第17話 じじいの陰謀
「なんだ。じゃあ、学園長の言ってたお客さんってのはお前らの事か」
「えぇ、学園長からは事前に許可を貰っているわ・・・人が住んでいるとは聞いてなかったけど」
「あのくそじじいめ、いらん茶目っ気出しやがって・・・はぁ、事情はわかった。納得はできないが、どちらかというと非はこちらにあるようだ。すまない」
「面白かったからいいって言ってるでしょう?ところで、貴方何者なの?」
「俺か?俺は一応ここの学生で、研究者、かな?」
「何で疑問形なんだよ」
「いやぁ、一応学園に所属してるけど授業受けてる訳じゃないし、卒業もしてないし、何なんだろうなと思って」
「なんじゃそりゃ」
「さぁ!では改めて自己紹介といきましょう。僕はカイルーン。カイと呼んで下さい。一応神官の見習いをしています」
「リッツガルドだ」
「もう!リッツ・・・リッツガルドは槍の名手で、僕らの前衛です。そして、こちらが」
「ゲインだ。Cランク冒険者をやってる」
「・・・シャルロット。魔法使い。D」
「このお2人は我々が雇った冒険者で、頼りになるんですよ」
「そして、先程も言ったけど私がエリザベート。このパーティのリーダーよ」
「雇った、ねぇ」
5人は俺の出したお茶を啜りながら自己紹介する。
おい、リッツガルドとやら。うちで煙草吸うんじゃねぇ。
良い所の出っぽいお嬢様にその護衛っぽいの、神官見習いに雇われ冒険者・・・こりゃぁ普通に財宝目当てって感じじゃないな。
まぁ、こいつらの目的が何であれ関係ない。危うきに近寄らず、だ。
「それで、イースタル・レグス殿は何故迷宮で生活を?」
「あぁ、それは学園長の言いつけでね」
「ふーん、何か事情が?」
「まぁ、そんな所だ・・・おい、煙草は外で吸え」
「・・・ふん」
「こいつ・・・」
「ご、ごめんね?リッツはちょっと特殊な体質で・・・この煙草は薬なんだよ」
「薬?んーまぁ、じゃあいいが・・・とりあえずあれだ、地上まで帰る所だったんだろ?案内してやるから学園長に文句つけてこい」
「あはは、そうさせてもらうわ。ところで、ものは相談なんだけど・・・」
「ん?」
「ここに住んでるってことは、貴方の家はある程度安全で、広さがあるのよね?」
「安全かどうかはわからないが、とりあえず今のところは生きてるな。広さは・・・そんなにないぞ」
「次にここに潜る時、物資を分けて・・・いえ私達が買って来た物資を置かせてもらえないかしら?できれば一晩泊めてもらえると助かるけど・・・そこまでは言わないわ」
「・・・うちを中継拠点にする気か?」
「お願いっ!お金は払うから。上層から始めるのと、中層から攻略開始するのでは随分違うのよ」
「まー、気持ちはわからなくもないが、俺もずっと居る訳じゃないしな。悪いが」
「ふわふわ」
「ん・・・あん?」
「・・・白い、ふわふわ」
「おっ、おう・・・まぁ白いけど・・・」
「ふわふわ、寂しい?」
「俺の名前はふわふわじゃ・・・いや寂しくねぇよ」
「ふわふわ、こんな所にいるのに、綺麗」
「何だよ・・・」
無口な少女―シャルロットとかいったか―がこちらをじーっと見てぽつぽつと呟く。
無表情で感情が籠っている様には見えないが、視線に妙な力がある。何かやりづれぇな・・・
「シャルがこんなに懐くなんて」
「懐いてるのか?これ。っつか懐かれても困る」
「ふわふわ、どこで綺麗?」
「はぁ?」
「シャル、どういうこと?」
「つまり・・・ここ、お風呂、ある?」
「あ、あぁ、あるよ?」
「っ!?」
その後、急に眼の色を変えたエリザベートとシャルロットの熱心な要求―シャルロットは無言で俺の服の裾を掴んで引っ張るだけだが、服が伸びるのでやめて欲しい―を振り切り、俺達6人は迷宮から脱出する。
地上に設置された入口、迷宮管理所には、柔和な笑みを浮かべた老人が待っていた。
「ほっほ、そろそろ帰ってくる頃だと思ったよ・・・おや?イースも一緒か。手間が省けるわい」
