナイフよ。長い付き合いだったが、これでお別れだ。今までありがとうな。
「『刀身と檻に囚われし火の精霊よ。汝が軛を解き放つ。祖は火炎。我が古き友との盟約に従い、その力を示せ!』」
俺が祝詞を唱えると、ゴーレムの眼前に達したファイアナイフが一際赤く輝き、砕け散る。
ファイアナイフに封じられた火の精霊が解放を喜んでいるかの如くゴーレムの周りを飛び回り、次の瞬間には巨大な火炎となってゴーレムを包む。
物凄い火勢のせいか、離れている俺達にもじりじりとした熱が伝わり、気のせいか周囲の空気が薄くなってきている気がする。
ミスリル製のゴーレムだ。こんなもので倒せはしないだろうが・・・
「キィ・・・キィィィアィィィァァァァァ!!!」
炎が晴れると、表面が少し溶けている様に見えるものの、五体満足なゴーレムが姿を現し、怒っているかのごとく声を上げる。
金属でできたお前にも感情があるのか?ならば、俺達を相手にしたことを後悔するんだな。
「シャル!やれ!」
「『魔素よ。汝は凍てつく冬の怒りなり―フリージング・ブリザード』」
炎のせいか、気温が上がった室内に、今度は凍てつく吹雪が吹き荒れる。
フリージング・ブリザード・・・氷の上級魔法か。魔法の構成が少し甘いが、これを使えるとは大したものだ。
今までの魔法ではビクともしなかったゴーレムに、わずかだが霜が降り始める。耳を澄ますと、微かにパキパキと凍える音が鳴っている。
「いいぞリッツ!ぶちかませ!」
「お前に言われなくともっ!!」
俺とシャルがゴーレムを攻撃している隙に、回復と再強化を終えたリッツがゴーレムに駆け寄り、渾身の突きを放つ。
「おぉぉぉぉぉ!リズの仇!オールスルー・スパイラル!!」
「キィィィィィィィィ!!!」
リッツの裂迫の気合と共に放たれた突きがゴーレムの胸に直撃し、槍とゴーレムの胸部が砕け散る。
ゴーレムが悲鳴?を上げるが、核は見当たらない。別の部位にあるのか、それとももっと奥か・・・
「おぉっ、通ったぞ!」
「いかにミスリルとはいえ、金属には違いない。温度差を利用すれば・・・この通りだ。だが、槍が砕けたらもう武器が・・・おい、ゲイン」
俺がゲインに突撃の指示を出そうとしたその時、俺の後ろを風が通り抜けた。
「ハァァアアアッ!クラッシュ・ザッパー!!」
「ギィィイイイイイ!!!」
「リズさん!!」
「お嬢!」
バキンと音を立て、リズの斬撃を受けたゴーレムの胸部が更に砕け散る。その砕けた奥に、紫色に輝く結晶が見えた。
あれが核か!
「私だって、やられっぱなしじゃ、ないのよっ!」
「リズ!油断するな!」
「えっ、キャァァアアッ!!」
「リズ!!!」
核を暴かれて怒ったのか、ゴーレムがそれまで使わなかった蹴りを繰り出し、リズを吹き飛ばす。
少し脆くなっているとはいえ、ミスリルゴーレムだ。リズは何とか剣を身体の間に滑り込ませたものの、ゴーレムの蹴りはリズの剣を折り、リズの胸当てを更に砕く。
ゴーレムは吹き飛んだリズに追撃を行うつもりか、ヒビの入った腕を振りかぶり、リズに迫る。
今までは防具の―服の中に入れていたのか、再び倒れたリズの首元から宝玉に竜と蛇が絡みつく意匠のペンダントが零れ落ちた。
あれは―そうか、リズ。お前はあいつの縁者か・・・なら、何をおいても助けない訳にはいかないな。
「うっ、くっ・・・!」
「キィィィィィィイ!!」
リズは意識は失っていないものの、ダメージのせいか動けずに腕を振りかぶるゴーレムを見上げる。
させないぜ、でくの坊!
「っ!?い、イース!」
「馬鹿!お前じゃどうしようも・・・!」
「イース!!」
俺は倒れたリズとゴーレムの間に割り込み、降ってくる腕に右手をかざす。
迷宮の魔物が魔素からできるというのなら。
迷宮で倒れた者が魔素に還るというのなら。
俺は死の気配を帯びたゴーレムの腕を右手で受け止め、こちらが潰されるまでの数瞬で奴の状態を、構造を、強度を、材質を、成立ちを、暴く!
「――マナ・レストレイション!!」
俺とリズを叩き潰すと思われた奴の腕、肘から先が煙の様に霧散する。
今必要なのは、奴を、貫き通す、牙!
「ギィッ!?」
「おぉぉぉおおおっ!でりゃぁぁああっ!!」
俺は魔素に還元したゴーレムの―ミスリルを再構成する。
現れたのは、お世辞にも槍とは言えない、歪で、太く、先の尖っただけの、短い槍。
俺は不格好な槍を再構成した余りの魔素で身体強化を行い、槍―牙をゴーレムの核目がけて投げ刺す。
「ギギャギャキィィイイィィ!!」
牙はゴーレムの核に突き刺さるも、貫くまではいかず、ゴーレムは残るもう片方の腕でこちらを潰しに来る。
気のせいか悲鳴とも取れる声を上げながら迫るが・・・お前はもう終わりだよ。
「迷宮に、還れ!!」
「ギッ、ギィィィィィィィイイイイイイイイ・・・」
俺は腕を振り上げたゴーレムの胸に突き刺さった牙に強化した身体で蹴りをねじ込む。
蹴りを受けた牙はその身を深く潜らせ、核を貫き、ゴーレムの背中からその身を現した。
核を貫かれたゴーレムは、断末魔と共に動きを止め、ガシャンと膝を着き、人型をしたただの金属塊となる。
ゴーレムが動きを止めたと同時に扉が開く音が聞こえ、奥から強い光が漏れ、勝者を祝福するかのごとく照らす。
「物質、創造・・・?」
王に忠誠を尽くすかの様に頭を垂れたゴーレムの前には、光に照らされた英雄の姿があった。
ようやく主人公がプチ強さを発揮し始めました。もっと自重先生を崩していかなければ・・・
でも、ハードモードという割にはピンチにできなかった・・・何人か殺せば良かったかな(゜∞゜)とりあえず、休みが欲しい・・・