第19話 守護者戦 ―Easyモード―
「グオォォオオォォオオオオオオオオウ!」
「散開!取り囲み体勢を整える!」
岩塊―ゴーレムが動き出したと同時にリズから指示が飛ぶ。
俺達が扉の前から動き出したところへゴーレムの腕が迫る。
「うわっ!」
「もっと早く動け。だからいつも身体を鍛えろと言っているだろう」
「いっ、今それを言わなくても!」
直径2mはあろうかというゴーレムの腕がうなり、カイのローブを掠めて俺達の居た所を通り過ぎる。
ゴーレムの腕は勢いそのままに扉に激突し、派手な音を立てた。
ありゃ喰らったら死ぬな。それにしてもあの衝撃で扉が傷つきもしないとは・・・やはりこいつが守護者で、倒さないと進めないって訳か。
「ありゃぁ一体どこから声出してんだぁ?」
「顔、無い」
「そんなことは今はいいから!ゲインはシャルとカイの護衛!シャルはこいつの動きを止めて!」
「へいへい」
「『主よ、世に満ちる聖霊達よ。彼の者に困難に耐えうる鋼の肉体を与えたまえ―セイント・プロテクション』」
「『魔素よ。汝は冬の息吹なり―フリーズ』」
「グ、ゴォォウ!」
シャルが呪文を唱えると、冷気がゴーレムに纏わりつき、霜に覆われ始める。
ゴーレムの動きが目に見えて鈍くなり、奴が動く度にキシキシと音を立てる。
「シャルはそのままフリーズ状態を維持!余裕があれば攻撃で削って。イースは・・・危なくなったら何か魔法で!まず私とリッツでコイツを削る!!」
ゴーレムを挟み込む様にしてリズとリッツが陣取り、交互にゴーレムを攻撃して奴の身体を削っていく。
ゴーレムなどの無機物系魔物は身体を粉々にして動けなくするか、核と呼ばれる中枢を破壊するしかない。
このゴーレムは本体から離れた欠片は動かないようだが、リビング・アーマーとかは切り離した欠片も動くので、核を破壊するしかない。
そういう意味ではコイツは楽かな。魔法で動きさえ止めてしまえば大した敵じゃないし。
まぁ、魔法使いは数が少なく、冒険者のパーティに居る事も稀だから、魔法で動きを止められるこの状況を作る事が難しいんだが。魔法使いは国やら騎士団やらに召し抱えられちまうからな。
そいういう意味では、この練度のフリーズを使える魔法使いがいるからこその余裕か。
しかし、いくら魔法で身体強化しているとはいえ、ゴーレムを容易に斬り割き、刃こぼれしない業物を持つ前衛2人。
Dランクとはいえ希少な冒険者の魔法使い、Cランクのベテランスカウトを長期間雇う財力。若いとはいえ、在野にはまず居ない、魔法使いよりも希少な―それも正統な―神官。
そして、何の理由か精霊王になんぞ会おうというその動機・・・絶対厄介ごとだわ。
まぁ、こいつらとももうすぐお別れだ。卒業したら何しようか・・・おっと、今は自分の仕事をしなければ。
「頑張れー」
「破岩斬!!」
「槍風牙」
「まけるなー」
「破岩斬!」
「槍風牙」
「きゃー、のっぽさんかっこいー」
「は、破岩斬」
「・・・槍風牙」
「イース、私も褒めて」
「よっ、さすがシャル。美少女天才魔法使い!」
「少女じゃない。私は大人の女」
「・・・・・・・槍風牙」
「少女じゃないって、お前俺よりどう見ても年下だろ」
「私は17。りっぱな大人」
「えっ、その胸・・・あぁ、いや、うん、そうだな。よっ、天才魔法美女」
「えへん」
「はがん、ざん・・・」
「おい、イース、遊んでんなよ」
「何言ってんだ。ちゃんと応援してんじゃねぇか」
「応援?あぁ、お前ん家で言ってた・・・まさか本当にするとは」
「だって俺に出来そうな事今ないじゃん」
「あぁもう!気が散る!イースは黙ってて!いや、私も褒めて!破岩ざぁぁああああああああん!!!」
「私も褒めてって・・・まぁいいか。よっ麗しの剣姫!」
「リズ・・・」
リズがやけくそ気味に剣技を放つ。
剣姫って言ったところでビクッとなってたが・・・あんまり褒められ慣れてないのか?