「このくそじじい・・・こうなる事がわかってて俺の事を黙ってやがったな?」
「ほっ、悪い口じゃの。儂も歳でな、ついうっかり伝え忘れたのでこうしてここで待っておったのじゃ」
「何がうっかりだ、この耄碌じじい」
学園長のあの顔は楽しんでる顔だ。絶対わざとだわ、これ。
「わざわざすみません、学園長。彼に彼の家を少し間借りできないかお願いしていたのですが、中々難しく・・・裏迷宮に休憩所の様なものはありますか?」
「そんなもの無いわい。別にイースの家を使えばよかろう。のう?イース」
「なっ、おい!」
「迷宮は何もお前のものでもあるまい。誰があれを作るのに協力してやったと思ってるんじゃ」
「お前が住めっていって寮追い出したんだろうが!それにあそこを作ったのはほぼ俺だ!学園長はちょっと魔除けの結界張った位だろうが!」
「そのおかげで住めているんじゃろうて。まぁ、そういう訳で、生徒の一人が迷宮に住んでいるのを伝え忘れてな。あぁ、そう、イースや」
「なんだよ、使わせるにも金はもらうからな」
「お主、この子らに協力して、深部まで案内せい。お主の仕掛けた罠もあるじゃろ?」
「あぁ、そんなことか・・・って、えぇー!?」
「裏迷宮を一番良く知っておるのはお主じゃ。なんせ住んどるしの。この子らが目的を達成したらお主は課題達成として卒業じゃ。逆に、協力せねば単位はやらん。退学じゃ」
「さすが学園長・・・!」
「お、ちょ、職権乱用じゃねぇ!?」
裏迷宮とは、王立学園が移転してくる前、まだシャザラーンが迷宮都市と呼ばれていた頃の迷宮だ。
何でも、裏迷宮というか、旧迷宮から枝分かれする形で新しい迷宮が形成され、そちらに宝具生成等の機能は持っていかれてしまったようだ。
新迷宮に比べて魔素も薄くなり、宝具や魔物がめっきり出なくなったそうだ。
既存の迷宮から枝分かれして新しい迷宮ができた。そんな事象は初めてらしく、それを調査する為に王立学園が来たのが今の始まりらしい。
迷宮とは一種の装置であることがわかっている。
高濃度の魔素を包有し、その魔素を魔法効果のある武具や魔物といった形で排出する。
一説では、宝具をエサに人間を呼び込み、魔素を蓄える生きている装置で、最奥ではその魔素で魔神が生まれるのではないか、と言われているが定かではない。
確かに迷宮の最奥には、守護者と呼ばれる強力な魔物が存在する。
守護者は最奥の宝を守っており、たとえ倒したとしても一定期間で再度出現する。
最奥の宝具も一定期間で再び出現するが、当たり外れがある。
長年人の手が入っていない迷宮ほど、宝具も貴重なものが出る。最奥でなくとも、道中でそういった宝具が出る事もあるが・・・つまり、魔素が薄くなり、宝具の出なくなった旧迷宮―裏迷宮は無用の長物となり、封鎖された訳だ。
まばらとはいえ、何故か魔物は出るけどな。
なお、迷宮内で死んだ生物―人間もだ―は、一定期間放っておくと、―おそらく魔素に―分解して消える。身に着けた装備諸共に。そのため、魔物の素材を持ち帰るには特殊加工のされた袋に入れないと消えてしまう。
俺がトレントの採取を急いだのもこのせいだ。我が家の壁にはこの袋と同じ加工がしてある。
何でこいつらは裏迷宮に用事なんか・・・ちなみに、俺が裏迷宮中層に住んでいるのは、魔物が少ないのと、魔素が丁度いいことからだ。あとは、前世で嫌という程潜ったのがこの裏迷宮―当時はこっちしか無かった―で、構造を暗記しているからといった理由もある。
まぁ、迷宮は一定期間で道が変わったりもするんだが・・・これが、生きている装置と言われる所以である。
「裏迷宮は枯れている。最奥まで行ったところで、宝具はおろか、守護者もいないぞ?魔物からも大した素材は取れないしな」
「いいのよ、目的は宝具じゃないから。で、学園長もこう言ってくれている事だし・・・協力、してくれるわよね?」
「・・・・・・はぁ、わかった、わかったよ。協力すればいいんだろ?協力するよ!させて下さい!」
また厄介ごとにならなければいいが。