装備や仕草を見るとどう見ても良家のお嬢様なんだがなぁ。まぁ普通の良家のお嬢様はこんな所で剣を振り回したりしないか。
変な力が入ったからか、リズが放った剣技がゴーレムの胸を深く切り裂き、裂け目の奥から金属質の部位が微かに顔を覗かせる。
あれが核だろうか。
「リズ!」
「えぇ!核に攻撃を集中!シャル!合図したらあそこに魔法で集中攻撃を!」
「了解」
「『主よ、世に満ちる聖霊達よ。彼の者に障害を打ち破る力を授けたまえ―マイト・インプローブ』」
「おぉぉおお槍風牙!!」
「破岩、弐連、斬!!」
「ゴォォォォオオウ!!」
カイの補助魔法―神聖魔法の攻撃力上昇魔法だ―を受けた前衛二人がゴーレムの胸を更に切り裂き、核を露出させる。
2人は飛び上がり攻撃した勢いそのままに走り去り、ゴーレムから距離を取る。
「―今よ!」
「『魔素よ。汝が身を氷杭に変え、敵を穿て―アイシクル・ネイル』」
「グオォオォォン・・・」
シャルが呪文を唱えると、俺達の眼前に30本は超えようかという無数の氷杭が成形され、ゴーレムに向かって一斉に射出される。
氷杭は次々にゴーレムに命中し、ドコンドコンと音を立てながらキラキラと輝く氷片の混じった土煙を上げる。
中級魔法とはいえ、これだけの数を生み出すには相当の魔力を使ったはずだ。
シャルの属性は知らないが、おそらく水か氷が得意なんだろう。練度を見るに、この若さでここまでできるとは、本当に将来有望な天才かもしれない。
俺がこの歳の頃は、ファイアー・ボールも満足に撃てなかったからな。
「はぁ、はぁ・・・」
「よく頑張ったな、シャル」
「ん。いい子いい子しても、いい」
「はいはい」
俺はシャルにせがまれ、ローブを被った頭を撫でる。
どこが大人の女だ。
「警戒態勢を維持!」
「・・・やったか?」
もうもうと土煙が上がる中、ゴーレムの声?も聞こえなくなり、辺りには静寂が漂う。
あれだけの威力だ。核を砕いたと思うが・・・しかしゲインよ。そのセリフはダメだ。
誰が言い出したか知らないが、その言葉を吐くとうまく行かないと冒険者の間ではささやかれている。
あの質感を見るに、核は岩より硬い金属でできてそうだったから、ひょっとしたら核は砕けていないかもしれない。
核だけになったゴーレムなんてただの置物だから、時間をかけて再生する前に皆で砕いちまえばいいだけなんだが。
土煙が漂う中、その合間から、氷片とは違った光を反射するものが見えた。
あぁ、やっぱり砕けてなかったか・・・ゲインめ。
「ゲイン、そのセリフは駄目だって。仕方ない、核砕きに行こうぜ・・・うん?」
「へへっ、すまねぇ。つい、な・・・あん?」
「うぐっ!!」
「リズ!!」
俺とゲインの間を風が通り抜けたかと思うと、ギャギンと金属同士が衝突する様な耳障りな音と共にリズが悲鳴を上げて吹き飛ぶ。
あわてて振り返ると、美麗な装飾が施された胸当てがベコンと変形し、一部が裂けた胸当てを身に横たわって血を吐くリズと、その前に佇む、全身2m程の薄く青みがかった金属でできた人間―ゴーレムが見えた。
「キィァァアアアアアア!!」
「ゴーレムの核が、ゴーレム・・・っ!?」
幾分高くなった声で叫ぶゴーレムを前に、俺は気を引き締めた。
お昼に間に合いませんでした…(´・ω・`)
やったか?は相手を強化するある種魔法の言葉です。